散りゆく愛の果てに高度一万メートルを越えた空で突如として乱気流に巻き込まれ、機長・高橋隆司(たかはし りゅうじ)は危うい状況のさなか、パートナーである白石美月(しらいし みつき)へと告白した。
二人が互いの想いを打ち明け合う一方で、隆司の妻・萩原凛(はぎわら りん)が同じ機内にいることには、誰ひとり気づいていなかった。
愛情のこもった隆司の声は、凛の耳に鋭く突き刺さる。
「結婚しよう、美月」
ちょうどそのとき、凛の前に座っていた息子・高橋翔太(たかはし しょうた)も、露骨な嫌悪を滲ませながら口を開いた。
「あんなママなんて大嫌い!美月さんにママになってほしい」
凛の心は深い絶望に沈み、悲しみは絶え間なく流れ続けた。飛行機が無事に着陸すると、彼女は震える指でアシスタントに電話をかける。
「仮死薬の被験者になるわ。夫も息子も、もういらない」
そして凛は、結婚記念日に死ぬことを静かに決めた。
すべての準備を終えたあと、凛は淡々と仮死薬を服用した。
次に目を覚ますときには、新しい人生が始まっているはず。
その後、隆司に届いた妻の死の知らせは、彼を狂乱の涙に沈ませた。