あの謎めいた笑みが頭から離れなくて、同人作品の構想をいくつか練ってみた。まず考えたのは、
ニャルラトホテプを「巡業する異世界の興行師」として描く長編連作。各章ごとに彼が別の仮面や役割で登場し、その章ごとにジャンルが変わる。ある章は探偵小説風の謎解き、別の章は政治風刺を込めた群像劇、さらに身体改変ホラーや哀しげな恋物語にまで広がる。僕はこの多面性を活かして、読者が章ごとに異なる読み心地を楽しめる構成にしたいと思った。
表現面では、物語を単なる語りではなく「遺された資料」「ラジオ放送の台本」「演劇の台本」「断片的な日記」という形式で断片化するのが面白い。語り手が章ごとに変わる一方で、ニャルラトホテプの細かな癖や台詞の断片が繋がりの糸になる。サニティ(正気度)要素は物語のメタテクスチャとして使い、ページの余白に挿入される走り書きがだんだん混濁していく演出を入れると、読者もじわりと不安に飲まれていく感覚が出せる。
視覚的な工夫も提案したい。章ごとに色調を限定して、表紙や見開きに特殊インクや折り込みを入れることで「除けば本当の顔が現れる」タイプの仕掛けを作れる。例えば、ある再現小道具(仮面の紙片)を同梱して、特定のページに重ねると隠された一文が読める、といったアナログな遊びを混ぜる。影響源としては'The King in Yellow'の断片的恐怖や劇中劇の発想を参照しつつ、最終的にはニャルラトホテプが単なる敵役ではなく“文化としての混乱”を体現していることを読後に感じさせる作りにすると、作品としての余韻が強く残ると思う。