青くて遠い、あの日の空へ
財閥の御曹司と付き合って四年になるが、彼は今も彼女を抱こうとしなかった。
桐谷時乃(きりたに ときの)は母親に電話をかけた。
「お母さん、前に言ってたパイロットの面接......お願いしてもいい?」
電話の向こうで、母は驚きの声を上げた。
「えっ、本当に?でもあなた、海栖市に残って結婚するって......あれだけ空を飛ぶのが好きだったのに、全部やめちゃったじゃない」
けれど、薄明かりの中で見たのは――別の女の子に夢中になり、不安に揺れながら想いをぶつける、彼の姿だった。
時乃は、つい苦笑いを漏らした。
瑞樹市に戻れば、私はまた空を飛べる。
そう、誰かの愛を乞いながら、不倫の泥沼でもがく女にはならない。
自由に空を翔けるパイロット・時乃に戻るのだ。