深秋に散るアイリス
結婚してからの七年間、星野晴奈(ほしの はるな)はずっと、自分がとある女性の「身代わり」にすぎないことを自覚していた。
日向浩介(ひなた こうすけ)に抱かれるたび、涙ぼくろに何度も口づけされるたびに、その事実が鋭く胸に突き刺さる。
彼女は知っていた――あの女性の愛称が、自分の名前と同じ発音であることを。
そして、自分こそが、亡くなったあの女性を偲ぶために作り上げられた完璧な「模造品」であることも。
浩介には自分という身代わりがいれば十分だと彼女は思っていた。
けれど、彼はまるでコレクターのように、あの女性を彷彿とさせるすべてを集め続けていた。
その姿に、晴奈は心から落胆し、ついに彼のもとから去る覚悟を決めた。