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第37話:伝説の給付服

Author: 渡瀬藍兵
last update Last Updated: 2025-06-19 19:29:30

──────

エレナの視点

──────

ラムザスさんと別れた後、私は一人、メモリスの大通りを歩いていた。

陽光を浴びて輝く白亜の街並みは、まるで神々が住まう都のよう。けれど、そのあまりの美しさが、かえって人々の会話の歪みを際立たせていた。

「ねぇ、あの劇場でやってる『堕ちた英雄の物語』、もう観た!?」

「もちろん! 処刑される瞬間の絶望の記憶、最高だったわ!」

「前に買った『幸せな家庭の記憶』がすごく良くてさ……。だから今度は、もっと刺激的な裏切りの記憶が欲しいんだよな」

「わかる〜! 私は大魔法使いの『属性を上手く操るコツ』を探してるの。ちょっと高いけど、自分へのご褒美ってことで!」

街ゆく人々は、みんな笑顔を浮かべている。

でも、その笑顔はどこか借り物みたいに見えた。他人の人生を切り売りした記憶を消費して得た、束の間の高揚感。

この街の人たちにとって、記憶の売買はもう……食事や呼吸と同じ、当たり前の日常なんだ。

その事実が、ただ歩いているだけで、痛いほどに伝わってくる。

(…………。)

エレンは、ラムザスさんと別れてからずっと口数が少ない。意識を代わってくれた後も、彼の心の中から感じるのは、静かで、氷のように冷たい怒りの感情だけだった。

きっと……彼が言ったように、この街の仕組みそのものに、強い嫌悪感を抱いているんだと思う。

そんなことを考えながら歩いていると、突然後方から、やけに芝居がかった声が飛んできた。

「そこの可憐なお嬢さんッ!!!」

(……ん? まさかね)

もちろん、私が呼ばれたなんて微塵も思わない。この街には、私なんかよりずっと綺麗な人がたくさんいるんだから。絶対、私の後ろを歩いている人のことだよね。

そう思って真っ直ぐ歩き続けていると、目の前にひょいっと人影が躍り出た。派手な色合いの服を着た、少し目つきの鋭い男性が、私の行く手を塞ぐように立っている。

「ですから、あなた様のことですよ! 可憐なお嬢さん!」

「あっ……! えっ!? わ、私だったのですか!?」

「はっはっは! あなた様ほど可憐な方を、私は他に存じ上げませんとも!」

大げさな身振り手振りで、男は楽しそうに笑ってみせる。

(いやいやいや、そんなわけないでしょ! 普通、私のことだなんて思わないよ!)

(自分の姿を鏡で見たことがないのか。その無自覚さこそが、ある意味では最大の武器かもしれんな)

なんて、エレンまでもが心の中で呆れたように呟くのが聞こえる。

「お嬢さん……! どうか、この私をお助けくださいませんか……!」

男は突然、この世の終わりのような悲壮な表情を作って、私にぐっと迫った。

(た、助けを求めてる……? なにか本当に困っているのかな……)

(待て、エレナ。見ず知らずの男だ。不用意に手を貸すべきではない)

エレンの冷静な警告が響く。でも、目の前で誰かが助けを求めているのに、見過ごすなんて、私にはできない。

「あの……私に出来ることであれば、お力になります」

(……はぁ。それが君の美点であり、最大の弱点でもあるな)

エレンの深いため息が、心の中に響いた気がした。

「おお! 本当ですか!? まるで慈悲深き女神様のようだ……!どうかこちらへ……!」

男はぱあっと顔を輝かせ、私の手を取らんばかりの勢いで促す。

彼に導かれるまま、私は大通りから一本外れた、少し薄暗い路地へと足を踏み入れた。

(……警告はしたからな、エレナ)

(ちょ、ちょっと怖いこと言わないでよ……! きっと、大丈夫だってば!)

***

……どうして、こんなことになってしまったんだろう。

私は今、かつてないほどに自分の浅はかさを後悔していた。

薄暗く、少しカビ臭い店の裏部屋。目の前では、先ほどの男性――この酒場のマスターが、土下座せんばかりの勢いで頭を下げている。

そして、彼の隣の椅子には……。

(な、なに、これ……)

置かれていたのは、黒い光沢のある生地に、白いふわふわの襟とカフスがついた、衣服とは到底呼び難い何か。おまけに、頭につけるらしい、ぴんと伸びた兎の耳までちょこんと添えられている。

「こ、これが……私がお手伝いする時の、衣装……ですか?」

「はい! これは、ある異邦の旅人さんの記憶にあった『伝説の給仕服』でして! この『ばにーがーる』という服装には、客を呼び寄せ、店を繁盛させるという、それはそれは不思議な力があると……!」

マスターは必死に力説しているけれど、私の頭には全く入ってこない。

伝説の給仕服……? これが……?

(…………ふふっ)

不意に、頭の中でエレンの押し殺したような笑い声が響いた。

(今、笑ったでしょ!?)

(いや?)

(絶対笑った! ひどいよ、エレン! こんな時に!)

唯一の味方であるはずの彼にまで笑われるなんて!

(うわぁぁぁ! こんな恥ずかしい服を着てお酒を運ぶなんて、聞いてないよぉぉぉ!)

(だから、不用意に手を貸すべきではないと言ったんだ)

(うぅ……もう無理だよぉ……エレン、お願い、代わって……)

(構わんが)

一瞬、希望の光が見えた。けれど、彼の次の言葉が、私を絶望のどん底に突き落とす。

(この格好で、私のようなつまらない者が給仕をしたところで、客が喜ぶとは思えんな。むしろ、店を叩き出されるのが関の山だろう)

(そ、そんなぁ……)

彼の言う通りだ。この服は、こういうのが似合う、可愛らしい人のためにある。私なんかが着ても似合わないし、ましてやエレンが出てきたら、お店が潰れる前にマスターが卒倒しちゃう……!

こうして、私の全ての逃げ道は、完全に塞がれたのだった。

***

そして、現在。

「へい、お待ち! ビール二つな!」

威勢のいいマスターの声に、私は「ひゃい!」と裏返った声を上げながら、ぎこちなくお盆を持ってテーブルへ向かう。

黒いハイヒールは慣れないせいで生まれたての小鹿みたいに足が震えるし、何より、四方八方から突き刺さる視線が痛い! 痛すぎる! 恥ずかしくて、顔から火が出そうだ。

(まずいな。あのテーブルの二人組、酩酊レベルが高い。最短距離で接近し、酒を置いたら即座に離脱しろ)

エレンの、やけに冷静な戦術分析が脳内に響く。

(今の歩き方、重心が高い。もっと腰を落とせ。不測の事態に対応できん)

(は、はいぃ……!)

私は涙目になりながら、言われた通りに少しだけ腰を落とす。けど、そんな動きが逆に注目を集めてしまった気がして、もう本当に泣きたい。

(エレナ、右後方45度から強い視線。おそらく品定めだ。気にするな。だが、決して死角には入れるな)

(ひ、ひぃっ……!)

もう無理、もう無理だよエレン!

私は心の中で絶叫しながら、なんとかビールをテーブルに置く。その瞬間、酔客の一人がにやにやしながら私に話しかけてきた。

「よう、嬢ちゃん! 新人か? なかなかいいじゃねぇか!」

「あ、あぅ……あ、ありがとうございます……!」

(返事をするな。会釈だけでいい。下手に会話を続ければ、拘束時間が延びるだけだ)

(で、でも、無視するわけにはいかないじゃない!)

私が頭の中でエレンと無言の攻防を繰り広げていると、客の男がさらに身を乗り出してきた。

「なぁ、姉ちゃん、この後――」

その、時だった。

(――今だ、エレナ。奴の注意が完全に君に向いている。その右手に持つトレイの角で、奴の眉間を狙え。一撃で沈黙させられる)

(そんなことできるわけないでしょぉぉぉぉぉ!!!)

私の心からの絶叫が、エレンに届いたかは分からない。

ただ一つ確かなのは、このメモリスでの悪夢のような夜は、まだ始まったばかりだということだった。

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