LOGIN後方へ大きく跳躍し、男との間合いを切りながら着地する。舞い上がった土埃が、静寂の中でゆっくりと落ちていった。
「はぁ……っ、はぁ……」 荒い呼気が、私の喉から堰を切ったように漏れる。肺が灼けるように酸素を求め、心臓が警鐘のように高鳴っていた。エレナの身体が、限界だと悲鳴を上げている。 (エレンが……こんなに息を切らすなんて……本当に、ギリギリだったんだね) エレナの心配そうな声が、意識の隅で微かに響く。 (ああ。この男…今まで対峙したどの敵よりも、桁違いに強かった。技も、速さも、あの雷の力も。だが――) 「今回は……私の勝ち、だな」 静かに、しかし揺るがぬ事実として、私はそう呟いた。 「うっ……参った、参った。まさか、こうも一方的に捻じ伏せられるとはね」 瓦礫から身を起こした男――ジンが、肩を回しながら苦笑する。その表情から、先程までの闘気は消え失せていた。 「問い質したいことがある。なぜ、いきなり私に斬りかかった?」 「んー、仕事でね。君たちの実力を測って欲しい、と。そういう依頼だったのさ」 (実力を測る……だと?) 眉間に、自然と力がこもる。 「殺意がなかったのは理解している。だが……誰だ? そのようなふざけたた依頼をしたのは」 正直に言えば、こいつとの戦いは――悪くなかった。武人としての血が騒ぐような、久しぶりの焦燥と高揚感。それを味わえたのは確かだ。 だが、それは私が相手だったからだ。もし、あの初太刀の相手がエレナ本人だったらと思うと、思考の片隅で、冷たい何かが静かに燃え上がった。 私の視線が射抜くように鋭くなったのを、ジンは感じ取っただろう。 「うわっ……すごいプレッシャーだ。いやはや、依頼主からは“聖女様一行”としか聞いてなくてね。こんな規格外の達人がいるなんて、完全に想定外さ」 ジンはわざとらしく両手を上げ、降参のポーズをとる。 「君と、あのゴーレムとの戦闘が遠目に見えてね。あまりに見事だったから、つい血が騒いでしまったのも事実かな」 (つい、でこの人は斬りかかって来たの……?) エレナが呆れたような声を出す。 (……いや。この男の技量ならば、万が一君が避けきれずとも、寸でのところで峰打ちに切り替えるか、太刀筋を逸らすことは可能だっただろう。だが、それでも万が一の可能性を考えれば……許容できるものではない) 「それで? 依頼主の名は」 私の声は、自分でも分かるほどに低く、冷え切っていた。 「ベルノ王国魔法研究所の“所長”……と名乗っていたかな」 (えっ……!?所長さんが!?) (研究所の所長だと――?) あの掴みどころのない男の顔が脳裏をよぎる。(何のために、我々の力量を測る必要があった?) (禁足地に行くに値するか、力量を測った……とかかな?) 「ただ、今の君たちがどれほどのものか見てきてくれ、とね。僕はそう頼まれただけで、詳しい事情までは知らない」 その言葉に嘘の色は……見受けられない。彼の纏う雰囲気からも、戦意は完全に消えている。 私は静かに剣を鞘へと納めた。金属が擦れる冷たい音が、やけにクリアに響く。 (まずいかもしれん。あの所長に、エレナが見当たらず、何故か“私”がここにいたと知られるのは……) (あっ……!!確かに……!!) あの男の底知れぬような知的さを考えれば、そこから私とエレナの“関係性”にまで勘付かれる可能性は十分にある。 (うーん……あの人、何を考えてるか全然読めないもんね。でも、エレン。ここは勝者の権利として、“今日のことは見なかったことにしてもらう”って持ちかけてみるのはどうかな?) (ふむ……一理あるな) エレナの提案は、冷静で的確だ。試す価値はあるだろう。 「それにしてもさ」 ジンが不意に口を開いた。 「他の三人はともかく――まさか噂の聖女様が、こんな途轍もない“秘密”を抱えていたとはね。驚いたよ」 (……っ!) この男、やはり気づいているか。ならば尚更、このまま無条件で帰すわけにはいかない。 「……おい」 「ん?」 「私が勝った。それについては異論あるまい。ならば、勝者としてこちらの要求を一つ、飲んでもらおうか」 言葉と共に、私は再び闘気を練り上げ、無形の圧としてジンへと放つ。それは純粋な威圧。 「……うぅ……。わ、わかった、わかったよ! 飲もうじゃないか、その要求とやらを!」 ジンは額に汗を滲ませ、観念したように頷いた。 「まず、私のこの姿、そして今日の戦闘については――他言無用。一切を胸に納めてもらう」 「へえ? 聖女様がこれほど戦えるなんて、民にとっては希望の光だと思うけどね? 隠すことないじゃないか」 ジンはまだ軽口を叩く余裕を見せる。 「黙れ。こちらにも守秘すべき事情がある。それを詮索するな」 私の強い口調に、ジンは肩をすくめ、苦笑を浮かべた。 「……はぁ。了解したよ。負けた以上、君の“秘密”については口外しない。傭兵としての信義に懸けて誓おう」 そして、ジンはふらりとこちらへ歩み寄ってきた。その動きにはもう敵意はなく、どこか飄々としている。 「僕はジン。見ての通り、世界を気ままに渡り歩く、ただの傭兵さ」 そう名乗り、彼は右手を差し出してきた。 なんとも掴みどころのない男だ。 警戒心は解かぬまま、私はその手を一瞬だけ握り、すぐに離した。 「久しぶりに血が滾ったよ。機会があれば、また手合わせ願いたいものだね。君のような相手とは、そうそう出会えるものじゃない」 ジンはそれだけ言うと、軽く手を振り、瓦礫の散らばる道を静かに去っていった。その背中が、夕暮れの光に溶け込むように遠ざかっていく。 (本当に大丈夫かなぁ…?) エレナの不安げな声が響く。 (どうだろうな。だが、あの男の瞳に嘘はなかったように思う。それに、傭兵の信義とやらを違えるタイプにも見えなかった。……それよりも、エレナ。君の体を休ませなくては) (うん、私は大丈夫だよ! エレンこそ、あんなに消耗して……。早く安全な場所で休まないと) その言葉に、張り詰めていた意識が少しだけ和らぐ。 嵐のような訪問者は去った。私は一人、夕闇が迫る静寂の中に立ち尽くし、これからのことを思考するのだった。────エレナの視点──── 石造りの螺旋階段を、私たちは息を切らしながら駆け上がっていた。 ごつごつとした壁が、手に持つ灯りの光を不気味に反射している。下層から響いていた激しい戦闘音は、もう聞こえない。石段を踏みしめる足音と、荒い息遣いだけが、神殿の静寂を破っていた。 「グレンさん、大丈夫ですかね……!?」 ミストさんの不安そうな声が、静寂に包まれた階段に響いた。その声には、仲間への深い心配が込められている。 「……きっと、大丈夫!」 何の確証もない。けれど、私の胸の奥で、温かい光のようなものが「大丈夫だ」と囁いていた。それは昔から私の中に宿る、聖女としての直感のようなもの。 「私の直感が、そう告げてるの!」 「えぇ!? そ、そんな直感が……!?」 ミストさんが驚きの声を上げる。 (私も原理は分からんが……エレナには、その力が間違いなく備わっている。運命そのものを、その祈りの力で強引にねじ曲げてしまうような、不思議な力がな。だから、今回もきっと大丈夫だ) エレンの声が、私の内側で静かに響いた。 (うん……!) 彼の言葉が、私の直感を後押ししてくれる。 「それなら良いが……慢心はするなよ」 シイナさんが、冷静に釘を刺した。 「未来が見えるからと、それに胡坐をかいて行動するようでは、今の暗明の聖女と何も変わらないからな」 「……うん、そうだね。私は、この直感を絶対に正しいなんて、傲慢なことは思わないよ」 私にできるのは、この直感を信じつつ、でも決して過信しないこと。神様のお導きを感じながらも、自分の足で歩むこと。 「そこが、エレナさんの素敵なところですね」 シオンさんが、静かに微笑んだ。 その時、長く続いた階段が終わり、私たちの目の前に、だだっ広い広間が見えてきた。天井は高く、月光が差し込む窓から、青白い光が石床を照らしている。 「きっと、ここにも残りの騎士が待ち構えていることだろう」 「その時は、私が残ります」 シオンさんの言葉に、ミストさんが待ったをかける。 「いやいやいや! そこは私でしょうー!!」 「……?」 シオンさんが、心底不思議そうに首を傾げた。 「そのお顔はなんですかァァ!?」 「いえ……だってあなたは、戦いがあまり得意な方ではないでしょ
**────エレナの視点────** 「じゃあ皆、各々準備してくれ。五分後にはここを出て、リディアさんを助けに行くぞ」 シイナさんの力強い言葉に、私たちは一斉に頷いた。この小さな家の中に、静かだが確固たる決意が満ちている。みんなの表情に迷いはない。先ほどまでの混乱が嘘のように、今は一つの目標に向かって心が結束していた。 五分という短い時間の中で、私たちはそれぞれの装備を確認し、心の準備を整える。月光が窓から差し込み、武器の金属部分を青白く照らしていた。この静寂が、嵐の前の静けさのように感じられてならない。 「準備はいいか? 今回、ジンが大方の騎士は無力化してくれたという話だ。恐らく…すぐに四騎士との戦闘になるだろう」 シイナさんの声に緊張が走る。四騎士——この国の最強戦力との戦いが待っているのだ。 「ここの騎士たちの数は多かったからね。でも、気を付けて」 ジンさんが軽やかに言葉を続ける。 「流石に全部を倒すわけにもいかなかったから、十人程度は残ってるはずだから」 「それでも、そんなに多くの騎士を戦闘不能にするなんて……」 私は驚きを隠せなかった。一人でそれほどの騎士を相手にするなんて、どれほどの実力者なのだろう。 「はは、聖女様に褒めてもらえるなんて。なんだか嬉しいよ」 ジンさんの表情に、子供のような無邪気さが浮かんでいる。しかし、その奥に潜む何かが、私の心に小さな不安を芽生えさせた。 「ね、念の為に聞くのですが……殺しはしてないですよね……?」 恐る恐る尋ねた私の質問に、ジンさんの表情がふっと変わった。まるで別人のような、冷たい光が瞳に宿る。 「……剣を抜いた以上、お互いの命が尽きるまで刀を振り合うべきだと僕は思っているんだ」 その一言に、背筋が凍りつくような恐怖を感じた。ジンさんの声音には、戦いへの狂気じみた情熱が込められている。私の心臓が、ドクドクと激しく鼓動を刻んでいた。 「でも……今回は大丈夫。殺してないよ」 そう言って見せる笑顔は、まるで何事もなかったかのように穏やかだった。しかし、その急激な変化が、かえって不気味さを増している。 (今回は……? ということは、普段は……?) 心の奥で、暗い想像が渦巻いていた。 * * * 五分後。静寂を破って、私たちは行動を開始した
**────エレナの視点────**「という訳なんだ」ジンさんの軽やかな口調で語られた残酷な現実に、私の心は氷のように凍りついてしまった。リディアさんが捕らえられて、処刑される。その事実が、どうしても受け入れることができなかった。「そ、そんな……嘘ですよね??」私の声が震えている。まるで悪夢から覚めたいと願うかのように、その言葉にすがりついた。「……こんな時に嘘なんてつかないよ」ジンさんの飄々とした口調が、現実の重さをより一層際立たせる。「……くっ!!!」シイナさんが拳を強く握りしめ、歯を食いしばっている。その青白い顔に、激しい怒りと悲しみが刻まれていた。「皆は先にこの国を脱出してくれ……!俺は……俺はリディアさんを助けに行く!!」シイナさんが勢いよく立ち上がり、扉に向かって歩き出そうとする。その瞳に宿る決意の炎は、誰にも止められないほど激しく燃えていた。「待てよ!!そんなの俺たちだって同じ気持ちだ!」グレンさんが力強く立ち上がる。彼の声には、シイナさんに負けないほどの強い意志が込められていた。「ええ……彼女には計り知れないほど多大な恩があります。なので……グレンと私でリディアさんを救出に向かいます」シオンさんの顔に、鋼のような決意が浮かんでいる。「シイナ、あなたこそエレナさんやミストさんと共に先に脱出してください」「だめだ!今回はパーティリーダーの責任として、俺が行く!」「シイナ!」「俺が、彼女を助けてすぐに戻ればいいことだろう!」「おいシイナ!俺がやられたテッセンとかいうやつの事を忘れたわけじゃないだろ!?少し落ち着け!」三人の激しい言い争いが、小さな家の中に響き渡る。誰も一歩も引かない様子で、感情のままに言葉をぶつけ合っていた。「あわわわわ……みなさん!こんな時に言い争ってる場合じゃないですって!」ミストさんが慌てて三人の間に割り込もうとするが、激しい感情の渦に巻き込まれ、弾き飛ばされてしまう。「ぎゃー!!」(みんな……冷静さがすっかり抜けて、これじゃあ救える命だって救えないよ……!)(それに……私だってリディアさんを助けたいのに……)私の心の中で、やりきれない想いが渦巻いている。みんなの気持ちは痛いほど分かるけれど、このままでは誰も救えない。そう考えていた、まさにその瞬間だった。私の意識が、まるで深い
**────ジンのの視点────** やる気か、と。僕は心の中で、小さく呟いた。 ここは冒険者ギルド。依頼と情報が交差する、いわば中立の聖域だ。そんな場所で騎士が刀を抜き、殺し合いを演じようというのだから、面白い。実に、面白い。 僕は向かってきた騎士の剣戟をいなすどころか、その勢いを逆に利用して体ごと弾き飛ばした。空中で無様に体勢を崩した彼の喉笛へ、僕は逆手に持ち替えた刃を、まるで吸い込まれるかのように滑らせる。「がぁっ……!」 声にならない呻きを漏らし、騎士が床に崩れ落ちた。口からごぼりと泡を吹き、痙攣する手足が、彼の命が尽きかけていることを示している。 仲間の一人が一瞬で無力化されたというのに、残された騎士たちは状況が飲み込めていないらしい。驚愕に見開かれた目が、滑稽なほどにこちらを向いていた。「き、貴様っ! 正気か!?」「あはは、面白いことを言うね、君。先にその物騒な鉄の獲物を抜いたのは、そっちじゃないか」「そ、それにしてもだ! 我々騎士に刃向かうなど、あってはならないことだぞ!?」「残念だけど、僕はそんな立派な冒険者様じゃない。僕はジン。世界を渡り歩く、ただの傭兵だからね」「ジン……!?」 その名に、騎士の一人が息を呑んだ。どうやら僕の名も、多少は裏の世界に知れ渡っているらしい。「くそっ……! やられて黙っていては、騎士の名が廃る! こいつも捕縛しろ!」 別の騎士が、その手に蒼い水の魔力を纏わせながら、僕へと突進してくる。ギルドの中で属性魔法を放つ? ああ、本当に、愚かだな。「はぁ……後悔しても、知らないよ」 僕は腰に差した愛刀「雪月花」の鯉口を切ると、一閃、抜き放った。 (鳴神式抜刀術――神威の型。) 空気を切り裂く音だけが響き、騎士の右腕が、ごとり、と鈍い音を立てて石床に転がった。「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!!! お、俺の腕がァァァァッ!!」 やかましいね。腕の一本や二本、飛んだくらいで喚くなんて。自分から仕掛けておきながら、いざ返り討ちに遭えば獣のように吠え立てる。弱者の典型だ。「お、お前……! 自分が何をしたか、分かっているのか!?」「さっきも言ったはずだよ。先に始めたのは、そっちだってね」 僕は刀身に付いた血を振るい、ゆらり、と笑みを浮かべた。「まだまだ足りないな。……もっと、殺り合おうよ」 ああ、い
(この声に気配……覚えがある)エレンの意識が、私の奥底で警戒の炎を燃やし始める。(私もそう感じてた……なんだか、すごく(身に覚えがあるような……)(確か、夜の街で我々を襲撃してきた傭兵……名は確かジン……と言ったか)その名前を耳にした瞬間、あの記憶が、鮮血のように鮮やかに脳裏へと蘇ってきた。霊たちが彷徨う夜の街で、昼間の平穏な探索が一変した瞬間。突如として現れた謎の傭兵——。その圧倒的な実力は私には理解の範疇を超えていたけれど、エレン曰く、これまで戦った敵の中でも別格の強さを誇っていた……と。(そ、その人がなんでこんな場所に!? まさか、私たちを追ってきたの!?)(さあな。だが……敵意は微塵も感じられない。それに何か重要な情報を知っているようだ)(ここは一か八か、直接対峙してみるのも選択肢の一つだろう)「エレンが敵意は感じないから……出てみるのも一つの手だって……」私はシイナさんに、内心の不安を隠しながらそう告げる。「敵意を感じない……か。グレンもミストも意識を取り戻したことだし、直接話してみるか?」シイナさんの声に、慎重な判断力が込められている。(ああ、そうしてみてくれ)「そうして見てほしいって……」エレンの助言をそう伝えると、シイナさんが深く頷き、警戒を込めて扉の前へと歩を進めた。「何用だ」シイナさんの声が、扉越しに響く。「あれ、やっぱりいるんじゃないですかー」その飄々とした口調に、底知れない余裕が滲んでいる。「やあ、僕はジン。リディアっていう方からの重要な伝言があるんだけど、扉を開けてもらえないかな?」「残念だが、こちらにも複雑な事情があってな。このままでお願いしたい」シイナさんの慎重な対応に、扉の向こうから軽やかな笑い声が響く。「……あーそっか、いまこの国から追われてるんだっけ。それなら心配しなくていいよ」「大体の騎士は僕が片付けたから」「な、何だと!?」シイナさんの声が、驚愕に震える。「えっ!??」私も思わず声を上げてしまった。「ま、待て! この国の騎士一人一人は精鋭と言っても過言ではないほどに優秀だ。それをお前は単身で制圧したというのか?」「はは。まぁ確かにこの国の騎士はよく鍛錬されていたね。でも、僕も実力には自信があるんだ」その軽やかな口調で語られる内容の恐ろしさに、私たちは言葉を失った
**────エレナの視点────**次の日。「みなさん!!!!本当にご迷惑をおかけしました!!!」「本当に面目ねぇ……!!!今回迷惑かけた分は、必ず挽回するぜ!」二人が目を覚ましたんだ。あんなに傷だらけで、ずっと目を覚まさなかったグレンさんも元気になって、本当に良かったと思う……。でも……。聞かないといけない。二人に、何があったのか。「それより……二人に何があったんですか?なんで……グレンさんはあんなに傷だらけだったんですか……?」私がそう尋ねると、グレンさんが急に口を噤んでしまう。数秒の重い沈黙が部屋を支配すると、やがて言いにくそうにグレンさんが口を開き始めた。「お前たちが情報収集に行った数時間後、とんでもなく強い奴が現れたんだ」「とんでもなく強い奴?」シイナさんの声に、緊張が走る。「ああ。全身に見たこともない鎧を着て、刀を使っていた」(見たこともない鎧に刀……か)エレンの声が、意識の奥で静かに響く。「そいつは……全く俺の攻撃が通じなかった」「なに!?グレン、お前の攻撃がか!?」シイナさんは心底驚いたような様子を見せる。グレンさんの実力を知っている彼だからこその驚きだった。(…………)エレンが沈黙している。何かを考えているみたいだ。「ああ、正直全く底が見えなかったぜ。戦ってる感触としては……エレンに近かったかもな」「エレンに……?」私の声が震える。エレンと同じくらい強いなんて……。「それは……かなり厄介そうですね」シオンさんの美しい顔に、珍しく深刻な表情が浮かんでいる。「厄介なんてもんじゃねぇよ。あいつは俺の攻撃を全部受け止めやがった」グレンさんは、私たちのパーティ内でも屈指の攻撃力を持つ