彼は初恋と曖昧な関係、私は静かに去った
バレンタインデーの夜、私は食卓いっぱいの料理を用意して、矢野純一の帰りを待っていた。
彼は私のことなど一瞥もせず、黙々と荷物をまとめていた。
そして冷たい声で言った。「今年のバレンタインデーは、一緒に過ごせない」
私は何も言わず、黙って蟹を食べ続けた。
深夜、彼の初恋の人がInstagramに投稿した。
写真には、笑顔で純一の背中に寄りかかる彼女と、窓の外に輝く満月が写っていた。
キャプションにはこう書かれていた。【そばにいてくれてありがとう】
私はもう取り乱して問い詰めたりしなかった。淡々といいねを押しただけ。
純一から電話がかかってきた。彼は動揺を隠しきれない声で言った。「変なふうに考えるなよ。次は、絶対に一緒に過ごすから……」
私は数秒間黙ったあと、静かに笑って返事をしなかった。
次?
純一、もう、次なんてないよ。