鑑定結果が届く数日前。英明と湊が検査を受けた翌日、祥子は実家の鷺宮邸を訪ねていた。奥の応接室で待っていた兄の鷺宮雅臣(さぎみや まさおみ)は、妹の顔を見ると、立ち上がってソファを勧めた。庭に面した大きな窓から、刈り込まれた松と白い砂利が見える。使用人は低い卓へ茶を置き、厚い絨毯を踏んで静かに出ていった。雅臣が窓際の椅子へ戻っても、祥子は隣に置いたバッグの持ち手を握っていた。「少しは眠れているのか」祥子はうなずきかけ、顔を伏せた。「湊だけは、あの子が残してくれたと思っていたのに」雅臣は茶碗へ伸ばした手を止めた。「湊くんが、どうかしたのか」「圭吾の子ではないという結果が出たの」声がかすれた。聞き返そうとした雅臣を見て、祥子は顔を上げる。「調べたのよ。圭吾と湊くんの歯ブラシで」雅臣は妹を見つめた。圭吾の四十九日を終えたばかりだ。ようやく葬送の慌ただしさから離れた妹に、今度は孫の出生を疑う結果が届いた。何と言ってやればいいのか、すぐには言葉が出なかった。「若菜さんは、何と?」「認めないって。誰の物か分からない歯ブラシで決めるなと、私に言うのよ」祥子は持ち手から指を離した。「私が残しておいた物なのに。圭吾と湊くんの物を、取り違えるはずがないでしょう」「英明は知っているんだな」「ええ。それでも若菜さんは引かなくて、今度は英明さんと湊くんを調べると言い出したの。昨日、ふたりで行ったわ」「まだ、その結果は出ていないんだろう」「同じことよ」返事は早かった。雅臣が黙ると、祥子は茶碗に触れもせず続けた。「英明さんには、そこまでしなくてもと言ったの。でも、もう決めたからと」止められなかった検査について話す口ぶりなのに、結果を待つ迷いは見えない。雅臣は背もたれから身を起こした。「湊くんが後継から外れるとなれば、宗一たちも黙ってはいないぞ」祥子の目つきが変わった。「お兄さんまで、もうその話?」「お前を困らせたいわけじゃない。向こうが先に動いたらどうする」祥子は答えず、膝の上でハンカチを広げた。目元へ当てたあと、畳み直すこともせず握る。「圭吾が亡くなって、あの人たちにまで好きにされるなんて、耐えられないわ」宗一は英明の兄だ。本来なら自分が家を継ぐはずだったという不満は、妻の麗子にも残っている。圭吾がいない今、後継の席ま
Zuletzt aktualisiert : 2026-10-01 Mehr lesen