彼らに見捨てられた私は、無人島に向かった
結婚式の開始まで、あと三十分というときだった。控室に置いていた私のウェディングドレスが、何者かによって無惨に破られていた。
スカートの裾はズタズタに裂かれ、ビジューはすべて剥がされていた。さらに、ドレス全体に赤いペンキと汚水がぶちまけられていた。
ドレスが届いてから控え室に入ったのは、メイク係として来ていた義妹――綾瀬美夜(あやせ みよ)だけ。
我慢の限界を超えた私は、思わず彼女に平手打ちを食らわせた。
だが、婚約者と両親は私を責め、汚れたドレスを着て美夜に土下座で謝れと強要してきた。
「たかがドレス一枚じゃないか。式はまたやればいい。人を殴るなんて、まるでヒステリックな女じゃないか。さっさと謝れ。さもないと婚約は破棄だ!」
婚約者の黒江奏真(くろえ そうま)が大事そうに妹をなだめる姿を見て、私は涙をこらえながら静かにその場を後にした。
そして、ずっと保存してあった連絡先に電話をかけた。
「すみません、無人島の居住権と、恋人・家族カスタムサービスを購入したいのですが」
電話の向こうからは、耳に心地よい女性の声が返ってきた。
「ご購入ありがとうございます。10日後のご入島をお待ちしております」