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第55話:器

Penulis: 渡瀬藍兵
last update Terakhir Diperbarui: 2025-08-10 11:32:46

──────

エレンの視点

──────

「もう来てしまったのですか……。ですが、一足遅かったですね」

ラムザスは、誰かをカプセルに押し込みながら、静かに、しかし確かな狂気を瞳に宿して、こちらを振り返った。

なに……?

「エレンさん。あなたの考えは、正しかった」

「なんだと?」

「研究者が、強者の記憶を持っても、それは紛い物に過ぎない……」

「なら……逆は、どうでしょうねえ……?」

「っ……!」

「屈強な戦士の身体、経験を積んだその魂……。その上に、私という天才的頭脳の思考を加えれば……一体、どうなってしまうのでしょうか……」

「ふふ……ふふふふふ……!」

「あぁ……! 私の記憶の全てを……貴女に捧げましょう!!」

そう言って、カプセルに付いていたレバーを、ラムザスが力強く引いた。

その刹那、中央にある巨大な装置から、ラムザスへと向けて、眩いばかりの光が放たれる。

「うっ……!!!うぉぉぉぉぉ!!!!!どうか!!!見ていてください!!!私の、研究の成果をぉぉぉぉ!!!!!」

そして、強烈な光が、地下研究室の全てを、白一色に染め上げた。

数秒後、ようやく、焼けるような痛みから解放され、視界が戻ってくる。

「くそ……! 奴め……なにをした!?」

私は、忌々しそうに吐き捨て、ラムザスがいた方へと目を向けた。

だが、奴の姿は……どこにもない。

まるで、光の中に溶けて消えてしまったかのようだ。

奴が立っていた足元には、プスプスと、焦げ付いた跡だけが残っている。

「……!!!まさか……! 自分の存在そのものを、記憶として……!?」

ミストが、驚愕に目を見開いて、そう呟いた。

そして……奴の傍にあったカプセルから、一人の女が、ゆっくりと起き上がる。

衣服はボロボロで、もうずっとこの場所に囚われていたのだということが、その見た目からして、想像に難くない。

黒く、長い髪の、その女が、虚ろな目でこちらを見た、その時だった。

「アイナァ!!!!!」

シオンの、魂からの絶叫が、白い空間に木霊した。

「なに!?」

「えっ……!!?」

「マジ……かよ……!」

仲間たちが、次々と驚きの声を上げる。

……そういう事か。

あの者が、シオンがずっと探し続けていたという……パーティの相棒。

……シオンは、熟練の傭兵だ。その彼が、命を預け合った相棒もまた、かなりの強者であったことだろう。

その、屈強な戦士の身体に、ラムザスの狂気的な頭脳を、全て注ぎ込んだ。

全く未知の、何かが起ころうとしている。

だが、私たちは、更なる悲劇を目の当たりにすることになった。

アイナと呼ばれた女の背中が、ボコボコと、まるで生き物のように膨れ上がり、脈打った。

そして、うずくまると、その背中から、骨の軋む音と共に、巨大な腕が、二本、突き出てくる。

さらには、その美しい黒髪は、色が抜け落ちたかのように真っ白に染まり、肌の色は、生気のない、ねずみ色へと変色を始めた。

「アイ…ナ……??」

どうなっている!?

記憶を注入しただけで、こんな変化が起こるはずがない……!!

あの姿は、まるで……魔物だ……!

ここで、私は、さっきの日記に書かれていた「薬」という言葉を思い出した。

(っ……!!まさか……!!)

私は、アイナの首筋を凝視する。

そして、そこには、まるで何かに刺されたかのような、生々しい注射の跡が、はっきりと残っていた。

「奴め……!!! 最後の最後に、とんでもない置き土産をしでかしてくれたな……!!!」

「エ、エレンさん! なにかご存知なんですか!?」

シオンが、縋るような瞳で、私に尋ねてくる。

だが、

「話している場合ではないぞ……!!! 奴の気配……! とんでもない力を感じる……!」

この私でさえ、肌がビリビリと痺れるほどの、圧倒的な魔力と殺気。

これは……まずい。

エレナ無しでは…きついかもしれん。

『ァ"ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”!!!!!!!!!』

「うっ…!」

「み、耳が……!」

「っ…!」

「な、なんだよ……コレ……!」

鼓膜を突き破るような絶叫が、私たちの思考を、希望を、全てを、叩き潰した。

そして、その叫びが、ぷつりと消えた。

その刹那。

一瞬にして、アイナの成れの果てが、私の目の前から、消えた。

いや、違う。

私の動体視力が、その動きを捉えきれなかっただけだ。

「くっ……!!」

本能が、防御の姿勢を取ろうとする。

だが、それよりも早く、腹部に、鉄槌で殴られたかのような、重い一撃。

背中から生えた巨大な右腕による、ただの薙ぎ払い。

それだけで、私の身体は、木の葉のように吹き飛ばされた。

「ぐぁ……!!!」

背中から壁に激突し、肺から空気が全て叩き出される。

「エレン!?」「エレンさんっ!!?」「エレン様!!」

(なんという、膂力……! それに、思考も、気配さえも、まるで読めなかった……!)

「こ、このぉ!!!!」

グレンが、燃え盛る炎をその拳に纏い、殴りかかる。

(馬鹿者……! そいつに、手加減は必要ない……!!!)

恐らく、シオンのことを気遣い、剣ではなく、拳を振り下ろしたのだろう。

だが、奴に、その様な手加減は、自殺行為に等しい。

現に、グレンの炎の拳は、アイナの異形の右手に、いとも容易く受け止められた。

そして、そのまま首元を鷲掴みにされると、床へと叩きつけられる。

「ぅ……!!!」

「グレン!!」

シイナが、ガントレットを装着した腕で、側面から殴り掛かる。

だが、奴の背中から生えた、もう一本の腕が、その攻撃を、まるで予測していたかのように、防いだ。

「なっ……!」

そのまま、その巨大な手が、シイナの胴体を掴み上げる。

そして、玩具のように、壁へと投げ飛ばした。

ゴッ、と、嫌な音がして、シイナの身体が壁に叩きつけられ、崩れ落ちた。

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