道中は本当に苦労して苦労してドラゴンたちを倒してきた。ゾルダは『手強いかもしれんが、おぬしで大丈夫だろう』と言ってあまり手を出してこない。戦闘狂なゾルダとしては珍しい。そこは以前のことで反省したのかな。それならいいけど……それにしても、それにしてもだ。もう少し助けてくれてもいいのに。助けてくれたのはマリーが苦手なうにょうにょしたウォータードラゴンの時だけだ。それもマリーが嫌がって仕方なくというところだった。とにかく死ぬ思いをしてようやく島の奥まで着いたが……そこには悠々自適に横たわっている竜がいた。パッと見てもわかる。この竜は相当な強い。半端ないオーラを感じてしまう。魔法があまり効かないってことだったけど、俺の攻撃も効きそうもない。ゾルダの攻撃も効かなかったらどうしような……ここは寝ている間にこっそりとジェナさんが言うお宝を持って帰るのが得策ではないか。そんな考えを頭に巡らせていたのだが、やる気満々のゾルダが大きな声でその竜を起こそうと声をかけた。「おい、オムニスとやら。 寝ておらずに、ワシと勝負じゃ!」「しーっ! ゾルダ、わざわざ寝てるところ起こさなくても……」「何故じゃ? こやつを倒してさっさとお宝を持って帰らんと、アスビモとやらの情報がもらえん」「いや、倒さなくても、お宝だけ持って帰れば……」「盗むのか? 正々堂々とやりあわんでどうするのじゃ。 そんな姑息な真似を……」「倒すのが目的じゃなくて、お宝を持ってかえるのが目的だからさ……」「ねえさま、アグリ。 何を言い争いしていますの」お互いヒートアップしていることもあり、声が大きくなってくる。その騒がしさに気づいたのか、竜は大きなあくびをする。「グォォォーーーー」腹の底まで響く声だ。そして、俺とゾルダの方に鋭いまなざしを向けた。「ほら、起きちゃったじゃん」「起こしていいのじゃ。 ほれ、ワシと勝負じゃ」そう言いながらゾルダはオムニスに向かっていった。オムニスはその姿を見て、鋭い眼光から穏やかな顔になっていく。「よう、ゾルダか? 久しぶりだな」低音の声が響き渡っていく。竜が喋った?今の声、竜だよな。「なんじゃ、お前。 ワシを知っておるのか?」「知っているも何も、共に強さを認め合った仲ではないか」「はて? そんな相
竜天島へついたマリーたちは、オムニスがいると言われる島の中心部に向かい歩を進めていきましたわ。竜の巣窟と言われるだけあって、行くところ行くところ、やっぱりドラゴンが出てくる訳ですが……「手始めに、ファイアドラゴンが出てきたぞ。 おぬしとマリーに任せたのじゃから、きちんと倒すんじゃぞ。 まぁ、苦戦するなら苦戦するでワシは全然かまわないんじゃがのぅ」「簡単に言うよ。 このドラゴンだって相当強いんじゃないの?」「まぁ、おぬしなら確かに強い相手かもしれんがのぅ。 マリーなら大丈夫じゃろ」「はい、マリーは問題ないですわ」「ほれみろ。 じゃ、まずおぬしからな」ねえさまはアグリを戦わせようと前へ引っ張り出して、ファイアドラゴンの前に捨て置きましたわ。ちょっと厳しいのではないかしらと思いますが、ねえさまも何か考えがあってのことでしょう。「グルルルル……」ファイアドラゴンが唸り声を上げ、アグリに対してファイアブレスを放ってきましたわ。「危ないですわ」慌ててマリーが助けに入ろうとしたのですが、ねえさまに止められます。アグリも間一髪でファイアブレスを避けていましたわ。「マリー、慌てるでない。 あやつも経験を積まんと強くなっていかんしのぅ。 本当に危なくなるまではあまり手出しなくてもいいのじゃ」「……はい、わかりましたわ」アグリの経験を積ませて強くなっていただかないといけないのは確かです。ねえさまはそこまで考えてらっしゃるのですね。「ゾルダ! 危ないじゃないか! いきなりドラゴンの前に置きやがって」ファイアドラゴンの攻撃を避けたアグリがねえさまに対して文句を言っていますわ。考えがあっての行動だと理解してらっしゃらないようで……「おぬしなら倒せると思ってのぅ。 戦うのが嫌なら、ワシが出ていっても構わんのじゃぞ」「わかったよ。 俺が行けばいいんだろう」アグリは剣を構えて、ファイアドラゴンに立ち向かっていきます。ファイアドラゴンもブレスで応酬をしていますが、アグリはぎこちない動きでそれをかわしていきます。まだおっかなびっくりのような動きですわ。「避けてばっかりでは、ドラゴンは倒せんぞ」さらにねえさまはアグリを嗾けていきます。アグリは文句を言いながらも、避けては攻撃を繰り返していきます。確実に体力を削ってはいるものの
ワシらはえーっとベルナルド一族だったかなのぅ……(マリーの心の声 「ねえさま、メルナール一族ですわ」)そこの女の長の依頼で竜天島というところへ向かっておる。ただこの間の女の長の話を聞いて、妙に引っかかるところがあるのじゃ。竜が支配する島……以前に来たような来ていないような……記憶が定かではないが、なんとなく覚えている感じもあるのじゃ。難しい顔をして考えておると、マリーが気になったのかワシのところへ来た。「ねえさま、何か考え事でもしていますの?」「あっ、そうじゃのぅ…… 竜がいる島についてのぅ。 昔もしかしたら来たことがあるかもしれんのじゃが、しっかりと思い出せなくてのぅ」「ねえさまは本当にどうでもいいというか覚えたくないことは覚えませんね。 でも、そんなねえさまだからこそ…… ちょっとでも覚えているのであれば、何かあったのかもしれませんね」マリーは最近あやつに似てきたのか、ちょっとワシに対しても気にしていることを言うようになってきたのぅ。まぁ、マリーに言われても可愛いのでなんとも思わんがのぅ。「まぁ、その時ドラゴンと戦ったとか倒したとかその程度の事じゃろう。 行けばわかるのじゃ。 ……と、ところであやつはどこにおるのじゃ」船の上で周りを見回すが、あやつの姿がどこにも見当たらん。「アグリは、奥の船室で休んでいますわ。 気持ち悪いとか言って」確かに船は荒波を進んでいるので、揺れが激しいのじゃが……その程度で倒れるとは気持ちが弛んどる証拠じゃのぅ。どれ、様子を見てこようかのぅ。「おい、おぬし! 何を休んでおるのじゃ。 もうすぐ島へ着くぞ」「大きな声を出すなよ、ゾルダ…… 頭に響くって」「これぐらいの揺れで倒れるとは、気持ちが入っていない証拠じゃ。 気合でなんとかしろ、気合で」「いや……これだけ揺れていたら……気持ち……悪く……なるよ。 船なんてそう乗らないし……」「ワシじゃって乗らんぞ。 でも平気じゃ」「それは…… お前らはずっと浮遊しているじゃん! 地面についてなければ揺れないだろ」「地面に合わせて飛んでいるのじゃから、揺れてはおるぞ」「自分で動いているだけじゃん。 そんなのズルいよ……」あやつはそう言い残すと、またぐったりとダウンしてしまった。ズル呼ばわりされてものぅ……普段か
ジェナさんと面会した翌日--俺たちは指定された港の船着き場に向かった。ジェナさんが手配した船に乗ってドラゴンの巣窟である島へ行くためだ。船着き場に着くと、ジェナさんが出迎えてくれた。「おーっ! 逃げずによく来たな! 立派、立派!」ジェナさんは手痛い挨拶をしつつ、笑顔で迎えてくれた。「ワシらが逃げるとでも思ったのか、お前は」ゾルダは真に受けてジェナさんに突っかかっている。「いやー、冗談だよ冗談。 真面目に聞くとは思わなかったよ」頭を掻きながら照れくさそうにジェナさんは笑った。ゾルダは昨日のことを根に持っているのかもしれない。ゾルダ本人と認められなかったことを。「ジェナさんが直々に来て案内してくれるのですか?」「いやー。 あたいは行かないよ。 ここで、行く前にちょっと竜天島について話しておこうと思って」「竜天島?」「ドラゴンの巣窟の島のことだよ。 ドラゴンの巣窟と言っても、他の魔物も多くいる。 ただ他の魔物は正直ドラゴンの餌だな」「ドラゴンの餌……」「そうそう。 そこのドラゴンたちはそれなりの知能があるから、全滅しない程度に他の魔物を生かしている。 じゃないと、食い扶持がなくなるからね。 適度に繁殖させて、余剰分を食っている。 だから滅多に島の外に出ない。 ただ、まれにその生態系が崩れて、外に狩りにくることがあるんだ。 それが百数十年前だったかな」「ほぅ…… 賢い奴らじゃのぅ」「その時に我が家の秘宝を持っていかれてそのままってところだ」どうやらかなり賢いドラゴンたちのようだ。自分たちが死なないように、餌である魔物も管理している。人間並みの知能に感じる。「我が家の秘宝については、これ」ジェナさんはそう言うと、秘宝が書かれた絵を手渡してきた。見させてもらうと、大きな水晶のような球が台座に置かれている絵だった。「大きさはどのくらい?」「えーっと、あたいの背の高さぐらいあるかな。 ただあたいも実物は見たことないからわからないんだ。 この絵が頼りってことで」「ようお前がわからんものをワシらに頼めるのぅ……」「マリーよりもだいぶ大きいですわね。 それを持って帰ってくればいいってことでしょうか」マリーはジェナさんに対して再度確認を取った。「おうとも。 是非にお願いしたい」「わかりまし
「あたいがこの街の、商業ギルドのギルド長、ジェナだ!」ギルドの応接室に行くなり、大きな声で名乗った。挨拶は基本だからな。応接室に行くと2人の女と1人の男がいた。---- そこから少し前に遡る ----あたいは本を読みながらのんびりと寛いでいた。すると、ノックの音がした。「いいぞ、入って」ドアを開けて部屋に入ってきたのは、訝しそうな顔をした受付の嬢ちゃんだった。「あの……ギルド長、今お話よろしいでしょうか?」「おぅ、なんだ。 受付は笑顔が大事だって言うのにそんな顔して」「ギルドの受付にギルド長に会いたいと言う人が来ておりまして…… 伺ったところ、事前にお約束をしていないとことでしたが、いかがいたしましょうか」約束もなしに突然の面会希望か。だいたいそういう輩は礼儀も何もあったもんじゃない。「どうせ面倒な奴らだろ。 そうだな…… 7日後なら空いていると言って、それでも直ぐ会わせろって言うなら追い返してくれ」「承知しました」そう言うと受付の嬢ちゃんは再び受付へ戻っていった。しかし事前に話を通していないし、商いの基本もわかってないやつらだな。そういうのと関わるとロクなことがないしな。7日も先で会うと言って、それでも会うというなら会ってやらなくもないがな。コップに無くなった茶を注ぎ、ふたたび本を読み始めた。数ページ読み進んだところで、ふたたびノックの音がした。「今度はなんだ。 今日はゆっくりしたい日なのに」先ほどの受付の嬢ちゃんが、今度は慌てて入ってきた。「ギルド長、先ほどの方たちですが…… 『ゾルダ』の使いと仰っていて、すぐに会いたいとのことです」「何?」『ゾルダ』と言えば……確かひいひいばあちゃんが残した遺言の中にあったけ。『ゾルダ様にはメルナール一族の礎を築かせてもらった。 そのゾルダ様から話があった場合は、家訓の是々非々の判断を抜きにして取り組め』だったかな。でも本当にそいつらはゾルダの使いなのか……ゾルダの容姿がわかっている訳ではないし、本当にそいつの使いかはわからんだろう。ひいひいばあちゃんの遺言は守りたいが……しばらく考え込むが、これと言ったいい手が浮かばない。あれこれ悩んでいてもしかたないし……「わかった。 あたいが今から会う。 会って、本当にそいつらが『ゾルダ』に関係して
ムルデから旅立って10日ほど経った。山を越え、街道沿いをしばらく歩いたところで、ようやくラヒドに到着した。道中、魔王軍と名乗る魔族や魔物の襲来が何度かあった。それでも、ゾルダやマリー曰く『ザコもザコ、末端の奴ら』とのことで、ことごとく一蹴されていた。一応、俺も戦っているけど、ほとんどゾルダやマリーが倒してしまっている。「やっと着いたー!! ここに着けば安心かな」俺はちょっと寝不足気味だった。何度か魔王軍の襲来があったのもあって、あまり休めなかった。「そうですわね。 ここはどこも手出しは出来ない都市ですわ。 さすがにゼドっちも手は出してこないと思いすわ」「さすが自由貿易都市ラヒドだ。 ここでなら安心して寝れる」ホッとしていると、ゾルダはニヤリとしながら、俺の目の前に立った。「おぬしも、タマが小さいのぅ。 あんなザコどもしか来ないのに、落ち着いて寝れんとは……」いつもゾルダは俺をバカにして、そのことをつついてくる。「だってさあ、 いつ強い奴が来るかわからないだろ? ゆっくり休んだ気がしないよ」「ゼドの奴が来る以外は、全員ザコじゃ。 それに…… あいつも直接くることはないじゃろ。 案外、ビビりじゃからのぅ」「ねえさま、ゼドっちはビビりではなく慎重に慎重を重ねるタイプですわ。 それと自己評価は高い方ですから…… 『真の大物は一番最後に』とか思っていそうですわ」今の魔王は武闘派ではないのか。そういう意味だと脳筋なゾルダとは違うな。「あいつは、自分では何も出来ん奴じゃ。 だから目をかけておったのにのぅ」「ねえさまのお近くにいることも多かったですからね。 ゼドっちは」「そうなんだな…… でもなんでそんな奴がゾルダたちを裏切っているんだ?」「魔族の世界はそんなもんじゃ。 強さが全てじゃから、野心の大きい奴らも多い。 ゼドはその辺りは並々ならないものを持っておったのかものぅ」人の世界も変わらない気がする。前の世界でも足の引っ張り合い、罵り合いは多かったしなぁ……俺はそこまで出世意欲がなかったから、傍観者の立場だったけど、見苦しいものはあったし……「そんなことはどうでもいいのじゃ。 アスビモの事を聞きにここに来たんじゃから、早く行くぞ。 なんだったかのぅ…… めくばせ一族」名前が違うことに