季節は次々に移り変わる。夏から秋、秋から冬へと。「ただいま、和巳さん」「おかえり、鈴!」肌寒い朝と夜を行き来する冬が訪れていた。大学から帰って、笑顔の恋人がいる暖かいリビングに入る。 俺達の生活は何も変わらない。忙しいのも変わらないけど、それは言い換えれば充実しているということ。大学、会社、家、その他のコミュニティを通して時間を費やす。最近は俺も和巳さんも、実家に顔を出すことが多くなった。以前はあえて避けてた親戚の集まりにも参加するようになった。会いたい人が増えたからだ。可愛い親戚の子も優しい祖父母も、気になって仕方ない。……会いたい衝動に駆られてる。そして会う度に、独りじゃないと気付かされる。たくさんの人に支えられて生きてるんだ、と改めて感じていた。「和巳さん、もうすぐ一年終わっちゃうね」「お、そうだね。俺と鈴が再会してから、もう半年も経ったんだ」リビングで寛ぐ和巳さんを尻目に、カレンダーを捲った。今でこそ何も考えずに捲れるけど、半年前は全然違ったな。和巳さんがいつ帰って来るのか。そればっかり考えて次のページを捲って、ゴミ箱に捨てていったカレンダー。あの苦い記憶すら今は懐かしい。恥ずかしいから和巳さんには絶対言わないけど。「そうだ、鈴! 俺達の輝かしい軌跡をお祝いしよう! 終わってしまうことを寂しく思うより、新しく始まる一年に乾杯するんだ!」「おぉ……さすが和巳さん、冬でも脳内は年中お花畑だね!」「鈴、その言い方だと皮肉になるから。それはさておき、冬と言えばスキー! 嘘! 俺は雪が嫌いなんだ! だから体も心も暖まる温泉に行こう! 雪見風呂なんて最高じゃない? 寒いのに暖かい所にいられる至福の時間、朝まで飲みたい!」色々と情報過多だけど、とりあえず温泉に行きたいことだけは伝わった。「温泉もいいね。せっかくだし、冬休みに入ったら行こう。和巳さんが乗りたがってた新幹線で」「おっ、分かってるねぇ鈴。じゃあさっそく計画立てていこうか」和巳さんがノリノリなので、新幹線で行く小旅行を計画した。スキーやスノボも良いと思うけど、和巳さんは「リフトが嫌なんだ」と真剣な顔で言ってきた。高い所が嫌いなんだろうか。でもすごい楽しみだ。和巳さんと初めての遠出……!その旅行は、わりとあっという間にやってきた。嬉しいことに、旅行当日は晴天。和巳さん
明るい照明。嗅ぎ慣れないシーツの香り。壁。……吐息。向き合って密着している友人に、小声で囁いた。「秋……俺もう、二度とこっち関係は協力しない。次何かあっても、ひとりで何とかして……。いいね?」「あぁ……。俺も、もうやめる……もう、何もしない……」秋は投げやりというか、もう疲れて何も考えられない、というように肩を揺らした。安易に乗っかった俺も悪いけど、本当に困った友人だ。でもある意味、問題児は秋より……矢代さんの方が。「ごめん、鈴鳴。俺のせいで、こんな……」息も絶え絶えに、秋は手を握ってきた。くっ、本当はもっとこてんぱんに怒ってやりたいんだけど。こんな風に泣きつかれたらどつけないじゃないか。「いいよ。秋が意外と世話焼けるのは前から知ってたから」「んんっ……」彼の腹を汚す白い体液を指ですくといる。すると彼も腰を擦り付けて、俺のぬれた頬を舌で舐めとった。「ん、鈴鳴……やっぱ、お前可愛いすぎ」「ちょ、秋、くすぐったいってば」俺も同じようにやり返して、濡れた部分を舐め合う。そうしてじゃれあってたんだけど……途端に、背筋に寒気を感じて我に返った。「あははは。……矢代さん、どうします? ほんとの恋人の前で堂々とイチャイチャしてる、この子達」「うーん、そうだねぇ。可愛いけど、また時間をかけて教えてあげないといけないかもね」しまった……!!後悔しても、もう遅い。振り返って謝ろうとしたけど、また前を握られてドキッとする。「鈴は俺を嫉妬させんのが上手になったね。でも、もう本当に怒った。今度は潮吹くまで許さないよ」「えっ! そ、そんなの無理だって!」青ざめて訴える鈴鳴の隣で、矢代は無邪気に笑った。「ふふふ、人の潮吹きなんて久しく見てないな。ちょっと楽しみだよ。……秋、お前も負けてらんないな。俺の前で彼と戯れたこと、イッて後悔するんだな」「待っ、やだやだ、もう無理! もうイケないって!」「俺はまだイッてないんだよ。最低でも後三回、これから付き合ってもらう。足りない頭で反省しながら、身体で俺を覚えろ。いいな?」「ち、ちょっと待っ……あぁ、俺が悪かった! もう二度と余計な心配はしない! 俺は本当に先生に愛されてるよ……!」軋むベッド、染みだらけのシーツ。そして絶え間なく響く二人の青年の悲鳴に、その夜は色濃く染まった。地獄が終わったのは朝
突然上半身を抱き起こされたと思ったら、今度は座位で貫かれた。嫌だと身を捩っても大きく脚を開かされ、挿入部分を確かめるように触られる。「ほら、中擦られるの気持ちいいでしょ?」「うっ、あっ、やっ……!」絶対、ハイとは言えない。だって目の前には矢代さんと、彼に抱かれてる秋がいる。だけど和巳さんはさらに激しく奥を突いて、俺の中を掻き回した。逃げようとすればするほど押さえ込まれる。「あっ、やだ、そんな激しいのっ……おかしくなっちゃうぅ……っ!」腰をホールドされる。彼の動きと連動して身体が震え、触ってもいない性器が跳ねてしまう。本当は触りたいけど、それはやっぱり許してもらえなかった。「……そうそう、忘れてるみたいだからおさらいしようか。鈴を世界で一番愛してるのは、誰だっけ?」「あっあぁ……か、和巳さん……っ」熱い。肉が蠢く穴の中も、剥き出しの下腹部も。どくどくと脈を打って、全身へと伝わっていく。 「じゃあ鈴が一番感じて。喘いで気持ちよくなっちゃう相手は、誰だっけ?」「ん、和巳、さんっ……和巳さん、だけ。あっ、中すごい事になってる……今も……っ!」胸の突起をぎゅっとつままれる度、口端から唾液か零れる。そしてその度に、彼の性器が高まる気がした。向きはそのまま、矢代さんと秋を盗み見みながら。恥ずかしいのに溺れた身体は快楽に逆らえなくて、むしろもっと彼を求めた。「和巳さん、もっと……もっと、強いの欲しい。おかしくして……っ!」「ふっ……もう、最高……!」後ろに押し倒され、正常位のまま激しく抜き差しされる。見上げる先の彼の顔は、快感に酔いしれてる。俺も多分、彼と同じか、……それ以上にだらしない顔をしてるんだろう。降ってくる汗が伝って、シーツに染みをつくる。肌と肌が触れ合う部分が滑って、なのに張り付いて、やらしい水音が響き渡る。和巳さんの熱で火傷しそうだ。感じ過ぎて制御できず、脚は限界まで大きく開いてしまった。「和巳さん、キスしたい……っ」「うん……いいよ」舌を出して求めると、舌ごと激しく吸い付かれる。ただでさえ熱い身体が、さらに熱く感じた。俺、今……上も下も、和巳さんと繋がってる……。もっと口を塞いで欲しい。離れたらきっと、また情けない声を出してしまうから。今は羞恥心も忘れたい。思考を溶かすほどの快感に包まれたかった。「ふふっ……和巳君と鈴鳴
瞼に当たる和巳さんの手が、段々汗ばむ。どうなってんだ。そんなにやらしい光景なのか? すごく見たい。「でも、それなら何で……最近、俺とシてくれないんだよ。前は毎日シてくれたのに」秋の悲痛な声が聞こえる。でも、……あれ、毎日? 前に俺と話した時は週二って言ってなかったっけ?「あぁ。この前は本当に、疲れてやる気が出なかっただけだよ」「じゃあ、今回は何で……」「はは、そんなの決まってるだろ? 欲求不満に悶えるお前を観察するのが楽しくてしょうがないからさ」矢代さんの、十二分に喜色を含んだ声が鼓膜に届いた。……つまり今までわざとお預けにして、秋を焦らしていたのか。軽く鳥肌が立つ。姿が見えないからこそ、ベッドの軋み具合と彼らの声を全身で感じてしまう。やばい……。矢代さんからキチクの匂いがする。こんな人を敵に回したことが間違いだ。絶対倍返しに合う。後悔しても後の祭りだけど、案の定もう秋の喘ぎ声しか聞こえなかった。「く、そっ……サイテーだよ、アンタ……っ!」「ははは、否定はしないよ。でもお前も人のことは言えないだろ。さっきは本当に鈴鳴君と危ない空気になってたじゃないか。純直な和巳君に感謝するんだな」状況がよく分からないけど、何かガンガン音が鳴ってる。秋が暴れてるんかな。「いつまで経ってもお前は本当にどうしようもない……それでいて最高だよ。俺の為にこんな楽しい趣向を凝らしてくれるなんて」「ち、違っ……あぁ!」何かがビリッと破れる音がした。ちょっと、音声のみは怖くなってきた。「和巳さん、手を離して……! さっきから何も見えないよ!」「う~ん……どうしよっかな。今の光景は、ちょっと鈴には刺激が強いかも……」「ずっとこのままでいる方が気まずくない!?」尋常じゃなく情事の気配を察知している。和巳さんは二人をバッチリ見てるわけだし、俺も彼らと同じベッドに座っているし、この状況はやばい。彼らが本番に入る前に早くここから退散しないと!そう思っていたら、矢代さんの弾んだ笑い声が聞こえてきた。「せっかくだから和巳君と鈴鳴君もここですればいい。このベッドは大きいから、四人乗っても余裕があるよ?」い、今何て……。耳を疑った。矢代さんは秋と抱き合ってるベッドで、俺と和巳さんにもエッチをすすめている。正気じゃない。そんなの和巳さんだって断るに決まってる!「え
「絶対やめた方がいい……嫉妬させるだけならともかく、このやり方は彼を傷つけることになるよ。恋人を傷つけるのは本望じゃないでしょ?」「ははは、心配ないって。先生は恋人が浮気してるぐらいで傷つくタマじゃないから」何言ってんだ、この子は。「恋人が浮気して傷つかないって、それはもう恋人じゃないよ! 矢代さんは絶対傷つくって!」「でもあの人はぬるいやり方じゃ絶対動じないし、本当の気持ちを確かめるにはこれしかないんだよ。あの人が俺のことをまだ想ってくれてんのか確かめるには、これしか」そう答える秋の目は、ガチだ。本気で切羽詰まってる。「こんな事に巻き込んでごめん……でも俺、あの人が好きなんだ」「秋……」彼も相当もがき、苦しんでいる。まぁ、それとこれとはちょっと話が違う気がするけど……。でも困った。彼の辛そうな顔を見てたら、全力で突き放せない。「矢代さんが、ショック受けて倒れないといいけど」計画に沿うことにするか。もちろん演技だから、変な所は絶対に触らない。俺は秋のシャツのボタンを外しにかかった。ところが。「うわっ、何してんだよ。攻めるのはお前じゃなくて、俺。お前はそういうの向いてないだろ」力任せにベッドに押し倒される。そしてあろうことか、彼は俺のベルトに手をかけた。瞬時に嫌な汗が溢れて、慌てて抵抗する。「ちょいちょいちょい! そんなの計画の時は決めてなかったじゃんか!」「決めてないけど、間違ってもお前はタチじゃない。つうか本来は俺がタチなんだよ。あの人にめちゃくちゃに抱かれなきゃ、そもそもこんな人生になってなかった!」よく分からない不満をぶちまけて、秋は俺のベルトを引き抜いてズボンを下ろした。以前、外の公衆トイレで彼にアナル開発を手伝ってもらったことはあるけど……今はちょっと状況が違う。ていうか、俺だけ恥ずかしい格好になるのは嫌だ!「こら! 秋も少しは脱いでよ」「はぁ? ……わ、やめろって!」ベッドが軋むほど、激しい取っ組み合いが始まった。尋常じゃなく息が上がる。互いに互いのズボンを奪い取ったとき、この争いはさらにヒートアップした。「おい、お前いつも和巳さんとする時は自分で後ろ弄るの? それとも弄ってもらうの?」「それは……あ、秋はどうなんだよ?」一瞬の不意をつかれ、ベッドに押し倒された。秋は真上に覆い被さり、俺を見下ろした。顔
場所は変わり、同時刻。街角の居酒屋の一室では、各々が好き勝手に飲み、騒いでいる。座敷の片隅に座る鈴鳴も、次第に酔いが回り始めていた。「日永! お前、気になってる女子いないのかよ?」「あぁ、俺はいないかな」今日は久しぶりにサークルの飲み会に参加した。大人数でわいわいやっていたけど、やたら男友達の恋愛話に引っ張り出された。「お前も早く彼女つくれよ~。あそこにいる女子だったら誰がタイプ? 呼んできてやるから言ってみろよ!」「いやいや、俺は大丈夫。ありがとう」皆酒が入ってるせいか、いつもより少し強引だ。悪ノリが過ぎてしまったり、厄介事も多い。特に恋愛の話は困ってしまう。何故彼女をつくらないのか質問攻めされ、次に脈ありな女子を捜そうとしてくる。たった今声を掛けてきた友人も、まさにそれ。応援しようとする気持ちは嬉しいけど困ってしまう。俺には恋人がいるし、関係ない女の子を巻き込むのも嫌だ。そう思ってると、彼を押し退けて一人の青年が間に割って入ってきた。「ばーか、鈴鳴は他の大学に好きな子がいんだよ。余計な世話は焼くなって」「秋」秋が堂々と言い放ったことで、彼は「そうなのかー」と渋々他のグループのところへ戻って行った。ほんと、こういう時は助かる。「サンキュ、秋」「おう。ああやって適当に流せばいいんだよ。どーせ絶対分かんないんだから」秋は手にビールを持ったまま、隣にどっかり腰を下ろす。向こうの華やか女子グループから逃げてきたみたいだ。「鈴鳴、最近和巳さんとはどう?」「いつも通りだよ、毎日仲良くやってる。秋は?」逆に聞き返すと、彼はジョッキをテーブルに置いて俺の肩を掴んできた。「……てない」「え?」「全然シてないんだ。お前らが家に来た日から、また! 俺と先生はシてないの!!」「…………」悲痛な叫びに、苦悶の表情。瞬時に事態を察したものの、どう返せばいいか分からず固まった。ひとまず彼に向き合い、詳しく話を聞いてみることにした。するとどうやら、また(生活リズムが)すれ違う日々が続いているらしかった。「あの日だけは、先生とシたよ。むしろ死ぬかと思うぐらい抱かれた……でもセックスはあの日っきり。あれからもう三週間近く経つだろ。三週間、シてないんだよ」「う、うん」何か前も全く同じことを聞いたな。デジャブを感じつつ、つっこめないまま頷く。「