恨みも愛と共に消えた
誰もが、藤原家と小山家の政略結婚は失敗に終わると確信していた。
なぜなら、藤原黎(ふじわら れい)には亡くなった初恋がいて、彼は彼女を心底愛していたからだった。
黎に十年間片想いしていた小山寧子(おやま ねいこ)でさえ、そう思っていた。
しかし、結婚して三年目、黎はどうやら彼女のことを好きになり始めたようだった。
彼は朝起きると、長いキスを求めてきたり、彼女が料理中に後ろから抱きしめ、首筋に頬を寄せて、「お疲れ、寧子」と囁いたり、涼しい夏の夜には手を繋いで一緒に散歩に出かけたりした。
まるで恋愛中の普通の夫婦のようだった。
情熱が高まった夜は、一晩中重なり合っていた。
黎は二人が一つになった瞬間、彼女を強く抱きしめたり、夜明けに彼女にキスして目を覚まさせたりする。「寧子、一生朝日をお前と見届けたい。二度とお前を手放さない」と愛を込めて彼女に言った。
しかしそれは、結婚五周年を迎える頃、寧子は肝臓の末期癌と診断されたまでの話だった。
声を押し殺して泣き崩れた後、彼女が振り返ると、少し離れた場所で、本来なら死んでいるはずの白野安子(しらの やすこ)が黎の腰に抱き着いて、「私をまだ愛してる?」と泣きながら問いかけていた。