豪華な結婚式のあと、私は新居の一時滞在者になった
七夕の夜、牧野瑛斗(まきの えいと)は莫大な金を投じて、街じゅうの大型ビジョンに私・林柚葉(はやし ゆずは)の名前を煌々と浮かび上がらせた。
涙が止まらなかった。
私は彼と結婚するために、アイビーリーグ大学院から届いていた推薦入学のオファーを断った。
それが、今日、区役所で思いがけない事実を知るまでは。
窓口の職員は、気の毒そうな目を私に向けて言った。
「林さま、こちらの住民票を確認しますと、このマンションの所有者は白鳥音花(しらとり おとか)さま。また、ご主人さまの配偶者として届け出がなされているのも白鳥さまとなっております。
林さまは一時滞在者扱いとなります」
私は瑛斗の社長室のドアを押し開けた。彼は音花の薬指に、口づけているところだった。
「どういうことか説明して」
私の声に、彼は眉をひそめ、心底うるさそうな顔をした。
「音花は子供の頃に親を亡くしててな、人一倍さみしがりなんだよ。たかが不動産の名義と婚姻届だ。名義だけ貸してやって、安心させてるだけだ。
お前には誰もが羨む結婚式をやった。誰もが羨むような幸せを味わわせてやった。体面ってやつは全部与えてやったんだ。まだ足りないってのか」
音花は彼の胸に寄りかかり、勝ち誇ったように笑った。
「柚葉さん、そんな怒らないでくださいよ。私は形だけでいいんです。夜になれば、彼はちゃんとあなたのところに帰って、夫のつとめを果たしてるんでしょ?」
私は自分の指にある結婚指輪を見つめた。その輝きが、唐突に、耐えがたいほど目に痛かった。
指輪を抜き取り、静かに彼の社長机の上に置いた。
そのまま背を向けて部屋を出る。歩きながら、父にメッセージを打った。
短い、四文字のメッセージだ。
【家に帰る】