望み通り婚約者を譲ったら、元彼が後悔し始めた
付き合って十年、恋人の湊浩介が、ようやく私との結婚に頷いてくれた。
しかし、ウェディングフォトの撮影中、カメラマンからキスシーンをお願いされた途端、彼は「潔癖症なんだ」と顔をしかめ、私を突き放して一人で帰ってしまった。
気まずさに耐えながら、私は彼の代わりにスタッフへ深々と頭を下げる。
大雪でタクシーも捕まらない。私は降り積もった雪を踏みしめ、重い足取りで一歩、また一歩と家路を辿った。
それなのに、新居で私を待ち受けていたのは、浩介が彼の「忘れられない人」を抱きしめ、名残惜しそうにキスを交わす光景だった。
「灯里、君が望むなら、俺はこの結婚なんていつでも捨ててやる!」
長年の一途な想いは、この瞬間、すべてが笑い話と化した。
泣き崩れた私は、浩介よりも先にこの結婚から逃げ出すことを決めた。
後日、私たちの間ではある噂でもちきりになった。
――湊家の若様が、捨てられた元婚約者にもう一度振り向いてもらうため、世界中を探し回っている、と。