Alle Kapitel von 婚約者の裏切りを知った夜、私は彼の実弟に奪われた: Kapitel 31 – Kapitel 40

52 Kapitel

水無瀬雫との因縁

私は、鏡の前で水色のドレスに袖を通した。恭吾に似合わないと言われたドレスも、今の私ならば着こなせる。 ピンポーン 世那が迎えにきたようだ。私は玄関の扉を開けた。 「はい」 「麗奈さん、迎えに……」 「世那、どうしたの?」 私を見つめたまま、固まっている世那に問いかけた。 「麗奈さんが綺麗だから」 そして、世那は玄関の扉を静かに閉めた。 「後ろ向いて?」 私は世那に言われるがまま、後ろを向いた。すると、世那は私の首にネックレスをかけた。私は見るからに、高価そうなネックレスに触れた。 「やっぱり、思った通りだ。そのネックレスもよく似合ってる」 「でも、こんなに高価なものは受け取れないわ。私には似合わないもの」 「麗奈さん、恋人からのプレゼントを受け取ってくれないの?」 「それは……」 「何度でも言うよ。麗奈さんは綺麗だ。兄貴に言われたことを気にしてるのも分かる。でもね、今、麗奈さんの隣に居るのは俺なんだ。だから、俺の言葉だけを信じて」 「……分かった」 私は世那の言葉で気付かされた。恭吾に未練なんて微塵もない。だけど、私は未だに恭吾の言葉に縛られている。身体的支配より、精神的支配の方が根強いのかもしれない。 「世那、ありがとう」 「どういたしまして」 「行きましょうか」 「麗奈さんの仰せのままに」 水無瀬雫。あの日々の屈辱を今、晴らしてやる。  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 私と世那は、時間より早く〝新生〟に到着した。まだ水無瀬は来ていないようだ。私たちは、個室に通され、水無瀬を待つことにした。すると、ヒールの音を響かせながら、水無瀬がやって来た。 「久しぶり、世那。麗奈……あんたがどうしてここに?」 私に気づいた時の水無瀬の表情は、まさに傑作だった。そんな水無瀬に追い打ちをかけるように言った。 「どうして居るかは、世那に聞いたら?」 「おかえり、水無瀬。今日は、俺の恋人を紹介したくてここに来たんだ。俺は麗奈さんと付き合ってる」 「そんなの嘘よ……世那は私のことが好きなんでしょ?それも私の気を引く為の演技よね?」 「わるいけど、水無瀬の事を好きになったことは一度もない。これからも有り得ない」 世那は言い放った。すると、水無瀬は開き直ったかのように、世那に言った。 「世那。麗奈に誘惑されたの
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-14
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世那の狂気

世那は、水無瀬から渡されたスマートフォンの動画を真顔で見続けた。私は力なくその場に座り込んだ。恋人である世那に、こんな汚らわしい私の姿を見られたくなかった。私はまた、愛した人を失った。 「これ撮ったの水無瀬?」 「そうよ。よく撮れてるでしょ?こんなことされた女と一緒に居たら、世那まで汚れちゃう。そんな女とは早く別れて」 すると、世那はしゃがんで、座り込んでいる私の両手を優しく握り問いかけた。 「麗奈さん、やられたの?あいつに」 「信じてくれるの?」 「当たり前でしょ。それに、麗奈さんは汚れてなんかない。俺が一番よく知ってる」 「ありがとう……」 「ほら、座って?」 世那は私を抱え、椅子に座らせた。 「麗奈さん、少し待っててね」 「世那?何するの?」 「目には目を歯には歯を、だよ」 そういうと、世那は水無瀬を睨みつけた。 「どうして?世那。なんで、その女の言うことを信じるのよ!」 「はっきり言っておく。俺にとって、麗奈さんが言ったことが真実だから。この動画で、俺が麗奈さんから離れるとでも思ったのか?そんな訳ないだろ」 世那の背中が怒りで震えていた。 「ほら、これ返す」 「分かったわよ!」 すると、世那はスマートフォンを回収しようとした水無瀬の腕を掴んだ。 「何するのよ!痛いっ」 「これで痛いのか?麗奈さんはそんな痛みじゃない。水無瀬は、虐められたことがないから分からないんだ。だから、俺が分からせてやるよ」 「やめて……世那……お願い」 泣きながら、水無瀬は世那に懇願した。しかし、世那はそんなこと気にもとめず、水無瀬の右手をテーブルに固定した。 「麗奈さんもやめてって言ってただろ。何回も何回も!なのに、お前は笑って動画を撮り続けた。違うか?」 「それは……」 「違うのかって、聞いてる」 世那はドスの効いた声で、水無瀬に言った。 「言った。言ったから……もうやめて。わたしはただ、世那に振り向いて欲しくて」 「だから、麗奈さんを虐めたのか?」 「世那が麗奈を好きなことに気づいて、どうしても許せなかった。恭吾と寝たのに、世那は私のことを見向きもしてくれなかった。私、麗奈が邪魔だったの!あんたさえ居なければ!」 水無瀬が私に襲いかかろうとした。すると、世那
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-15
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過去のトラウマ

私は世那のマンションに居た。世那に支えられながら、私はリビングのソファーに座った。 「麗奈さん、これ飲んで」 「ありがとう」 世那は私に温かいコーヒーを差し出した。 「お風呂、沸かしてくるね」 「待って」 私は世那の服の袖を掴んだ。水無瀬の動画を見ても、いつもと変わらず接してくれる世那が怖い。世那を信じたいのに、過去のトラウマに囚われている私は、彼に嫌われてしまわないか不安で堪らない。 「どうしたの?」 「世那、ここに居て」 「うん、分かった」 世那は私の隣に腰掛けた。そして、私の肩を抱き寄せた。世那は何も言わず、優しく私の頭を撫でた。世那の温もりを感じると、嬉しいはずなのに、何故か目から涙が零れた。私は世那の傍に居るべきじゃないのかもしれない。 「麗奈さん、好きだよ」 「え……」 「今だからこそ、伝えないとって思った」 世那には私の心の声が聞こえているのかもしれない。そう思うくらい世那は、私の欲しい言葉をくれる。そんな世那だからこそ、本当の事を知って欲しいと思った。私は心の奥底に仕舞い込んだ記憶を呼び起こした。そして、ゆっくりと重い口を開けた。 「世那、聞いてくれる?」 「なに?」 「あの動画のこと」 「うん」 世那は、私の心の準備が整うまで静かに待った。世那なら信じてくれる。私は、意を決してあの日の出来事を話し始めた。 「あの日、4限目の講義の後、私は水無瀬に校舎裏に呼び出されたの。その頃、水無瀬とその取り巻きからの嫌がらせは日常茶飯事だったから、私も逆らうことが出来なかった」 私は、話しながら全身が震えているのが分かった。続きを話そうと思うのに、身体に力が入らない。すると、世那が私の肩を優しくさすった。 「麗奈さん、深呼吸しようか」 「うん」 世那と居ると心が落ち着く。落ち着きを取り戻した私は、話を続けた。 「あの日はいつもと違って、水無瀬が物凄い剣幕で怒ってたの。そして、カッターナイフを私に向けて、動いたら顔を傷つけるって脅された。その後に起こったことが、今日、世那が見た動画。だから、私は本当に汚れてないの。水無瀬とその取り巻きに無理やり服を脱がされて、動画を撮られ、あたかもそう思わされたの」 私は一語一句必死に世那に伝えた。世那だけは、失いたくない。こ
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-16
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君の好きな所

私は世那と湯船に浸かった。世那は私を後ろから優しく抱き締め、私の肩にそっとキスをした。 「ね、くすぐったい/」 「今、麗奈さん、笑った」 「うん。世那のお陰よ。ありがとう」 すると、世那は私の背中に顔を埋めた。世那の吐息がかかる度、身体がビクついてしまう。 「明日、仕事休もうかな」 「どうして?」 「麗奈さんの傍に居たいから」 私は世那の言葉を聞いて、思わず振り返った。 「私なら大丈夫よ」 「麗奈さんの大丈夫は、大丈夫じゃないって知ってるから」 私は世那の言葉にハッとした。私は子どもの頃から、我慢強い子だと言われてきた。だけど、本当は違う。弱音を吐ける場所がなかったのだ。そうしているうちに、私は何でも一人で抱え込むようになった。弱音の吐き方も、頼り方も分からないまま、大人になってしまった。それを世那に見抜かれ、私は動揺を隠せなかった。 「世那は、私の事なら私以上に分かってそうね」 「そうかも。それだけ、麗奈さんのことを見てるから」 「あまり見ないで」 「どうして?」 「嫌な所を見られてしまうから。世那に嫌われたら私……」 「嫌いになるわけないでしょ。俺、麗奈さんの嫌いな所ないから」 「ほんとに?」 「ほんと」 そう言い張る世那に、私はいくつか聞いてみることにした。 「私、相当、優柔不断よ。外食に行けば、何を食べるか迷うし、買い物に行けば、服を何着も試着してから買うの」 「悩んでる麗奈さんを見てる。きっと、色んな表情してるんだろうな」 「怒らないの?遅いって。早く決めろって」 「うん。怒らない」 「あとは、朝起きるのが苦手なの」 「それは知ってる。俺ん家に泊まった時もよく寝てるから。寝顔が可愛いからなんの問題もなし。ゆっくり寝てください。夜、無理させた後だしね」 「ねぇ/」 「ん?どうした?」 「分かってるくせに//」 「麗奈さんは、可愛すぎるから困る」 世那は呟いた。そして、世那は私の右耳を甘噛みした。 「あぁっ……//」 「ほら、こんなに可愛い声出してさ」 「ちょっと、世那!//」 私は身体の向きを変え、世那と向き合った。すると、世那は私の頬に優しく触れた。私を見つめる世那の目がとても優しかった。 「俺、麗奈さんの嫌いな所は言えないけど、好きな所なら言えるよ」 「うん」 「聞く?」 「
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-17
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世那の正義感と麗奈の嫉妬心

俺は、隣でぐっすり眠っている麗奈を眺めた。今まで麗奈は、どれだけの理不尽の中で生きてきたのだろう。麗奈の味方であるべき両親でさえも、彼女ではなく世間体を優先した。恋人であった恭吾も麗奈に寄り添おうともしなかった。それでも、麗奈は恭吾を信じ、尽くした。それなのに、恭吾は麗奈を裏切り続けた。俺は麗奈を起こさないように、ベッドから起き上がった。そして、リビングの電気をつけ、ソファーに腰掛けた。水無瀬の件は、まだ解決していない。なぜなら、いじめに関わった生徒があと4人居るからだ。それが誰かは、既に特定している。今も水無瀬の腰巾着をしている馬鹿共だ。俺は水無瀬のスマートフォンから俺のスマートフォンへ転送した動画を眺めた。何度見ても、怒りが込み上げてくる。そこで、俺は煙草を一本取り出し、火をつけた。麗奈を傷つけた者は誰であっても許さない。「世那……?」「麗奈さん、起こしちゃった?」「ううん、たまたま目が覚めたら、世那が居なくて」「ごめん。どうしても煙草が吸いたくなって」「そう」俺は麗奈を優しく抱き締めた。「安心して。俺はどこにも行かないよ」「うん、ありがとう」いつも凛々しい麗奈が、俺の胸にすっぽりと収まった。それが、愛おしくて堪らない。俺は麗奈の頭を優しく撫でた。今度こそ、麗奈を脅かす全てのものから、彼女を守り抜く。二度と麗奈が悲しみに浸ることがないように。「麗奈さん、寝ようか」「私も一本吸いたいわ」「分かった」俺は、麗奈の口に煙草を一本咥えさせた。そして、ライターで火をつけた。麗奈の口から煙が吐き出された。その横顔は、見惚れる程に美しかった。「世那、何見てたの?」「なんでもないよ」「嘘。私が来たら隠したでしょ?」観念した俺は、麗奈にスマートフォンを渡した。「この動画……」「水無瀬のスマートフォンから転送した」「そう」「ごめん」「なんで謝るの?世那の事だから理由があるんでしょ?」「うん」俺は頷き、麗奈の目を見ながら言った。「あとの4人を野放しにしたくない」「でも、水無瀬と違って証拠がないわ」「ないなら作ればいい」 「どういう事?」「俺が4人に近づいて、証拠を吐かせる。気が抜けてる時ならボロが出るはずだから」「ちょっと待って」「麗奈さん、どうしたの?」麗奈は真剣な面持ちで俺を見た。「世那、あの女達に近づくの
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-18
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縛って、隠して

朝、目覚めると隣に世那の姿はなかった。私はゆっくりと起き上がり、リビングへ向かった。そこには、朝食の支度をしている世那が居た。私はそっと世那に近づき、後ろから抱きついた。 「おはよう、世那」 「麗奈さん、おはよう」 「朝食作ってくれたの?」 「うん。簡単なものだけどね。麗奈さんの着替えは、ソファーに置いてあるから」 私はソファーを確認すると、高級ブランドの新作ワンピースが置いてあった。しかも、私の好きなブランドだ。 「世那が選んでくれたの?」 「うん。気に入るといいけど」 「嬉しい。ありがとう」 私は世那に駆け寄り、彼の頬にキスをした。  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 朝食を食べ終えた私と世那は、食後のコーヒーを堪能していた。 「世那、今日仕事は?」 「午後から。本当は一日中、麗奈さんの傍に居たいんだけど、どうしても外せない会議があって」 「その気持ちだけで十分。世那は忙しい社長さんなんだから、仕事を優先してね」 「それは嫌だ」 「どうして?」 「いつでも、俺の最重要事項は、麗奈さんだから」 こういう言葉を、恥ずかしげもなく言う世那に、私の心はいつも掻き乱される。そして、私は世那の右頬に優しく触れた。 「そういう言葉どこで覚えてくるの?」 「麗奈さんにしか言わないから分からない」 世那の目つきが鋭くなった。今度こそ、私は世那のスイッチを押してしまったようだ。世那は私の首筋に痛いくらい吸い付いた。こんなに、激しく噛みつかれるのは久しぶりで、私の身体はすぐに疼き出した。 「世那、仕事行かないと//」 「時間ならまだあるよ」 すると、世那はネクタイを解き、私の手首を拘束した。手の自由を奪われ、世那のなすがままになってしまった私は、ひたすら彼が与えてくれる快感に悶えた。 「でも、このワンピース似合ってるから、脱がせるのは勿体ないね」 世那は、ワンピースを捲りあげ、太ももに手を這わせた。 「見ないで///」 「分かった」 そういうと、 世那は私の手首を拘束しているネクタイを解いた。そして、私にネクタイを差し出した。 「そのネクタイで、俺の目隠して」 私は世那に言われた通りに、彼の目を隠した。世那は手探りで私の身体に触れた。いつもと違い、ぎこち
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-19
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守り、尽くし、愛したい

「麗奈さん、行ってくるね」 「行ってらっしゃい」 俺は、何度、この光景を頭に思い浮かべただろうか。麗奈が俺だけを見て、俺だけに笑いかけている。俺は麗奈に、この日の為に用意していた合鍵を渡すことにした。 「そうだ。これ、持ってて」 なるべく自然に、俺は麗奈に合鍵を渡した。 「もらっていいの……?」 「もちろん。だから、何時でもここに来て」 「ありがとう」 麗奈は合鍵を握り締めた。そして、俺は麗奈に畳み掛けた。 「今日、俺が仕事から帰ってきたら、麗奈さんはここに居てくれる?」 「もちろん、居るわ。夕食を作って待ってる」 麗奈の言葉に、俺の胸は高鳴った。これは現実なのだろうか?俺は、都合のいい夢を見ているのかもしれない。目の前に居る麗奈も、俺が作り出した虚像なのかもしれない。 麗奈と恋人になっても、俺の不安は消えない。だから、俺は麗奈を縛りつけてしまいそうになる。しかし、それでは恭吾と同じだ。俺は、麗奈を閉じ込めたい訳ではない。麗奈の一番近くで、彼女を守り、尽くし、愛したい。 「仕事終わったら連絡するよ」 「うん、待ってる。」 俺は麗奈の唇にそっとキスをした。  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 出勤すると、秘書の桑山が俺の元に会議の資料を持ってきた。 「社長、こちらが今日の会議の資料です。それとこちらも目をお通しください」 「ありがとう。桑山さんは、仕事が早くて助かるよ」 俺は早速、桑山から受け取った茶封筒の中身を確認した。 「桑山さん、ここに載ってる職員との接触は可能ですか?」 「調べたところ、彼は天野恭吾が勤める法律事務所の財務担当です。どうやら、子どもの治療費を盾に、天野恭吾の言いなりになっているようです」 「相変わらず、やり方が卑怯で反吐が出る。該当の職員がよく立ち寄る場所を調べてください。こちらから会いに行きます」 「承知しました」 トゥルルルルルル…… その時、内線が鳴った。受話器を取ったのは、桑山だった。 「社長室です。はい、はい。社長に確認してみます」 「なんですか?」 「受付に、逢沢様という女性が、社長の忘れ物を届けに来たと仰っているとのことですが、いかが致しますか?」 「すぐに通してください。それから、これから彼女が来たら、社
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-19
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思い出の味

俺は、麗奈を連れて食堂へやって来た。普段、あまり社員の前に出ることがない俺が、麗奈を連れて登場したことにより、その場の視線を一身に浴びた。 「世那、なんだか視線を感じるのだけど……私、ここに来ていいの?」 「もちろん。だから、麗奈さんは俺の隣に居て」 「分かったわ」 麗奈は顔を上げ、背筋を伸ばし、俺に笑いかけた。俺は麗奈の表情に思わず見惚れた。その表情は、当時、高校生だった俺が一瞬で恋に落ちた麗奈と重なった。  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 麗奈は、メニュー表を手に取り、眺めた。そして、気づいた。 「私の好きなメニューって、もしかしてビーフシチュー?」 「そう!」 「よく覚えてたわね」 「麗奈さんの事なら、全部覚えてるよ」 「そっか……」 一瞬、麗奈の顔が曇った。しかし、すぐにいつもの彼女に戻った。 「じゃあ、ビーフシチューが食べたい」 「一緒に注文しよう。券売機で食券買って、カウンターの店員さんに渡して」 「分かった。こういうの初めてだから緊張する」 「麗奈さん、食券買ったことある?」 「ないかも」 俺は麗奈がタッチ決済をしようとした時、自分のスマートフォンをかざした。俺と一緒に居る時に、麗奈に財布を使わせることはしない。そう決めている。 「世那、ありがとう」 「どういたしまして」 食券を買った俺たちは、店員に渡し、料理が提供されるのを待った。数分後、熱々のビーフシチューとサラダがトレーに置かれた。 「麗奈さん、窓際の席に行こうか」 「そうね」 麗奈は席に座ると、早速、ビーフシチューを一口食べた。 「この味って……」 麗奈は確かめるように、二口目を食べた。 「やっぱり」 麗奈は何かを確信したようだ。そして、麗奈は俺に問いかけた。 「このビーフシチューを作ったシェフは、香坂シェフじゃない?」 「さすが、麗奈さんだ」 「え!?待って。香坂シェフのビーフシチューがまた食べられるの?」 「そうだよ」 麗奈にとって、香坂シェフの料理は大切な思い出の味だ。前に一度だけ、麗奈から聞いたことがある。一年に一度、麗奈の誕生日に両親と食べるビーフシチューが好きだったと。 「でも、香坂シェフは店を閉めたって聞いたわ。シェフも引退したと……
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-20
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過去の自分との決別

「ご馳走様でした。とっても美味しかったわ」 「それは良かった」 「ね、御手洗ってどこ?お化粧直したくて」 私は小声で世那に問いかけた。 「真っ直ぐ行って、角を左に曲がるとすぐだよ」 「ありがとう」 「俺は喫煙所に居るから。連絡して」 「分かった」 私は食堂を出ると、世那と分かれて御手洗に向かった。そして、鏡の前でリップを塗り直していると、ガチャッと鍵が閉まる音がした。嫌な予感がした私は、常にハンドバッグに持ち歩いているボイスレコーダーのスイッチをオンにした。 「あなた、天野社長の何なの?」 予感は的中した。女性社員と思われる4人組が私を取り囲んだ。大人になっても、こんな幼稚な真似をする奴らがいる事に、私は驚きを隠せなかった。 「何と答えれば満足してくれますか?」 「生意気な口が聞けるのも今のうちよ。天野社長に近づく女はこれまでも数え切れないほどいたわ。その都度、私が追い払ってやったの。だから、あなたもここでおしまいよ」 「あなたは世那の何?」 逆に、私は女に問いかけた。 「私は……その……」 「答えられないのね。そうよね。勘違いしてる気が狂った惨めな女だものね」 私は女を睨みつけた。もう誰も、私を侮辱し、虐める事は許さない。私は学生時代の弱い私ではない。すると、私の言葉に怒り狂った女が、私を突き飛ばした。その拍子に私の頭からは血が流れた。だけど、それでいい。この女が暴れれば暴れる程、報いを受けることになるのだから。その為ならば、私の怪我の一つや二つどうってことない。 何分経っただろうか?私のスマートフォンのバイブは震え続けていた。そろそろ、この女達の破滅へのカウントダウンが始まる。もう少しだけ、私はこの痛みに耐えればいい。そうすれば、きっと、光が射すから。 バンッ! 大きな音と共に、女子トイレの扉が蹴破られた。 「麗奈さん!血が……桑山さん!早く病院へ!」 「承知しました」 「世那、これくらい大丈夫よ」 私は、今にも泣き出しそうな世那に微笑んだ。そして、隠し持っていたボイスレコーダーを渡した。 「私、今度は負けなかったわ。世那が助けに来てくれるって信じてたから」 「うん。よく頑張ったね」 世那は、女達の前でボイスレコーダーを再生した。すると、みるみる表情が険しくなった。そして、世那はボイスレコーダーを握り締めな
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-21
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麗奈の選択

「検査の結果、脳に異常はありませんでした。幸い、傷も浅いですし、2、3日安静にしていれば大丈夫です。お大事にしてください」 「ありがとうございました」 私は医師にお礼を言うと、診察室を後にした。そして、待合室で待つ世那の元へ急いだ。 「世那、お待たせ」 「麗奈さん。それ……」 世那は、私の頭に巻かれている包帯を見て言った。 「医師が2、3日はこうするようにって。でも、傷は浅いから大丈夫。検査の結果、脳に異常も無かったわ」 「良かった……」 世那が安堵の表情を浮かべた。 「もし、麗奈さんの身に何かあったらと思うと俺、怖くて……」 「心配かけてごめんなさい。世那が助けてくれたから私は無事よ。ありがとう」 「これからは無茶しないで。そうしないと、麗奈さんにボディーガード付けるから」 世那の目は真剣だった。世那なら本当にやりかねない。私は素直に頷いた。 「痛み止めが処方されるの。それを受け取ったら帰れるわ」 「分かった」 「だから、世那は会社に戻って。午後から大事な会議があるんでしょ?私は、タクシーで帰れるから」 「大丈夫。会議はリスケしたから。こんな状態の麗奈さんを一人にしておけない。だから、一緒に帰ろう」 「世那……」 「そんな顔しないで。また、自分のせいだとか思ってるんでしょ?」 まさにその通りだった。私がトラブルに巻き込まれたばっかりに、世那の仕事に迷惑をかけてしまった。私は責任を感じていた。 「麗奈さんのせいじゃない。これは、俺が決めたことだから。俺にとって、麗奈さん以上に大切なものはないんだ」 世那が私を安心させようと微笑んだ。私は、世那の笑顔にいつも救われている。  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 私は世那の車の助っ席に乗り込んだ。すると、世那が私にシートベルトを締めてくれた。 「ありがとう」 「どういたしまして」 すると、世那はゆっくりとアクセルを踏んだ。 しばらく、私と世那の間に沈黙が流れた。私は気まずさに耐えきれず、口を開いた。 「世那、私のスマホにGPSを仕込んでるでしょ?」 「それは……」 「隠さなくていいわ。知ってたから」 「え!?」 世那は、運転しながら驚いた表情を見せた。 「いつから?」 「世那が私のスマホにGPSを仕掛けたその日から」 「まじか……」 世那は
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-21
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