元カノは彼の子を堕ろした——それでも、彼は私に理解を求めた
五度目の区役所。
けれど、今回も私と篠原湊真(しのはら そうま)は、婚姻届を提出できなかった。
縁起の良い日を選び、朝から準備万端で来たというのに——受付まであと一組というタイミングで、彼のスマホが鳴った。
慌てた様子で立ち上がろうとする湊真の腕をつかみ、私は画面を指差して訴えた。
「あと一組だけだよ。区役所も空いてるし、10分もあれば終わるよ……それからにして。籍入れてからでも遅くないよね?」
湊真は会社を経営していて、時間の融通も利く人だ。
だからこそ、私は甘えてしまっていたのかもしれない。
しかし彼は、表示された番号を一瞥しただけで、手にしていた番号札を私に無造作に押し付け、うんざりした顔で言い放った。
「俺はいつだって君と結婚できる。でも今は処理しなきゃいけない仕事がある……感情的になるなよ」