トーナメントが発表され、インターバルの後に第2回戦が始まった。
レイの対戦相手は、この街ではそこそこ有名な冒険者らしい男だったが、危なげなく勝利し次にコマを進める。
自分の試合が終わり、控え室に戻る通路にて、次に出場するニイルを見つけるレイ。
(お疲れ様でした。そこそこ強い相手だったのですが、今の貴女には相手になりませんでしたね)
労いの言葉を通話魔法にて投げ掛けてくるニイルに、他人のフリを貫きながらレイは言う。
(あの程度だとせいぜい準備運動位にしかならなかったわ。でも、今後も油断は出来ないわね)
少し見ただけだが、レイが敗北する様な相手は居ない様に思えた。
何人か苦戦はする様な相手は見受けられたが、負ける程では無いだろう。
しかし、今大会は裏の人間も多数出場しているという。
自分の実力を完全に隠している強者が居るかもしれない。
そう、例の彼女の様に。
(さっきの話だけど、本当にあのスノウって子は神性付与保持者なの?)
恐らく自分と同年代であろう年頃の女の子が、実は人類最強格かもしれないとは、にわかに信じ難い。
レイはニイルに改めて質問する。
完全に自分を棚に上げているレイに、少し呆れながらもニイルは答えた
「え〜…実況も任された私ですが、何が起こっているのか見当もつかない為、実況する事が出来ません!未だに鳴り止まない剣戟と衝撃から察するに、とても激しい試合が繰り広げられているのでしょう!」試合場を縦横無尽に駆け巡り、剣をぶつけ合う2人。剣閃は当然の事ながら、素人には2人の動きを目で追う事すら不可能であった。「流石ね!私の速度に付いて来れる人間が居るなんて!世界は広いという事かしら!」かつてないほどの強者相手に戦いを笑みを抑えられないスノウ。しかしそれに付き合っていられる程、レイは悠長にしていられなかった。「貴方の遊びに付き合ってられる程こっちは暇じゃ無いっての!さっさと終わらせるわ!『+8ブーストエイト』!」その言葉を合図に、レイの身体能力が格段に跳ね上がる。何もかもが今までの比では無い程に迅い。先程迄の様に動こうにも全て先回りされ、スノウはレイの剣を防ぐ事すら出来なくなりつつあった。「がはっ…!」更にレイの剣が少しでも掠ろうものなら、たちまち全身に電撃が走り、スノウの体力を削っていく。対してこちらの攻撃は尽く回避されてしまう。剣に付与された氷魔法で相手を拘束しようにも、発動までの間に避けられてしまう。ダリウム戦の時に見せた周囲一帯を凍らせる技は、範囲は広いが隙が多すぎて使えない。もし避けられたりでもし
レイとニイルの両名が無事勝ち残り、少しのインターバルの後、3回戦目が開始された。控え室にて自分達の出場を待つ選手達に混じり、レイとニイルも通話魔法にて作戦会議に勤しんでいた。今回の議題は次の試合、レイとスノウの試合について、である。今までは特に対策せずとも勝ち上がれたが、流石に今回の相手には入念な準備が必要だとのニイルの判断であった。レイは自分の得物の手入れをしながら、ニイルの言葉に意識を割く。(先程の会話では、ほとんど何も得られませんでしたが、2回戦目を見るに速度重視の、魔法も使える剣士、という印象でしたね)貴女と同じ戦闘スタイルですね、と、続けるニイルに同意するレイ。(違いといえば私が雷魔法メインなのに対し、あの娘は水魔法、その中でも高等魔法の氷を使う事ね)スタイルが似ていても、使う魔法が異なれば戦略は全く変わってくる。恐らくだが、レイは雷で自身を更に加速させるのに対し、スノウは氷による相手の動きへの阻害であろう。どちらも速度を重視しているが、アプローチは真逆であった。(でもそれ以外はほとんど一緒よね。まさかこんな所で私以外にも多重発動が使える人間が居るとは思わなかったわ)先程試合の最後、スノウは身体強化魔法と魔法装填の多重発動を行っていた。レイと全く同じであるが、ここに2人の差が有るとニイルは言う。(スタイルは一緒でも、内容の質がこちらの方が上だと思います。というの
前回大会優勝者のゴゾーラムが敗北し、観戦していた者達が動揺する中、会場では更なる衝撃が襲いざわめきが一段と増していた。というのも同時に行っていた別の対戦カードでも、大番狂わせが起こっていたからである。「ハア…ハア…ハア…」疲労困憊、深手は無いものの、数多の傷を作り肩で息をしているのは、ゴゾーラムに次いで優勝候補であるダリウム。相対するは1回戦で、ゴゾーラムと激しい戦いを繰り広げていたスノウであった。今にも倒れそうなダリウムに対し、スノウは多少の傷は有るものの、余裕の様相を呈していた。(やはり…強い…)これまでの人生、常に自分より強者が先頭に立つ環境に居た。故に慢心も驕りも無く、常に研鑽を積んできた。今回の相手も、強者と判断し油断無く挑んだつもりだった。しかしこれ程実力に開きがあるなど、全くの想定外だとダリウムは歯噛みする。お互い高速戦闘を主とする戦い方であり、開始直後は速度においてはほぼ互角であった。しかしスノウが一撃の重さ、更に反応速度もダリウムを大きく上回っており、戦いが長引くにつれダリウムが押され始めたのだ。(私の剣すらも躱すあの反応速度。にも関わらずゴゾーラム並の力でもってガードの上からでも削られる…か。極めつけは…)ダリウムの予想ではあるが、恐らく彼女はまだ本気を出していない。
トーナメントが発表され、インターバルの後に第2回戦が始まった。レイの対戦相手は、この街ではそこそこ有名な冒険者らしい男だったが、危なげなく勝利し次にコマを進める。自分の試合が終わり、控え室に戻る通路にて、次に出場するニイルを見つけるレイ。(お疲れ様でした。そこそこ強い相手だったのですが、今の貴女には相手になりませんでしたね)労いの言葉を通話魔法にて投げ掛けてくるニイルに、他人のフリを貫きながらレイは言う。(あの程度だとせいぜい準備運動位にしかならなかったわ。でも、今後も油断は出来ないわね)少し見ただけだが、レイが敗北する様な相手は居ない様に思えた。何人か苦戦はする様な相手は見受けられたが、負ける程では無いだろう。しかし、今大会は裏の人間も多数出場しているという。自分の実力を完全に隠している強者が居るかもしれない。そう、例・の・彼・女・の様に。(さっきの話だけど、本当にあのスノウって子は神性付与保持者セルヴィなの?)恐らく自分と同年代であろう年頃の女の子が、実は人類最強格かもしれないとは、にわかに信じ難い。レイはニイルに改めて質問する。完全に自分を棚に上げているレイに、少し呆れながらもニイルは答えた
時は少し遡り、序列大会の前日。レイ達4人は序列大会に向けての最後のミーティングを行っていた。「さて、この2年間の間で完璧とは行かないまでも、出来うる限りの仕上がりには持ってこれました。よく諦めずにここまで来れましたね」労いながら純粋に感心するニイルに、やる気に満ちた顔で答えるレイ。「当然よ、今更諦める訳無いじゃない。言ったでしょ?強くなる為なら何だってするわ」今、4人は潜伏場所として選んだザジの家に滞在している。ここは他国どころか大陸すらも別なので、ニイルの予想通りここまで追っ手が迫る事は無く、修行に専念する事が出来た。「度々セストリアに潜入し調査しましたが、明日はかなりの人数が序列大会に参加するそうです。ほとんどの参加者には後れを取る事は無いでしょうが、恐らく強敵も混じっているでしょう。決して油断しない様に」この2年でレイは常人よりも大幅に成長した。体も成長し、知識も増え、何より経験値と生まれついての類まれなセンスにより、今や人類の中でも上位の強者と呼べるだろう。しかし、神性付与保持者セルヴィやそれに準ずる力を持つ者には苦戦を強いられるだろうし、何より…「ルエルあのおとこを相手取るには荷が重すぎる。正面切って勝利するのはまだ難しいでしょうね」と、忌憚のない意見を述べるニイル。
「さぁ皆様お待ちかね!遂にこの時がやって参りました!3年の時を経て本日開催されます序列大会!司会進行は私、いつもお馴染みバラン・ラーバンが務めさせて頂きます!」数多の観客が詰め掛ける中、遂に始まったこの国最大の武闘大会。司会が高らかに謳い、それに呼応する様に周りの客席から歓声が飛び交う。「今回の会場も例年通り、騎士団の皆様が日々鍛錬に励まれている修練場をお借りしています!ですのでこの場を借りて、常に私達の安全を守ってくださっている騎士団の皆様と、そしてここにお越し下さっているセストリア王国の王、デューレル・ド・レブン・セストリア陛下に感謝の意をお伝えしましょう!ありがとうございます!」その声に呼応し、客席の1番高い位置、そこに用意された玉座に座する老人が立ち上がり、他の観客に手を振る。もう80歳を超えている身でありながら、軽やかに立ち上がり手を振るデューレル王に、更に会場は盛り上がりを見せた。「では盛り上がって来た所で!早速選手達の入場と行きましょう!今回は凄いですよ!何と今回の参加人数は過去最高の500人越え!それだけの強者が集まり繰り広げられるバトルに、私も今から楽しみでなりません!では参りましょう!選手!入場!」観客の大歓声を受けながら入場してくる選手達。それぞれ思い思いに、観客に手を振る者も居れば、耳障りだと言わんかのように、怪訝な顔をしている者も居る。そんな中現れた2人の男に観客中の視線が集まり、歓声が飛んだ。「おぉっと!?ここで現れたのは前回大会優勝者のゴゾーラム選手、そしてその後ろ