高く輝く明月は、ただ私を照らさず
病院の入り口。
夏目末依(なつめ まい)は足元はふらついていた。腎臓を売って得た一千万円を握りしめ、青白い顔に満足げな笑みを浮かべていた。
「これで……昭安の病気はきっと治せる」
自分の腎臓一つで昭安の命が救えるのなら、それで十分だ。
術後の弱りきった体に鞭打つように、よろよろとしながらも小走りで病室の前までたどり着いた。
ベッドに横たわる弱々しい男の姿を見て、末依の目にさらに痛々しい色が浮かんだ。
「昭安さん、その貧乏彼女はいないんだから、誰に見せるつもりで演技してんの?」
「うるせえな!これは演技の練習だ。こうでもしなきゃ、あの女を騙せねえだろ?」
病室から聞き慣れた声が聞こえてきた。末依はドアを開けようとした手を止めた。
……騙す?どういうこと?
部屋の中から、さらに騒ぎ声が聞こえてきた。
「さすが昭安さん!偽の診断書で、あの女はまんまと騙されるなんて。マジでガンになったと思い込んでるみたいだよ!」
「聞いたけどさ、あの女、全財産を差し出したって。いくらだっけ?あー!たったの120万円だってよ!?」
「ははっ!120万円なんて、昭安さんがバーでちょっと酒を買うだけで消えちまう金じゃねえか。よくもそんなはした金持ってきやがったよ!」