Beranda / ファンタジー / Soul Link ─見習い聖女と最強戦士─ / #41:私様の顔に足を乗せる無礼者

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#41:私様の顔に足を乗せる無礼者

Penulis: 渡瀬藍兵
last update Tanggal publikasi: 2025-08-01 11:30:00

「よ、よしっ! 私も頑張らなくちゃ!」

 そう声に出した瞬間、エレナの掌に光が凝り始めた。指先から伸びた輝きが弦を結び、弓の形を成していく。それを両手でしっかりと構えると、彼女は迷わず空へ向けて放った。

「|聖なる弓《サンギッタ・サンクタ》!」

 光の矢は弧を描いて昇り、魔物の群れの上空へ到達したところで、ぴたりと静止した。次の瞬間、球体の表面から無数の光の筋が枝分かれし、まるで光の雨のように地上へと降り注ぐ。

 光を浴びた魔物たちが、悲鳴を残す間もなく、次々と霧散していく。

『ふむ。やはり君の力は、魔物によく効くな』

 エレンの声が、静かに胸の奥で響いた。

「なぁ、あのパーティ、ベルステラから来たって言ってたよな?」

「ああ。流石に王都から来たパーティなだけあって、とんでもない強さだぜ……」

「それはそうだが、そうじゃなくて……。あの金髪の少女って、エレナ様じゃないか?」

「えっ……? 聖女様が? まさか、こんな場所へ来るはずがないだろ。それに、聖女様が戦うなんて、そんなことはありえない」

 冒険者たちの間で、そんな声がひそひそと交わされていた。エレナは目の前の魔物への対応で手一杯で、その会話に気づく余裕などなかった。だが、見習いとはいえ聖女という立場は、多くの人間に先入観を与えているらしい。戦う聖女など、彼らの想像の外にあるのだろう。

 それからしばらく。数多の冒険者と力を合わせ、エレナたち一行は魔物を殲滅した。

 ――したのだが、またわらわらと湧いてくる。

「だーっ!! めんどくせぇ!! どんだけ湧いてくんだよ!!」

「……ええ。これではジリ貧ですね」

 グレンの怒声と、シオンの静かな一言が、ほぼ同時に重なった。

「……まるで無尽蔵だ。なにか、原因があるはずだ……!」

 シイナが歯を食いしばるように呟き、鋭い目で周囲を見渡した。

 だが、すでに周囲は魔物で埋め尽くされている。どこを向いても蠢く影、上がり続ける怒声と悲鳴。そんな状況の中で原因を探るなど、物理的に不可能に等しかった。

『ん……?』

 不意に、エレンの声が響いた。

『どうしたの?』

 エレナが問い返すより早く、エレンの意識が一点へと向かう気配があった。

『エレナ、あそこを見てみろ』

「どこ??」

『後方の、いちばん手前にある建物の横だ。怪しいヤツがいる』

 言われた方向へ目を向けると、深くフードを被った人物が、建物の影に半身を隠して立っていた。逃げる様子も、戦う様子もない。ただ静かに、エレナたちの方へと顔を向けている。

『気配が愉悦を孕んでいる。あいつ、この件に何か関係しているぞ』

 エレンの声に、確信に近い響きが混じった。

『じゃあ捕まえないと……!』

『幸い、今はミストが派手に暴れて人目を引いている。今ならバレずにこの場を離脱できるだろう』

 視線を横へ流すと、ミストが歓声を上げながら魔物の群れを薙ぎ払っていた。冒険者たちの目はそちらへ釘付けになっている。

『で、でもここも守らないと……!』

 エレナがそう口にした瞬間だった。

「っ!」

 横合いから、スケルトンが音もなく迫っていた。エレナは反射的に弓を引き絞る。

「|聖なる弓《サンギッタ・サンクタ》!」

 放たれた矢がスケルトンの頭蓋へ深々と刺さり、その輪郭がゆっくりと解けていく。白骨の残骸が、砂のように崩れ落ちた。

『エレナ。魔物の数が、さっきより確実に増えている。このままでは、いずれ押し切られるだろう。原因と絡んでいそうなあいつを捉えるのが、一番いい。私が吐かせてやる』

 エレンの声は、低く冷徹だった。

『……わかった!』

 エレナは短く頷くと、もう一矢を番えた。放たれた光が弧を描き、迫り来る魔物の胸を正確に穿つ。その一瞬の隙を縫うように、エレナは身を低くして戦場の端へと滑り込んだ。フード姿の人物に気取られないよう、建物の影から影へと、足音を殺して進んでいく。

 ✦ ━━━━━━━━━━━━━━ ✦

 主導権の入れ替えを済ませたエレンは、すでに謎の人物の背後へ回り込んでいた。石畳を踏む音もなく、影が滑るように間合いを詰める。人物はその接近に、最後まで気づかなかった。

「おい。随分と楽しそうなことをやってるじゃないか」

 低く、静かな声だった。

「私も混ぜてもらおうか」

「!?」

 人物が弾かれたように振り返る。フードの奥の気配が、一瞬で張り詰めた。間を置かず、腰から短剣が二本抜かれ、エレンへ向けて構えられる。

(短剣の構え。慣れているようだが…)

 エレンの視線が、その手元を一度だけ動いた。

「このっ……! 今、私様はとある実験の最中だ! 邪魔をするな!」

 次の瞬間、エレンは動いていた。振り回された短剣の軌道を外し、手首を掴む。そのまま体重を乗せて地面へ叩きつけると、逃げ場を塞ぐように足を顔へ乗せた。

「ぐぁ……!」

 くぐもった呻きが石畳に落ちる。

 (──短剣を扱うことには慣れている。だが、動きが随分とお粗末だ)

「き、貴様ァ!! 私様の顔に……あ、あ、あ、足を乗せるなど!! 無礼であるぞ!!」

「知ったことか」

 エレンは踏みつけたまま、ほんの少し首を傾けた。

「随分と特徴的な一人称を使うんだな。私様、ねぇ」

『エレン……。あの……凄くこの人が怪しいのはそうなんだけど……凄く絵面があなたが悪者みたいだよ……。せめて顔を踏むのはやめない……?』

「ふむ」

 エレンは視線を落としたまま、特に急ぐ様子もなく答えた。

「いいじゃないか。君の身体に踏まれるなど、こいつもさぞ幸せだろうに」

 悪びれた色は、どこにもなかった。ゴミでも眺めるような目で、ただ淡々とそう告げる。

「なにをわけのわからん独り言を言いおって……!! 早くこの汚い足をどかすのだ!!」

「……汚い足、だと?」

 エレンの足に、静かに力が込められた。

「あだ……!! あだだだだ……!! は、離せぇ!!」

「誰が、汚い足だって? もう一度、言ってみろ」

『エレン! 今そんなことしてる場合じゃないでしょ!? 早く問い詰めないと!! みんなが今も戦ってるんだから!』

『そんなこと? そんなで済む話であるわけがないだろう。君の足が汚いなどと戯けたことを言う馬鹿には、分からせなければ』

 石畳に押しつけられた人物が、ばたつかせた手でエレンの足首を掴もうとする。だが、その指先が届くより早く、踏み込まれた力はさらに深く沈んだ。

 やがて、その顔の下から嫌な音が立ち始めた。

 メキ、メキ、と。

「やめ……!! 話す!! 話すから、その足を退けてくれ!!」

「嘘をつくな。お前が逃亡しようとしていることなど、お見通しだ。気配がそう告げているからな」

「……!!」

 返す言葉を失ったのか、人物の喉がひくりと震える。フードの奥から漏れた息は浅く、石畳に這いつくばったままの身体だけが小さく強張っていた。

「私から逃げおおせると思うなよ。お前の気配は分かりやすく、しょうもないものだ。観念して、この魔物の群れはなんなのか話せ。それから、先程のこの足が汚いという発言も撤回しろ……いや、撤回の方が先だな」

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