FAZER LOGIN***
適度に体が沈む大きいベッドの上で、全身に残った気だるさが原因で目が覚める。自分よりも逞しい腕枕と俺を抱きしめるように背後で眠る、あたたかな存在を感じて、ぶわっと頬に熱をもつ。
観覧車のゴンドラ内では、キス以上されなかったものの、与えられた吸血鬼の唾液の影響で、いつ破裂してもおかしくないくらいに、体が火照ってしょうがなかった。
そんな体の諸事情で困り果てる俺を、桜小路さんは軽々と横抱きにしながら、SAKURAパークをあとにする。いつの間にかメインストリートにハイヤーを呼びつけていて、一緒に彼の住むマンションに帰った。
『SAKURAパークでたくさん遊んだから、汗もかいているだろう? 先にシャワーを浴びるといい』
そう言って、着替えとタオルを手渡されたので、すぐにお風呂をいただいた。火照った体と熱り勃ったアレを、早くなんとかしたかったのもある。
「はあぁ、吸血鬼の唾液をたくさん飲んじゃったもんな。1回で終わる気がしないよ……」
ボソッと独り言を呟き、シャワーを浴びはじめてすぐに、浴室の扉が大きく開いた。
「わっ!」
『瑞稀が苦しそうにしているのは、俺の責任だ。今、楽にしてあげるよ』
吸血鬼の姿じゃない桜小路さんが、逃げかける俺の体を抱きしめ、口じゃ言えない卑猥なコトを進んでシてくれたおかげで、かなり楽になった。それなのに――。
『瑞稀は、はじめてだからね。ベッドでは気持ちのいいコトだけしようか』
「いえいえ、もう充分に気持ちイイことをしていただいたので、おなかいっぱいです」
(とはいえ、ふたりして下半身にタオルを巻いただけの恰好というのは、このあとの展開にいきやすいような)
桜小路さんは、絶頂した余韻を引きずる俺の肩を強引に抱き寄せ、移動しながらとても静かな口調で語りかける。
『順番が逆になってしまったのだが瑞稀、俺と付き合ってくれないか?』
間接照明が優しく照らすベッドルームの中央に立ち、真摯に俺に向き合った桜小路さんは、吸血鬼の姿に早変わりした。
「吸血鬼の俺を怖がることなく、吸血衝動で苦しむ俺に血をわけてくれた優しい君を、好きになってしまった」
両手を固く握りしめ、真っ赤な顔で告白した桜小路さんの姿から真剣みが伝わり、胸が痛いくらいに高鳴る。
「カッコイイ桜小路さんが、俺みたいな貧乏学生を好きなんて」
『信じられないだろうけど、本当なんだ。出逢いは偶然だったが、君と一緒にいるうちに、はじめて見せてくれた瑞稀の笑顔に、心が奪われてしまってね』
「あのとき――」
観覧車のゴンドラでおこったことを、ぼんやりと思い出す。
『ああ。瑞稀の笑った顔をもっと見たい、君がほしいと思った瞬間に、吸血衝動に襲われたんだ。残念なくらいに、体は正直だな』
照れくさそうにシルバーの髪を掻きあげ、ルビー色の瞳で愛おしげに俺を見つめる。
(――どうしよう。こうして見られているだけで、ドキドキがとまらない)
『頬が赤くなっているね、かわいい』
わざわざ耳元に顔を寄せ、艶っぽい声で告げてから、首筋に唇を押しつける。
「んっ」
また血を吸われるのかと思って強張ったら、キツく体を抱きしめられた。
『瑞稀、早く返事をくれないか。じゃないと浴室でシたみたいに、この場で君をぐずぐずにしてしまう。瑞稀が好きすぎて、容赦なく手を出しそうだ』
「ぐずぐずって、そんなの困ります! 俺、こんなふうに告白されたことも、エッチなアレだってはじめてで、どう対処したらいいのかわからなくて」
強く抱きしめられているのに、吸血鬼の桜小路さんから伝わるぬくもりはなぜだか冷たくて、思わず両腕でぎゅっと抱きついてしまった。少しでもいいから、俺の体温であたためてあげたくなる。
『瑞稀?』
「吸血鬼になった運命を悲劇に捉えないで、楽しもうって考える桜小路さんに憧れてしまいました」
桜小路さんを抱きしめることで、彼の胸に顔を埋めているから、照れている顔を隠せた。なので素直な気持ちを口にできる。
『君の憧れの気持ちを好意に変えるには、どうしたらいいだろうか?』
「どうしたらって、桜小路さんが存在するだけでいいというか。とても素敵だし、イヤでも惹かれてしまって」
『瑞稀、顔をあげて。俺の目を見ながら、君の気持ちを聞かせてほしい』
(それって、すごく恥ずかしい。だけどさっき桜小路さんがしてくれたみたいに、俺もちゃんとした姿勢で応えてあげなきゃ)
桜小路さんの胸元から恐るおそる顔をあげて、頭上にある整った彼の顔を眺める。
間接照明の淡い光が彼の顔に陰影を与えるおかげで、同じ日本人とは思えない彫りの深さを感じた。その下にあるルビー色の瞳が綺麗に揺らめき、さらに格好よく俺の目に映る。
「桜小路さんがこうして傍にいるだけで、ドキドキしています。もしかしたら、好きになっているのかもしれませんっ」
思いきって告白した俺を、桜小路さんは意味ありげに双眼を細めて見下ろす。
『吸血鬼の俺と普段の俺、瑞稀はどっちが好みだろうか?』
「そんな難しいことを聞かれても、なんと答えていいのか困ってしまいます」
(比べられないくらいに、両方とも格好よくて好みですなんて、絶対に恥ずかしくて言えない!)
両手で頬を押えて赤みを隠そうとしたら、両手首を引っ張られ、勢いよくベッドの上に放り投げられた。
「うわっ!」
『俺の質問に答えないイジワルな君には、お仕置が決定だな。まずは血を吸って、味を確かめてから――』
「ダメです! 美味しくない血を吸われたら、俺のがまた大きくなっちゃうじゃないですか」
切実な問題だから必死に訴えたというのに、桜小路さんはそんなの関係ないと言いたげに、弾んだ声で返事をする。
『ふふっ、実は味が変化してるんだよ』
「へっ変化?」
『ゴンドラで瑞稀の血を吸ったときに、気づいたんだ。甘みが増して、美味しくなってる』
目の前で舌舐めずりしたあとに顔を寄せて、俺の唇を下から上へと大きく舐めた。ただそれだけなのに、ゾクッと感じてしまい、変な声が出そうになる。
『瑞稀に俺の愛情をたくさん注いだら、美味しくなるのか。はたまた君が俺をもっともっと好きになったら、美味しくなるのか。いろいろ考えるだけでも、夢が広がって楽しいよ。どれだけ君の血が甘露になるのかと』
桜小路さんは俺に股がって体を動けなくしてから、首筋を丁寧に舐めて、ガブッと噛みつく。
「くぅっ!」
やっぱりというか血を吸われるたびに、俺の下半身がどんどん大きくなった。
「やっ、もぉダメ~……イっちゃう」
『では瑞稀の大きくなったブツを、直接吸ってイカせてあげ――』
「もっとダメです! ひとりでイキたくない」
急いで大事な部分を両手で隠して、ここぞとばかりに声高く叫ぶ。
「だって俺ばかりイって、桜小路さんはずっと我慢してるじゃないか!」
『そこは雅光と一緒にイキたいと、うまく強請ってほしいな』
突然告げられた桜小路さんのワガママに、目を白黒させるしかない。
『瑞稀言ってごらん。君が言えば願いが簡単に叶うよ』
「年上の桜小路さんの名前を言うのは、俺にはハードルが高すぎます」
体を縮こませて、ごにょごにょ返事をしたら。
『だったら君が呼びやすい、あだ名をつけてくれ。エロ光や吸血太郎とかでもいいよ』
桜小路さんがえらく真面目な表情で言い放ったせいで、突っ込むタイミングを見事に失った。茫然自失しながら、重たい口を開く。
「最初に偽名を使ったときといい今といい、ネーミングセンスがなさすぎです」
『これでも真剣に考えたのに……』
しょんぼりする吸血鬼の姿は、ここぞとばかりに笑いを誘うものだった。迷うことなく、声をたてて笑いまくる。
『瑞稀、ちょっと笑いすぎだろ』
「だって、本当におもしろいんですって。真剣に考えたものとは、到底思えない」
『なるほど。君がそんなに笑うのなら、もっといいあだ名を考えてみようか』
「俺が考えますので、桜小路さんは黙ってください」
なんとか笑いを堪えつつ、呼びやすそうなあだ名を考えた。目の前で今か今かと、期待を込めた眼差しを注ぐプレッシャーを無視して、覚悟を決めたというふうにハッキリ言う。
「これから桜小路さんのことを、マサさんって呼ぶことにします」
『マサさん……なんだか新鮮な響きだな』
ルビー色の瞳を、何度も瞬かせたマサさん。もしかして吸血鬼なのを隠すために、こんなふうに呼び合う仲のいい友人がいなかった可能性があるなと思った。
だからこそ、心を込めて告げてあげる。
「マサさん、ふつつかな俺ですが、これからよろしくお願いします!」
『ナニをよろしくしたらいいのだろうか?』
(わかってるクセに、イジワルなことをワザと言う、そんなマサさんが好き――)
「マサさんと一緒に、気持ちいいコトがしたいです」
言いながら、マサさんの下半身に自分の下半身を押しつけて、擦りつけるように上下させた。するとマサさんの額を俺の額に押し当てて、低い声で告げる。
『わかった。いいあだ名をつけてくれた、君の願いを叶えてあげよう』
こうして俺のお願いをきいてくれたマサさんと仲良く絶頂して、一緒に就寝したのだった。
情けなさを晒したくはなかったが、震える躰を両手で抱きしめながら、その場にしゃがみ込んだ。「笹良の気持ちを考えずに、怖がらせて悪かった。答えが見つからないせいで、どうしていいかわからなくて焦っちゃって」「必死になるのも分かるけど、その……。加賀谷が導き出したそれを俺がしたら、勃つモノが勃たなくなるのか?」 たどたどしさを表す俺の問いかけに、突っ立ったままでいる加賀谷の表情がみるみるうちに曇った。「加賀谷、おまえその顔」「可能性の問題だ。実際にやってみないとわからない」「やるって、何をするんだ?」「それをするのに原因が知りたい。いつからシュートを外しはじめた?」 心の奥底に封印している思い出――そのことを考えたら躰の震えは止まったが、代わりに違う感情がメンタルをじわじわと支配する。「笹良、俺さ、おまえに教えられたことがあるんだ」 なかなか口を割らない様子を見て、加賀谷が先に話しかけてきた。「俺が教えたこと?」「ああ。スタメン入りできない選手について、まったく考えてなかった」 不意に背中を向けて歩き出し、ゴール下に転がったままのボールを取りに行く。「バスケの上手いヤツがスタメン入りするのは当然のことで、それ以外は練習や努力の足りないダメなヤツっていう扱いをしてた。ソイツらが汗水たらして頑張っても、スタメン入りできない悔しさをもっているのを知らなかったんだ」(うわぁ、加賀谷らしい上から目線発言。すべてにおいて恵まれてるせいで、補欠組のヤツをバカにしていたんだな)「加賀谷がチームで浮いてる存在になってるのは、その考えが原因だろう」 躰がだいぶ落ち着いてきたので、立ち上がりながら指摘してやる。するといきなり、バスケットボールが投げつけられた。「わっ! ビックリした」 加賀谷からパスされたボールはそれほど勢いがなかったので、難なくキャッチできたが、突然パスされるのは心臓に悪い。「答えを導き出すために、笹良とバスケの話をしただろ。話をしているうちに、見えてなかったところが鮮明になったら、俺はバスケをプレイする資格がないと思ったりしてさ」「それでズル休みして、練習に出てなかったのか。そうすることで補欠組からレギュラー入りできる、新たなメンバーが投入されるから」(俺のことといい、やることなすこと、すべてが両極端すぎる)「普段の練習だけじ
「加賀谷のすごさを偉そうに語られても、話がさっぱり見えないんだけど」「好きなんだ」 自分の両手を胸の前で握りしめながら、頬を染めて告白されても、最初のくだりがあるため、そこまでドキドキせずに済んだ。(バカと天才紙一重って言うけど、加賀谷ってばまんまおバカじゃないか)「あのさ、最初に言ったよな。深い意味はないって。それなのに同じ言葉を使うのは、どう考えてもおかしいだろう?」 呆れながら指摘すると、難しそうな表情を浮かべて下唇を噛みしめる。「加賀谷が答えないなら、俺はもう帰る。貴重な時間を無駄にしたくない」 妙な沈黙に耐えきれず、踵を返して体育館を出て行こうとした瞬間に、腕を掴んで引止められてしまった。「待ってくれ、答えたいんだ。答えたいのに、笹良が満足するような答えが見つからなくて」「頭のいい加賀谷が答えられないなんて、ものすごい難題なんだな」「ああ。考えれば考えるほどに、わけがわからなくなってくる。おまえのシュートする姿を見て、最近では勃っちゃって」「ちょっ、それは……」 掴まれていた腕を、慌てて振り解いた。じりじりと後退りをして、加賀谷との距離をとる。「笹良がシュートを外したあとに、苦しそうな顔をしているのを見たら、妙にクるものがあってさ」 左手をぎゅっと握りしめながら熱く語られても、内容が気持ち悪いものなので、当然同調できるはずがない。「加賀谷に告白されただけでもぞくっとしたのに、それ以上の何とも言えない、躰の事情を説明されながら迫られる、俺の身にもなってくれよ」「わかってる。俺だって正直なところ嫌なんだ。同性相手にこんなことになるなんて」「そうか……」(もしや神様がすべてを兼ね備えた加賀谷を狂わせるために、ゲイになる操作をしたんじゃないだろうか)「だからいろいろ考えた。笹良がシュートを外さなければ、俺は勃起しなくて済むんじゃないかって」「は?」 どうしてそんな答えに着地したんだ、やっぱりバカなヤツ。「笹良はいつから、シュートを外すようになったんだ? 教えてくれ」 ひどく神妙な顔つきで、後退った分だけ迫ってくる。プレッシャーを与えるような雰囲気に飲まれないようにしながら、ふたたび後退ると、背中に壁が当たった。「逃げるなって、答えろよ」「ひいぃ!」 言葉と一緒に突き立てられた加賀谷の両腕を見て、思わず悲鳴をあげ
*** 最後の講義が終わって教室を出たら、躰を左右に揺するように前を歩く、加賀谷の背中が目に留まった。 このままついて行ったら、アイツのあとを追いかける形になる。それが嫌だったので、歩くスピードを思いっきり落としながら体育館に向かう。 のらりくらりと歩いて、階段を下りた先にある体育館の重い扉の前にたどり着いた。中からリズミカルな音が、響いた感じで聞こえてくる。それは聞き慣れた、バスケットボールをドリブルする音だった。 ダンダンダン、シュッ! その場に突っ立ったまま、そっと目を閉じる。しばしの間の後にゴールポストに吸い込まれるボールの映像が、まぶたの裏に流れた。 黄金のレフティから放たれるボールは、絶対に外れることはない。イップスという不治の病にかかった、俺とは違う。彼は選ばれた人間なのだから。 意を決して勢いよく扉を開け放つと目に映ったのは、ジャンプしてボールを手放す、まさにその瞬間だった。 ちょっとだけ襟元がくたびれたTシャツにジーンズといういでたちの加賀谷の姿が、オレンジに濃いブルーのラインが入った、バスケ部のユニフォームを着ている錯覚に陥る。 俺が突然現れたことに驚き、ほんのわずかに後方にジャンプした躰がぶれて、バランスを崩した状態でボールが放たれた。 どんな体勢からでも確実に決めることを、アイツの躰が知っている。だからこそ俺は、この結末の行方がわかっていた。 ガンッ! いつもより大きな弧を描いたバスケットボールは、ゴールポストに軽く接触してから、網の中をゆっくりと落ちていく。「っ、びっくりした……」 加賀谷の声をかき消すように、吐き出されたボールが何度も体育館の床をバウンドする。俺は無言のまま、それをじっと見つめた。「来てくれてサンキューな」「加賀谷、弁解ってなんだよ?」 平らなはずの床を、音もなく転がるボールを見たまま訊ねた。「あのな、好きって言ったけど、あれには深い意味はなかったというか」「深い意味がないなら、あんなことを安易に言うなって」 そのせいでここ数日間、対処に困ったのだ。告白されるという免疫がないせいで、余計に困惑しまくった。「俺さ、高校のとき、全国大会に出てるんだ」「へえ……」 唐突な話題転換に、気のない声で反応した。「最優秀選手賞にも選ばれた」「頭の中身だけじゃなく、バスケも超万能だもんな
***「笹良に話があるんだ」 加賀谷に変なことを言われて以来、気持ち悪くて思いっきり避けていた。それなのに、こうしてしつこく話しかけてくる。「悪いけど、話をする気になれない」 持っている文庫本に視線を落とした。目の前の相手をスルーすべく、栞を挟んだページを素早く開き、印刷された文字を追いかける。「弁解させてほしいんだ!」「弁解?」 必死な様子を表すような声色を聞いて、仕方なく顔をあげた。加賀谷は俺を見ずに、落ち着きなく両目を泳がせながら口を開く。「心にもないことを口走った件について、その……。話の内容が特殊だから、授業が終わってからふたりきりで話がしたい」 ふたりきりで話がしたいというワードに、引っかかりを覚えた。危ない可能性があるのが明白だ。「加賀谷が俺に二度とつきまとわないと約束するなら、顔を出してやってもいい」「ああ、約束する。短時間で済ませるから。場所は」「体育館がいい。今日は練習がオフなんだ」 ふたりきりでも距離がたくさんとれるであろう、体育館を提案したのはナイスだと思える。「わかった。必ず来いよな」 悲壮感を漂わせながら念押しした加賀谷は、俺の視線を振り切るように去って行った。明らかにいつもと違う様子に、嫌な予感が胸の辺りに充満しはじめたのだった。
*** 笹良相手に、不覚にもときめいてしまった。見ているだけで腹が立っていたのに、どうして胸が高鳴ってしまったのか。 かったるいゆえに、勉強なんてさっぱりしていないから、頭がおかしくなった可能性は低いが……。因数分解の公式のひとつ。 >(a+b)^3=a^3+3a^2b+3ab^2+b^3 物理・力学エネルギーE E=K+U ただ公式を覚えるだけじゃ使えない。正しい公式を用いつつ、意識して使わなければ、まったく意味をなさないものになる。そうすることにより、必ず答えが導き出されるのだから。 テストに出される問題のすべてにおいて、答えがあるから書くことができた。たまにわからない問題があっても、なんとかして解き明かし、白紙で回答を出すことなんてしなかった。(しかも今回の問題は、自分の躰に起こったことについてだというのに、さっぱり意味がわからないなんて) もしや連立方程式が恋立方程式になってしまった結果、胸がときめいてしまったというのだろうか。しかもときめいた相手が男なんて、笑い話にもなりゃしない。 この謎を解くために、あえて積極的に笹良と接点を持つべく、話しかけた。以前よりも接点を増やすことで、ヒントがあるんじゃないかと思った。 そう考えたものの、普段気安く喋ったりしない相手だからこそ、自然に話しかける理由がなかなか思いつかなかった。 嫌がられる恐れがある、講義の内容を写させてもらうことを最終手段にして、不自然にならないように話しかけた。 こうして強引にコミュニケーションをとりながら、難題について答えを導き出そうと試みたのに、いまひとつピンとこない。無理やりに写させてもらっているせいか、友達のようなやり取りじゃなく、お互い半分くらいはケンカ腰になってる気がする。 だけど最近、何かがきっかけでバスケの話になった際に、眉根を寄せて俺を見る笹良のまなざしが、シュートを放つ瞬間に見せる表情とリンクすることを発見した。 それ以来、似たような顔を目の当たりにしたとき、ほんの一瞬だけど胸の奥がチリッと疼くようになってしまった。 友達はおろかチームメイト未満の関係だというのに、どうしてこんな反応をするのか。考えがまとまらないまま、時間だけが過ぎ去っていく。 そんな矢先に『おまえが好きなんだ』という爆弾発言をしてしまったのである。
*** 大学でバスケをプレイした、あの日。笹良と同じチームになった。 笹良が気になった理由は、先輩に誘われてバスケの練習試合をし終えたあとに、声をかけられていたからだった。『すごいね。あんなにスリーポイントシュートが決まったら、バスケが楽しくてしょうがないだろう?』 興奮を抑えられない感じで話しかけてきた笹良に、そのときは適当に相槌を打った。そんないい加減な返事をしたというのに、瞳を輝かせながら口を開く。『ずっとバスケをしてきたから、試合でのスリーポイントシュートの難しさを知ってる。君とは違って俺の場合は、どんなに練習しても成果が出なくでね』 ハッキリと言いきった笹良のセリフが気になったこともあり、原因を突き止めようと考え、積極的にボールを回してやった。 見た感じ、悪いところがないように思えた。基本がとてもしっかりしていて、フォームも問題なし。指先から放たれるボールの動きの感じから、ものすごく丁寧に扱っていることがわかった。 ゴールが決まらない他の要因をさがしていたそのとき、俺が苦手だと思う角度からのスリーポイントシュートをすべく、笹良がセットポジションに入る。その姿に、はっとさせられた。 ジャンプした瞬間に飛び散る汗や、舞い上がった衝撃で、躰に貼りつくユニフォーム。他にもボールを放つ繊細な指先の動きのすべてが、スローモーションに見えた。 あまりにも魅入っていたため、ボールが飛んでいく音で、やっと我に返る始末。 笹良が放ったバスケットボールは、大きな半円を描きながら回転し、吸い込まれるようにゴールポストに飲み込まれた。『やった! 久しぶりに決まった。加賀谷、アシストサンキューな!』 嬉しさを表すように破顔した笹良が、俺の背中を叩いてから、セットポジションに戻って行く。 動揺を隠しきれない俺は、その場に突っ立ったままでいた。ボールが目の前を掠めたというのに、カットすることもできない。「今のは、いったいなんなんだ?」 ぞくっとするものが背筋に走った謎の衝撃は、筆舌しがたいものがある。 自分が苦手とする位置からのシュートだったからこそ魅入ってしまったのか、あるいはそれ以外の理由があるのか。原因がさっぱりわからなくて、模索しながらその後も笹良の動きに注目し続けた。『ナイスシュート!』 点差が開いていなかったので、あえて得意のスリーを封







