久遠くんは、次の日にはもう準備を終えていました。放課後の資料室に呼ばれて、机の上に置いてあったのは、新品のノートが五冊と、ボールペンが二本でした。「五冊もいるんですか」「足りなくなる」その言い方に、私は少し笑ってしまいました。笑ってから、笑うところではないと気づきました。久遠くんは、椅子を引いて、私に座るように言いました。「先に方針を言う。俺が君に色々聞く。その質問と答えを、君が書く」「私がですか」「君の字で残す」久遠くんは、ペンを私のほうに押し出しました。「俺が書くと、俺の解釈が混じる。それと、あとで君が読んだときに、自分が書いたものだと分かるほうがいい」その一言で、私はこのノートが誰のために作られるのかを理解しました。私のためです。忘れたあとの、私のために作るのです。久遠くんは、そこまで考えてこの方法を選んでいます。三日でここまで組み立てたのです。「一ページ目に、これを書いてくれ」久遠くんが言いました。私は、ペンを持ちました。手が少し震えて、最初の一画がうまく引けませんでした。——結城和樹は、一人だった。書き終えて、しばらく見ていました。たった十二文字です。この半年、私が抱えてきた全部が、たった十二文字でした。誰かに読ませるために書いたのは、これが初めてでした。声に出したことは何度もありますが、紙に残したことは一度もありません。書いてしまうと、取り消せない気がしました。取り消したくもありませんでした。「次は、事実から埋める」久遠くんは、淡々としていました。「生まれ年。家族構成。体のこと。病院に行った回数。分かる範囲でいい」「そんなことまで書くんですか」「書く。後から効いてくるのは、たいてい細かいほうだ」
Zuletzt aktualisiert : 2026-10-28 Mehr lesen