Alle Kapitel von 分かれた彼が、全員私を溺愛してきます 〜私も彼ら全員を愛していますが、これはいけないことなのでしょうか〜: Kapitel 31 – Kapitel 40

58 Kapitel

第31話 四つ全部

「澪」和樹くんが、私の名前を呼びました。四人が、こちらを見ていました。「なんか、知ってるだろ」私は、膝の上で拳を握っていました。半年間、ずっと考えてきたことです。いつか話さなければならない日が来ると分かっていました。来てほしくないとも思っていました。でも、もう無理でした。久遠くんはもう半分まで来ています。あの人が「縒」の字にたどり着いた以上、時間の問題でした。この人たちは、自分の中身が空だと知ってしまったのです。ここで私が黙ったら、四人は何も分からないまま、自分が何者かを疑い続けることになります。「……確かめてほしいことがあります」私は、顔を上げました。「去年の元旦のことを、一人ずつ聞いてください。私が四つとも答えられるかどうか」最初に口を開いたのは、幸也くんでした。「カラオケで、俺、何歌った?」「三曲です。一曲目はアニメの主題歌で、二曲目が古い歌謡曲で、三曲目は途中でマイクを置きました。音程が取れないからって」幸也くんの顔から、表情が消えました。「……合ってる」「じゃあ」新太くんが、前に出ました。「俺が人混みからお前を庇ったとき、お前は何て言った」「『ありがとうございます』と言いました。それから『新太くんの手、冷たいですね』と言いました」新太くんが、右手で額を押さえました。「……そうだ」消えそうな声でした。「映画」次は和樹くんでした。声が、少し震えていました。「何を観た」「洋画でした。二人とも途中で飽きて、あとで感想を言い合ったら、二人とも同じところで寝ていました」和樹くんは、無言で下を向きました。最後に、久遠くんが言いました。
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-08
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第32話 四人、おるな

私たちは、五人で石段を上りました。一月の夕方でした。参拝客はもういません。社務所も閉まっていて、境内には誰もいませんでした。石段の途中で、誰も何も喋りませんでした。四人とも、上る速さがばらばらでした。和樹くんだけが、私の歩幅に合わせていました。「結守さま」私は、拝殿に向かって呼びました。「結守さま、いらっしゃいますか」返事はありませんでした。三十秒ほど、風の音だけがしていました。「……いないのか」新太くんが言いかけたときです。鈴の緒が、鳴りました。風はありませんでした。拝殿の屋根の上に、小さな女の子が座っていました。白い着物に、裸足です。夏に見たときと、何も変わっていませんでした。「……なんだあれ」幸也くんの声が、裏返りました。「見えるんですか」「見えるよ! 見えるに決まってんだろ!」新太くんは、無言で一歩前に出ていました。久遠くんは、瞬きもしていませんでした。四人とも、見えていました。当たり前かもしれません。この人たちは、この神さまに分けられた当事者なのです。結守さまは、屋根の上から動きませんでした。四人を、一人ずつ見ていました。和樹くんを見て、新太くんを見て、幸也くんを見て、久遠くんを見て、また和樹くんに戻りました。何度か、往復しました。そして、こう言いました。「……四人、おるな」「当たり前だろ」新太くんが、一歩前に出ました。「お前が分けたんだろうが」「分けた」結守さまは、うなずきました。「分けたのは、わしじゃ。じゃが」小さな手が、着物の裾を握り
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-09
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第33話 名前だけが残った人

神社に行った次の日から、和樹くんは当番を替わるようになりました。木曜日は、和樹くんの日です。それなのに、来たのは新太くんでした。「和樹は」「替わってくれって言われた」新太くんは、それ以上言いませんでした。言いたくないのが分かりました。替わってくれと言われた側が、こんな顔をするのです。頼まれ方が、普通ではなかったのだと思います。次の木曜も、その次も、同じでした。幸也くんが来て、久遠くんが来ました。学校では、普通に話します。おはようと言えば、おはようと返ってきます。授業の話もするし、笑いもします。ただ、二人きりにならないのです。三年間、あの人が私を避けたことは一度もありませんでした。体調が悪い日でも、機嫌の悪い日でも、この人は隣にいました。その人が、隣に来なくなりました。◇三度目の木曜日、私は結城家に行きました。インターホンを押すと、お母さんが出てきました。「あら、澪ちゃん。上がって上がって」「あの、和樹くんは」「いるわよ。部屋にこもってるけど」お母さんは、少しだけ声を落としました。「最近、変なのよ。四人とも」「正月からずっと。喧嘩してるふうでもないし、仲が悪いわけでもないんだけど」お母さんは、首をかしげていました。「なんだか、お互いに気を遣ってるみたいでねえ」私は、うまく笑えませんでした。◇和樹くんの部屋は二階の突き当たりです。ノックをすると、返事の前に扉が開きました。「……澪」和樹くんは、部屋着でした。目の下に、隈がありました。「入ってもいいですか」「いや、あの」「入ります」私は、押し切りました。
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-10
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第34話 俺が偽物でいい

長い沈黙のあと、和樹くんは頭を上げました。泣いてはいませんでした。泣くより悪い顔をしていました。諦めた人の顔でした。何日もかけて、一人で結論を出したあとの顔です。「座って」「はい」私は、床に座りました。和樹くんは椅子から降りて、床に座り直しました。同じ高さになりました。「ずっと考えてた」和樹くんは、両手を膝の上に置いていました。「澪が、もし俺を選んだとするだろ」「……はい」「それって、俺が俺だからじゃないんだ」声が、静かでした。「俺の名前が残ってたからだ」「澪は、元の俺のことが好きだった。三年間、一緒にいた。その相手が誰かって言われたら、名前が残ってる俺ってことになる」「違います」「違わないよ」和樹くんは、首を振りました。「澪が悪いんじゃない。そういう仕組みになってるってことだ」私は、否定しようとしました。できませんでした。四人が並んで迎えに来たあの朝から、私は一度も見分けを間違えていません。そして、和樹くんを見るときだけ、いつも少しだけ胸が痛んだのです。この人が、いちばん元の彼に近いから。縁側で猫を見ていたとき。クリスマスに手を握られたとき。あのとき私は、たしかに「帰ってきた」と思いました。そう思っていたことが、なかったとは言えません。「ほらな」和樹くんが、また笑いました。「言えないだろ」「それだけじゃない」和樹くんは、そこで、いちばん言いたくなさそうな顔をしました。「俺、嬉しかったんだ」「え」「名前が残ってるって分かったとき。一瞬だけどさ」和樹くんの指が、膝の上で震えていました。「あ、俺が本物なんだ、
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-11
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第35話 怒らなくなった人

二月に入って、新太くんが怒らなくなりました。最初に気づいたのは、昼休みの廊下ででした。三年生の男子が、二人で立ち話をしていました。「結城んとこの四つ子いるじゃん。あいつら最近、仲悪くね?」「なんか女がらみらしいよ。同じ子を取り合ってるとか」「うわ、きっつ」どちらも、知らない顔でした。私は、足を止めませんでした。慣れました。文化祭のあとから、この手の話はずっと回っています。私と四人の関係を、正しく言い当てられる人は一人もいません。だから、どう言われても腹は立ちませんでした。ただ、あの人たちが笑い話にされるのは、嫌でした。問題は、その二歩後ろを新太くんが歩いていたことです。振り向かなくても分かりました。あの人の足音は、他の三人と違います。歩幅が広くて、かかとから強く踏むのです。新太くんは、何もしませんでした。聞こえていないはずがありません。階段を上がるとき、私の横に並んで、いつもどおり車道側にあたる位置に立ちました。それだけです。「新太くん」「あ?」「さっきの、聞こえてましたよね」「聞こえてた」新太くんは、前を向いたまま言いました。「でも、怒るのやめた」「なんでですか」「なんででもだ」新太くんは、そこで歩く速さを上げました。追いつけない速さではありませんでした。ただ、それ以上聞くなという意味だと分かりました。それきりでした。◇次の週も、その次の週も、同じでした。久遠くんが図書室で参考書を取られたときも、幸也くんが後輩にからかわれていたときも、新太くんは黙って見ていました。前なら、真っ先に間に入っていた人です。幸也くんが「新太、丸くなった?」と冗談を言いました。新太くん
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-12
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第36話 借りてるだけだ

翌日の放課後、私は新太くんを呼び止めました。「川に行きませんか」「……なんで川」「なんとなくです」二月の川は、夏とはまるで違う顔をしていました。水が少なくて、石がたくさん出ていて、風が冷たくて、長くはいられません。堤防の斜面に、二人で座りました。「新太くん」「言うな」早かったです。「久遠に聞いたんだろ。あいつ、ほんと余計なことしかしねえ」「私が聞きました」「……そうかよ」新太くんは、鞄から折り畳んだ紙を出しました。模造紙のコピーです。しわだらけで、何度も開いて閉じたのが分かりました。「見ろよ」広げた紙の、自分の段だけを指しました。「俺と澪の記憶、四十七個ある。数えた」几帳面な字で、番号が振ってありました。この人が一つずつ数えたのだと思うと、胸が痛みました。「はい」「そのうち四十一個が、庇ったとか、怒ったとか、守ったとかだ」風が、紙の端を鳴らしました。「残りの六個も、送ったとか、荷物持ったとかだ」新太くんは、自分の段を指で叩きました。「俺、お前と笑った記憶が一個もねえんだよ」私は、何も言えませんでした。昨日の夜、私も同じ結論に辿り着いていたからです。「幸也の段を見ろよ」新太くんは、隣の段を指しました。「全部、笑ってる。遊んでる。ふざけてる。あいつ、お前と真面目な話した記憶がほとんどねえ」「久遠は、見てる記憶ばっかだ。気づいた、分かった、見抜いた。和樹は……ただ一緒にいる記憶ばっかだ。飯食った、歩いた、座ってた」紙を畳みながら、新太くんは言いました。「俺たち、一人ずつ一個しか持ってねえんだ」「分かっちまったんだよ」新
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-13
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第37話 止まらない人

新太くんが怒りを取り戻したころ、今度は幸也くんがおかしくなりました。逆の方向にです。二月の終わりから、幸也くんはよく喋るようになりました。もともとよく喋る人です。それが、三倍になりました。朝、教室に入ってきた瞬間から喋っています。授業の合間も、昼休みも、放課後も。誰かが席を立てば声をかけ、誰かが笑えば次の話を始めます。声が、少しずつ大きくなっていました。教室の端まで届く声です。そこまで届かせる必要のない話でも、そうなっていました。クラスの子たちは、最初のうち笑っていました。三日目くらいから、少しずつ困った顔をするようになりました。誰かが話を切り上げようとしても、幸也くんは次の話を始めます。相手が笑わないと、もう一つ重ねます。それが面白いかどうかではなく、笑わせるまでやめないという意志だけが伝わってくるのです。「幸也くん」「ん?」「今日、何回喋ってますか」「数えてないなあ。千回くらい?」「喉、痛くないんですか」「痛い」あっさり認めました。認めて、また次の話を始めました。幸也くんは笑いました。目が、笑っていませんでした。三組は、文化祭の喫茶店をやったクラスです。幸也くんは、あのときの中心にいました。みんな、この人が明るいことを知っています。知っているからこそ、今の明るさが変だと分かるのです。◇結城家に行ったときも、同じでした。お母さんが台所にいる間ずっと喋り、お父さんが新聞を読んでいる横で喋り、新太くんに「うるさい」と言われても喋り続けました。お母さんが「幸也、ちょっと座ったら」と言いました。幸也くんは座りました。座って、そのまま喋りました。新太くんが、途中で黙りました。怒鳴りません
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-14
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第38話 俺には何が残る

次の日、私は結城家に行きました。お母さんが「二階よ」と言って、少しだけ声を落としました。「あの子、熱があるのに寝ないのよ。誰か来ると喋りだして」「……はい」「澪ちゃんが来たら、余計に喋るかもしれないけど」お母さんは、困ったように笑いました。「でも、来てくれてよかった」◇幸也くんの部屋は、思っていたより片づいていました。布団の中で、幸也くんは天井を見ていました。私が入ると、首だけこちらに向けました。「やあ」「熱は」「八度五分。下がった。優秀」声が、かすれていました。喉をやられているのが分かりました。「喋らないでください」「無理。それだけは無理」「幸也くん」「あのさ、知ってる? 風邪のとき喋ると治りが遅くなるらしいよ」「知ってて喋ってるんですか」「知ってて喋ってる」幸也くんは、笑いました。かすれた、ひどい笑い方でした。私は、椅子に座って、下を向きました。涙が、勝手に落ちました。「……あー」幸也くんの声が、止まりました。「泣かせちゃった」布団の中で、幸也くんは天井に戻りました。「俺、失敗だ」「失敗じゃありません」「失敗だよ」声が、少し低くなりました。「俺の仕事は、澪ちゃんを笑わせることなんだよ。泣かせたら、俺は何もしてないのと同じだろ」「仕事じゃありません」「仕事だよ」幸也くんは、目を閉じました。「新太、怒るのやめたんだって?」「……はい」「二か月やって、それでも残ってたって言ってた。鞄持ったり、車道側歩いたりするのは、やめられなかったって」
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-15
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第39話 燃やそうとした人

幸也くんの熱が下がったのは、三日後でした。学校に戻ってきた幸也くんは、前より少しだけ静かになっていました。喋ることは喋ります。ただ、途中で止まれるようになっていました。新太くんは、怒るようになりました。相変わらず、私のことでばかり怒ります。幸也くんが寝込んでいた三日間、新太くんは毎日、様子を見に行っていたそうです。誰にも言わずにです。言わなかったことを、幸也くんが後から笑いながら話していました。和樹くんは、当番に戻ってきました。木曜日だけ、また二人で歩くようになりました。替わってもらっていた分を、和樹くんは何も言わずに戻しました。理由も言いませんでした。三人とも、少しずつ元に戻っていったのです。元に戻った、というのは正しくないかもしれません。三人とも、壊れる前より少しだけ静かになりました。一度自分の底を見た人の静かさです。残ったのは、久遠くんでした。この人は、何も変わりませんでした。それが、いちばん不気味だったのです。新太くんが二か月怒りをやめたときも、幸也くんが三日寝なかったときも、久遠くんは同じ顔をしていました。同じように半歩前を歩き、同じように短く喋り、同じように半分だけ振り返りました。崩れないのではなく、崩れるところを見せないだけだと、私はどこかで思っていました。思っていて、聞けませんでした。この人には何を聞いても、先に見透かされてしまう気がしたからです。三月に入って、私は資料室に行きました。久遠くんに用があったわけではありません。ただ、あの部屋に行けばあの人がいる、というのが当たり前になっていたのです。誰もいませんでした。長机の上に、資料が一つも出ていません。この二か月、ここにはいつも何かが広げてありました。窓を背にした席の椅子が、きちんと机の下に入っていました。
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-16
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第40話 見えるだけの人間

「新太が怒るのを二か月やめて、自分を見つめ直した」久遠くんは、ノートを持ったまま言いました。「幸也が三日寝ず、笑わせない自分の存在意義を確かめた。和樹は名前の由来を調べた。結論は皆同じだ。だが、俺はそんなことをしなくても分かっていた」「……はい」「いつからだと思う」私は、答えられませんでした。「正月に模造紙を作った日だ」久遠くんは、静かに言いました。「あの日、四人分の記憶を並べた時点で、俺は気づいていた。四人とも、記憶が一種類しかない。新太は守る記憶、幸也は笑わせる記憶、和樹はただ一緒にいる記憶。そして俺は、見ている記憶だ」「それは前に」「言った。君に言った。だが、あいつらには言わなかった」「二か月、黙っていた」風が、ドラム缶の縁で鳴りました。「新太が自分で気づいて、自分で数えて、自分で拳を傷つけた。幸也が自分で気づいて、三日眠らずに倒れた。和樹が自分で気づいて、自分の名前を疑った」久遠くんは、そこで一度、息を吐きました。「全部、俺が先に知っていたことだ」「……止めたと、言っていました」「三回止めた。嘘じゃない」久遠くんは、こちらを見ました。「だが、本気じゃなかった」「本気で止めるなら、方法はいくらでもあった。母に言えばいい。父に言えばいい。担任でも、医者でもいい。幸也が三日寝ていないと言えば、あの家の誰かは必ず動く」久遠くんの手の中で、ノートの角が曲がりました。「しなかった」「どうして」「見ていたかったからだ」私は、言葉が出ませんでした。「新太がどう壊れるのか、知りたかった。幸也がどこで折れるのか、知りたかった。和樹がどこまで自分を疑うのか、知りたかった」久遠くんの声は、淡々としていました。「面白いと思った瞬間が、たしかにある」「兄弟が壊れていくの
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-17
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