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第36話:記憶市場と記憶劇場

작가: 渡瀬藍兵
last update 최신 업데이트: 2025-06-14 19:12:29

私たちは、都市の中央に広がる市場へと訪れた。

「こちらが、記憶市場《レム・マルシェ》となります」

ラムザスの言葉に促され見渡した光景に、私は思わず眉をひそめた。

そこに広がっていたのは──ガラスケースにずらりと陳列された、無数の“記憶結晶”だった。

“初めて恋に落ちた日の記憶”

“恐怖に震えた夜の記憶”

“家族と笑い合った休日の記憶”

まるで生命の輝きを剥奪され、ただの商品として値札をつけられた人生の断片。美術品か、あるいは高級な嗜好品のように、それらは静かに買い手を待っている。

その光景は、戦場で見る死体の山よりも、冒涜的に映った。

「こちらで、ご希望の記憶を購入することが可能です」

ラムザスが販売員に目配せをすると、慣れた手つきで一つの記憶結晶が取り出され、私の前に差し出される。

「どうぞ。こちらは“家族からの無償の愛情”に包まれた、非常に純度の高い温かな記憶となっております」

「ふむ」

ラムザスは無言でそれを受け取ると、まるで石ころでも扱うかのように、指先に力を込めた。

パリィン……。

乾いた音を立てて、誰かの大切な思い出だったものが砕け散る。

「魔人ではなくとも砕けるよう、意図的に強度が調整されていましてね」

「……ええ、なるほど。これはごく平凡な家庭で、大切に育てられた少女の記憶のようですね。素晴らしい」

まるで昆虫標本でも鑑定するかのように、ラムザスは誰かの人生の痕跡を淡々と分析する。その表情は、微塵も変わらない。

その記憶を、本人が自ら“売った”のか。それとも、売らざるを得ない状況に追い込まれたのか。

真実は分からん。だが、どちらにせよ……腹の底から不快感がこみ上げてくる。

「このように、記憶は《記憶市場》で確かな“価値”として流通しています」

そして──

「次に、あちらをご覧ください」

ラムザスが指さした先には、円形の巨大な建物がそびえ立っていた。出入りする人々が、興奮気味に言葉を交わしている。

「あの剣士の記憶、最高だったな! また観たいぜ!」

「俺もあんな風に戦ってみたいもんだ!」

他人の人生を覗き見た後の、一種の気怠さと高揚感が混じった表情。彼らは自らの現実から目を逸らすように、借り物の体験に熱狂していた。

「《記憶劇場》──《メモワール座》です。ここでは、選ばれた記憶を繋ぎ合わせ、一つの物語のように映像化して再現します。記憶は今や、この街の主要な“娯楽”なのです」

ラムザスの声はどこまでも穏やかだが、その静けさが、ぞっとするほど冷たい。

「……もういい」

私は、彼の言葉を遮るように言い放った。

ラムザスは一瞬だけ眉を動かすと、再びにこやかな仮面を貼り付ける。

「ここまでご案内いたしましたが……いかがですかな、我々の都メモリスは」

「この街がどのような経緯でこの仕組みを築いたのか、興味はない。だが──はっきり言わせてもらう。私にとっては、“好ましい”とは到底言えん世界だ」

(ちょ、ちょっとエレン……! そんな、はっきりと言わなくても……!)

エレナの焦った声が脳内で響く。

私は元来、過去に固執する質ではない。だが、人の記憶を商品や娯楽として弄ぶこの仕組みは、看過できる一線を遥かに超えている。

「おやおや……これは、手厳しいご意見ですね」

それでもラムザスは、その笑みを崩さない。

「だが──“記憶を操る”ということが、真にどういう意味を持つか。お前たちは……それを理解した上で、この仕組みを運用しているのか?」

私の問いに、ラムザスの動きが初めて、僅かに止まった。

(っ!? エレン……! “売る”とか“観る”だけじゃなくて……“操る”って……あっ…!)

ようやく、エレナもこのシステムの真の危険性に気づいたようだ。

記憶とは、人格を形成する礎そのものだ。それを外部から任意に抜き差しできるということは、個人の尊厳、意思、存在そのものを根底から覆す技術に他ならない。

つまり、この都市の権力者は、いつでも誰かの“人生”を好きな形に書き換えられるということだ。

「ふむ……可能性の話ですが、確かにそのような危険性はございますね……」

その言葉を、私は鼻で笑い飛ばした。理解していながら、この男はシステムを肯定している。これ以上、言葉を交わす価値もない。

「不快な思いをさせてしまったのでしたら……申し訳ありませんでした」

ラムザスは、心からの謝罪とは到底思えぬ完璧な所作で、深々と頭を下げた。その偽善に答える義理もなく、私は彼に背を向ける。

「……私はこれで失礼する」

去りゆく私の背中に、ラムザスのどこまでも穏やかな声が投げかけられた。

「ええ。引き続き、メモリスを心ゆくまでお楽しみください」

***

(あのラムザスって人……なんだか、すごく怖かった……)

(ああ……。底の知れない、不気味な男だったな)

エレナの言う「怖さ」の本質は、私にも理解できる。

常に貼り付けられた、あの完璧な笑顔の仮面。その下に隠された素顔が何であろうと、興味はない。

あの男がこの身――エレナに、牙を剥かぬ限りは。

ひとまず、それでいい。

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