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#40:魔物の襲撃

مؤلف: 渡瀬藍兵
last update تاريخ النشر: 2025-07-31 11:38:40

「なんだァ? 魔物だと?? こんな街ん中にか?」

 グレンの荒い声が、雑踏を裂くように飛んだ。その横で、シイナは眉間にわずかな皺を刻み、押し寄せてくる人波の奥──通りの突き当たりへと目を細めた。

 通りの向こうからは人の波が途切れなく雪崩れ込んでくる。生者に混じって幽霊たちの輪郭までが揺れ、肩と肩がぶつかり合い、街の空気そのものが押し戻されてくるかのようだった。

「わわっ! すごい人です〜!!」

『街中に……魔物……』

『ああ。あの時みたいだな』

 ──真っ白な体色をした、あの特異個体のグール。その像だけが、場違いなほど鮮明に脳裏へ浮いた。

 そんな中、シイナが一歩前へ出た。逃げ惑う流れの脇へ身を滑り込ませ、その中でもまだ足取りの乱れていない男を見つけると、低く声を掛ける。

「すまない、少しいいか」

「な、なんだい?」

「この人の波はなんだ。さっき、魔物だという悲鳴が聞こえたが……」

 男は何度か背後を振り返り、それから落ち着かない様子で言葉を継いだ。

「街を飲み込むほどの魔物の大群が、この街へ向かってきてるらしいんだよ……。僕の目には見えなかったんだけど、多くの人がそれを見て、今こうして慌てて逃げてるってわけさ」

「魔物の──大群、だと?」

 シイナの目が、はっきりと見開かれた。

 ──そもそも魔物とは、大群と呼べるほどの群れを成す生き物ではない。群れるにしても、狼の群れのように意思の疎通が届く範囲が限度だ。街を飲み込むほどの数となれば、その理から大きく外れている。

「仮にそれほどの大軍がこちらへ進行しているのであれば、ベルノ王国に騎士団の派遣を要請したほうがいいかもしれませんね……」

 ミストがそう口にすると、男は小さく頷いた。

「幸い、この街には冒険者が大勢いるみたいでね。南出口の方で、冒険者たちが話し合ってたよ」

「またスケルトンの群れの時みてぇに……いや、あん時とは比べもんにならねぇ量と戦うのかよ……」

 グレンはそう零し、うんざりしたように頭を掻いた。

「ですが、このまま放置はできませんよね」

 シオンの声は静かだった。だが、その一言は風のように真っ直ぐ場を通り抜けた。

「その通りです……! 私も、出来うる限り力になります……! ですから、どうか……!」

「エレナ様、私たちには力があります。人を守れるだけの力が。そんな私たちがしっぽを巻いて逃げたら、とんだ笑い話ですよ」

 シイナの口元に、柔らかな笑みが刷かれる。

「そうだなぁ……。それに、考え方によっちゃあ、これを特訓とも捉えられるだろ!」

 先ほどのうんざりした顔はどこへやら、グレンは指の骨を小気味よく鳴らすと、好戦的に口の端を吊り上げた。

「あなたは単純でいいですね。少し羨ましいです」

「おま……! ちょっとオレに当たり強くねぇか!?」

「私も少し実験したいことがありますし! ちょうどいい材料が手に入ったと、思うことにしますよぉぉ!」

『……ミストの意気込みだけ、またべつの種類のものだな。こいつを危険人物に認定するべきかもしれん』

『そ、そうだね……。でも、この街を守らなきゃ……!』

「冒険者たちが集まって話し合っているとのことだったな。俺が話をつけよう。戦力は多ければ多いほどいい。力を合わせて乗り越えられるのなら、それに越したことはないからな」

 そうしてシイナは、宣言通りに動いた。街の南出口に集まっていた冒険者たちも、この街を守るつもりではあった――が、押し寄せる魔物の数を前に、決め手を欠いて足踏みしていたらしい。そこへ、ベルノ王国から来た優秀なパーティであるシイナたち一行が加わる。話は、皆で力を合わせて撃退に望みをかけようという方向へ、自然と着地した。

 そして、今。エレナの眼前には、ある意味とんでもない事態が繰り広げられていた。

 ✦ ━━━━━━━━━━━━━━ ✦

 響き渡るのは、魔物の絶叫。炎に焼かれ、風に吹き飛ばされ、鉄に切り裂かれ――エレナの目から見ても、すでに十分すぎる惨状だった。だが、戦場のなかで誰よりも甲高い歓声を上げていたのは、ほかでもない、ミストだった。

「あっはははははは!! 期待通りの効果ですねぇ!! でも、もう少し改善の余地があるかもしれません! メモメモっと」

 独り言のように呟く彼女の足下には、すでに幾重にも魔物の死骸が積み上がっている。

 メモをし終えるとミストが水属性の魔法で大きな波を生み出した。白衣の内側からフラスコを一つ取り出すと、中に満たされた怪しげな液体を、その波へと静かに注ぎ込む――。

 触れた魔物たちが、一斉に痙攣を起こし始めた。喚き、のたうち、やがて力尽きたように地面へと伏していく。その光景を眺める冒険者たちの目は、揃って引き攣っていた。ミストへ向ける視線には、明確な恐怖と距離がある。エレナも、そしてエレンも、その感覚から逃れられてはいなかった。

『前言撤回だ。こいつは危険かもしれないんじゃない。危険だ。危険極まりない。エレナ、こいつに近寄りすぎるなよ』

 ――などという始末である。

『あはは……』

 そんな乾いた苦笑を一つ。それでもエレナは気を取り直すと、目の前に迫る魔物の群れを、まっすぐに見据えた。

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  • Soul Link ─見習い聖女と最強戦士─   第115話:立ちはだかる二人

    ────エレナの視点──── 石造りの螺旋階段を、私たちは息を切らしながら駆け上がっていた。 ごつごつとした壁が、手に持つ灯りの光を不気味に反射している。下層から響いていた激しい戦闘音は、もう聞こえない。石段を踏みしめる足音と、荒い息遣いだけが、神殿の静寂を破っていた。 「グレンさん、大丈夫ですかね……!?」 ミストさんの不安そうな声が、静寂に包まれた階段に響いた。その声には、仲間への深い心配が込められている。 「……きっと、大丈夫!」 何の確証もない。けれど、私の胸の奥で、温かい光のようなものが「大丈夫だ」と囁いていた。それは昔から私の中に宿る、聖女としての直感のようなもの。 「私の直感が、そう告げてるの!」 「えぇ!? そ、そんな直感が……!?」 ミストさんが驚きの声を上げる。 (私も原理は分からんが……エレナには、その力が間違いなく備わっている。運命そのものを、その祈りの力で強引にねじ曲げてしまうような、不思議な力がな。だから、今回もきっと大丈夫だ) エレンの声が、私の内側で静かに響いた。 (うん……!) 彼の言葉が、私の直感を後押ししてくれる。 「それなら良いが……慢心はするなよ」 シイナさんが、冷静に釘を刺した。 「未来が見えるからと、それに胡坐をかいて行動するようでは、今の暗明の聖女と何も変わらないからな」 「……うん、そうだね。私は、この直感を絶対に正しいなんて、傲慢なことは思わないよ」 私にできるのは、この直感を信じつつ、でも決して過信しないこと。神様のお導きを感じながらも、自分の足で歩むこと。 「そこが、エレナさんの素敵なところですね」 シオンさんが、静かに微笑んだ。 その時、長く続いた階段が終わり、私たちの目の前に、だだっ広い広間が見えてきた。天井は高く、月光が差し込む窓から、青白い光が石床を照らしている。 「きっと、ここにも残りの騎士が待ち構えていることだろう」 「その時は、私が残ります」 シオンさんの言葉に、ミストさんが待ったをかける。 「いやいやいや! そこは私でしょうー!!」 「……?」 シオンさんが、心底不思議そうに首を傾げた。 「そのお顔はなんですかァァ!?」 「いえ……だってあなたは、戦いがあまり得意な方ではないでしょ

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    **────エレナの視点────** 「じゃあ皆、各々準備してくれ。五分後にはここを出て、リディアさんを助けに行くぞ」 シイナさんの力強い言葉に、私たちは一斉に頷いた。この小さな家の中に、静かだが確固たる決意が満ちている。みんなの表情に迷いはない。先ほどまでの混乱が嘘のように、今は一つの目標に向かって心が結束していた。 五分という短い時間の中で、私たちはそれぞれの装備を確認し、心の準備を整える。月光が窓から差し込み、武器の金属部分を青白く照らしていた。この静寂が、嵐の前の静けさのように感じられてならない。 「準備はいいか? 今回、ジンが大方の騎士は無力化してくれたという話だ。恐らく…すぐに四騎士との戦闘になるだろう」 シイナさんの声に緊張が走る。四騎士——この国の最強戦力との戦いが待っているのだ。 「ここの騎士たちの数は多かったからね。でも、気を付けて」 ジンさんが軽やかに言葉を続ける。 「流石に全部を倒すわけにもいかなかったから、十人程度は残ってるはずだから」 「それでも、そんなに多くの騎士を戦闘不能にするなんて……」 私は驚きを隠せなかった。一人でそれほどの騎士を相手にするなんて、どれほどの実力者なのだろう。 「はは、聖女様に褒めてもらえるなんて。なんだか嬉しいよ」 ジンさんの表情に、子供のような無邪気さが浮かんでいる。しかし、その奥に潜む何かが、私の心に小さな不安を芽生えさせた。 「ね、念の為に聞くのですが……殺しはしてないですよね……?」 恐る恐る尋ねた私の質問に、ジンさんの表情がふっと変わった。まるで別人のような、冷たい光が瞳に宿る。 「……剣を抜いた以上、お互いの命が尽きるまで刀を振り合うべきだと僕は思っているんだ」 その一言に、背筋が凍りつくような恐怖を感じた。ジンさんの声音には、戦いへの狂気じみた情熱が込められている。私の心臓が、ドクドクと激しく鼓動を刻んでいた。 「でも……今回は大丈夫。殺してないよ」 そう言って見せる笑顔は、まるで何事もなかったかのように穏やかだった。しかし、その急激な変化が、かえって不気味さを増している。 (今回は……? ということは、普段は……?) 心の奥で、暗い想像が渦巻いていた。 * * * 五分後。静寂を破って、私たちは行動を開始した

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  • Soul Link ─見習い聖女と最強戦士─   第112話:リディアの交渉

    **────ジンのの視点────** やる気か、と。僕は心の中で、小さく呟いた。 ここは冒険者ギルド。依頼と情報が交差する、いわば中立の聖域だ。そんな場所で騎士が刀を抜き、殺し合いを演じようというのだから、面白い。実に、面白い。 僕は向かってきた騎士の剣戟をいなすどころか、その勢いを逆に利用して体ごと弾き飛ばした。空中で無様に体勢を崩した彼の喉笛へ、僕は逆手に持ち替えた刃を、まるで吸い込まれるかのように滑らせる。「がぁっ……!」 声にならない呻きを漏らし、騎士が床に崩れ落ちた。口からごぼりと泡を吹き、痙攣する手足が、彼の命が尽きかけていることを示している。 仲間の一人が一瞬で無力化されたというのに、残された騎士たちは状況が飲み込めていないらしい。驚愕に見開かれた目が、滑稽なほどにこちらを向いていた。「き、貴様っ! 正気か!?」「あはは、面白いことを言うね、君。先にその物騒な鉄の獲物を抜いたのは、そっちじゃないか」「そ、それにしてもだ! 我々騎士に刃向かうなど、あってはならないことだぞ!?」「残念だけど、僕はそんな立派な冒険者様じゃない。僕はジン。世界を渡り歩く、ただの傭兵だからね」「ジン……!?」 その名に、騎士の一人が息を呑んだ。どうやら僕の名も、多少は裏の世界に知れ渡っているらしい。「くそっ……! やられて黙っていては、騎士の名が廃る! こいつも捕縛しろ!」 別の騎士が、その手に蒼い水の魔力を纏わせながら、僕へと突進してくる。ギルドの中で属性魔法を放つ? ああ、本当に、愚かだな。「はぁ……後悔しても、知らないよ」 僕は腰に差した愛刀「雪月花」の鯉口を切ると、一閃、抜き放った。 (鳴神式抜刀術――神威の型。) 空気を切り裂く音だけが響き、騎士の右腕が、ごとり、と鈍い音を立てて石床に転がった。「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!!! お、俺の腕がァァァァッ!!」 やかましいね。腕の一本や二本、飛んだくらいで喚くなんて。自分から仕掛けておきながら、いざ返り討ちに遭えば獣のように吠え立てる。弱者の典型だ。「お、お前……! 自分が何をしたか、分かっているのか!?」「さっきも言ったはずだよ。先に始めたのは、そっちだってね」 僕は刀身に付いた血を振るい、ゆらり、と笑みを浮かべた。「まだまだ足りないな。……もっと、殺り合おうよ」 ああ、い

  • Soul Link ─見習い聖女と最強戦士─   第111話:届いた悲報

    (この声に気配……覚えがある)エレンの意識が、私の奥底で警戒の炎を燃やし始める。(私もそう感じてた……なんだか、すごく(身に覚えがあるような……)(確か、夜の街で我々を襲撃してきた傭兵……名は確かジン……と言ったか)その名前を耳にした瞬間、あの記憶が、鮮血のように鮮やかに脳裏へと蘇ってきた。霊たちが彷徨う夜の街で、昼間の平穏な探索が一変した瞬間。突如として現れた謎の傭兵——。その圧倒的な実力は私には理解の範疇を超えていたけれど、エレン曰く、これまで戦った敵の中でも別格の強さを誇っていた……と。(そ、その人がなんでこんな場所に!? まさか、私たちを追ってきたの!?)(さあな。だが……敵意は微塵も感じられない。それに何か重要な情報を知っているようだ)(ここは一か八か、直接対峙してみるのも選択肢の一つだろう)「エレンが敵意は感じないから……出てみるのも一つの手だって……」私はシイナさんに、内心の不安を隠しながらそう告げる。「敵意を感じない……か。グレンもミストも意識を取り戻したことだし、直接話してみるか?」シイナさんの声に、慎重な判断力が込められている。(ああ、そうしてみてくれ)「そうして見てほしいって……」エレンの助言をそう伝えると、シイナさんが深く頷き、警戒を込めて扉の前へと歩を進めた。「何用だ」シイナさんの声が、扉越しに響く。「あれ、やっぱりいるんじゃないですかー」その飄々とした口調に、底知れない余裕が滲んでいる。「やあ、僕はジン。リディアっていう方からの重要な伝言があるんだけど、扉を開けてもらえないかな?」「残念だが、こちらにも複雑な事情があってな。このままでお願いしたい」シイナさんの慎重な対応に、扉の向こうから軽やかな笑い声が響く。「……あーそっか、いまこの国から追われてるんだっけ。それなら心配しなくていいよ」「大体の騎士は僕が片付けたから」「な、何だと!?」シイナさんの声が、驚愕に震える。「えっ!??」私も思わず声を上げてしまった。「ま、待て! この国の騎士一人一人は精鋭と言っても過言ではないほどに優秀だ。それをお前は単身で制圧したというのか?」「はは。まぁ確かにこの国の騎士はよく鍛錬されていたね。でも、僕も実力には自信があるんだ」その軽やかな口調で語られる内容の恐ろしさに、私たちは言葉を失った

  • Soul Link ─見習い聖女と最強戦士─   第110話:二人の目覚め

    **────エレナの視点────**次の日。「みなさん!!!!本当にご迷惑をおかけしました!!!」「本当に面目ねぇ……!!!今回迷惑かけた分は、必ず挽回するぜ!」二人が目を覚ましたんだ。あんなに傷だらけで、ずっと目を覚まさなかったグレンさんも元気になって、本当に良かったと思う……。でも……。聞かないといけない。二人に、何があったのか。「それより……二人に何があったんですか?なんで……グレンさんはあんなに傷だらけだったんですか……?」私がそう尋ねると、グレンさんが急に口を噤んでしまう。数秒の重い沈黙が部屋を支配すると、やがて言いにくそうにグレンさんが口を開き始めた。「お前たちが情報収集に行った数時間後、とんでもなく強い奴が現れたんだ」「とんでもなく強い奴?」シイナさんの声に、緊張が走る。「ああ。全身に見たこともない鎧を着て、刀を使っていた」(見たこともない鎧に刀……か)エレンの声が、意識の奥で静かに響く。「そいつは……全く俺の攻撃が通じなかった」「なに!?グレン、お前の攻撃がか!?」シイナさんは心底驚いたような様子を見せる。グレンさんの実力を知っている彼だからこその驚きだった。(…………)エレンが沈黙している。何かを考えているみたいだ。「ああ、正直全く底が見えなかったぜ。戦ってる感触としては……エレンに近かったかもな」「エレンに……?」私の声が震える。エレンと同じくらい強いなんて……。「それは……かなり厄介そうですね」シオンさんの美しい顔に、珍しく深刻な表情が浮かんでいる。「厄介なんてもんじゃねぇよ。あいつは俺の攻撃を全部受け止めやがった」グレンさんは、私たちのパーティ内でも屈指の攻撃力を持つ

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