愛のない夫婦生活から、私はもう一度踊り出す
森川知佳(もりかわ ちか)と森川拓海(もりかわ たくみ)の結婚5周年記念日のその日、拓海の初恋の人が帰国した。
その夜、知佳は拓海がその名前を呼びながら浴室でオナニーしている現場を目撃してしまう。
そうか、これが拓海が結婚5年間一度も私に触れなかった理由だったのか。
「知佳、結衣は一人で帰国してかわいそうなんだ。俺はただ友達として彼女を助けているだけだよ」
「分かった」
「知佳、結衣の誕生日を離島で祝うって約束したんだ。俺はただ昔の約束を果たしているだけなんだ」
「うん」
「知佳、この晩餐会には格の高いパートナーが必要なんだ。結衣の方が君より適しているんだよ」
「そう、行って」
彼女がもう怒らず、涙も流さず、騒ぎもしなくなったとき、彼は逆に困惑し、こう問いかけた。「知佳、どうして怒らないんだ?」
彼女がもう怒らないのは当然だった。なぜなら、彼女も去ろうとしていたからだ。
つまらない結婚生活にとうの昔にうんざりしていた彼女は、こっそり英語を学び、IELTSを受験し、こっそり留学申請を提出していた。
ビザが下りたその日、彼女は離婚届を叩きつけた。
「冗談だろう、俺を置いて、君がどうやって生きていくって言うんだ?」
彼女は振り返ることなく航空券を購入し、ヨーロッパ大陸へと飛び立ち、それ以来音信不通となった。
彼が再び彼女の消息を目にしたのは、彼女が真紅のドレスを纏い、異国の空で舞い踊る動画がネットで話題になったときだった……
彼は歯ぎしりをした。「知佳、どこにいようと、必ず君を見つけて連れ戻す!」