浮生は夢のごとし
生まれ変わって再び警察署の課長である父が縁談の相手を選ばせたあの日、明子は一切迷わずくじ引きで相手を決めた。
前世で彼女が長年慕ってきた佐久を選んだ結果、結婚して間もなく、彼の幼馴染の暁美が妊娠した。
それは佐久の子だった。
佐久は彼女を家に連れ帰り、淡々と告げた。
「暁美は妊娠中で辛いだろう。これからはお前が心を込めて世話をしてやれ。一日の食事も、違う献立にしてな」
暁美のわずかに膨らんだ腹を見つめ、明子は唇を噛みしめた。
その時すでに彼女は決めていた。
数日経ったら佐久に離婚を切り出そう、と。
だが思いもよらぬことに、明子が差し出した料理を食べたその夜、暁美は出血し、子を失った。
大出血のせいで、彼女は二度と子を宿せない身体になった。
佐久はすべてを明子のせいにした。
「お前がこんな残酷な女だったとは!」
血走った目で睨みつけ、両手で彼女の喉を締め上げる。
呼吸が途切れ、死の淵に引きずり込まれるような窒息感に、明子の全身が震えた。
――二度目の人生。
今度こそ佐久を選ばない。