LOGIN(ゴーレムって、こんなにあっさり倒せるものなのかな……?)
エレナの少し間の抜けたような心の声が、私の内に響く。 他愛もない思考。だが、それも束の間の平穏だった。 (どうだろうな。だが、本職の魔人が相手ならば――) 私が内心で応じようとした、その時だ。 「――ッ!」 殺気、というにはあまりに純粋な闘気。肌を粟立たせる鋭い気配が、脳髄を直接刺した。 咄嗟に頭上を見上げれば、逆光の太陽を背負った影が、既に剣気を振り下ろす瞬間だった。 光の中、死線だけが閃きとなって迫る。 刹那の交錯。振り上げた我が剣が、見えざる刃と衝突し、甲高い金属音と共に火花を散らす。腕に走る痺れ。びりびりと空気が震える感触。まだ、敵の姿は見えない。 だが、そのシルエットは――どこか見覚えのある……。 「何者だ」 剣先を向け、低く問う。 雪のように白い髪。血を吸ったかのように赫い瞳。 まるで鏡に映したもう一人の私。そんな錯覚を覚えるほど、その男は私と似た気配を纏っていた。 (こいつ……私に似ている) (う、うん……) だが、その装いは異質だ。寸分の隙もなく着こなされた黒いスーツに、鮮烈な赤いワイシャツ。そして右手には、抜き身の一本の刀。あれはただの武器ではない。その反り、長さ、そして刀身が纏う“業”の深さ。幾度もの死線を越えてきた、斬り合いに特化した本物の業物だ。 そして何より、この男――今まで対峙したどの敵よりも、“強い”。 全身の細胞が、最大級の警鐘を鳴らしていた。 「なぜ、私を狙う」 「………」 男は答えない。だが、その刀身から放たれる気配に、不思議と“殺意”は感じられなかった。 ……ならば、語るまでもない。答えは、力で引きずり出すのみ。 静かに剣を中段に構える。数瞬の睨み合い。 先に動いたのは、私だった。 初手、袈裟斬り。水が流れるごとき円滑な軌道で、男の右肩口へと斬り込む。 男は僅かな身じろぎでそれを回避。その動きには一切の予備動作がない。返す刀で、閃光のような斬撃がこちらへ迫る。 (速い――!) コンマ数秒の差。身をひねり、刃が皮膚を掠める感触を味わいながら紙一重でそれを躱す。 だが、男は体勢を立て直すや否や、獣のような俊敏さで再び突貫してきた。石畳を蹴る音もなく、猛烈な速度で放たれる横一文字。 私は跳躍。宙を舞いながら男の動きを捉え、一瞬、逆さまの視界の中でその赤い瞳と交錯する。 「はッ!」 落下の勢いを利用し、男の左側頭部めがけて鋭い蹴りを放つ。 「……っ!」 男は咄嗟に左腕でガードするが、衝撃までは殺しきれない。その身体が、まるで巨石に打ち付けられたかのように吹き飛び、石畳の上を滑るように弾かれていく。 勢いそのままに背中から建物の壁へと激突し、骨の芯まで響くような鈍い打撃音が辺りにこだました。 壁の表面に亀裂が走り、砕けた石片が宙に舞う。 「ぐっ……!」 この隙を見逃す私ではない。 着地の反動を即座に殺し、再び跳躍。今度は刺突。切っ先の一点に全神経を集中させた、鋭く、正確無比な一撃だ。 「……!」 男はまたも紙一重でそれを避ける。その反応速度、常軌を逸している。 (やはり避けるか) だがそれも、想定の内。 私の剣が、男が背にしていた壁へと深々と突き刺さる。ほんの一瞬、こちらの動きが止まる。 (来る――) 敢えて見せた、必殺の好機。男がこれに反応することは、既に読んでいた。 「そこだ!」 男の刀が動くよりも早く、壁に突き刺さった剣を軸に体を独楽のように回転させる。遠心力を乗せた回し蹴りが、狙い澄ましたように男の顔面を鮮やかに打ち抜いた。 先ほど以上の衝撃。肉を打つ生々しい音と共に、男は壁へとめり込むようにして弾き飛ばされた。 砕け散る壁材。もうもうと立ち込める粉塵。 私は次の一手を思考しながら、静かに距離を取った。 (だ、大丈夫…!? ) エレナが心配そうに声を震わせる。 (ああ。だが……こいつは手強い。正直、今の攻防もギリギリだった) 「……ぐっ……」 粉塵の奥で、男は壁からずり落ちるようにして身を起こし、頭を押さえている。蹴りの衝撃で三半規管が揺さぶられたか。その足取りは僅かに覚束ない。 だが、その赤い瞳が次に捉えたのは――地面に虚しく転がる、自らの刀だった。 男が再び刀に手を伸ばす。その指先が柄に触れた、その刹那―― 空気が凍りついた。 鼓膜を劈く雷鳴。青白い稲光が空間を奔り、辺りの景色が一瞬歪んだ。男の足元から迸った雷光が、瞬く間にその全身へと駆け巡る。 皮膚を直接這う電流が深層の筋肉まで強制的に収縮させ、黒いスーツの上からでも、その肉体が異様に膨張していくのが見て取れた。 刀身が青白く輝き、雷の魔力が激しく迸る。 (まずいな……) (え!?) エレナの声が裏返る。 (今までは、読み合いと間合いの利で捌けていた。だが、これほどの身体能力差を覆すのは至難の業だ) (あ……! そっか……私の体、だもんね……!!) (それに、あの雷――全身の細胞を強制的に活性化させ、神経伝達速度すら異常なレベルに引き上げている。もはや剣技だけでは……) (ど、どうするの!?) (……正直に言おう。私の剣術だけでは、もう追いつけん。エレナ、援護を頼む――) (わ、わかったっ! いくよっ……!) エレナの澄んだ祈りが、私の握る剣に集束していく。 刹那、刃が温かな金色の祝福に包まれ、続いて身体全体が柔らかな光のヴェールを纏った。 「…………!?」 エレナにしか使えない“祝福の光”。使い手の筋力を増強し、防御力を飛躍的に高める聖なる加護。 戦闘の基礎能力を底上げする純粋な支援魔法。反応速度や視覚そのものを強化するわけではない。 ――だからこそ、研ぎ澄まされた技術でその差を補うしかない。今まで以上に、五感を鋭敏に。 (……ふむ。これで、ようやく五分に持ち込めたか) そう結論づけた瞬間、男が雷そのものと化したかのような軌道を描き、再び突撃してきた。その速さ、もはや光の残像――! (くっ……見えない……!) 奴の動きが速すぎて、もはや視覚は頼りにならない。 だが、その闘気は一点に集中する。“視線”が、私の喉元を正確に捉えている。 一瞬の判断。 私は上体を紙一重でのけ反らせ、喉笛を狙った横薙ぎを回避する。すかさず、背後の壁を蹴り、駆け上がるようにして上空へとさらに回避。 宙に上がれば、相手の軌道は必然的に私の元へ飛んでくる。そして、その読み通りに、男もまた雷光の如き突進で即座に追撃してきた――! 「っ……!」 咄嗟に振り上げた剣が、辛うじてその一撃を弾き返す。互いに、空中で一瞬の無防備を晒す。 ――まだ手はある。 私は空中で身を翻し、しなやかな鞭のように両脚を繰り出す。それは正確に男の頭部を両側からがっちりと捕らえた。 逃さぬとばかりに首を支点とし、私は自らの身体を独楽のように鋭く反転させる。遠心力で男の身体が逆さまに持ち上がり、そのまま円弧を描くように振り下ろし―― 「はぁぁっ!!」 男の頭部を、石畳めがけて凄まじい勢いで投げつけた。 街中に轟く、激しい衝撃。地面が蜘蛛の巣状に砕け散るのが、スローモーションのように見えた。────エレナの視点──── 石造りの螺旋階段を、私たちは息を切らしながら駆け上がっていた。 ごつごつとした壁が、手に持つ灯りの光を不気味に反射している。下層から響いていた激しい戦闘音は、もう聞こえない。石段を踏みしめる足音と、荒い息遣いだけが、神殿の静寂を破っていた。 「グレンさん、大丈夫ですかね……!?」 ミストさんの不安そうな声が、静寂に包まれた階段に響いた。その声には、仲間への深い心配が込められている。 「……きっと、大丈夫!」 何の確証もない。けれど、私の胸の奥で、温かい光のようなものが「大丈夫だ」と囁いていた。それは昔から私の中に宿る、聖女としての直感のようなもの。 「私の直感が、そう告げてるの!」 「えぇ!? そ、そんな直感が……!?」 ミストさんが驚きの声を上げる。 (私も原理は分からんが……エレナには、その力が間違いなく備わっている。運命そのものを、その祈りの力で強引にねじ曲げてしまうような、不思議な力がな。だから、今回もきっと大丈夫だ) エレンの声が、私の内側で静かに響いた。 (うん……!) 彼の言葉が、私の直感を後押ししてくれる。 「それなら良いが……慢心はするなよ」 シイナさんが、冷静に釘を刺した。 「未来が見えるからと、それに胡坐をかいて行動するようでは、今の暗明の聖女と何も変わらないからな」 「……うん、そうだね。私は、この直感を絶対に正しいなんて、傲慢なことは思わないよ」 私にできるのは、この直感を信じつつ、でも決して過信しないこと。神様のお導きを感じながらも、自分の足で歩むこと。 「そこが、エレナさんの素敵なところですね」 シオンさんが、静かに微笑んだ。 その時、長く続いた階段が終わり、私たちの目の前に、だだっ広い広間が見えてきた。天井は高く、月光が差し込む窓から、青白い光が石床を照らしている。 「きっと、ここにも残りの騎士が待ち構えていることだろう」 「その時は、私が残ります」 シオンさんの言葉に、ミストさんが待ったをかける。 「いやいやいや! そこは私でしょうー!!」 「……?」 シオンさんが、心底不思議そうに首を傾げた。 「そのお顔はなんですかァァ!?」 「いえ……だってあなたは、戦いがあまり得意な方ではないでしょ
**────エレナの視点────** 「じゃあ皆、各々準備してくれ。五分後にはここを出て、リディアさんを助けに行くぞ」 シイナさんの力強い言葉に、私たちは一斉に頷いた。この小さな家の中に、静かだが確固たる決意が満ちている。みんなの表情に迷いはない。先ほどまでの混乱が嘘のように、今は一つの目標に向かって心が結束していた。 五分という短い時間の中で、私たちはそれぞれの装備を確認し、心の準備を整える。月光が窓から差し込み、武器の金属部分を青白く照らしていた。この静寂が、嵐の前の静けさのように感じられてならない。 「準備はいいか? 今回、ジンが大方の騎士は無力化してくれたという話だ。恐らく…すぐに四騎士との戦闘になるだろう」 シイナさんの声に緊張が走る。四騎士——この国の最強戦力との戦いが待っているのだ。 「ここの騎士たちの数は多かったからね。でも、気を付けて」 ジンさんが軽やかに言葉を続ける。 「流石に全部を倒すわけにもいかなかったから、十人程度は残ってるはずだから」 「それでも、そんなに多くの騎士を戦闘不能にするなんて……」 私は驚きを隠せなかった。一人でそれほどの騎士を相手にするなんて、どれほどの実力者なのだろう。 「はは、聖女様に褒めてもらえるなんて。なんだか嬉しいよ」 ジンさんの表情に、子供のような無邪気さが浮かんでいる。しかし、その奥に潜む何かが、私の心に小さな不安を芽生えさせた。 「ね、念の為に聞くのですが……殺しはしてないですよね……?」 恐る恐る尋ねた私の質問に、ジンさんの表情がふっと変わった。まるで別人のような、冷たい光が瞳に宿る。 「……剣を抜いた以上、お互いの命が尽きるまで刀を振り合うべきだと僕は思っているんだ」 その一言に、背筋が凍りつくような恐怖を感じた。ジンさんの声音には、戦いへの狂気じみた情熱が込められている。私の心臓が、ドクドクと激しく鼓動を刻んでいた。 「でも……今回は大丈夫。殺してないよ」 そう言って見せる笑顔は、まるで何事もなかったかのように穏やかだった。しかし、その急激な変化が、かえって不気味さを増している。 (今回は……? ということは、普段は……?) 心の奥で、暗い想像が渦巻いていた。 * * * 五分後。静寂を破って、私たちは行動を開始した
**────エレナの視点────**「という訳なんだ」ジンさんの軽やかな口調で語られた残酷な現実に、私の心は氷のように凍りついてしまった。リディアさんが捕らえられて、処刑される。その事実が、どうしても受け入れることができなかった。「そ、そんな……嘘ですよね??」私の声が震えている。まるで悪夢から覚めたいと願うかのように、その言葉にすがりついた。「……こんな時に嘘なんてつかないよ」ジンさんの飄々とした口調が、現実の重さをより一層際立たせる。「……くっ!!!」シイナさんが拳を強く握りしめ、歯を食いしばっている。その青白い顔に、激しい怒りと悲しみが刻まれていた。「皆は先にこの国を脱出してくれ……!俺は……俺はリディアさんを助けに行く!!」シイナさんが勢いよく立ち上がり、扉に向かって歩き出そうとする。その瞳に宿る決意の炎は、誰にも止められないほど激しく燃えていた。「待てよ!!そんなの俺たちだって同じ気持ちだ!」グレンさんが力強く立ち上がる。彼の声には、シイナさんに負けないほどの強い意志が込められていた。「ええ……彼女には計り知れないほど多大な恩があります。なので……グレンと私でリディアさんを救出に向かいます」シオンさんの顔に、鋼のような決意が浮かんでいる。「シイナ、あなたこそエレナさんやミストさんと共に先に脱出してください」「だめだ!今回はパーティリーダーの責任として、俺が行く!」「シイナ!」「俺が、彼女を助けてすぐに戻ればいいことだろう!」「おいシイナ!俺がやられたテッセンとかいうやつの事を忘れたわけじゃないだろ!?少し落ち着け!」三人の激しい言い争いが、小さな家の中に響き渡る。誰も一歩も引かない様子で、感情のままに言葉をぶつけ合っていた。「あわわわわ……みなさん!こんな時に言い争ってる場合じゃないですって!」ミストさんが慌てて三人の間に割り込もうとするが、激しい感情の渦に巻き込まれ、弾き飛ばされてしまう。「ぎゃー!!」(みんな……冷静さがすっかり抜けて、これじゃあ救える命だって救えないよ……!)(それに……私だってリディアさんを助けたいのに……)私の心の中で、やりきれない想いが渦巻いている。みんなの気持ちは痛いほど分かるけれど、このままでは誰も救えない。そう考えていた、まさにその瞬間だった。私の意識が、まるで深い
**────ジンのの視点────** やる気か、と。僕は心の中で、小さく呟いた。 ここは冒険者ギルド。依頼と情報が交差する、いわば中立の聖域だ。そんな場所で騎士が刀を抜き、殺し合いを演じようというのだから、面白い。実に、面白い。 僕は向かってきた騎士の剣戟をいなすどころか、その勢いを逆に利用して体ごと弾き飛ばした。空中で無様に体勢を崩した彼の喉笛へ、僕は逆手に持ち替えた刃を、まるで吸い込まれるかのように滑らせる。「がぁっ……!」 声にならない呻きを漏らし、騎士が床に崩れ落ちた。口からごぼりと泡を吹き、痙攣する手足が、彼の命が尽きかけていることを示している。 仲間の一人が一瞬で無力化されたというのに、残された騎士たちは状況が飲み込めていないらしい。驚愕に見開かれた目が、滑稽なほどにこちらを向いていた。「き、貴様っ! 正気か!?」「あはは、面白いことを言うね、君。先にその物騒な鉄の獲物を抜いたのは、そっちじゃないか」「そ、それにしてもだ! 我々騎士に刃向かうなど、あってはならないことだぞ!?」「残念だけど、僕はそんな立派な冒険者様じゃない。僕はジン。世界を渡り歩く、ただの傭兵だからね」「ジン……!?」 その名に、騎士の一人が息を呑んだ。どうやら僕の名も、多少は裏の世界に知れ渡っているらしい。「くそっ……! やられて黙っていては、騎士の名が廃る! こいつも捕縛しろ!」 別の騎士が、その手に蒼い水の魔力を纏わせながら、僕へと突進してくる。ギルドの中で属性魔法を放つ? ああ、本当に、愚かだな。「はぁ……後悔しても、知らないよ」 僕は腰に差した愛刀「雪月花」の鯉口を切ると、一閃、抜き放った。 (鳴神式抜刀術――神威の型。) 空気を切り裂く音だけが響き、騎士の右腕が、ごとり、と鈍い音を立てて石床に転がった。「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!!! お、俺の腕がァァァァッ!!」 やかましいね。腕の一本や二本、飛んだくらいで喚くなんて。自分から仕掛けておきながら、いざ返り討ちに遭えば獣のように吠え立てる。弱者の典型だ。「お、お前……! 自分が何をしたか、分かっているのか!?」「さっきも言ったはずだよ。先に始めたのは、そっちだってね」 僕は刀身に付いた血を振るい、ゆらり、と笑みを浮かべた。「まだまだ足りないな。……もっと、殺り合おうよ」 ああ、い
(この声に気配……覚えがある)エレンの意識が、私の奥底で警戒の炎を燃やし始める。(私もそう感じてた……なんだか、すごく(身に覚えがあるような……)(確か、夜の街で我々を襲撃してきた傭兵……名は確かジン……と言ったか)その名前を耳にした瞬間、あの記憶が、鮮血のように鮮やかに脳裏へと蘇ってきた。霊たちが彷徨う夜の街で、昼間の平穏な探索が一変した瞬間。突如として現れた謎の傭兵——。その圧倒的な実力は私には理解の範疇を超えていたけれど、エレン曰く、これまで戦った敵の中でも別格の強さを誇っていた……と。(そ、その人がなんでこんな場所に!? まさか、私たちを追ってきたの!?)(さあな。だが……敵意は微塵も感じられない。それに何か重要な情報を知っているようだ)(ここは一か八か、直接対峙してみるのも選択肢の一つだろう)「エレンが敵意は感じないから……出てみるのも一つの手だって……」私はシイナさんに、内心の不安を隠しながらそう告げる。「敵意を感じない……か。グレンもミストも意識を取り戻したことだし、直接話してみるか?」シイナさんの声に、慎重な判断力が込められている。(ああ、そうしてみてくれ)「そうして見てほしいって……」エレンの助言をそう伝えると、シイナさんが深く頷き、警戒を込めて扉の前へと歩を進めた。「何用だ」シイナさんの声が、扉越しに響く。「あれ、やっぱりいるんじゃないですかー」その飄々とした口調に、底知れない余裕が滲んでいる。「やあ、僕はジン。リディアっていう方からの重要な伝言があるんだけど、扉を開けてもらえないかな?」「残念だが、こちらにも複雑な事情があってな。このままでお願いしたい」シイナさんの慎重な対応に、扉の向こうから軽やかな笑い声が響く。「……あーそっか、いまこの国から追われてるんだっけ。それなら心配しなくていいよ」「大体の騎士は僕が片付けたから」「な、何だと!?」シイナさんの声が、驚愕に震える。「えっ!??」私も思わず声を上げてしまった。「ま、待て! この国の騎士一人一人は精鋭と言っても過言ではないほどに優秀だ。それをお前は単身で制圧したというのか?」「はは。まぁ確かにこの国の騎士はよく鍛錬されていたね。でも、僕も実力には自信があるんだ」その軽やかな口調で語られる内容の恐ろしさに、私たちは言葉を失った
**────エレナの視点────**次の日。「みなさん!!!!本当にご迷惑をおかけしました!!!」「本当に面目ねぇ……!!!今回迷惑かけた分は、必ず挽回するぜ!」二人が目を覚ましたんだ。あんなに傷だらけで、ずっと目を覚まさなかったグレンさんも元気になって、本当に良かったと思う……。でも……。聞かないといけない。二人に、何があったのか。「それより……二人に何があったんですか?なんで……グレンさんはあんなに傷だらけだったんですか……?」私がそう尋ねると、グレンさんが急に口を噤んでしまう。数秒の重い沈黙が部屋を支配すると、やがて言いにくそうにグレンさんが口を開き始めた。「お前たちが情報収集に行った数時間後、とんでもなく強い奴が現れたんだ」「とんでもなく強い奴?」シイナさんの声に、緊張が走る。「ああ。全身に見たこともない鎧を着て、刀を使っていた」(見たこともない鎧に刀……か)エレンの声が、意識の奥で静かに響く。「そいつは……全く俺の攻撃が通じなかった」「なに!?グレン、お前の攻撃がか!?」シイナさんは心底驚いたような様子を見せる。グレンさんの実力を知っている彼だからこその驚きだった。(…………)エレンが沈黙している。何かを考えているみたいだ。「ああ、正直全く底が見えなかったぜ。戦ってる感触としては……エレンに近かったかもな」「エレンに……?」私の声が震える。エレンと同じくらい強いなんて……。「それは……かなり厄介そうですね」シオンさんの美しい顔に、珍しく深刻な表情が浮かんでいる。「厄介なんてもんじゃねぇよ。あいつは俺の攻撃を全部受け止めやがった」グレンさんは、私たちのパーティ内でも屈指の攻撃力を持つ







