LOGIN「ハックシッ! ……うぅ、ハックシッ!」
講義室のあちこちから冷ややかな視線が突き刺さる。教授の退屈な言葉を遮るように、時計の針は無慈悲に講義終了へのカウントダウンを刻んでいた。 ユ・ギョンホが、自分とユファンの隙間に割り込んでくる光景を想像するだけで、血管の奥で激しい嫉妬が燃え上がった。あの優雅な笑みで、軽薄にユファンの周囲をうろつく姿が脳裏に浮かぶ。 間違いなくあの男は、同じ『ユ』の姓という共通点を言い訳に、この人生でもユファンに取り入ろうとするはずだ。 クソ食らえだ、行ってやる。行って、この目で確かめてやる! ハヌルはくしゃみを周囲への言い訳にしながら、急いでバッグを掴んだ。 この人生に残された時間が少ないという現実を突きつけられるたび、彼は拳を強く握り締めた。あの男の姿を一分一秒でも長く網膜に焼き付けたいという切実な渇望。それは、爪が手のひらに深く食い込んで白くなるほどの、息の詰まるような執着だった。 *** その頃、ユファンは江南(カンナム)にある高級ペントハウスの重苦しい静寂の中にいた。リビングの窓から染み込む深紅の夕焼けが、モダンな空間をまるで新鮮な血溜まりのように赤く染めていくのを、彼はただ見つめていた。 トレーニングルームで己を限界まで追い込み、滝のような汗を流したというのに、胸の奥で煮えくり返る不穏な衝動は一向に収まる気配がない。 サンドバッグを叩くたび、雨に濡れたジャン・ハヌルのユニフォームの残像が視界を遮った。雨水が細い身体を伝い、白い生地が肌にぴったりと張り付いて、透き通るような肉体を露わにしていたあの瞬間――その記憶が蘇るたび、ユファンの拳には野獣のような破壊的な力がこもった。最初に合格のメッセージを確認した時、喉の奥から不快な渇きがせり上がってきた。土のグラウンドでジャン・ハヌルと正面から衝突せざるを得ない未来が、恐ろしいほど鮮明に予見されたからだ。
あの生意気な男の名前を反芻するたび、喉仏が鋭く痙攣した。これまで出会ったすべての捕手は、自分の圧倒的な剛速球の前に容易に屈服した。だが、ジャン・ハヌルだけは例外だった。自分の投球を完全に支配しようとするあの傲慢なリードは、まるで魂を丸裸にされたかのような、耐え難い屈辱をユファンに刻み込んだのだ。正確に一年前、冷たく無機質な手術台の照明の下で目を覚ました日、ユファンは人生で初めて『欠落』という名の毒を飲み込んだ。あの日以来、彼にとって野球は血と執念で鍛え上げた唯一の武器だった。完璧な復活を遂げ、再びマウンドに立てば、もう自分を縛るものなど何もないと信じていた。
ジャン・ハヌル……。あの生意気な小悪党が、なぜ俺の夢の中にまで現れて俺を翻弄するのだ。昨日、ユファンは酷く扇情的な夢を見た。雨の降るブルペンで、本能のままにジャン・ハヌルに襲いかかろうとする、生々しく異質な感覚。自分の脳がついに狂ってしまったのか、それとも原初的な本能の底に歪んだ性欲が潜んでいたのか、判別がつかなかった。
それは、これまでの人生で一度も経験したことのない混乱だった。完璧な家柄と容姿に恵まれた彼の周囲には、常に誘惑が絶えなかった。何でも手に入る環境にいたからこそ、何かに執着することも、激しく欲することもなかった。ただ一つ、野球を除いては。 不意の肩の負傷という絶望が野球を奪い去ったあの暗黒の時期、ユファンは初めて『喪失』と『奪還』の凄まじい重さを知った。そして今、それとは全く質の異なる『飢え』が、猛烈な勢いで彼に忍び寄っていた。ジャン・ハヌルという、計算外の存在。
他の捕手たちは、自分の剛速球を捕球することだけに必死で、その目には盲目的な憧憬しか浮かべなかった。だが、あの男だけは違った。ジャン・ハヌルのあの澄んだ、決して怯まない瞳は、ユファンの投球リズムを容赦なく破壊し、粉々に打ち砕いたのだ。 投手にとって、捕手など球を受け止めるだけの壁に過ぎないはずだった。しかし、ジャン・ハヌルは平然とその境界線を踏み越え、ユファンの内面の最も深い聖域へと侵入してきた。肉体のコンディションは最悪だった。さらに言えば、あの狡猾で不遜な捕手とバッテリーを組んだとしても、その関係が平穏に進むはずがないという絶対的な確信があった。
あの傲慢で支配的なリード。スライダー、カーブ、そして厳しいコース。ユファンのプライドをへし折り、自分を完全にコントロールしようとするあの執拗な要求。 結果として、打席に立った伝説的な先輩打者たちは、ユファンの球にバットを合わせることすらできず、秋風に舞う枯葉のように次々と崩れ去っていった。走者を一人も出さない完璧なノーヒット投球であったにもかかわらず、口の中に残る後味は不快極まりなかった。なぜなら、投げ込んだ球の中に、ユファン自身の意志は一球たりとも含まれていなかったからだ。サインを拒絶することなど容易だったはずだ。しかし、「コントロールを失った」という陰口を叩かれるのが嫌で、結局はハヌルのリードに引きずられてしまった自分自身への激しい怒りが沸き立っていた。
先輩たちをねじ伏せたのが、自分の圧倒的な力ではなく、ジャン・ハヌルの恐るべき配配の妙であったという残酷な現実が、ユファンの巨大なプライドを無残に切り裂いた。ジャン・ハヌル。待っていろ、次にお前と対峙する時こそ――。
今度こそ、お前を俺の足元で完全に叩き潰してやる。胸の中で荒れ狂うこの異質な感情が、純粋な憎悪なのか、それとも認め合うことを拒絶している強烈な引力なのかすら自覚せぬまま、ユファンは殺気を含んだオーラを纏って家を出た。
三月初頭の空気は、剃刀のように鋭く冷たかった。江南からS大へと向かうアスファルト、窓の外の景色は灰色の残像となって後ろへと流れ去っていく。 エンジンを始動させながら、ユファンはバックミラーに映る自分の顔に、冷徹で鋭い視線を向けた。酷く惨めで、救いようのない有り様だった。自身の醜く歪んだ内面、その制御不能な感情を隠すことすらできないバックミラーの中の歪んだ表情を、彼は激しく憎悪していた。一体この状況は、どんな軌道を描いているのか。病院へ行けという先輩たちの見送りもそこそこに、ハヌルはユファンの荒っぽい力に引きずられ、巨大な黒いSUVの助手席へ押し込まれた。猛スピードで流れる車窓を呆然と眺める。シート位置が高く、乗り込む際にユファンのごつい手が腰に回された。その熱い感触が、奇妙なほど鮮明に腰に焼き付いている。周囲の視線を避けるように乗り込んだものの、頭の中は先ほど受け取った黄金の名刺のことで一杯だった。[T-Management CEO:チョ・ギボム。010-XXXX-XXXX]四年生にしてスポーツマネジメント社の代表とは。将来、球界を支配しトップスターと結婚する伝説の男が、この若さでビジネスの才能を開花させていたとは。四度目の人生だというのに、こんな異変の連続には困惑を隠せない。「穴が開くほど見つめてるな。そんなに口説かれるのが嬉しいか?」ユファンの声には氷のような刃が仕込まれていた。凍りつくような殺気にハヌルは身をすくめる。あの巨星が自分を口説く? 文学でしか恋愛を知らないハヌルにとって、『口説かれる』という概念はあまりに抽象的だった。「あ、そんなわけないよ」自嘲気味な溜息。もし誰の心でも奪い去れる男がいるとすれば、それは隣でハンドルを握るこの男だろう。恋愛の達人であるユファンから見れば、ハヌルの鈍感な反応は滑稽でしかないはずだ。***ふと、前の人生でギボムがくれた奇妙なほど温かい助言がよぎる。「もし誰かが頻繁にプレゼントをくれたり、夜遅くに飲もうって電話してきたりしたら……それって口説いてるってことかな?」前の人生での態度そのものだった。それがただの友情ではなく個人的な関心だったとすれば、全ての話が変わってくる。その瞬間、ユファンの眉間が紙屑のように歪んだ。指先が白く硬直し、ハンドルを握る力が強まる。「当たり前だろ。見ず知らずの他人のために、誰がそこまで貴重なエネルギーを浪費する?」手甲に青筋が浮かぶ。なら、今こうして貴重な時間を割いて自分を病院へ送るユファンは一体何なんだ? 解けない謎に囚われ、ハヌルは横顔をじっと見つめた。自分がユファンに抱く執着がストーカーのようだと自覚した時、背筋に寒気が走った。それでも、ギボムという男は過去からずっと自分に執拗にアプローチしてきた相手だった。「もし本当にそうなら、謝
あの夢の中の豪雨にずぶ濡れになったせいで、現実でこれほどまでに混乱が生じているのか? 全くもって馬鹿げていて情けない話だ。チェ・ウヒョンのからかい混じりの温かい提案に、ハヌルの長い睫毛が激しく震えた。同期への深い愛着だって? 誰が? あの冷徹で残忍な暴君、ユファンが?混乱と鋭い警戒心が入り混じった瞳でユファンを見上げたハヌルの手首を、ユファンは驚くほど冷静な表情で、より強く、砕けそうなほどに掴んだ。そして、先輩に向かって冷淡に言い放った。「……分かりました。俺が連れて行きます」承諾の返事。ハヌルは自分の耳を疑った。ほんの数分前まで嫌悪感を露わにし、牙を剥いていた危険な男が、大人しく自分を病院まで送るなんて。これは間違いなく、何か別の卑劣な意図を隠すための仮面に過ぎない。ハヌルのぎこちない笑顔の裏で、冷ややかな不安が胸의 奥底まで這い上がってきた。だが、この奇妙で慣れない感覚は何だろうか?先輩たちの熱い視線がようやく遠ざかった後も、ユファンはハヌルの手首を頑なに離さなかった。その熱い体温が、ハヌルの蒼白な肌を侵食し、直接血管へと流れ込んでくるようだった。ユファンの燃えるような体温がハヌルの脈拍を不規則に乱し、まるで消えない烙印でも押すかのようだ。二人の身体の間に漂う、息が詰まるほど重苦しい緊張感が、ハヌルの論理的な思考を完全に麻痺させていた。あいつに、意外と優しい一面があるのか? いや、それは絶対にあり得ない。不安定な感情に飲み込まれながら引きずられていたその時、ダッグアウトの入り口に、背の高い男の長く不気味な影が落ちた。気だるげで、それでいて妙に威圧的な声が空気を切り裂く。今日、一体どれだけの運命の主人公たちがぶつかり合うのか。新たな嵐の予感に、ユファンがハヌルの手首を握る力はさらに残忍なほど強まった。***たかがくしゃみ一つで、これほどの過剰なVIP待遇を受けるとは。野球部全員の過剰な関心に居たたまれなくなったハヌルは、一刻も早くこの閉鎖的なダッグアウトから逃げ出したかった。ダッグアウトに足を踏み入れた男は、S大のユニフォームではなく、ライバルの大学の洗練されたトレーニングウェアを纏っていた。マウンドで恐怖すら感じる速球を投げ込んでいた、あの投手だった。高くそびえ立つような長身、完璧에 鍛え上げられた肉体、そして男らしさが滲み出る鋭い目
それは奇跡を通り越し、完全な詭弁だった。一体あの夢の中で何をしたから、現実のユファンがこれほど殺気立ち、「つきまとうな」などと警告してくるのだろうか。数時間前、暗闇の中で激しく息を荒らげ、ハヌルを追いつめていたあの獣のような熱情はどこにもない。ただ氷のように冷たい視線が、ハヌルの胸をズキズキと痛めつける。過去三度の人生を振り返ってみても、ユファンがこれほど鋭い防衛本能を剥き出しにしたことはなかった。(まさか……あいつ、夢を自覚しているのか?)ハヌルは震える心臓を必死に落ち着かせた。本当なら、誰のせいでベンチに居座っているのかと、ユファンの胸ぐらでも掴んで問い詰めたかった。この四度目の人生で生き残ることができれば、ユファンの未来には輝かしい花道が約束されている。メジャーリーグの広大なマウンドでさえ、あの怪物の才能を収めるには狭すぎるはずだ。その未来のためにも今のうちに先輩たちと円満な関係を築くべきだが、奴の独裁的な本性は何度人生を繰り返しても丸くなる気配がなかった。「それなら、あんたはここで休んでろ。俺はウォーミングアップに行ってくる」ハヌルはこの息詰まる緊張感を断ち切り、先に立ち上がった。肌をかすめる視線から這い上がってくる奇妙な熱に、これ以上耐えられそうになかった。その瞬間、ユファンが不機嫌に眉をひそめて鋭く言い放った。「座れ」低く地を這うような命令口調が耳を刺す。その圧倒的な威圧感に、ハヌルは思わず再びベンチに腰を落としてしまった。身体を縛り付けるかのような高圧的な態度に、心臓が激しく脈打つ。しかし、捕手としてグラウンドの流れを無視するわけにはいかない。ハヌルは強引にユファンの気配を振り払い、身体を背けた。「ノックの球拾いくらいは手伝わないと……ハックシッ! ハックシッ!」距離を置こうとした矢先、無情にも連続したくしゃみが飛び出した。夢の中の豪雨に打たれた後遺症が、現実の肉体を容赦なく侵食しているようだった。激しく響いたくしゃみの音に、グラウンドの活気ある声が一瞬でピタリと止まった。練習に没頭していた先輩たちが一斉に動きを止め、ダッグアウトへと顔を向けた。そして、彼らは大挙してハヌルのもとへと押し寄せてきた。(最悪だ……)降り注ぐ視線の重圧に息が詰まりそうだった。先輩たちは過酷な練習から逃れる口実を見つ
人目のつかない、薄暗く湿った秘密のコーナー。昨夜の淫らな妄想が鮮明に脳裏をよぎるたび、疼く下半身が待っていたかのように反応し始める。(狂っている……! 頭の中も体も、あの生臭い小悪党に支配されている。俺は本当に頭がおかしくなったのか!)ユファンは目の前の鉄製椅子を粉々に打ち砕かんばかりに、拳を強く握り締めた。決して放蕩な色好みの男ではないというのに、夢の中でジャン・ハヌルに犯した破廉恥な行為の記憶が、頬を灼熱の熱さで染め上げる。理性も本能も、ジャン・ハヌルという罠に囚われて完全に麻痺していた。荒い息を吐きながら、ユファンは湧き上がる熱を抑え込み、ユ・ギョンホに向かって冷酷な拒絶を言い放った。「入部したばかりの俺が、3年のレギュラーの先輩にいきなり受けてもらうわけにはいきません」「何だって?」ユ・ギョンホは呆然と両腕を落とし、ユファンを凝視した。「1年の新人捕手、ジャン・ハヌルが来たら始めます」ユファンの声には、剃刀のような殺気がこもっていた。ギョンホは呆れたようにミットを叩いて鼻で笑ったが、その音はユファンの耳には届かない。ユファンの視線は、ジャン・ハヌルが現れるはずの方向だけに、執拗に固定されていた。***「ハックシッ!」講義室のドアを飛び出た瞬間、過去の人生で鍛え上げられたハヌルの筋肉が、深く刻まれた記憶を呼び覚ますように爆発的なスピードを叩き出した。人生を繰り返すたびに身体能力が飛躍的に向上していくという、奇妙で歪んだ祝福。前世での血の滲むような訓練が、本当に魂に蓄積されているのだろうか。それはあまりにも残酷な奇跡だった。短距離走者として生きた最初の人生の本能が、この切迫した瞬間に鮮烈に輝く。ユファンがユ・ギョンホとバッテリーを組み、息を合わせる姿など、死んでも見たくないという幼稚な嫉妬心が、彼を全力走らせていた。キャンパスの学生たちがモーゼの奇跡のように左右に割れ、道を作る。後頭部に突き刺さる無数の視線など、今の彼にはどうでもよかった。(あの野獣は、ウォーミングアップのために1時間早く来ているはずだ。今すぐ行けば、ユ・ギョンホが割り込む前に俺が奴の球を受け止められる)「ユ・ギョンホと絡んでいませんように……」肺が引き裂かれそうな苦痛の中でも、ハヌルの心臓は不安で激しく跳ね上がった。バシッ!遠くのグラウンドの奥
S大へ向かう道中、ユファンの内臓は終始きつくねじ切られるように疼いていた。ステアリングを握る手のひらは冷や汗で濡れ、網膜に焼き付いたジャン・ハヌルの残像を消し去ることができない。彼は苛立ちをぶつけるようにアクセルを強く踏み込んだ。頭の中は、今も完全にジャン・ハヌルに支配されている。これほど無様に振り回されている自分自身に、激しい怒りが湧き上がった。ハヌルのリードは単なるサインの羅列ではなかった。それはまるでメスのよう 打者の脳内を精密に解剖し、その心理を容赦なく削り取るものだった。ハヌルのミットという糸に操られる人形に成り下がったかのような息苦しさは、マウンドを支配すべき怪物であるユファンのプライドを無残に引き裂いた。世界がかつて見たこともないような、完璧な捕手。打撃メカニズムを見抜く冷徹な洞察力と、計算され尽くしたベースランニング。まるで百戦錬磨のプロ選手がアマチュアの舞台に舞い降りたかのようだった。しかし、今ユファンの心をかき乱しているのは野球の技術だけではない。男の論理を麻痺させるあの奇妙で扇情的な存在感そのものが、彼にとっては致命的な毒だった。無垢にすら見える肌に落とされた長い睫毛の影が、ユファンの乾いた心を容赦なく揺さぶる。初めて視線が交わした瞬間から、奴をこの手で掴んでねじ伏せ、泣き叫ばせたいという衝動が激しく突き上げていた。生まれて初めて直面するこの生々しく原始的な欲望は、もはや制御できない野獣へと急速に形を変えつつあった。「触れられてもいないというのに、俺は一人で完全に崩壊してしまったのか」昨夜、奴の残像だけで果ててしまった残酷な後味が、猛烈な屈辱と惨めさを彼に刻み込んでいた。なぜ、よりによってあんな奴なのだ。奴の肉体を激しく貪り、あの清らかな魂を徹底的に汚してやりたいという破壊的な衝動が自分を侵食していく。あの淫らな夢の重苦しい余韻は、あの存在がいかに危険で魅惑的であるかを証明する消えない烙印のようだった。合格通知を受け取ったジャン・ハヌルも、今日ここへやってくる。ついに正面から衝突する時、どんな仮面を被ればいいのだろうか。生まれて初めて味わう正体不明の恐怖が、彼の全身を包み込んでいった。もしこの異常な執着が見透かされ、奴に底知れぬ嫌悪の目を向けられたら……。その最悪な可能性を想像するだけで、ユファンの胸は冷たく凍りついた。
今頃、ユファンも合格通知を受け取り、一足早くグラウンドへ向かっているに違いない。もし俺があそこへ行かなければ、奴の球を受け止めるのは経営学科3年のユ・ギョンホになってしまう。その存在を浮かべた瞬間、ハヌルの胃の腑が雑巾のようにねじ切られた。ユ・ギョンホ――巨大財閥の末息子であり、洗練された物腰で全女子学生の憧れを一身に集める男。あぁ、本当に、反吐が出るほど嫌だ。あの二人が並び立ち、互いを見つめ合う姿など死んでも見たくはない。しかし、先日ブルペンで交わしたあの息の詰まるような対峙の残像が、今も執拗に彼の胸を圧迫していた。「ハックシッ! ……うぅ、ハックシッ!」講義室のあちこちから冷ややかな視線が突き刺さる。教授の退屈な言葉を遮るように、時計の針は無慈悲に講義終了へのカウントダウンを刻んでいた。ユ・ギョンホが、自分とユファンの隙間に割り込んでくる光景を想像するだけで、血管の奥で激しい嫉妬が燃え上がった。あの優雅な笑みで、軽薄にユファンの周囲をうろつく姿が脳裏に浮かぶ。間違いなくあの男は、同じ『ユ』の姓という共通点を言い訳に、この人生でもユファンに取り入ろうとするはずだ。クソ食らえだ、行ってやる。行って、この目で確かめてやる!ハヌルはくしゃみを周囲への言い訳にしながら、急いでバッグを掴んだ。この人生に残された時間が少ないという現実を突きつけられるたび、彼は拳を強く握り締めた。あの男の姿を一分一秒でも長く網膜に焼き付けたいという切実な渇望。それは、爪が手のひらに深く食い込んで白くなるほどの、息の詰まるような執着だった。***その頃、ユファンは江南(カンナム)にある高級ペントハウスの重苦しい静寂の中にいた。リビングの窓から染み込む深紅の夕焼けが、モダンな空間をまるで新鮮な血溜まりのように赤く染めていくのを、彼はただ見つめていた。トレーニングルームで己を限界まで追い込み、滝のような汗を流したというのに、胸の奥で煮えくり返る不穏な衝動は一向に収まる気配がない。サンドバッグを叩くたび、雨に濡れたジャン・ハヌルのユニフォームの残像が視界を遮った。雨水が細い身体を伝い、白い生地が肌にぴったりと張り付いて、透き通るような肉体を露わにしていたあの瞬間――その記憶が蘇るたび、ユファンの拳には野獣のような破壊的な力がこもった。最初に合格のメッセージを確認した時、