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第99話・家族

作者: 新矢識仁
last update publish date: 2026-08-06 05:25:04

「えーと、ここと、ここと、ここに、サインと町長印を。こっちは個人印で」

 言われるがままにサインを書き、印を押す。

 にしての自分の名前が短くてよかった。ヴァローレは確かヴァローレ・ヴィーゼンだったか。名前を書くのが面倒くさいとよく呟いていた。

 短くても面倒なのには変わりないけどね。

 もうこの一刻で名前を何回書いたか覚えてないよ!

 町長って言うのは利き腕を壊す仕事だとよく言われた。やったら分かった。自分の名前を何回書いても書いてもすぐに次が来る。

 印はそれほど力を入れなくてもいいけど、ぼく以外に町長印は押せないから手がくたびれる。

 あ~手がおかしくなる。

 そこへ、こんこん、と窓からノックの音がした。

 そっちを向くと、エキャルが嘴で窓を叩いている。

「エキャル?!」

 出したのは昨日の朝なのに。ここからエアヴァクセンまで結構距離あるのに。翌日の夕方帰ってくるって早すぎるよ!

 アパルが近付いて窓を開けると、エキャルは優雅に飛んできて止まり木に留まった。

「エキャル、そんなに急いで来なくてもよかったのに」

 立ち上がってその頭をコリコリしてやると、エキャルは機嫌よさそうに首
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    「えーと、ここと、ここと、ここに、サインと町長印を。こっちは個人印で」 言われるがままにサインを書き、印を押す。 にしての自分の名前が短くてよかった。ヴァローレは確かヴァローレ・ヴィーゼンだったか。名前を書くのが面倒くさいとよく呟いていた。 短くても面倒なのには変わりないけどね。 もうこの一刻で名前を何回書いたか覚えてないよ! 町長って言うのは利き腕を壊す仕事だとよく言われた。やったら分かった。自分の名前を何回書いても書いてもすぐに次が来る。 印はそれほど力を入れなくてもいいけど、ぼく以外に町長印は押せないから手がくたびれる。 あ~手がおかしくなる。 そこへ、こんこん、と窓からノックの音がした。 そっちを向くと、エキャルが嘴で窓を叩いている。「エキャル?!」 出したのは昨日の朝なのに。ここからエアヴァクセンまで結構距離あるのに。翌日の夕方帰ってくるって早すぎるよ! アパルが近付いて窓を開けると、エキャルは優雅に飛んできて止まり木に留まった。「エキャル、そんなに急いで来なくてもよかったのに」 立ち上がってその頭をコリコリしてやると、エキャルは機嫌よさそうに首を伸ばす。「とりあえず休憩にするか。町長も手紙を読みたいだろうし」「ありがとう。手がヘロヘロだよ」 軽く右手を振って、グーパーして手の感覚を取り戻す。「エキャル。ぼくに急いで届けてくれたんだね。ありがとう」 エキャルは得意げに封入れが括り付けられた首を差し出した。 そこから手紙を引っ張り出す。 クレーへ、アナイナへ、と見慣れた筆跡でそれぞれ書かれた封筒二通。「アパルかサージュ……」 腰の軽いアパルが立ち上がった。「アナイナに渡してくるんだろう?」「ありがとう」 アパルにアナイナ宛の手紙を渡して、ぼくは手に馴染んできたペーパーナイフで封を切る。その間にサージュがお茶を淹れてくれた。 お茶を一口、口の中を湿らせて、封筒の中身を取り出す。『クレーへ。』 丁寧に書かれているこの字はお父さんのものだ。『無事でよかった。そして、お前を受け入れてくれる町があってよかった。どこの町にいるかは聞かないよ。父さんたちは元気だから安心しなさい。お前たちがいなくなったことで何かがどうなったわけでもないから。 それから、自分を受け入れてくれた町の人のためにしっかり働きな

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  • Lv1・Maxからのまちづくり   第94話・教えること学ぶこと

     印は、四角い枠の中に朱色の羽根。線だけを全部残すんじゃなくて、羽根の内側は彫らなかった。そうすれば赤い羽根だって分かってもらえるだろうから。「良い」 師匠は一言で褒めてくれた。「町長の個人印としては十分合格点だ」 思わずガッツポーズ!「町長印のグリフォンと比べて遜色なく、並べて恥をかくようなことにはならんだろう」 よっしゃあああ! 空を見るともう夕暮れ。昼ご飯も食べずに集中して印を彫ってたんで、お腹空いた&喉乾いた。「師匠。町の子供たちが成人した時に、印の彫り方を教えてあげて欲しいんです」 ぼくは頭を下げた。「ふむ?」 師匠は難しい顔。「かなうなら、成人式の終了後に印を作る授業を」「……む、町の外へ出す者にもか?」 ……あ、まだ周知してなかった。「新成人は、スキルでどのような結果が出ても、それを理由に町の外へ出すことはありません」「む」「成人が町を出るのは、当人が望んだ時だけです。町で生まれた子供は生まれた時からこの町の者で、この町に住み続ける資格があります。犯罪を犯したり決まりを守らなかったりしなければ別ですが」「この町は町スキルが高いから、今はともかく将来的にはスキルで町民を選ぶかと思ったが」「それだけはしません」 ぼくは師匠の目を真っ直ぐに見て、断言した。「ぼくのスキルのレベルは1、上限が1です」「…………」「そのぼくが作る理想の町は、スキルなどで町民を選ばない……それが一番の原則です。町に住んで働きたい。そう思ってくれる、町に溶け込んでくれる人ならば、どんな人だろうと受け入れます」「……そうだな、でなければクイネほどの男を惜しげもなく食堂の親父になどしなかっただろうな」「だから、新しく成人となる人たちが満足できる印を彫らせてあげたいんです。あとで失敗したとかやり直したいとかいう人が減るように」「むう」「……ダメ? ですか?」「クレー町長」 ダムガ師匠は深々と頭を下げた。「新成人の印造りが失敗しないようにと言う心遣い、この儂の彫り方を自ら学びに来て、一町民にすぎぬ儂に頭を下げ、教えを乞うてくれる。ファヤンス……いやグランディールは良き町長を選ばれた」「師匠……」「いやいや、ダムガと御呼び捨てくださいませ。このダムガ・ミュヒュル、残りし人生を、町長に与えられた仕事に尽力いたしまし

  • Lv1・Maxからのまちづくり   第6話・望んでいたぼくらの小さな町

     正直、ショボい光景を覚悟して目を開けた。 所詮はレベル1Maxのスキルだ、ボロ家の一軒でも立っていれば大ラッキーという気分で。 ゆっくり開いた視線の先、眼の前にあるのは、門だった。 衛兵がいてもおかしくないような、立派な門。 左右を見れば、城壁と言ってもいい立派な塀。 エアヴァクセンよりも立派な入り口だった。「これ……は……?」「おいおい、レベル1のもんじゃないぜこれは」 盗賊団の皆さんも呆然と入口を見上げている。 アナイナだけが、自分がやったわけでもないのに得意気に胸を張っていた。「ほーら、やっぱり、お兄ちゃんじゃない」 何だその威張り方は。「い、いや、塀だけが立

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     一瞬空気が凍り付き、動き出すのに数秒かかった。「簡単に言ってくれるなお嬢さん」 盗賊団、スキル「法律」のアパルさんが苦笑した。「町を造るには、色々なスキルの持ち主が大勢集まらなければならない。まずお嬢さんは未成年だからスキルもない。そして我々もそのようなスキルはない……」「一応食事には困らないけど、洞窟の中での生活があんたに耐えられるとは思えないけどね」 スキル「食獣」のマンジェさんが不愉快そうな顔をした。確かにそうだよな、家を建てるみたいなスキルがない限り、雨風をしのげるところなんて洞窟とかしかない。聞いた限り、反エアヴァクセン盗賊団の中に家を建てられるスキルはない。「お兄ち

  • Lv1・Maxからのまちづくり   第4話・反エアヴァクセン盗賊団

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  • Lv1・Maxからのまちづくり   第3話・盗賊と出くわす

     エアヴァクセンからこの森の街道までは徒歩で約四半日。 野宿するならエアヴァクセンが見えない場所で、と言われているから、森の街道沿いで……と思ってたけど、この可愛いお荷物のせいで大急ぎで回れ右しなければならなくなった。 昨日までは親切だった警備兵さんたちからすれば、今のぼくは勝手に町に入り込もうとする放浪者でしかない。近付けば追い払われる。その傍に仮住人がいれば保護しようとするはず。場合によっては仮住人を誘拐したと思われるだろうけど、その時は全速力で逃げるしかない。 そんなぼくの思いも知らず、上機嫌でついてくるアナイナ。 ……本当に、もう。兄の事情も苦労も知らないで……。 アナイナ

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