再会は別れの始まり
母校の百周年記念式典の日、私は初恋の人、早瀬恵介(はやせ けいすけ)と再会した。
スピーチを終えた彼は、壇上で私にダイヤの指輪を差し出した。
「昔、君は茨の薔薇で僕に結婚指輪を作ると言っていただろう。今度は僕がプロポーズする番だ。
林紗江(はやし さえ)、結婚してくれ」
会場は一瞬で熱気に包まれた。
誰もが私は涙ながらに承諾するものと思っていた。
かつて私が彼を必死に口説い、学内を騒がせたことを知っていたからだ。
しかし皆が忘れていたことがあった。
私の卒業制作が清水結衣(しみず ゆい)の作品を盗作したと告発されたあの日、真実を知りながら、恵介は私が盗作したと濡れ衣を着せた。
記者会見で彼はブランド代表として、私との契約打ち切りと発表し、業界全体への追放を求めた。
私は名誉を失い、遠い地へと去った。
今、戻ってきた私に、彼の友人たちは口々に言う。
「恵介はずっと君を待っていた。あの時、君が彼を大恥にさらしても、彼の心にいるのは君だけだった。
君の卒業証書を取り戻すため、彼は校長室にまで押し掛けた。紗江、恵介の想いは本物だよ」