LOGINふぅ。 面会も順調。 昨日のミアストとのやり合いで上がった好感度は、今朝の一件で更に上がったらしく、休憩でちょっと外に出ると、昨日の午前中に話した数人の町長が「いやあ、失礼を申し上げました」「あそこまでやるとは!」と背中を叩いてくる。町長連中もにこやか。 多分、ミアストがいないから。 ミアストが出てくればそれだけで緊迫感がある。昨日のミアストを見る町長連の目線は、よくミアストここにいられるなと思うほど冷ややかで敵意に溢れていた。 それがミアストがいなくて、ぼくの今朝の一件があったというだけで、何か知らんけどみんな朗らか爽やか。もう笑顔笑顔。 ぼくも町長の仮面付きとはいえ、自然に優しい笑顔が出てきている。取り引きとか計算とかそういうのがない。 いや、取り引きはあるけれど、「ミアストのせいで売れなくなった物があるのですが、傷物ですしお安く譲りますよ」とか「ミアストを敵に回しているのであれば我が町の名産を優先的にお譲りしますが」とか。ミアストが敵という町長が全員こっちの味方になってくれているよう。 これはぼくが何をしたって言うよりミアストが一方的に悪い。詐欺のやり口で富を増やすのは、一時的には上手く行くだろうけどそのうち誰も引っ掛からなくなり、相手にしなくなる。 詐欺で富を増やそうとするのなら、情報を集め、前のやり口以上の方法を考え続け実行し続け、常に上の手段を考えてなければならない。あの手この手で周りを騙し続けなければならない。一瞬だって自分が詐欺に遭っているのではないだろうかと思わせちゃいけない。 ミアストは同じやり口ばかり使っているから、詐欺師としては三流だよな。 さて、ミアストはどう出るか。 このまま消えてくれればありがたい。それにあそこまで恥をかいたら普通自分を嘲笑う同業者の前に出てこられない。 ……んだけど。 あいつの性格上、このまま引き下がることは、絶対、ない。 てか、そもそもミアスト何処にいる? スピティのフューラー町長に聞いたところによると、ミアストは定宿には泊っていないとのこと。いつもなら最上級の宿のいつもの部屋でふんぞり返っているはずが、予約すら入っていないとか。さすがに世間の目を警戒したんだろう。 だって、詐欺に掛けた町だよ? フューラー町長が訴えようとしたけど圧力をかけてそれを潰した町だよ
そもそもエアヴァクセンの人気を下げたのは自分の行動のせいだと、ミアストは分かっていない。理解しようともしていない。 だからモルに八つ当たりをし、グランディール町長を逆恨みする。 その度に自分の評判が落ちて行くとも思わずに。「くそっ! くそくそっ!」 ミアストは机を拳で叩きつける。「あの若造には良い手下がいるというのに、私にはろくな手下がいない!」 展示会を切り盛りしているアイゲン、展示会のスタッフたち、即売会をまとめている男、売り子たち、皆がグランディール町長の下で働く喜びに満ちていた。 あんな目を向けられるのに相応しいのは私だ。 なのに、その視線を奪って行ったのだ。あの若造は。……いや、かつて役立たずとして町から追い出したあのガキは! 他の町で役に立っていると思ったから、わざわざ両親に依頼して戻ってこいと言ってやったのに、両親は姿を消して戸籍からも消えた。それは町長にしかできないこと……。つまり、あのガキは町長なのだ。 だが、エアヴァクセンの出身ならば、私のものだ。 あのガキと、ガキの下にいる全てはわたしにあの視線を向けなければならない。 エアヴァクセンの住民は皆、私を崇め奉らなければならないのだ! ……と、ミアストは本気で思っている。 尊敬されるにはそれなりの理由があるのに、その段階をぶち抜いて尊敬だけされたいのだ。 町長としての役割を果たしていないのに。「見ておれ、クレー・マークン。低スキルでありながら私に逆らうクソガキめ」 ギリギリと歯を鳴らすミアスト。「貴様の町とやらを、エアヴァクセンの下に置いて扱き使ってやる……!」 ◇ ◇ ◇ 一応ミアストとの会談時間は明日午後になっているけど、この分だと来るか来ないか分からないな。 モルが帰ってきたらきっとミアストは激怒してるだろ。これまでと同じやり口でグランディールを失墜させようという命令を遂行失敗した部下に、ミアストがどう出るか……考えなくても分かる。 てか、同じやり方が成功すると思っているほうがどうかしてるよなあ。 ミアストは思い付いた時「相手の評判を落としエアヴァクセンの富が潤う素晴らしい作戦」とかなんとか思ったんだろうが、自分の町の評判が落ちるとは思ってなかったな。 自分はSSランクの町の長、素晴らしい人間と思って、こんなム
「あーははは! いい気味だ!」「二度とくんなよ!」「今度顔見せたらフクロだ!」 逃げて行くモルの背中に容赦のない口撃が浴びせられる。 そして。「グランディールの町長さん! アンタいい人だねえ!」「あんな野郎を口だけで追い返すなんざ、滅多にいないよ!」「グランディールに精霊神の御加護あれ!」 わああ、と歓声が上がった。「済まない町長、手を煩わせて……」「いや、気にしなくていい」 申し訳なさそうな顔のポルティアの肩を叩く。「どうやらエアヴァクセンのやり口は、物を貶めて安く手に入れ、町で手を入れて別物として売り出すようだ。「鑑定」ではそんなランクには見えない」「そんな高いはずがない」とランクに難癖付けてくるようなら、エアヴァクセンの人間か確かめたほうがいい」 ポトリーが了解と頷き、ポルティアがぐっと拳を掲げる。 そしてぼくは大声を張り上げた。「即売会に来てくださった皆様方! トラブルは解消しました、どうぞお買い物を楽しみ、自分だけの陶器を探して店を回ってください!」 パチパチパチ……。 ん? パチパチパチパチパチ。 何の音? 拍手、と気づくには少し時間がかかった。「グランディール町長、ありがとう!」「陶器も最高だよ!」「来てくれてありがとうな! 買い物させてもらうわ!」 握手を求められ、「申し訳ない、町長はそろそろ行かないと」とサージュやアパルが引っ張り出してくれるまであちこちから手が伸びてきて、応えるのに大変だった。 会議堂に入って、ようやく息を吐く。 ……間がなかった。「グランディール町長殿、聞いたよ!」「即売会で難癖付けたエアヴァクセンの人間を追い出した手並みが実に鮮やかだったと!」「スピティ町民にも非常に感激されていたと!」「全く、グランディールの民は幸せ者だ!」「いや……どうも……どうも」 話しかけてくる町長たちに頭を下げながら進んで、まだ客を入れていない展示会場に入る。 アイゲンが深刻な顔でやってきた。「エアヴァクセンがグランディールの陶器に難癖つけたと」「ああ」 町長の仮面を被り続けるのが辛いので、関係者ばっかのここではちょっとでも外させてもらう。「何処でエアヴァクセンと?」「うちの「鑑定」を否定してランク外という、そのやり口と……やってい
猛然とアタックしてきた男は、ぼくの顔……いや髪と眼を見て、慌てて人ごみの中に消えようとする。 でも無理なんだよね。 男のクレーマーぶりは周りの客も見ていた。どう見ても因縁をつけているとしか思えないその発言を。 だから、囲んだ人は肩を組み合って男を通さないようにする。「ど、けよおらぁ!」「お前、何処の町のモンだ」 スピティ住人の一人が言う。「この町じゃ見たことがない」「ち、近くの町の人間だ!」 男は逃げようとするが、人の壁に割って入れない。 そこへぼくはゆっくりと歩み寄った。「近く、ね」「そ、そうだ、近くだ」「なら昨日からおられても何の不思議もありませんね」「そ、そうだろ、町長が言ってるんだから不思議じゃない!」「おや?」 ぼくは薄い笑みを浮かべた。「私が、町長だと、誰に聞きました?」 ひくりと男の口が歪む。「そもそも最初から私を知っているようでしたが……どちらで私を?」「え、あの、その」 突っ込んでやると露骨に動揺する男。「き、昨日! 即売会で!」「昨日私がここに来たのはお客様を通す前、少なくともこの広場の外から聞こえる声で言っていた覚えはないのですが……」 じろ、じろっと集まる視線。「それより……私も貴方に見覚えがあるのですがよろしいか」「へ? あ、え、何処で?」「昨日、エアヴァクセン町長ミアスト殿がお泊りの宿にいらしたような」 ひききっと、露骨に男の顔が引きつる。「その髪の色はお珍しいのでよく覚えていますよ。で? エアヴァクセンの方がスピティで我が町に難癖付けるのは、どのような理由があってのことでしょう?」 あわっあわっと言葉を失って口を鯉のようにパクパク動かす男。 実はこれ、引っ掛け。 ミアストの泊ってる宿なんてぼくは知らない。ただ、この男の顔は知っている。エアヴァクセンでミアストの腰巾着として働き、ぼくを町の外に掴みだした男だ。髪の色が珍しい部類なので覚えていた。しかしそれは言えないので、カマをかけてみた。ら、見事に引っ掛かってくれたわ、ほんと。「エアヴァクセン?!」「俺たちの家具にケチをつけたあの町のヤツか!」 スピティの住民の負のボルテージが一気に上がる。 男はあわあわと辺りを見回すけど、皆さん敵意を持った目で男を見ている。 そりゃあ、Sランクの家
パン粥を食べてから泥のように寝込み、気が付いたら朝だった。 何だか怖い夢を見たような気がするけど……頭の中が霞がかって思い出せない。「起きたか」「……んー……」 まだ……何かはっきりしてない。ここは……どこだっけか。「おい、しっかりしろ、町長」 揺さぶられるうちに、バラバラになったパズルのような頭の中が整理され、パーツが正しい位置に置かれたような感覚がして、やっと我に返れた。「ええと……ぼくはクレー・マークンで……グランディールの町長で……ここはスピティの宿で……」「おいおい、意識が飛んでたのか」「まあ、政治初心者が仮面有りとはいえ昨日の難局にぶつかったら、意識も飛ぶだろ」 呆れたサージュに応えてアパル。うん、間違いなく意識が飛んでた。今日もこれが続くかと思うとそのままベッドにインして眠り続けたいという欲望が頭をもたげてくる。「時間はあとどれくらいある~?」「一刻半はあるかな」「寝直す~……」「ダメ」 そのままベッドにインしていこうとしたら、寝巻の首を掴まれて、無理やり起こされる。「今寝たら絶対夜まで起きないだろう」「ほら、水を用意してもらったから、顔を洗いなさい」 う~……このまま寝てしまおうという秘かな企みが阻止されてしまった。 桶の水で顔を洗って手拭いで拭き、そのまま桶を覗き込む。 相変わらず赤金色の髪と翡翠の目。原型の栗色の髪と青い目はそこからは分からない。「この色、戻るよね?」「ていうかグランディールで何回も変えたり戻したりしてたじゃないか」 今は黒髪黒目のサージュが呆れ声を出す。「いや、やっぱりこの色、ぼくに合わない」「合ってると思うが?」「いや、合ってるのはグランディール町長クレー・マークンの方。普通の人間としてのクレー・マークンにはやっぱりあの髪と眼がいい」「じゃああと二日はそのままだな」「……今日入れて二日かあ……もつかなぼく……」 ◇ ◇ ◇ 今日は展示会が始まる前に、目の前の大広場でやっている即売会を見に行くことにした。……現実逃避というなかれ。せめて気分を盛り上げないとどうにもならないんだ。 即売会の方はある程度人が集まったらフライングスタートしてもいいって言ってあったんだけど、結構朝早くから見に来る人がいて、早々に始めてしまったらしい。「
さて、展示会が行われるのは三日間。 その間、スピティがスタッフの面倒を見てくれることになった。 最初は宿代や食費などちゃんとお金を払う約束だったんだが、ミアストとの一件で、フューラー町長の出方が大きく変わった。 一番下のスタッフが泊る予定の下の上宿に戻ろうとしたらスピティの役人が追ってきて、「こちらの宿になります、荷物は責任を持ってお運びいたしましたので」と中の上の宿に案内されたという。 ぼくやアパルたちやアイゲンとその直属スタッフなんかは、もう上の上、特上の宿になった。最初はぼくたちで上の中だったのに。 さすがにこれは金を払いきれない、とフューラー町長に言った。そしたら。「これはスピティだけでなく、参加したほぼすべての町からの支援ですな。ほぼ全てから外れた町へ対しての啖呵を皆が相当気に入ったらしい」 どうやらミアストを口で負かせたことで、エアヴァクセンに痛い目にあわされた町が感謝の代わりにと食費や宿泊費を持ってくれることになったと。 ……もちろん、裏はあるだろう。 自分の町がヤバくなった時「あの時助けてやったじゃないか」と援助を求めて来たり、人材を求めて来たり、果ては血生臭いことがついて来たりする可能性もある。 だけど、ミアストはぼくの敵。 他の町の町長もミアストの敵。 つまるところ、敵の敵は味方。 そう割り切ってありがたく受け入れることにした。 好意を蹴って敵を増やすのも避けたいし、ここで得た縁は相手方だけじゃなくグランディールやぼくにとっても良いことになるかも知れないし。 嫌な相手に不快な思いをさせられたら、人の好意に甘えよう。町長たちもミアストに嫌な思いをさせられていて、ぼくがミアストに恥をかかせたことで好意を持ってくれたんだろうし。「ふはあ」 ベッドに飛び込んで息を吐く。「食事は部屋に持ってくるよう言うよ。さすがに食事の為町長の顔をすると疲労も取れないだろうし。消化にいいものを頼むよ」「ありがとう~」 顔をベッドに埋めたまま答える。 正直疲労が激しい。昼食も話をしながらだったから、正直休憩時間はほとんどなかった。せっかくの休憩時間もミアストが邪魔してくれたし。「これがあと二日続くのか~……」 うんざり声に、アパルが笑いながら返事してくれる。「でも、今日の一件で各町の町長からの印象がかなり変わった。ミアスト
「えっと。アパル、さん?」 綺麗に焼けた焼き魚の身を歯でむしり取りながら、アパルさんは「ん?」と言う顔をした。「スキル学を、勉強してらっしゃったんですか?」「んん? んん、まあ。「法律」なんてスキルのせいか、色々学ぶことが楽しくてね。盗賊に身を落としても勉学だけは捨てられなかった」 身を噛んで飲み込んでから、アパルさんは頷いた。そう言えば宴会前、洞窟から大量の本を家に移動させていた。どうやってあれだけの本を持って出られたのかちょっと不思議な気がする。 それはさておこう。今欲しい情報はそれじゃない。「スキル学って、どんなことを勉強するんですか? 確か「スキル学におけるレベルか上限1
盗賊団の皆さんが感動と号泣と荷運びを終えたところで、ぼくとアナイナがいる家にやってきた。 手に手に、焼けた魚だの炙った干し肉だの多分酒が入った壺だのを持っている。「……えーと?」「飲もう!」「えーと」 シエルさんの端的な言葉に悩んでしまったぼくに、ヒロント団長が笑いかけた。「儂らだけの町を造ってくれたお礼と、儂らのこれからを祝って、宴会をしようと言う話になった。主役は君だ。来てくれるかな?」「そ……」「喜んで!」 ぼくより先にアナイナが返事した。「アナイナ……」「こういう時はね、盛大にお祝いするのがいいの! みんなもそれを願ってるの! 何がどうあってもこの町を造ったお
正直、ショボい光景を覚悟して目を開けた。 所詮はレベル1Maxのスキルだ、ボロ家の一軒でも立っていれば大ラッキーという気分で。 ゆっくり開いた視線の先、眼の前にあるのは、門だった。 衛兵がいてもおかしくないような、立派な門。 左右を見れば、城壁と言ってもいい立派な塀。 エアヴァクセンよりも立派な入り口だった。「これ……は……?」「おいおい、レベル1のもんじゃないぜこれは」 盗賊団の皆さんも呆然と入口を見上げている。 アナイナだけが、自分がやったわけでもないのに得意気に胸を張っていた。「ほーら、やっぱり、お兄ちゃんじゃない」 何だその威張り方は。「い、いや、塀だけが立
一瞬空気が凍り付き、動き出すのに数秒かかった。「簡単に言ってくれるなお嬢さん」 盗賊団、スキル「法律」のアパルさんが苦笑した。「町を造るには、色々なスキルの持ち主が大勢集まらなければならない。まずお嬢さんは未成年だからスキルもない。そして我々もそのようなスキルはない……」「一応食事には困らないけど、洞窟の中での生活があんたに耐えられるとは思えないけどね」 スキル「食獣」のマンジェさんが不愉快そうな顔をした。確かにそうだよな、家を建てるみたいなスキルがない限り、雨風をしのげるところなんて洞窟とかしかない。聞いた限り、反エアヴァクセン盗賊団の中に家を建てられるスキルはない。「お兄ち