ログインやがて、夜の帳がすっかり街を包み込んだ。昼のあいだは静まり返っていた通りにも、いつのまにか人影が増えている。行き交う住人たちを見て、エレナは思わず何度も目を向けた。
「うそ……! これって……」 『やはりな。昼は静かなのも納得だ』 街を歩く者たちの身体は、淡く透けていた。輪郭は人のままそこにあるのに、足元は夜気に溶けるように曖昧で、地面の石畳さえ向こう側に見えている。幽霊《ゴースト》。それがこの街が夜の街と呼ばれる理由であり、昼の静けさは、彼らが眠る時間だからこそのものだった。 「……!!」 その光景を前に、エレナの肩がびくりと跳ねる。指先はぎこちなく縮こまり、足取りも目に見えて鈍くなった。聖属性を宿す彼女は、アンデッドに対して絶対的な優位を持つ。それでも、こうした存在そのものに苦手意識があることだけは、どうにもならないらしい。 その時、ふいにやわらかな手がエレナの肩に触れた。 「エレナ様、大丈夫ですよ」 「ミ、ミストさん……」 振り返った先で、ミストはいつもの勢いを少しだけ引っ込めた声で続ける。 「彼らは、確かにゴーストです。ですが、この街を見てわかる通り、彼らに敵意はありません。きっと誰かを呪おうとすることも」 ミストはそう言って、賑わい始めた夜の通りへ視線を向けた。 「ここでの彼らは、私たちとは別の派生へ進化した、新しい生命体と定義づけた方がよいかもしれませんね」 「で、でも……!」 エレナが言いかけた、その背後から、しわがれた声がそっと落ちた。 「こんにちは……」 いつのまにか、老婆の霊がすぐ後ろに立っていた。エレナは小さく跳ねるように身を浮かせ、そのまま凄まじい勢いで後方へ飛び退く。 『今、すごい動きをしたな……』 「ふふふ……。大丈夫だよ……。なにも取って食おうだとか、そんなつもりはないからね……」 「エレナ、大丈夫だぜ。オレは何度かここへ来てるんだが、ここで暮らす人たちはみんないい人たちばかりだ」 グレンが肩越しにそう言うと、老婆はゆっくりと目を細めた。 「怖がらせてごめんよ……。ゆっくりしていっておくれ……」 そう言い残し、老婆の霊は足音もなく滑るように通りを去っていく。 「エレナ様、行きましょう?」 「……え、ええ」 「とりあえず、宿だな。宿へ行こう」 ✦ ━━━━━━━━━━━━━━ ✦ 一行は無事に宿を取り、それぞれ荷物を置いたあと、シイナの部屋に集まっていた。 小ぶりな円卓の上には、宿の主人が置いていった水差しと素焼きの杯が並んでいる。窓の外では夜の街の喧騒がまだ続いており、遠くの楽の音が薄い布を隔てるように部屋の中まで届いていた。卓上のランプの芯が一度、小さく揺れる。 「ということで、今日はこの宿に泊まる。ここは名前の通り夜の街だ。ここを明日の朝に発って、記憶都市メモリスへ向かう」 「なるほど、ここはあくまで通り道と」 「ああ。夜の街からメモリスへ向かった方が効率がいい。道は整備されているし、魔物の危険性もないからな」 シイナは集まった面々を見回し、そのまま言葉を継いだ。グレンは寝台の端に腰を下ろし、ミストはその隣で小さく踵を揺らしている。エレナは部屋の中央寄りに置かれた椅子に座り、ローブの裾をきちんと膝の上へ整えていた。 「俺たちは東にある禁足地へ向かわなければならない。それは確かに重要な使命だ」 部屋の中がわずかに静まる。窓の外から流れ込む楽の音だけが、夜風に乗って細く通り抜けていった。シイナはその空気を崩しすぎないよう、少しだけ声音を和らげる。 「とはいえ、なにも観光するなと言われたわけじゃない。道は長いし、まだ時間もかかる。それに禁足地へ着いたら、そんなことも言っていられないくらい忙しくなるはずだ。せめて道中くらいは、各々リラックスしながら観光でもしていこう」 「お、そりゃ助かるな」 グレンが軽く口笛を鳴らす。その横でミストの目がぱっと輝き、シオンも伏せがちな目元にごく薄い笑みを浮かべた。 エレナはその輪の中で、胸の前にあった力を少しだけ抜いた。 『シイナさん、すごく上に立つ人の素質を感じるね……』 『そうだな。事実上、奴がこのパーティのリーダーだ。無能なリーダーは、メンバーに無駄な労力を使わせて能力の大半を潰す』 『だが、奴の言葉はメンバーの精神に余裕を与え、本来の力を引き出せる。そういう意味では、なかなか稀有な資質だな』 シイナは壁から背を離し、円卓の縁に片手を置いた。その指先が、そのままエレナの方へ軽く向く。 「幸い、ここは特殊な街ですからね。観光先には困らないでしょう。……エレナ様、どうしたいですか?」 「えっ……」 急に話を振られ、エレナの肩が小さく揺れた。視線が一瞬だけ宙をさまよう。 「エレナ様は、ゴーストが苦手でしょう?」 「や、やっぱり……さっき知られてしまいましたか……?」 声がだんだん小さくなっていく。エレナの指先が、膝の上でローブの布をきゅっと摘んだ。シイナは軽く咳払いをひとつ挟み、続ける。 「コホン……。これはあくまで噂だったのですが、エレナ様がそういう類のものを苦手にしていると」 「っ〜!!」 その一言で、エレナの頬が一気に赤くなる。伏せた睫毛の先まで熱を持ったように染まり、肩もぎゅっと縮こまった。 聖女でありながら、そういうものを怖がっている。そのことだけでも十分に気恥ずかしいのに、それが噂として広まっていたのだと思えば、なおさらだった。 (あ、穴があったら入りたい……!) 身を小さくしたまま、エレナはそろそろと顔を上げる。シイナ、グレン、シオン、ミスト。順に視線を向けていっても、そこにあったのは笑いではなかった。苦笑はあっても、向けられる目はどれもやわらかい。ランプの灯りの下で、からかいだけがきれいに抜け落ちていた。 「あ、あの……。笑わないんですか……?」 最初に口を開いたのはグレンだった。逆立った赤髪を片手でがしがしと掻きながら、あっけらかんと笑う。 「いくら聖女とはいえ、苦手なもんは苦手だろ?」 その横で、ミストがこくこくと大きく頷いた。さっきまでの竜巻みたいな勢いを少しだけ抑えた声で、言葉を選ぶように口を開く。 「そうですね。聖女だからといって、それだけで全部平気でいなくちゃいけないわけではありませんよ」 最後に、シイナが円卓から身を起こし、エレナの目線の高さまで軽く腰を落とした。膝の上に置かれた手からは、普段の硬質な印象が少し遠のいて見える。 「ああ、みんなの言う通りだ。いくらあなたがゴーストを苦手でも、人には苦手なものの一つや二つある。だから、何もおかしいことじゃありませんよ」 エレナの肩から、ゆっくりと力が抜けていく。摘んでいたローブの布地も、手の中で少しずつほどけた。俯いていた顔が、ほんのわずかに持ち上がる。 「皆さん……」 (みんながそう言ってくれるなら……この街で観光も……悪くないのかな……) エレナは膝の上で重ねていた手をそっとほどき、顔を上げた。円卓を囲む仲間たちの視線は、急かすことも、からかうこともなく静かに向けられている。その空気を受け止めたあと、エレナは小さく息を吸った。 「観光……してみたいです」 「……決定ですね。皆はどうする?」 シイナが周囲へ目を向けると、最初に口を開いたのはグレンだった。寝台に腰かけたまま片膝に肘を乗せ、気軽な調子で答える。 「んー、そうだなぁ。いくら安全が担保されてるとしても、何が起こるかわからないって考えたら、護衛は少しでも多い方がいいだろ?」 「そうだな……。夜は昼間と違って、冒険者の姿も多くなるはずだ」 「人が増えればその分だけ、おかしな人との遭遇率も上がりますからね〜」 ミストがそう言って自分でうんうんと頷いたところで、シオンが静かに視線を向ける。 「……自己紹介ですか?」 「んなぁ!? 失礼な!!」 語気を強めるミストに、シイナが呆れたように肩をすくめた。 「はいはい。普段から奇行ばかりしてるお前が悪い。そのせいで、出会ったばかりだってのに皆からそう思われてるんだからな」 「うぅ……!! 私の味方はいないんですか!! 異議ありです!!」 部屋の中にまた賑やかな声が広がる。そのやり取りの中で、シイナは立ち上がると、エレナの座る椅子の横へ回った。 「ほら、行くぞ。さあ、エレナ様、こちらへ」 そう言って差し出された手つきは、どこか芝居がかったほど丁寧だった。エレナは目をぱちりと瞬かせたあと、おずおずとその手に応じる。────エレナの視点──── 石造りの螺旋階段を、私たちは息を切らしながら駆け上がっていた。 ごつごつとした壁が、手に持つ灯りの光を不気味に反射している。下層から響いていた激しい戦闘音は、もう聞こえない。石段を踏みしめる足音と、荒い息遣いだけが、神殿の静寂を破っていた。 「グレンさん、大丈夫ですかね……!?」 ミストさんの不安そうな声が、静寂に包まれた階段に響いた。その声には、仲間への深い心配が込められている。 「……きっと、大丈夫!」 何の確証もない。けれど、私の胸の奥で、温かい光のようなものが「大丈夫だ」と囁いていた。それは昔から私の中に宿る、聖女としての直感のようなもの。 「私の直感が、そう告げてるの!」 「えぇ!? そ、そんな直感が……!?」 ミストさんが驚きの声を上げる。 (私も原理は分からんが……エレナには、その力が間違いなく備わっている。運命そのものを、その祈りの力で強引にねじ曲げてしまうような、不思議な力がな。だから、今回もきっと大丈夫だ) エレンの声が、私の内側で静かに響いた。 (うん……!) 彼の言葉が、私の直感を後押ししてくれる。 「それなら良いが……慢心はするなよ」 シイナさんが、冷静に釘を刺した。 「未来が見えるからと、それに胡坐をかいて行動するようでは、今の暗明の聖女と何も変わらないからな」 「……うん、そうだね。私は、この直感を絶対に正しいなんて、傲慢なことは思わないよ」 私にできるのは、この直感を信じつつ、でも決して過信しないこと。神様のお導きを感じながらも、自分の足で歩むこと。 「そこが、エレナさんの素敵なところですね」 シオンさんが、静かに微笑んだ。 その時、長く続いた階段が終わり、私たちの目の前に、だだっ広い広間が見えてきた。天井は高く、月光が差し込む窓から、青白い光が石床を照らしている。 「きっと、ここにも残りの騎士が待ち構えていることだろう」 「その時は、私が残ります」 シオンさんの言葉に、ミストさんが待ったをかける。 「いやいやいや! そこは私でしょうー!!」 「……?」 シオンさんが、心底不思議そうに首を傾げた。 「そのお顔はなんですかァァ!?」 「いえ……だってあなたは、戦いがあまり得意な方ではないでしょ
**────エレナの視点────** 「じゃあ皆、各々準備してくれ。五分後にはここを出て、リディアさんを助けに行くぞ」 シイナさんの力強い言葉に、私たちは一斉に頷いた。この小さな家の中に、静かだが確固たる決意が満ちている。みんなの表情に迷いはない。先ほどまでの混乱が嘘のように、今は一つの目標に向かって心が結束していた。 五分という短い時間の中で、私たちはそれぞれの装備を確認し、心の準備を整える。月光が窓から差し込み、武器の金属部分を青白く照らしていた。この静寂が、嵐の前の静けさのように感じられてならない。 「準備はいいか? 今回、ジンが大方の騎士は無力化してくれたという話だ。恐らく…すぐに四騎士との戦闘になるだろう」 シイナさんの声に緊張が走る。四騎士——この国の最強戦力との戦いが待っているのだ。 「ここの騎士たちの数は多かったからね。でも、気を付けて」 ジンさんが軽やかに言葉を続ける。 「流石に全部を倒すわけにもいかなかったから、十人程度は残ってるはずだから」 「それでも、そんなに多くの騎士を戦闘不能にするなんて……」 私は驚きを隠せなかった。一人でそれほどの騎士を相手にするなんて、どれほどの実力者なのだろう。 「はは、聖女様に褒めてもらえるなんて。なんだか嬉しいよ」 ジンさんの表情に、子供のような無邪気さが浮かんでいる。しかし、その奥に潜む何かが、私の心に小さな不安を芽生えさせた。 「ね、念の為に聞くのですが……殺しはしてないですよね……?」 恐る恐る尋ねた私の質問に、ジンさんの表情がふっと変わった。まるで別人のような、冷たい光が瞳に宿る。 「……剣を抜いた以上、お互いの命が尽きるまで刀を振り合うべきだと僕は思っているんだ」 その一言に、背筋が凍りつくような恐怖を感じた。ジンさんの声音には、戦いへの狂気じみた情熱が込められている。私の心臓が、ドクドクと激しく鼓動を刻んでいた。 「でも……今回は大丈夫。殺してないよ」 そう言って見せる笑顔は、まるで何事もなかったかのように穏やかだった。しかし、その急激な変化が、かえって不気味さを増している。 (今回は……? ということは、普段は……?) 心の奥で、暗い想像が渦巻いていた。 * * * 五分後。静寂を破って、私たちは行動を開始した
**────エレナの視点────**「という訳なんだ」ジンさんの軽やかな口調で語られた残酷な現実に、私の心は氷のように凍りついてしまった。リディアさんが捕らえられて、処刑される。その事実が、どうしても受け入れることができなかった。「そ、そんな……嘘ですよね??」私の声が震えている。まるで悪夢から覚めたいと願うかのように、その言葉にすがりついた。「……こんな時に嘘なんてつかないよ」ジンさんの飄々とした口調が、現実の重さをより一層際立たせる。「……くっ!!!」シイナさんが拳を強く握りしめ、歯を食いしばっている。その青白い顔に、激しい怒りと悲しみが刻まれていた。「皆は先にこの国を脱出してくれ……!俺は……俺はリディアさんを助けに行く!!」シイナさんが勢いよく立ち上がり、扉に向かって歩き出そうとする。その瞳に宿る決意の炎は、誰にも止められないほど激しく燃えていた。「待てよ!!そんなの俺たちだって同じ気持ちだ!」グレンさんが力強く立ち上がる。彼の声には、シイナさんに負けないほどの強い意志が込められていた。「ええ……彼女には計り知れないほど多大な恩があります。なので……グレンと私でリディアさんを救出に向かいます」シオンさんの顔に、鋼のような決意が浮かんでいる。「シイナ、あなたこそエレナさんやミストさんと共に先に脱出してください」「だめだ!今回はパーティリーダーの責任として、俺が行く!」「シイナ!」「俺が、彼女を助けてすぐに戻ればいいことだろう!」「おいシイナ!俺がやられたテッセンとかいうやつの事を忘れたわけじゃないだろ!?少し落ち着け!」三人の激しい言い争いが、小さな家の中に響き渡る。誰も一歩も引かない様子で、感情のままに言葉をぶつけ合っていた。「あわわわわ……みなさん!こんな時に言い争ってる場合じゃないですって!」ミストさんが慌てて三人の間に割り込もうとするが、激しい感情の渦に巻き込まれ、弾き飛ばされてしまう。「ぎゃー!!」(みんな……冷静さがすっかり抜けて、これじゃあ救える命だって救えないよ……!)(それに……私だってリディアさんを助けたいのに……)私の心の中で、やりきれない想いが渦巻いている。みんなの気持ちは痛いほど分かるけれど、このままでは誰も救えない。そう考えていた、まさにその瞬間だった。私の意識が、まるで深い
**────ジンのの視点────** やる気か、と。僕は心の中で、小さく呟いた。 ここは冒険者ギルド。依頼と情報が交差する、いわば中立の聖域だ。そんな場所で騎士が刀を抜き、殺し合いを演じようというのだから、面白い。実に、面白い。 僕は向かってきた騎士の剣戟をいなすどころか、その勢いを逆に利用して体ごと弾き飛ばした。空中で無様に体勢を崩した彼の喉笛へ、僕は逆手に持ち替えた刃を、まるで吸い込まれるかのように滑らせる。「がぁっ……!」 声にならない呻きを漏らし、騎士が床に崩れ落ちた。口からごぼりと泡を吹き、痙攣する手足が、彼の命が尽きかけていることを示している。 仲間の一人が一瞬で無力化されたというのに、残された騎士たちは状況が飲み込めていないらしい。驚愕に見開かれた目が、滑稽なほどにこちらを向いていた。「き、貴様っ! 正気か!?」「あはは、面白いことを言うね、君。先にその物騒な鉄の獲物を抜いたのは、そっちじゃないか」「そ、それにしてもだ! 我々騎士に刃向かうなど、あってはならないことだぞ!?」「残念だけど、僕はそんな立派な冒険者様じゃない。僕はジン。世界を渡り歩く、ただの傭兵だからね」「ジン……!?」 その名に、騎士の一人が息を呑んだ。どうやら僕の名も、多少は裏の世界に知れ渡っているらしい。「くそっ……! やられて黙っていては、騎士の名が廃る! こいつも捕縛しろ!」 別の騎士が、その手に蒼い水の魔力を纏わせながら、僕へと突進してくる。ギルドの中で属性魔法を放つ? ああ、本当に、愚かだな。「はぁ……後悔しても、知らないよ」 僕は腰に差した愛刀「雪月花」の鯉口を切ると、一閃、抜き放った。 (鳴神式抜刀術――神威の型。) 空気を切り裂く音だけが響き、騎士の右腕が、ごとり、と鈍い音を立てて石床に転がった。「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!!! お、俺の腕がァァァァッ!!」 やかましいね。腕の一本や二本、飛んだくらいで喚くなんて。自分から仕掛けておきながら、いざ返り討ちに遭えば獣のように吠え立てる。弱者の典型だ。「お、お前……! 自分が何をしたか、分かっているのか!?」「さっきも言ったはずだよ。先に始めたのは、そっちだってね」 僕は刀身に付いた血を振るい、ゆらり、と笑みを浮かべた。「まだまだ足りないな。……もっと、殺り合おうよ」 ああ、い
(この声に気配……覚えがある)エレンの意識が、私の奥底で警戒の炎を燃やし始める。(私もそう感じてた……なんだか、すごく(身に覚えがあるような……)(確か、夜の街で我々を襲撃してきた傭兵……名は確かジン……と言ったか)その名前を耳にした瞬間、あの記憶が、鮮血のように鮮やかに脳裏へと蘇ってきた。霊たちが彷徨う夜の街で、昼間の平穏な探索が一変した瞬間。突如として現れた謎の傭兵——。その圧倒的な実力は私には理解の範疇を超えていたけれど、エレン曰く、これまで戦った敵の中でも別格の強さを誇っていた……と。(そ、その人がなんでこんな場所に!? まさか、私たちを追ってきたの!?)(さあな。だが……敵意は微塵も感じられない。それに何か重要な情報を知っているようだ)(ここは一か八か、直接対峙してみるのも選択肢の一つだろう)「エレンが敵意は感じないから……出てみるのも一つの手だって……」私はシイナさんに、内心の不安を隠しながらそう告げる。「敵意を感じない……か。グレンもミストも意識を取り戻したことだし、直接話してみるか?」シイナさんの声に、慎重な判断力が込められている。(ああ、そうしてみてくれ)「そうして見てほしいって……」エレンの助言をそう伝えると、シイナさんが深く頷き、警戒を込めて扉の前へと歩を進めた。「何用だ」シイナさんの声が、扉越しに響く。「あれ、やっぱりいるんじゃないですかー」その飄々とした口調に、底知れない余裕が滲んでいる。「やあ、僕はジン。リディアっていう方からの重要な伝言があるんだけど、扉を開けてもらえないかな?」「残念だが、こちらにも複雑な事情があってな。このままでお願いしたい」シイナさんの慎重な対応に、扉の向こうから軽やかな笑い声が響く。「……あーそっか、いまこの国から追われてるんだっけ。それなら心配しなくていいよ」「大体の騎士は僕が片付けたから」「な、何だと!?」シイナさんの声が、驚愕に震える。「えっ!??」私も思わず声を上げてしまった。「ま、待て! この国の騎士一人一人は精鋭と言っても過言ではないほどに優秀だ。それをお前は単身で制圧したというのか?」「はは。まぁ確かにこの国の騎士はよく鍛錬されていたね。でも、僕も実力には自信があるんだ」その軽やかな口調で語られる内容の恐ろしさに、私たちは言葉を失った
**────エレナの視点────**次の日。「みなさん!!!!本当にご迷惑をおかけしました!!!」「本当に面目ねぇ……!!!今回迷惑かけた分は、必ず挽回するぜ!」二人が目を覚ましたんだ。あんなに傷だらけで、ずっと目を覚まさなかったグレンさんも元気になって、本当に良かったと思う……。でも……。聞かないといけない。二人に、何があったのか。「それより……二人に何があったんですか?なんで……グレンさんはあんなに傷だらけだったんですか……?」私がそう尋ねると、グレンさんが急に口を噤んでしまう。数秒の重い沈黙が部屋を支配すると、やがて言いにくそうにグレンさんが口を開き始めた。「お前たちが情報収集に行った数時間後、とんでもなく強い奴が現れたんだ」「とんでもなく強い奴?」シイナさんの声に、緊張が走る。「ああ。全身に見たこともない鎧を着て、刀を使っていた」(見たこともない鎧に刀……か)エレンの声が、意識の奥で静かに響く。「そいつは……全く俺の攻撃が通じなかった」「なに!?グレン、お前の攻撃がか!?」シイナさんは心底驚いたような様子を見せる。グレンさんの実力を知っている彼だからこその驚きだった。(…………)エレンが沈黙している。何かを考えているみたいだ。「ああ、正直全く底が見えなかったぜ。戦ってる感触としては……エレンに近かったかもな」「エレンに……?」私の声が震える。エレンと同じくらい強いなんて……。「それは……かなり厄介そうですね」シオンさんの美しい顔に、珍しく深刻な表情が浮かんでいる。「厄介なんてもんじゃねぇよ。あいつは俺の攻撃を全部受け止めやがった」グレンさんは、私たちのパーティ内でも屈指の攻撃力を持つ







