街に戻りギルドに依頼完了の報告をして、宿の部屋まで帰ってきたところでようやく一息つくことができた。
「なんか変に緊張してしまったな。怪しまれたりしなかったかな?」
「たぶん大丈夫だと思いますよ。あんな形で特別そうなものを手に入れたら意識してしまうのも仕方ないですよ」 『そう言うカサネはあまりそんな感じには見えなかったわね』 「まぁ慣れですかね。私は向こうの大陸では割とダンジョンに潜ったりしていましたし」そういえばゴブリンロードの宝箱の時もそれほど驚いた様子は見せてなかった気がする。こちらの世界に来たのは数年程度の差だったはずだけど、カサネさんはもともと度胸がある方なのかもしれない。
「まぁ特別そうってだけでまだ中身は見てなかったからな。とりあえず確認してみるか」
マジックバッグから書物を取り出して開いてみると、そこには次のようなことが書かれていた。
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これが私の最後の記録になるだろう。残すべきではないのかもしれない。しかし、失伝させてしまうのはあまりに惜しい。これは私の我が儘である。
遥か東の地エルセルドの地下都市に、私はある魔法の知識を隠した。 それはあまりにも制御が難しく私にはとても扱いきれなかった。しかし、長い月日を掛けて編み出した魔法を他者に譲る気にもなれなかった。悩んだ私は封印という形でその魔法を秘匿することにした。 そしてまた今も、自身の功績を後世に残すためにこれを書いている。なんとも滑稽だ。だが残さずにはいられなかった。 これを隠す遺跡の仕掛けに組み込んだ二つの木箱の中身はエルセルドに隠した魔法の知識を見つけるための鍵になっている。 もしこれを目にする者が現れたのであれば、どうかその魔法を見つけ出して欲しい。そうするだけの価値があるものだ。そしてできれば覚えていて欲しい。 その魔法を編み出したシースザイルの名を・・・--------------------------------
「う~ん、お宝というよりこのシースザイルさんっていう人の日誌みたいなものだと思うけど、魔法の知識を隠し
日暮れになりいつものように野営の準備をして、近くの森の中へ薪を集めに行く。 薪を拾っていると珍しくロシェがこちらにやってきた。「どうかしたのか?」 『いえ、なんだか嫌な予感がしたのよ』その時、近くの木からカサッと物音がした。 俺はその方向を見ようとしたが、次の瞬間ロシェに体を押し倒された。「な、なんだいきな『敵よ!早く立って!』俺が言い切るより先にロシェが俺に檄を飛ばしてきた。 その声に危機を悟った俺は急いで立ち上がると周囲を確認する。索敵スキルには何の反応もなかった。相手は気配を隠して攻撃してきたということだ。「大丈夫ですか?何があったんです?」ロシェの声に気づいたらしいカサネさんがこちらに近づいてきた。『木の上に敵よ!アキツグ、光を』言われてライトの魔法を発動させると、そこには木の上から獲物を狙うようにこちらを見つめる大型の獣の姿があった。姿はイタチに似ていたが、その体毛は漆黒で口から伸びる鋭い牙と前足に生えた鉤爪がその凶悪さを表していた。 そいつは光を嫌うようにすっと木の影に姿を消した。「退いたのか?」 『多分違うわ。気配を殺してこちらの隙を伺っているのよ。警戒を緩めないで』俺達が警戒しながら相手の出方を伺っていると、向こうの方から仕掛けてきた。 狙いは・・・ロシェだ!『ッ!』紙一重でロシェがイタチの攻撃を避けた。カサネさんが相手が着地したところに魔法を発動する。「アイシクルランス!」しかし、イタチは素早い身のこなしで跳ねるとその攻撃を軽く回避した。 空中に浮いたところを狙って俺が魔銃を撃ち放つも、イタチは近くの木の幹を蹴ってその射線から逃れた。『森の中じゃ不利だわ。外に!』ロシェの指示で俺達は森の外へ出ようとしたが、動きを察知したイタチが先回りして、こちらの進路を妨害してきた。「逃がす気はないってことか。頭も回るし厄介な奴だな」姿を隠されるとこちらからは見つけることができず、イタチの攻撃の返
翌日、俺達はパーセルの街を出てヒシナリ港へ向かっていた。 日誌の件をフィレーナさんに相談することも考えたが、まだ本当に存在するかも分からない話だ。見つかった時に考えればいいだろうという結論になった。「それにしてもどんな魔法なんでしょう?編み出した本人が扱いきれないなんてよほど強大なものなのか、それとも複雑な制御を必要とするものなのか」 「どうだろうなぁ。シースザイルって人がどんな人だったのかもあまり分からなかったしな。案外研究者としては優秀だけど、魔力が少なくて魔法を使うには向いてない人だったとかいう可能性もあるかもしれない」一応図書館でシースザイルという人の記録が残っていないか探しては見たのだが、過去の著名人の中にその名はなかった。「実は他の魔導士なら普通に扱えたっていうオチだったら、私達何のために遥々エルセルドまで向かうんだって話になっちゃいそうですね。あんな仕掛けまで使って隠していたんですし、そんなことはないと思いたいですけど」 「あぁ。まぁ今はあまり考えてもしょうがないさ。まずはエルセルドに行ってみないとな。カサネさんは行ったことはないんだっけ?」 「えぇ。近くの街までは行ったことがありますけど、あの頃はあまり遺跡には興味がなかったので。でも、エストリネア大陸はそれなりに回ったのである程度の街やダンジョンなどは案内できますよ」俺の質問にカサネさんはちょっと申し訳なさそうに答えた。しかし、気を取り直すとエストリネア大陸のことは任せて下さいと胸を軽く叩いた。「それは頼もしいな。そういえば、大陸は違うけど言語は共通なのか?カサネさんは初めて会った時から普通に言葉が通じたけど」 「そうですね。エストリネア大陸でも使用している言語は基本同じです。一部の地域では独自の言語を継承している部族も存在しているみたいですけど」 『そう言えば、以前食べた大陸産の果物は美味しかったわね』 「あ、そうなんですよ。向こうのユムリ港の近くに大きな果樹園があって、向こうの大陸でも人気が高いんです。取れたてのはもっと美味しく感じると思いますよ」 『へぇ、それは楽しみね』カルヘルドやヒシナリ港の時に食べた果物か。あ
街に戻りギルドに依頼完了の報告をして、宿の部屋まで帰ってきたところでようやく一息つくことができた。「なんか変に緊張してしまったな。怪しまれたりしなかったかな?」 「たぶん大丈夫だと思いますよ。あんな形で特別そうなものを手に入れたら意識してしまうのも仕方ないですよ」 『そう言うカサネはあまりそんな感じには見えなかったわね』 「まぁ慣れですかね。私は向こうの大陸では割とダンジョンに潜ったりしていましたし」そういえばゴブリンロードの宝箱の時もそれほど驚いた様子は見せてなかった気がする。こちらの世界に来たのは数年程度の差だったはずだけど、カサネさんはもともと度胸がある方なのかもしれない。「まぁ特別そうってだけでまだ中身は見てなかったからな。とりあえず確認してみるか」マジックバッグから書物を取り出して開いてみると、そこには次のようなことが書かれていた。--------------------------------これが私の最後の記録になるだろう。残すべきではないのかもしれない。しかし、失伝させてしまうのはあまりに惜しい。これは私の我が儘である。 遥か東の地エルセルドの地下都市に、私はある魔法の知識を隠した。 それはあまりにも制御が難しく私にはとても扱いきれなかった。しかし、長い月日を掛けて編み出した魔法を他者に譲る気にもなれなかった。悩んだ私は封印という形でその魔法を秘匿することにした。 そしてまた今も、自身の功績を後世に残すためにこれを書いている。なんとも滑稽だ。だが残さずにはいられなかった。 これを隠す遺跡の仕掛けに組み込んだ二つの木箱の中身はエルセルドに隠した魔法の知識を見つけるための鍵になっている。 もしこれを目にする者が現れたのであれば、どうかその魔法を見つけ出して欲しい。そうするだけの価値があるものだ。そしてできれば覚えていて欲しい。 その魔法を編み出したシースザイルの名を・・・--------------------------------「う~ん、お宝というよりこのシースザイルさんっていう人の日誌みたいなものだと思うけど、魔法の知識を隠し
翌日、冒険者ギルドにやってくると、俺達宛てに指名依頼が来ていた。 当然依頼人はフィレーネさんだ。名目上は学生達の安全のために、遺跡に問題がないか調査をして欲しいという依頼内容になっていた。 その依頼を引き受けて、俺達は再度ハベレスカ遺跡にやってきた。 ギルドからの人払いが効いているのか周囲には人の姿は無くなっていた。「名目上とはいえ依頼だから、まずは遺跡に変わっているところがないか一通り見て回ろうか」 「分かりました。私はあちらの方から見てきますね」と言ってカサネさんは東側へ向かいながら遺跡の様子を確認していった。 俺も西側から遺跡を見ていくことにした。 周囲をぐるっと一周してから中央まで見てみたが特に怪しい所は無し。 やはり盗賊達の目的は例の台座のようなもので、それ以外には何もしていないようだ。確認も終わって目的の場所にやってきたが、そこには以前に見た台座の姿はなかった。盗賊の首領が逃げる前に何かしていたようだったが、恐らくは何かの仕掛けで台座を隠したのだろう。「ぱっと見だとそれらしい仕掛けはありませんね。まぁそんなに分かり易いものがあったら今までに誰かが見つけていたとは思いますけど」 「そりゃそうだ。確かしゃがんで何かしていたから仕掛けは床の方にあると思うんだけど・・・」床は遺跡の壁と同様に石造りで隙間なく並べられている。触ってみても変なところは・・・「ガコッ」っと触っていた石の一つが急に沈んだ。「お?当たりか?・・・何も起きないな」偶々床が抜けていただけか、と思いつつも他に何かないかと見てみると反対側の浮き上がった石の下に紙きれとスイッチのようなものがあった。「床下に隠してあったのか、道理《どうり》で見つからないわけだ」普通なら遺跡の床が多少がたついたところで気にしはしないだろう。首領が逃げるところをちゃんと見ていてよかった。 スイッチを押すと周囲の床が動きあの時見た台座が姿を現した。「すごいな。どんな仕掛けになっているんだ?」 「魔法の気配はありませんでしたし、本当に謎ですね」 『そこは気にしてもしょう
「さて、あなた達遺跡を調べたいんでしょう?私から指名依頼を出してあげるわ。ギルドにも軽く人払いをお願いしてね」 「えっ!?な、何でそれを?」それは仲間内にしか話していないことだ。驚いて思わずカサネさんの方を見るが、彼女も同じようで驚きながらもふるふると首を振っていた。「占いのおまけとでも思って頂戴。二人のことを視た時に関係する事柄として少し見えただけよ」いやいや、さっきのはともかく遺跡の件は占いというより心を読まれた感じだ。どんなものかは不明だが、フィレーネさんが何か特別な力を持っているのは間違いない。だが、この感じだと聞いても答えてはくれないだろうなと感じた俺は遺跡の件について話を続けることにした。「そんなことをして大丈夫なんですか?ダンジョンは冒険者ギルドの管轄のはずですけど」 「大丈夫よ、学園からも学生たちの遺跡見学・調査で人払いをお願いすることは時々あるから。それに今は盗賊騒ぎで人が集まっているみたいだけれど、普段はほとんど人も居ないのよ。あの遺跡の調査は大分前に終わっているから。まぁ今回の件で何かあるんじゃないかと考える人はいそうだけどね」その前に俺達にチャンスをくれるということか。「有難い話ですけど、何でそこまでしてくれるんですか?」 「シディルにも何かあれば手を貸してやってくれって書かれていたしね。私も教師の端くれとして若い子達の成長は助けてあげたいと思っただけよ」フィレーネさんの様子に悪意があるようには見えなかった。 シディルさんの紹介でもあるし、信用しても多分問題はないと思う。 そう判断した俺は彼女の話に乗ることにした。「その依頼を受けた場合、クエストの依頼目的は何になりますか?」 「そうね。遺跡について何か分かったことがあれば、ギルドの方に伝えてくれると有り難いわ。もちろん話せる範囲で構わないから」 「分かりました。その話受けさせて頂きます。色々とありがとうございます」 「ありがとうございます」二人して礼を言うとフィレーネさんは何でもないかのように答えた。「どういたしまして。本題も終わったし、折角だから旅
カサネさんからフィレーナさんとの面会の話を聞き、遺跡の件を除けば街を散策するくらいしか予定はなかったため、翌日示された場所へと向かっていた。「会いに行こうとは思っていたけど、まさか向こうからコンタクトを取ってくるとは思わなかったな」 「えぇ。偶然でしたけど、ビックリしました。魔法学園の学園長なんですし、あの場に居ても不思議ではなかったですけどね」 「あ、そうだ。ロシェはどうする?またシディルさんの時みたいに屋敷まで行ったら気づかれるかもしれないけど」 『まぁ気付かれて困るわけでもないけど、屋敷の前で姿隠を解けば怪しまれはしないでしょ。入るのを断られたら適当に散歩でもしてくるわ』 「そうか。分かった」話しているとフィレーナさんの屋敷に着いた。シディルさんの屋敷に負けず劣らずの立派な屋敷だ。 呼び鈴を鳴らすと少しして扉が開き、中から一人の女性が出てきた。 メイド服を着ているということは使用人の人だろうか?「は~い、どなた?ってあら、カサネちゃんいらっしゃい♪」 「・・・フィレーナさん、何故メイド服を着てらっしゃるんですか?」 「えっ!?」 「何でって聞かれると、ビックリするお客さんの顔が見たかったからかしら。隣のあなたの反応すごく良かったわよ♪」悪戯が成功した子供の様に満足そうな笑顔にフィレーナはそう言った。「あ、えっと俺アキツグっていいます、初めまして。この子は俺の従魔でロシェッテです」 『ロシェッテよ。よろしく』 「初めまして。私がフィレーナよ。よろしくね」ロシェッテの挨拶は鳴き声にしか聞こえていないはずだが、そちらにも丁寧に返して頭を撫でていた。 カサネさんが言っていた通り捉えどころのなさそうな人だ。いやなんか考えていた方向性とは違う気もするけど。とてもシディルさんと同じ・・・いや止めよう。 俺の考えを読んだかのように一瞬だけフィレーナさんの目つきが変わっていた。「それで、予定の方は大丈夫だったかしら?」 「はい、こちらは大丈夫です。お邪魔させて頂いても?」 「もちろんよ。ほら、入って入って!」