徒に過ごした六年間――去り際に君の愛を知る
離婚を決意する三ヶ月前、池上由奈(いけがみ ゆな)は職場に異動願を提出した。
一ヶ月前、滝沢祐一(たきざわ ゆういち)宛てに離婚届を送った。
そして、最後の三日前――彼女は自分の荷物をすべてまとめ、二人の家を後にした。
結婚生活は六年も続いた。
だが祐一は、初恋の相手である長門歩実(ながと あゆみ)と健斗(けんと)を連れて堂々と由奈の前に現れ、幼い子に「パパ」と呼ばせた瞬間、由奈はすべてを悟った。
――ああ、この人にとって大切なのはあの親子なんだ。
彼女たちのために、祐一は何度も由奈を犠牲にし、譲歩するよう迫った。まるで由奈こそが邪魔者で、存在を知られてはいけない愛人のようだった。
ならば、もう終わらせよう。この婚姻を断ち切り、彼が本当に好きな人と共にいられるように。
そう覚悟して由奈は去った。
けれど、彼女が本当に姿を消した時――祐一は正気を失った。
由奈は、祐一が望みどおり歩実と結ばれると思っていた。だが、権勢を誇るあの男は、真っ赤に充血した目でメディアの前に立ち、惨めなほどの言葉を吐いた。
「俺は浮気なんてしていない。隠し子もいない。俺には妻の由奈しかいないんだ。だが……彼女はもう俺を必要としたりしない。俺は、彼女に会いたいんだ!」