朱色という色は、古代から宮廷と儀礼の文脈で強烈に響く記号だと感じている。
平安の物語世界を読み返すと、赤系統の装束や装飾が敬愛や情熱、同時に禁忌や死の気配を呼び起こす場面が多い。たとえば'源氏物語'では、色彩が人物関係や心情の細やかな揺れを可視化する道具になっていて、朱の語感は風雅さと官能性を同時に伝える。漆器や朱墨の存在も、物質的な価値と精神的な象徴性を結びつける。
書き手としてではなく読者として向き合うと、'枕草子'に散らばる朱の描写は日常の華やぎを切り取りつつ、移ろいの悲しさを想起させる。私はこうした多層的な象徴を手がかりに、朱色がしばしば「顕在」と「喪失」を同時に示す色として機能すると考えている。