Alle Kapitel von 分かれた彼が、全員私を溺愛してきます 〜私も彼ら全員を愛していますが、これはいけないことなのでしょうか〜: Kapitel 41 – Kapitel 50

58 Kapitel

第41話 当番表が消えた日

三月の半ば、冷蔵庫から当番表が消えました。気づいたのは朝です。マグネットだけが四つ、何も挟まずに貼りついていました。八月の終わりから、あの紙はずっとそこにありました。幸也くんの字で、月曜から金曜までが書いてあって、角がだんだん丸くなっていた紙です。ないだけで、冷蔵庫の扉がこんなに広いのだと知りました。「お母さん、あれ」「ああ、昨日の夜ね。結城さんとこの子が取りに来たのよ」母は、洗い物をしながら言いました。「新太くんだったかしら。長いことお世話になりましたって、わざわざ頭下げて」あの人は、そういうことをします。やめるときほど、きちんとやる人です。母は何も気づいていませんでした。当番が終わったのだと思っています。◇学校に着くと、四人は普通でした。幸也くんは朝から喋っていたし、新太くんは鞄に手を伸ばしかけて、途中でやめました。久遠くんは半歩前にいませんでした。和樹くんは、私の顔を見て、少しだけ笑いました。一つずつは、たいしたことではありません。四つ重なると、全部が違って見えました。昼休みに、幸也くんが言いました。「澪ちゃん、しばらく送るのやめるわ」「……どうしてですか」「んー、まあ、いろいろ」いつもの調子でした。いつもの調子で、いちばん大事なところを飛ばす言い方です。「いろいろって、何ですか」「俺たちの問題」それだけでした。◇その日から、四人と過ごす時間がなくなりました。教室では話します。挨拶もするし、授業の話もします。廊下ですれ違えば手を上げてくれます。でも、放課後になると四人はいなくなります。四人だけで、どこかへ行くのです。一度、校門の外で四人を見かけま
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-18
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第42話 私の番です

次の日、私は四人を呼び出しました。誰も来ませんでした。その次の日も、同じでした。幸也くんからだけ、返事がありました。『ごめん。もうちょっと待って』あの人が短い文章で済ませたのは、初めてでした。いつもなら、どうでもいい話が三行はついてくるのです。待ってください、と言ったのは私です。それを、そのまま返されました。◇三日目、私は待つのをやめました。まず、和樹くんのところに行きました。木曜日でした。当番はもうありませんが、木曜の放課後に和樹くんが図書室にいることを、私は知っています。三年間、そうだったからです。「澪」「座ってもいいですか」「……いいけど」私は、向かいに座りました。「和樹くん。四人で何を話しているんですか」「言えない」「言えないなら、私が言います」「和樹くんは、自分が消えると言っているんですね」和樹くんの肩が、動きました。「俺が本物ってことになると、あいつらが偽物になる。だから俺が消えれば、三人が残る」和樹くんは、下を向きました。「そう言ったのは、俺だ」「言いました」「取り消す気はない」◇「じゃあ、新太くんは」私は、次の日に新太くんを捕まえました。校門の前で待ち伏せしました。生まれて初めて、人を待ち伏せしました。「なんだよ」「新太くんは、何と言ったんですか」「……聞いてどうする」「聞きます」新太くんは、しばらく黙ってから、吐き捨てるように言いました。「俺が戻れば、和樹が完全になる。それだけだ」完全、という言葉を、この人は使いました。つまり今の和樹くんは不完
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-19
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第43話 五人の話し合い

土曜日は、曇りでした。十時の五分前に、私は結守神社の石段の下にいました。四人は、十時ちょうどに来ました。四人揃ってです。「来てくれて、ありがとうございます」「呼ばれたからな」新太くんは、そっけなく言いました。そっけなく言いながら、私の分の缶のお茶を持っていました。◇社務所の前に、古いベンチがあります。祭りのときに年寄りが座る場所です。私はそこに座って、四人は立ったままでした。「座ってください」「いい」「座ってください」四人が、渋々座りました。ベンチは三人分しかないので、和樹くんと久遠くんは石段に座りました。私は、最初に言うことを決めてきていました。「四人が何を話しているのか、教えてください。全部です」誰も、すぐには口を開きませんでした。最初に話したのは、和樹くんでした。「俺が消える案を出した」声は落ち着いていました。「俺が本物ってことになったら、三人が偽物になる。だったら俺が消えればいい。三人が残れば、澪は三人の中から選べる」「それは駄目です」「知ってる。でも、出した」「俺は、戻る案を出した」新太くんが言いました。「俺の中にあるもんは、全部和樹のだ。返せば、和樹が完全になる。澪も、元の和樹が帰ってきたほうがいいだろ」「よくありません」「……そうかよ」「よくありません」二度言いました。新太くんは、下を向きました。「俺は反対って言っただけ」幸也くんは、缶を両手で持っていました。「案は出してない。出せなかった」「反対も意見です」「意見じゃないよ。俺のは、ただの駄々っ子、ワガママみたいなもんだよ」最後に、久遠くんが言いました。
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-20
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第44話 春の手前で

三月が終わるころ、私たちは少しだけ元に戻りました。当番表は、戻りませんでした。あれは八月の産物で、もう役目を終えたのだと思います。代わりに、五人でいる時間が増えました。放課後、四組の教室に集まって、意味もなく喋って帰ります。新太くんが購買のパンを買ってきて、幸也くんがどうでもいい話をして、久遠くんが本を読んでいて、和樹くんが窓際にいます。ちさが一度、覗きに来ました。「なに、この集まり」「何でもないです」「変なの」変なのだと思います。傍から見れば、ただの五人です。何も解決していません。それでも、四人が私を外して話すことはなくなりました。約束は、守られていました。◇春休みに入る前の日、久遠くんがノートを持ってきました。「調べ直してる」「はい」「今度は全部話す。今日の分は、三つある」久遠くんは、几帳面にページを開きました。「一つ。『縒り火』の表記は、江戸の中ごろまで使われている。それ以降は『結び火』だ」「途中で変わったんですか」「変わった。理由は書いていない」二つ目、三つ目と、久遠くんは淡々と報告しました。どれも、答えには遠いものでした。「役に立たないな」「立ちます」「立たないだろう。事実を並べているだけだ」「並べてくれる人がいるだけで、違います」久遠くんは、少しだけ嫌そうな顔をしました。照れているときの顔だと、最近になって分かるようになりました。それでも、この人が一人で抱えなくなったことのほうが、私には大事でした。◇その夜のことです。私は、布団の中で、いつものように思い出をなぞっていました。毎晩やっていることです。忘れないように、一つずつ数えるのです。誰にも言
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-21
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第45話 いつものだから

四月になって、私たちは三年生になりました。クラス替えで、私は和樹くんと久遠くんと同じクラスになりました。新太くんと幸也くんは隣です。組み合わせが変わっただけで、五人でいることは変わりませんでした。幸也くんが「なんで俺が外れんの」と騒いで、新太くんに「うるさい」と言われていました。三年生になっても、同じことをしています。桜が咲いて、散って、教室の窓から見える山が明るくなりました。平和だったと思います。何も決まっていないのに、平和でした。◇その朝も、私はいつものように目を覚まして、いつものように記憶を数えました。順番は決まっています。新しいものから、古いものへ。三月の話し合い。正月の初詣。大晦日の焚き火。クリスマスの手袋。文化祭の後夜祭。夏の川。八月の祭り。三年前の坂道。銀杏。あのさ、から始まった告白。そして、いちばん古いところ。中学二年の夏。祭りの準備。参道の真ん中。提灯の箱を運んでいた背中が、ふっと傾く。音がする。箱が落ちる音。体が落ちる音。走る私。社務所まで走って、保健の先生を呼んで、また走って戻る。戻ったとき、彼はもう目を開けていて。私を見て、こう言いました。——大丈夫、いつものだから。低い声でした。私は、布団の中で目を開けました。低い声。和樹くんの声は、やわらかい中音です。低くはありません。低く硬い声を持っているのは、新太くんです。起き上がって、もう一度、最初から思い出しました。参道の真ん中で倒れたのは、誰ですか。新太くんです。
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-22
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第46話 忘れないように

その日、私は学校を早退しました。生まれて初めての、仮病です。四時間目が終わったところで保健室に行って、頭が痛いと言いました。嘘ではありませんでした。母は心配して、祖母は何も聞きませんでした。ただ、昼過ぎに部屋に来て、湯呑みを置いていきました。四人からは、夕方までに七通のメッセージが来ました。返事は一度だけしました。「あんた、顔色が悪いよ」「……うん」「寝てなさい」祖母は、すぐには出ていきませんでした。畳に座って、湯呑みの湯気を見ていました。「おばあちゃん」「なんだい」「前に言ってたよね。昔、似た話を聞いたことがあるって」祖母の背中が、少し動きました。「神さまが、良かれと思って、とんでもないことをしたって話」「……言ったかね」「言った。梅を干してるときに」祖母は、しばらく黙っていました。それから、正座を崩して、壁にもたれました。「あれはね、うちの、ひいばあさんのそのまた上くらいの話だよ」「一ノ瀬の家に、娘がいたんだと」祖母の声は、昔話をする声になっていました。「その娘が、神さんに何か頼んだらしい。何を頼んだかは、聞いてない。ただ、頼んで、聞いてもらったんだと」「叶ったの?」「叶ったらしいよ。それはそれは、きれいに叶ったって」祖母は、そこで少し笑いました。笑って、すぐにやめました。「そのあとから、娘は物を忘れるようになった」湯呑みの中で、お茶が揺れました。私が持っていたからです。「最初はね、昨日のごはんが思い出せないとか、そんなことだったって。年寄りが言うようなことさ。でも娘は、まだ二十かそこらだったんだと」「……それから、どうなったの」
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-23
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第47話 わしがしたのは

次の日、私は学校を休んで神社に行きました。二日続けての仮病です。母には申し訳なかったのですが、待っていられませんでした。四月の境内は、明るすぎました。桜はもう散っていて、代わりに若い葉が出はじめています。去年の八月に提灯が下がっていた参道を、私は一人で歩きました。「結守さま」返事は、すぐにありました。「おるよ」拝殿の階段に、白い着物の女の子が座っていました。初めて会ったときと、何も変わっていませんでした。「聞きたいことが、二つあります」「二つか」「はい」私は、階段の下に立ちました。座る気にはなりませんでした。「去年の秋、私はここに来ました。夜でした」「来たな」「呼びました。何度も呼びました」結守さまは、膝の上で手を組んでいました。「出てきてくれませんでした。でも、いたんですよね」「おった」あっさりと認めました。「石が濡れておったからな。足跡が残ったじゃろう」「どうして、出てきてくれなかったんですか」結守さまは、しばらく黙っていました。この神さまが言葉を選ぶのを、私は二度目に見ました。「あの夜、そなたは言うた」小さな声でした。「四人とも好きになってしまいました、と」私は、うなずきました。「それを聞いて、わしは」結守さまは、少し顔をそむけました。「嬉しかったのじゃ」「……嬉しい」「縁が、四本に増えたということじゃ。細い糸が四本絡み合うほうが、一本きりより丈夫で、豊かじゃ。わしにとっては、めでたい話じゃ」結守さまは、自分の膝を見ていました。「じゃから、出ていけば言うてしまう。よかったのう、と」私は、言葉を失いました。「あのとき
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-24
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第48話 言えない一週間

五月に入って、私たちは穏やかでした。三年生の一学期は、思っていたより静かに始まりました。受験の話がちらほら出て、幸也くんが「俺は考えたくない」と言って、新太くんが「考えろ」と言って、久遠くんが志望校の一覧を持ってきて、和樹くんが窓際で笑っていました。放課後は、五人で教室に残ります。当番表はもうありません。それでも、誰かが誰かを待っているのが当たり前になっていました。私は、その時間が好きでした。何も解決していません。誰も答えを出していません。それでも、五人で机を寄せて、どうでもいい話をしている時間は、去年の八月より前の日常に少しだけ似ていました。好きだからこそ、言えませんでした。言えば、終わるのです。私が忘れはじめていると知ったら、この人たちは必ず急ぎます。新太くんは「早く戻そう」と言います。和樹くんは「俺が消える」と言います。幸也くんは反対して、それでも自分だけ残ることは耐えられません。久遠くんは、四人全員で戻る案を、もう一度机の上に出します。そして四人は、私が忘れきる前に決めようとします。結守さまは、季節が二つ回ると言いました。半年です。半年あれば、この五人でいられます。黙っていれば、半年あるのです。そう考えてしまう自分が、いちばん嫌でした。四人に待ってくださいと言い続けた半年と、同じことをしようとしています。名前が変わっただけです。一週間、私は黙りました。その間に、二つのことが起きました。一つ目は、水曜日のことです。教室でちさが、こんなことを言いました。「そういえば澪ちゃん、この前の話どうなったの」「この前?」「ほら、去年の秋に相談されたやつ。結城くんたちのことで悩んでるって」私は、そんな相談をしていません。一度もしていません。
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-25
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第49話 私が忘れます

土曜日の十時。結守神社の石段の下に、五人が揃いました。三月に話し合ったときと、同じ場所です。あのときと違うのは、私が何を言うか決めてきていることでした。社務所の前のベンチに、私は座りませんでした。立ったまま、四人に向き合いました。座ってしまったら、言えなくなる気がしたからです。「聞いてください」四人が、私を見ました。「私の記憶が、消えはじめています」誰も、すぐには反応しませんでした。幸也くんが、口を半分開けたまま止まっていました。「……どういう意味?」「言葉のとおりです」私は、なるべく落ち着いた声を出そうとしました。うまくいっているかは分かりませんでした。「三週間前の朝、いつものように昔のことを思い出していました。中学二年の夏のことです」新太くんの眉が、動きました。「お祭りの準備で、参道の真ん中で倒れた人がいます。私が保健の先生を呼びに走りました。戻ってきたとき、その人は『大丈夫、いつものだから』と言いました」私は和樹くんの顔を見て言いました。「それが、和樹くんではなくなっていました」そして、新太くんの方を向き、続けました。「新太くんになっていたんです」新太くんが、一歩下がりました。「は?」「新太くんが提灯の箱を抱えていて、倒れて、砂埃が上がって、戻ってきたら低い声で『いつものだから』と言ったんです」「俺じゃねえ」新太くんの声が、裏返りました。「俺はそんなことしてねえ。あの日は四人で運んで——」そこで、新太くんは止まりました。自分の記憶も当てにならないことを、この人はもう知っています。四人で運んだ、という記憶が本物だと言い切れる人は、ここには一人もいません。「和樹くんです」私は、言いました。
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-26
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第50話 四人の壊れ方

それからの三日間、四人はそれぞれ違う壊れ方をしました。新太くんは、怒りました。月曜日の放課後、二年四組の掃除用具入れを蹴って、扉をへこませました。誰も見ていないと思っていたようですが、私は廊下から見ていました。「新太くん」「……見てたのか」「弁償しましょう」「する」新太くんは、へこんだ扉を指で押して、少しだけ戻そうとしていました。戻るわけがありません。「誰に怒ればいいんだよ」同じことを、この人は正月にも言いました。「神様じゃねえんだろ。世界だろ。世界って何だよ。どこにいるんだよ。殴れねえだろ」新太くんの拳は、まだ薄く跡が残っています。三月に堤防を殴ったときのものです。「殴らないでください」「殴らねえよ」新太くんは、掃除用具入れにもたれて、ずるずると座り込みました。「殴れねえから、こうなってんだよ」私は、隣に座りました。二人で、へこんだ扉を見ていました。幸也くんは、静かでした。喋らないわけではありません。授業中も、休み時間も、いつもどおりふざけています。声の量も、三月と変わりません。ただ、私と二人になると黙るのです。火曜日、購買の前で二人きりになったとき、幸也くんは十秒以上黙りました。「幸也くん」「ん」「喋らなくていいですよ」「……そういうのが、いちばんきついんだって」幸也くんは、笑いました。「俺さ、澪ちゃんを笑わせるのが仕事だと思ってたじゃん」「はい」「忘れられるんだったら、意味ないなって、ちょっと思っちゃった」自分で言って、自分で首を振りました。「今の、なし。忘れて」「忘れません」「…&hel
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-27
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