誰かと添い遂げる人生より、自由に羽ばたきたい
皮膚移植の手術が終わって、麻酔が完全に切れても、夫の佐野勇太(さの ゆうた)は現れなかった。
うつ伏せになって、体を動かせない佐野梓(さの あずさ)は、スマホを手に取った。一体何をしているのかと勇太に連絡しようとした、その時。あるトレンド記事が目に飛び込んできた。
【男にとって『愛』と『責任』は別物なの?】
梓は、なぜかそのタイトルに吸い寄せられるように、その記事をタップした。
最初のコメントは、まるで戦利品を自慢するかのような、率直な文だった。
【もちろん、全然ちがうに決まってる。彼が自分の妻に感じてるのは、ただの責任。でも私には愛情がある。その差は大きい】
コメント欄には非難が殺到していた。
しかしそのコメ主は、見下すような口調で一つ一つ返信していた。
高評価コメントの一つに、こんなものがあった。【どういう気持ちでそれを言ってるの?どうせ不倫相手でしょ?】
コメ主は返信した。【ううん、愛されてるってこと。あの男は毎年決まって2ヶ月間、私の家に来てくれるの。どんな時でも。妻の両親の命日ですら、私の隣にいてくれた。『お前の顔を見てると、ホッとできる』だって】
その文章を読んだ途端、梓は息ができなくなった。背中の手術痕がドクドクと脈を打つように痛みだした。