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今宵も-2

Auteur: よつば 綴
last update Dernière mise à jour: 2025-05-08 06:00:00

 翌朝、甘ったるい薔薇の匂いで吐き気を催して目が覚めた。

 あの後ヴァニルに朝方まで犯され、屍の如く深い眠りに落ちていた。で、起きたらこれだ。

 俺のベッドが、俺ごと薔薇に埋め尽くされている。かろうじて、俺の顔だけが出ている状態だ。

「おい、ノーヴァ····これはどういう状況だ。····うぷっ」

 本当に吐きそうだ。一刻も早く、この尋常じゃない量の薔薇を撤去してほしい。

「ん~? ヌェーヴェル、綺麗だよ」

「いや、葬儀みたいだとは思わないか? 死者に贈る花より多いぞ」

「真っ赤に染まって美味しそうだよ」

 ニコッと幸せそうな笑みを見せやがって、愛らしいことこの上ない。だが、そうも言っていられない。

 吸血鬼の感性など、きっと俺には一生理解できないだろう。まさか、これがノーヴァなりの求愛なのだろうか。だとしたら、ヴァニルのほうが幾分かマシだ。

 早々に撤去させたが、薔薇を全て風呂へ突っ込み『薔薇風呂だね~』とか言って一緒に入らされた。おかげで、匂いが身体に染み付き吐き気は治まらなかった。

 昼過ぎには、予想通りノウェルが追加の薔薇を持ってやってきた。俺は顔を覆い天を仰いだ。もう、言葉が見つからず溜め息しか出ない。

「ヌェーヴェル、君にありったけの愛を込めて。生涯、君だけを愛する事を誓うよ」

 片膝をつき、俺に花束を差し出しながら言うノウェル。女がされれば、昇天するほど喜ぶ場面なのだろう。

 だが、今の俺は地獄に落とされたような気分だ。

「悪い、ノウェル。薔薇を俺に近付けないでくれ······吐く」

「え····? わぁぁ! 大丈夫かい!?」

 俺は近くにあった花瓶の花を抜き捨て、そこに粗相をしてしまった。ノウェルが背中をさすってくれているが、ノウェル自体が薔薇くさいので治まらない。

「ノ

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    「ヴェル、起きて。ねぇ大丈夫?」 いつの間にか子どもの姿に戻っていたノーヴァに、柔らかく頬を抓られて目が覚めた。「ん····大丈夫··だ。ぁ、は、腹····」 腹の痛みが消えている。けれど、あの熱さだけは残っている感じがしてズクンと疼く。きっとこれは腹じゃなく、脳にこびりついた感覚なのだろう。 そして、熱さの理由はもうひとつ。ヴァニルが申し訳なさそうに俺の腹をさすっているのだ。こいつの手は冷たいのだが、気持ちは伝わってくる。「ヴァニル、大丈夫だ。もう痛くない」「いえ、そういう事では····。優しくするという約束だったのに、すみません」 ヴァニルは眉間に皺を寄せ、なんとも苦しそうな表情《かお》をしている。 まだ身体を起こせないが、俺はそっとヴァニルの頬に手を添えて微笑んだ。「ヌェーヴェルが私に優しい顔を向けてくれるなんて、出会って随分経ちますが初めてですね」「俺だって、こんなに穏やかな気持ちになったのは初めてだ」 ノーヴァが俺の額を撫で、啄むようにキスを落とす。「ノーヴァ、くすぐったい。なんだ?」「気絶する前に言ったこと、憶えてる?」 そう言えば、とんでもない事を口走った記憶がある。「······憶えてない」 俺は、ふいと目を逸らして言った。耳まで熱い。「嘘だ。憶えてるでしょ」「憶えてねぇよ。あの時は頭の中が真っ白だったからな」 必死に誤魔化したが、下手な嘘など通用しなかったようだ。 ノーヴァにじっと見つめられ、俺は観念して白状する。跡を継いで、全て終わらせてからにしようと思っていたのだが、あんな事を口走った後なのだから仕方がない。「俺は、お前たちを大切に想ってる。ずっと身

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     ほんの数秒で唇を離し、ノーヴァの目を見ながらそっと離れる。ノーヴァの唇へ視線を落とすと、自分でわかるほど瞬時に頬が紅潮した。「次は舌、絡めて」 そう言って、ノーヴァはベッと舌を出して見せた。触れるだけのキスで心臓がイカれてしまいそうなのに、そんな破廉恥な事を自分からできるのだろうか。 このヤワな心臓が根性を見せてくれることを期待して、少し開けて待っているノーヴァの小さな口に、ええいままよと舌先を差し込んだ。 いつもはされるがまま舌を絡めていたが、自分で絡めにいくとなると想像以上に難しい。「ヌェーベル····ソレ、後で私にもシてくださいね」 振り返ることができないので確証はないけれど、きっと嫉妬に歪んだ顔で言っているのだろう。 「ん、んぅ····」 俺のたどたどしい舌遣いに焦れたのだろう。ノーヴァは俺の両頬を手で抱え、こうやるのだと言わんばかりに激しいキスをしてきた。 いつも通りの、息ができなくなるやつだ。酸欠で意識が朦朧としてくる。「ふ、ぅ····ノー、ヴァ····待へ、ぅふ、は、ぁっ····ふぇ゙····」「アナタたちのキスを見てるだけで、なんだか苛つきますね····もう動きますよ」 突くのを待ってくれていたヴァニルだが、堪らずに動き始めた。 突かれるリズムに合わせ身体が前後する。けれど、頭が固定されている所為で衝撃を逃がしきれず、腹の奥に快感となって留まって苦しい。 ヴァニルが結腸口を叩く度に噴いてしまうので、ノーヴァとベッドがびしょ濡れだ。いつもなら、ぶっ掛けてしまうと嫌味の一つや二つ言うくせに、今日はお構いなしにキスを続ける。「ノ

  • ヴァールス家 嫡男の憂鬱   優しくとは言ったが····-1

     ノーヴァは優しいキスを繰り返す。徐々に激しさを増し、早速約束を破って大人の姿になった。 そして、大きくなった手で俺の頬を包み口内を隈無く舐めまわす。「んっ、おま····大人になるなって··んんっ」「ん······ふぅ。こっちだと、ずっと奥まで犯せるもん。それと、血···もうガブ飲みはしない。これからは、ヴェルを危険な目に合わせるのは控えるよ」 優しさを見せているつもりなのだろう。俺に譲歩すると言いたげなノーヴァを愛らしいと思う。「控えるという事は、やるときゃやるんだな」「だってヴェル、好きでしょ? 死ぬほど犯されるの」「······嫌いじゃない」「あははっ。素直じゃないなぁ」 ノーヴァは再び俺の口を塞ぐ。ケツを弄っていたヴァニルは、潤滑油《ローション》が乾かぬうちに滾って反り勃ったモノをねじ込んだ。「んぅ゙っ、ん゙ん゙ん゙っ!!! んはぁっ、デカ····待っ、デカ過ぎんだろ······」「デカいの好きでしょう? ほら、もうイきそうじゃないですか。まだ挿れただけですよ」 確実にいつもより大きい。圧迫感が凄いのだ。なのに、容赦なく奥へ進んでくる。「ひぅっ、あぁっ!! ふっゔぁん····アッ、やだ、奥待って」「大丈夫。まだ奥は抜きませんよ。もう少し、ここを解してからです」 ヴァニルは下腹部を揉みながら、期待を持たせるような事を言う。そして、ぱちゅぱちゅと音を立てて俺を煽る。「ヴァニル····

  • ヴァールス家 嫡男の憂鬱   黙って聞いてろ-3

     集まった視線に、俺は直観的な苛立ちを覚えた。「な、なんだよ」「お前がそれ言うの? ヘタしたら、ヴェルが誰よりも我儘だし欲深いよ」「そりゃまぁ、俺だしな。それくらいの気概がないと、ヴァールスの名を継ごうなんて思わないだろ」 俺の言葉に、全員が耳を疑ったらしい。揃いも揃って、イイ面がマヌケに口を開けている。「貴方、もしかしてまだ継ぐ気なんですか? てっきり、私たちを選んだ時点で諦めたものとばかり····」「諦めてたまるか。嫁の件は父さんに上手く言って白紙に戻した。子供の事は追々考えるからいいんだよ」「そういえば、よくあのパパさんを言いくるめられたよね。なんて言ったの?」「····内緒だ」 うまい言い訳が思い浮かばず、バカ正直に『好きな人ができたから見合いは無かったことにしたい』と、子供の駄々みたいな理由を告げただなんて言えるか。しかし、あのクソ親父がよくそれで許してくれたなと俺も思う。 正直、もう出家覚悟で言ったのだ。それだけは、絶対にこいつらにはバレないようにしなければ。「貴方が言いたくないのなら聞きません。私達を優先してくれた事実だけで充分です」「そうだね。まぁ、ボクは暇だし、我儘坊やの復讐手伝ってあげてもいいよ」「私も、協力しますよ」「あぁ、頼りにしてるよ。って··おいこらノーヴァ、誰が我儘坊やだ!」 ノーヴァとヴァニルに手伝ってもらえば、いとも容易く父さんを屈服させられるだろう。勿論、物理的に。ヴァニルの場合、まずは容赦なく精神的に殺《ヤ》りそうだ。 協力してもらえるのは助かるし、頼りにしているのも本心だ。けれど、なんだこの漠然とした不安は。 この2人の際限のなさ故だろうか。あまり関わって欲しくないのが正直なところだ。「あの、ちょっといいですか。ヌェーヴェルさんに聞きたいんですけど」「なんだ、イェール」「その復讐ってのを達成したら、アンタは吸

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