恋しさが燃え尽く余韻
橋本琴音(はしもとことね)が江崎哲也(えざきてつや)を心の底から愛していると、誰もが言っている。
哲也が一番貧しかった頃、琴音はそばに寄り添い、一日に三つの仕事を掛け持ちして哲也のピアノ演奏を支えた。哲也に演奏の機会を勝ち取らせるため、琴音は酒を飲みすぎて胃出血を起こしたこともある。三年の歳月で、心血を注ぎ、琴音は哲也を有名なピアニストへと押し上げた。
とりわけ、ピアノを弾くその両手を、琴音は何よりも大切にしている。
かつて、敵対する者がわざと哲也の手に熱湯をかけようとしたとき、琴音は一瞬の迷いもなく飛び込み、その熱湯を自分の体で受け止めた。
結局、哲也は無傷で済んだが、琴音はひどい火傷を負い、今も腕には醜い傷跡が残っている。
その後、楽団の人間が哲也に尋ねた。「彼女といつ結婚するつもり?」
しかし哲也は、不快そうに眉をひそめて言った。「俺がいつ彼女と結婚すると言った?俺ら、何の関係もない。ただ言うことをよく聞く、使える奴隷にすぎないんだよ。そんなやつが、俺と結婚できるとでも?」
哲也にとって、琴音は価値がない人間だ。
だが、琴音にとって、哲也だって価値のない人間だ。
琴音にとっての哲也は、誰かの代替品なのだから。