Masuk日が傾き、街並みに夕暮れの色が差し始めていた。石畳の上に長く伸びた影を踏みながら、エレナは仲間たちのもとへと歩を進めていた。屋台の呼び声が遠くで細く揺れ、軒先のランタンがひとつ、またひとつと灯されていく。
『それにしても……あのジンって人、なんか引っかかるんだよね』 『……ああ。あの飄々とした態度、人の神経を逆撫でする声。今思い出すだけでも腹立たしい』 『そ、それは言いすぎだよ……』 『事実を述べたまでだ。だが、それより。君はもっと怒るべきだ』 エレナの歩幅が、ほんの半歩だけ緩む。 『えっ?? それはどうして……?』 『君は死にかけたんだぞ? まあ……私が今まで捕まえてきた悪人どもに恨まれ、その果てにあいつが現れたのだとしたら、責任の一端は私にあるが……』 夕風が金髪の先をかすかに揺らした。エレナは前を向いたまま、胸のうちで首を振る。 『うーん……でもさ、無事だったわけだし! それに何度あの人が来ようとも、あなたが私のことを守ってくれるでしょ?』 『……はぁ。時折、君の信頼が重いと感じる時があるよ』 『それでも、あなたはそれに応えてくれる』 『やれやれ、困った聖女様だ』 その一言に、エレナの頬がぴくりと跳ねた。 『あっ!! またその呼び方した!! やめてって言ってるのに!!』 『知らんな』 どこ吹く風の返事に、エレナは口を尖らせる。その内側のやり取りと歩調が噛み合うように、ちょうど街の入口が視界に開けた。石造りのアーチの手前、夕陽を斜めに受けて立つ人影がひとつ。シオンだった。 片手には革表紙の本。伏せた睫毛の下に視線を落としたまま、静かに頁を追っている。ただ立っているだけなのに、そこだけ風の通り道が違うように見えた。通りすがりの行商人が一度ちらりと振り返り、そのまま足を速めていく。 「シオンさん、戻りました」 本が、小さな音を立てて閉じられる。シオンは顔を上げ、いつもの穏やかな一礼を寄越した。 「エレナ様。おかえりなさい」 「ええ、他の皆さんは……?」 「他の者も、もう間もなく戻ってくると思いますよ。グレンも先ほど起きてきたようでして。それでも時間を持て余したのか、剣の素振りに行きました」 言いながら、シオンはちらりと街路の奥へ視線を滑らせる。 「シイナは、……あちらに」 つられてエレナがそちらを見た。 夕陽を背にして、シイナがこちらへ歩いてくる。いつもの軽い足取りではなかった。編み上げブーツが石畳を擦るように進み、肩もどこか落ちている。黒のジャケットの襟元がわずかに乱れ、普段は涼しげな切れ長の瞳にも、見慣れない陰りが差していた。 「シイナさん……どうされました……?」 エレナが一歩踏み出す。シイナは顔を上げ、力なく笑った――ように見えた。 「エレナ様……。私は、ここまでかもしれません……」 「えっ!?」 エレナの声が裏返る。その瞬間だった。 シイナの真後ろ――ちょうど背中の陰になっていた位置から、突風のような声が噴き出した。 「どもどもどもー!! 私はベルノ王国王立マギア研究所の研究員、ミストです!! どうぞよしなにー!!」 癖のある青い髪が夕風に逆立つように跳ねる。小柄な身体のどこにそれだけの空気が入っているのか、声量が石畳の上で反響した。通行人が二、三人、ぎょっとして振り返る。 「お……おぉ……」 エレナの肩がわずかに引けた。後ずさりかけた爪先が、石の継ぎ目で止まる。ミストは気づく様子もなく、むしろその一歩ぶんをそのまま埋めるように距離を詰め、両手でエレナの手を包み込んだ。小さな手のひらは意外と温かい。 「未来の聖女、エレナ様!! お会いできて光栄ですっ!!」 「は、はいぃ……! 私も嬉しいのですが……! 少し落ち着いてください……」 ぶんぶん、と上下に振られる手につられて、エレナの肩から金髪まで一緒に揺れる。シオンが半歩下がって、そっと本を胸に抱え直した。 ようやく手の振動が止まる。エレナがほっと息をつきかけた、その次の瞬間だった。 ミストの眉が、ほんの少し寄った。 「……」 エレナを見上げたまま、ぴたりと動きを止めている。さっきまでの竜巻じみた勢いが嘘のように、瞳が彼女の顔をまっすぐになぞった。 「ど、どうしました……?」 「いや、エレナ様……私が尊敬するエレン様に、どことなく面影が似てるような……。エレン様は、エレナ様の騎士ですよね? なにか関係があったり……?」 エレナの指先が、包まれたまま一瞬強張った。 (えぇ!? こ、この人鋭い……!) ミストの視線は離れない。観察するというより、記憶の中の像と目の前の顔を一枚ずつ照らし合わせているような、研究者のまなざしだった。エレナは反射的に目を逸らす。だがその角度を追うように、ミストの顔もほんのわずかに傾く。 夕陽に照らされた石畳の上、ふたりの距離だけが不自然に近い。 そのときだった。 「いい加減にしろミスト!」 鋭い声と同時に、真上から影が落ちる。シイナの手刀が、狙いすましたようにミストの脳天へ叩き落とされた。 「ぐえぁ……!?」 小柄な身体が、ぺしゃりと前のめりに崩れる。さっきまでの力ない表情はどこへやら、シイナはすでに手刀を振り抜いた姿勢のまま、深々とため息をついていた。 「エレナ様、失礼しました……。こいつ、昔からハチャメチャでして……。お気に召しませんでしたら、帰らせます」 包まれていたエレナの手が、ようやく解放される。 「ちょっとちょっと! シイナ君、それは酷くないですかぁ!?」 頭を押さえたまま、ミストが跳ね起きた。復活が早い。 「お前が騒がしくしなければいいだけだろ……」 シイナは手刀を振った腕を下ろし、襟元を軽く直す。さっきまで肩に滲んでいた陰りが、呆れという別の色に塗り替えられていた。 「暴力反対ー! 強要するなー!」 両手をぶんぶんと振り回すミスト。その勢いで青い髪がまた跳ね、夕風にかき混ぜられる。騒ぎの中心で一人だけテンションを落とさないその姿を前に、シオンが静かに指先を眉間に当てた。長い睫毛が伏せられ、薄く息が吐き出される。 『こいつ……騒がしいにも程があるぞ……。私たちの活力を吸い取られていく……』 その時だった。街の外へ出ていたグレンが、大きく手を振りながら戻ってくる。 「戻ったぜ〜……って、なんか随分騒がしいな?」 その姿を見つけた途端、ミストの目がぱっと輝いた。 「おおっ!? 炎の騎士、グレンさん! お噂はかねがね! なにやらとても有望な騎士見習いだと聞いてますよ!!」 「おお!? オレのこと知ってんのか!」 「もちろんですとも!! あなたは私にとっても有望な観察対象ですから!!」 観察対象、という言葉に、エレナの表情がわずかに引きつる。だが、それを拾って問い返せるような空気は、もうどこにも残っていなかった。場の中心ではミストがなおも身振り手振りを交え、グレンもすっかり調子を合わせて声を張っている。 そのすぐそばで、シイナはついに手と膝を地面につき、深くうなだれていた。 こうして、騒がしいという一言では収まらない人物が、エレナたちのパーティに正式に加わることとなった。理由は王立マギア研究所の所長からの指示らしい。シオンは静かに眉間を押さえたまま、シイナは地面を見つめたまま動かない。夕暮れの街角に、ミストの明るすぎる声だけがいつまでも響いていた。────エレナの視点──── 石造りの螺旋階段を、私たちは息を切らしながら駆け上がっていた。 ごつごつとした壁が、手に持つ灯りの光を不気味に反射している。下層から響いていた激しい戦闘音は、もう聞こえない。石段を踏みしめる足音と、荒い息遣いだけが、神殿の静寂を破っていた。 「グレンさん、大丈夫ですかね……!?」 ミストさんの不安そうな声が、静寂に包まれた階段に響いた。その声には、仲間への深い心配が込められている。 「……きっと、大丈夫!」 何の確証もない。けれど、私の胸の奥で、温かい光のようなものが「大丈夫だ」と囁いていた。それは昔から私の中に宿る、聖女としての直感のようなもの。 「私の直感が、そう告げてるの!」 「えぇ!? そ、そんな直感が……!?」 ミストさんが驚きの声を上げる。 (私も原理は分からんが……エレナには、その力が間違いなく備わっている。運命そのものを、その祈りの力で強引にねじ曲げてしまうような、不思議な力がな。だから、今回もきっと大丈夫だ) エレンの声が、私の内側で静かに響いた。 (うん……!) 彼の言葉が、私の直感を後押ししてくれる。 「それなら良いが……慢心はするなよ」 シイナさんが、冷静に釘を刺した。 「未来が見えるからと、それに胡坐をかいて行動するようでは、今の暗明の聖女と何も変わらないからな」 「……うん、そうだね。私は、この直感を絶対に正しいなんて、傲慢なことは思わないよ」 私にできるのは、この直感を信じつつ、でも決して過信しないこと。神様のお導きを感じながらも、自分の足で歩むこと。 「そこが、エレナさんの素敵なところですね」 シオンさんが、静かに微笑んだ。 その時、長く続いた階段が終わり、私たちの目の前に、だだっ広い広間が見えてきた。天井は高く、月光が差し込む窓から、青白い光が石床を照らしている。 「きっと、ここにも残りの騎士が待ち構えていることだろう」 「その時は、私が残ります」 シオンさんの言葉に、ミストさんが待ったをかける。 「いやいやいや! そこは私でしょうー!!」 「……?」 シオンさんが、心底不思議そうに首を傾げた。 「そのお顔はなんですかァァ!?」 「いえ……だってあなたは、戦いがあまり得意な方ではないでしょ
**────エレナの視点────** 「じゃあ皆、各々準備してくれ。五分後にはここを出て、リディアさんを助けに行くぞ」 シイナさんの力強い言葉に、私たちは一斉に頷いた。この小さな家の中に、静かだが確固たる決意が満ちている。みんなの表情に迷いはない。先ほどまでの混乱が嘘のように、今は一つの目標に向かって心が結束していた。 五分という短い時間の中で、私たちはそれぞれの装備を確認し、心の準備を整える。月光が窓から差し込み、武器の金属部分を青白く照らしていた。この静寂が、嵐の前の静けさのように感じられてならない。 「準備はいいか? 今回、ジンが大方の騎士は無力化してくれたという話だ。恐らく…すぐに四騎士との戦闘になるだろう」 シイナさんの声に緊張が走る。四騎士——この国の最強戦力との戦いが待っているのだ。 「ここの騎士たちの数は多かったからね。でも、気を付けて」 ジンさんが軽やかに言葉を続ける。 「流石に全部を倒すわけにもいかなかったから、十人程度は残ってるはずだから」 「それでも、そんなに多くの騎士を戦闘不能にするなんて……」 私は驚きを隠せなかった。一人でそれほどの騎士を相手にするなんて、どれほどの実力者なのだろう。 「はは、聖女様に褒めてもらえるなんて。なんだか嬉しいよ」 ジンさんの表情に、子供のような無邪気さが浮かんでいる。しかし、その奥に潜む何かが、私の心に小さな不安を芽生えさせた。 「ね、念の為に聞くのですが……殺しはしてないですよね……?」 恐る恐る尋ねた私の質問に、ジンさんの表情がふっと変わった。まるで別人のような、冷たい光が瞳に宿る。 「……剣を抜いた以上、お互いの命が尽きるまで刀を振り合うべきだと僕は思っているんだ」 その一言に、背筋が凍りつくような恐怖を感じた。ジンさんの声音には、戦いへの狂気じみた情熱が込められている。私の心臓が、ドクドクと激しく鼓動を刻んでいた。 「でも……今回は大丈夫。殺してないよ」 そう言って見せる笑顔は、まるで何事もなかったかのように穏やかだった。しかし、その急激な変化が、かえって不気味さを増している。 (今回は……? ということは、普段は……?) 心の奥で、暗い想像が渦巻いていた。 * * * 五分後。静寂を破って、私たちは行動を開始した
**────エレナの視点────**「という訳なんだ」ジンさんの軽やかな口調で語られた残酷な現実に、私の心は氷のように凍りついてしまった。リディアさんが捕らえられて、処刑される。その事実が、どうしても受け入れることができなかった。「そ、そんな……嘘ですよね??」私の声が震えている。まるで悪夢から覚めたいと願うかのように、その言葉にすがりついた。「……こんな時に嘘なんてつかないよ」ジンさんの飄々とした口調が、現実の重さをより一層際立たせる。「……くっ!!!」シイナさんが拳を強く握りしめ、歯を食いしばっている。その青白い顔に、激しい怒りと悲しみが刻まれていた。「皆は先にこの国を脱出してくれ……!俺は……俺はリディアさんを助けに行く!!」シイナさんが勢いよく立ち上がり、扉に向かって歩き出そうとする。その瞳に宿る決意の炎は、誰にも止められないほど激しく燃えていた。「待てよ!!そんなの俺たちだって同じ気持ちだ!」グレンさんが力強く立ち上がる。彼の声には、シイナさんに負けないほどの強い意志が込められていた。「ええ……彼女には計り知れないほど多大な恩があります。なので……グレンと私でリディアさんを救出に向かいます」シオンさんの顔に、鋼のような決意が浮かんでいる。「シイナ、あなたこそエレナさんやミストさんと共に先に脱出してください」「だめだ!今回はパーティリーダーの責任として、俺が行く!」「シイナ!」「俺が、彼女を助けてすぐに戻ればいいことだろう!」「おいシイナ!俺がやられたテッセンとかいうやつの事を忘れたわけじゃないだろ!?少し落ち着け!」三人の激しい言い争いが、小さな家の中に響き渡る。誰も一歩も引かない様子で、感情のままに言葉をぶつけ合っていた。「あわわわわ……みなさん!こんな時に言い争ってる場合じゃないですって!」ミストさんが慌てて三人の間に割り込もうとするが、激しい感情の渦に巻き込まれ、弾き飛ばされてしまう。「ぎゃー!!」(みんな……冷静さがすっかり抜けて、これじゃあ救える命だって救えないよ……!)(それに……私だってリディアさんを助けたいのに……)私の心の中で、やりきれない想いが渦巻いている。みんなの気持ちは痛いほど分かるけれど、このままでは誰も救えない。そう考えていた、まさにその瞬間だった。私の意識が、まるで深い
**────ジンのの視点────** やる気か、と。僕は心の中で、小さく呟いた。 ここは冒険者ギルド。依頼と情報が交差する、いわば中立の聖域だ。そんな場所で騎士が刀を抜き、殺し合いを演じようというのだから、面白い。実に、面白い。 僕は向かってきた騎士の剣戟をいなすどころか、その勢いを逆に利用して体ごと弾き飛ばした。空中で無様に体勢を崩した彼の喉笛へ、僕は逆手に持ち替えた刃を、まるで吸い込まれるかのように滑らせる。「がぁっ……!」 声にならない呻きを漏らし、騎士が床に崩れ落ちた。口からごぼりと泡を吹き、痙攣する手足が、彼の命が尽きかけていることを示している。 仲間の一人が一瞬で無力化されたというのに、残された騎士たちは状況が飲み込めていないらしい。驚愕に見開かれた目が、滑稽なほどにこちらを向いていた。「き、貴様っ! 正気か!?」「あはは、面白いことを言うね、君。先にその物騒な鉄の獲物を抜いたのは、そっちじゃないか」「そ、それにしてもだ! 我々騎士に刃向かうなど、あってはならないことだぞ!?」「残念だけど、僕はそんな立派な冒険者様じゃない。僕はジン。世界を渡り歩く、ただの傭兵だからね」「ジン……!?」 その名に、騎士の一人が息を呑んだ。どうやら僕の名も、多少は裏の世界に知れ渡っているらしい。「くそっ……! やられて黙っていては、騎士の名が廃る! こいつも捕縛しろ!」 別の騎士が、その手に蒼い水の魔力を纏わせながら、僕へと突進してくる。ギルドの中で属性魔法を放つ? ああ、本当に、愚かだな。「はぁ……後悔しても、知らないよ」 僕は腰に差した愛刀「雪月花」の鯉口を切ると、一閃、抜き放った。 (鳴神式抜刀術――神威の型。) 空気を切り裂く音だけが響き、騎士の右腕が、ごとり、と鈍い音を立てて石床に転がった。「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!!! お、俺の腕がァァァァッ!!」 やかましいね。腕の一本や二本、飛んだくらいで喚くなんて。自分から仕掛けておきながら、いざ返り討ちに遭えば獣のように吠え立てる。弱者の典型だ。「お、お前……! 自分が何をしたか、分かっているのか!?」「さっきも言ったはずだよ。先に始めたのは、そっちだってね」 僕は刀身に付いた血を振るい、ゆらり、と笑みを浮かべた。「まだまだ足りないな。……もっと、殺り合おうよ」 ああ、い
(この声に気配……覚えがある)エレンの意識が、私の奥底で警戒の炎を燃やし始める。(私もそう感じてた……なんだか、すごく(身に覚えがあるような……)(確か、夜の街で我々を襲撃してきた傭兵……名は確かジン……と言ったか)その名前を耳にした瞬間、あの記憶が、鮮血のように鮮やかに脳裏へと蘇ってきた。霊たちが彷徨う夜の街で、昼間の平穏な探索が一変した瞬間。突如として現れた謎の傭兵——。その圧倒的な実力は私には理解の範疇を超えていたけれど、エレン曰く、これまで戦った敵の中でも別格の強さを誇っていた……と。(そ、その人がなんでこんな場所に!? まさか、私たちを追ってきたの!?)(さあな。だが……敵意は微塵も感じられない。それに何か重要な情報を知っているようだ)(ここは一か八か、直接対峙してみるのも選択肢の一つだろう)「エレンが敵意は感じないから……出てみるのも一つの手だって……」私はシイナさんに、内心の不安を隠しながらそう告げる。「敵意を感じない……か。グレンもミストも意識を取り戻したことだし、直接話してみるか?」シイナさんの声に、慎重な判断力が込められている。(ああ、そうしてみてくれ)「そうして見てほしいって……」エレンの助言をそう伝えると、シイナさんが深く頷き、警戒を込めて扉の前へと歩を進めた。「何用だ」シイナさんの声が、扉越しに響く。「あれ、やっぱりいるんじゃないですかー」その飄々とした口調に、底知れない余裕が滲んでいる。「やあ、僕はジン。リディアっていう方からの重要な伝言があるんだけど、扉を開けてもらえないかな?」「残念だが、こちらにも複雑な事情があってな。このままでお願いしたい」シイナさんの慎重な対応に、扉の向こうから軽やかな笑い声が響く。「……あーそっか、いまこの国から追われてるんだっけ。それなら心配しなくていいよ」「大体の騎士は僕が片付けたから」「な、何だと!?」シイナさんの声が、驚愕に震える。「えっ!??」私も思わず声を上げてしまった。「ま、待て! この国の騎士一人一人は精鋭と言っても過言ではないほどに優秀だ。それをお前は単身で制圧したというのか?」「はは。まぁ確かにこの国の騎士はよく鍛錬されていたね。でも、僕も実力には自信があるんだ」その軽やかな口調で語られる内容の恐ろしさに、私たちは言葉を失った
**────エレナの視点────**次の日。「みなさん!!!!本当にご迷惑をおかけしました!!!」「本当に面目ねぇ……!!!今回迷惑かけた分は、必ず挽回するぜ!」二人が目を覚ましたんだ。あんなに傷だらけで、ずっと目を覚まさなかったグレンさんも元気になって、本当に良かったと思う……。でも……。聞かないといけない。二人に、何があったのか。「それより……二人に何があったんですか?なんで……グレンさんはあんなに傷だらけだったんですか……?」私がそう尋ねると、グレンさんが急に口を噤んでしまう。数秒の重い沈黙が部屋を支配すると、やがて言いにくそうにグレンさんが口を開き始めた。「お前たちが情報収集に行った数時間後、とんでもなく強い奴が現れたんだ」「とんでもなく強い奴?」シイナさんの声に、緊張が走る。「ああ。全身に見たこともない鎧を着て、刀を使っていた」(見たこともない鎧に刀……か)エレンの声が、意識の奥で静かに響く。「そいつは……全く俺の攻撃が通じなかった」「なに!?グレン、お前の攻撃がか!?」シイナさんは心底驚いたような様子を見せる。グレンさんの実力を知っている彼だからこその驚きだった。(…………)エレンが沈黙している。何かを考えているみたいだ。「ああ、正直全く底が見えなかったぜ。戦ってる感触としては……エレンに近かったかもな」「エレンに……?」私の声が震える。エレンと同じくらい強いなんて……。「それは……かなり厄介そうですね」シオンさんの美しい顔に、珍しく深刻な表情が浮かんでいる。「厄介なんてもんじゃねぇよ。あいつは俺の攻撃を全部受け止めやがった」グレンさんは、私たちのパーティ内でも屈指の攻撃力を持つ







