Masuk仲間たちがエレナを抱え、休ませるための空き家へ移したあと。
広場には、先ほどまでとは別のざわめきが戻り始めていた。咳き込む声はまだ残っている。顔色も、決して良いとは言えない。それでも地面に座り込んでいた村人たちの背筋には、わずかずつ力が戻っていた。 そこへ、荷を抱えたシオンが戻ってくる。 「戻りました……おや? 皆さん、エレナ様はどちらに?」 買い物から帰ってきたばかりのシオンは、広場を見渡してからシイナたちへ視線を向けた。腕には、頼まれていた食材がまとめられている。 「エレナ様は、いま休憩中だ。だが……」 シイナは答えかけて、周囲へ目を向けた。 村人たちは、たしかに先ほどより動けるようになっている。完全に回復したわけではない。だが、倒れ込んでいた者が身を起こし、互いに肩を貸し合いながら呼吸を整えている。エレナの治癒が、彼らを死の淵から引き戻したのは明らかだった。 「……皆さん随分、調子が元に戻ったようですね」 シオンも同じものを見て、静かに言った。 「でも、まだ完全じゃないんだと。外からの熱と内からの熱、それらを合わせて現状が解決するらしいぜ」 「なるほど。それでエレナ様は……」 「具材を頼まれてましたよね?」 ミストが、シオンの抱えた荷へ目を輝かせる。 「ええ。シチューを作るみたいでした」 「シチューですか」 ミストは両手を胸の前で合わせると、ぱっと顔を上げた。 「では、やれることは私たちでやっておきましょう!! この厨房の妖精こと、ミスト! 腕によりをかけてシチューを作りますよぉ!!」 「自ら厨房の妖精なんて大袈裟なことを言っているが……料理も計算だからな。ミストの得意分野だろう。任せる」 シイナが短く頷く。 「オレはとりあえず薪を用意したから、焚き火を作ってくるぜ!」 グレンもすぐに踵を返した。 誰かが号令をかけたわけではない。それでも、役割は自然に決まっていく。シオンが食材を厨房へ運び、ミストがその横で腕まくりをする。グレンは村人たちの間を抜けて広場の中央へ向かい、シイナはその場に残って村全体の様子を見渡した。 ミストは厨房へ入るなり、台の上に食材を並べた。 動きは明るく、派手で、いつもの調子に見える。だが手元に無駄はない。野菜の泥を落とす。鍋の位置を決める。火加減を確かめ、器と水の量を揃える。その一つひとつが、あらかじめ答えを知っている計算式のように流れていった。 (たしか、歴代の聖女様は、生き物由来の食材に聖属性を練り込み、人々に振る舞って災いを払ったというお話がありましたね。恐らく、エレナ様がしようとしていたのはそれでしょう。であれば……) ミストの視線が、シオンの買ってきた具材を順に追う。 ミルク。肉。大地から育った野菜。そして、それらを受け止めるための大鍋。 村人たちを内側から温める料理。ただの食事ではない。エレナがそこへ聖属性を込めるつもりだったのなら、器はできる限り整えておくべきだった。 「よぉし……やりますよぉ」 小さく呟き、ミストは包丁を取った。 刃がまな板を叩く音が、軽やかに厨房へ広がる。野菜は大きさを揃えられ、肉以外の食材も次々に下処理されていった。鍋に火が入り、湯気が立ち、やがて村の冷えた空気に、やさしい匂いが混じり始める。 一方、広場ではグレンが大きな焚き火の準備を進めていた。 薪を組み、空気の通り道を作る。火が回れば一気に燃え上がるよう、太い薪と細い枝を交互に重ねた。炎属性の接続者である彼にとって、火を扱うことは戦うことと同じくらい馴染んだ動作だった。 やがて、ぱちり、と乾いた音が鳴る。 小さく生まれた火は、グレンの手元で勢いを増し、広場の中央に大きな赤い揺らめきを作った。村人たちが少しずつ近づいてくる。冷え切っていた手をかざし、肩を寄せ合い、炎の前に輪ができていった。 「よし、こんなところか」 グレンは腰に手を当て、焚き火の具合を確かめる。 「皆さん……我々をお救いくださり、ありがとうございますじゃ……」 年老いた村人が、震える声で頭を下げた。周囲の者たちも、それに続くように深く身を折る。 「へへ、気にすんなよ」 グレンは照れくさそうに笑い、鼻の下を指でこすった。 「お礼は……そうだな。エレナが起きたら言ってくれ」 その頃、シイナはひとり村の中を歩いていた。 倒れた村人の様子。家畜小屋の位置。井戸、畑、通りの土、家々の扉。視線が一つひとつを拾い上げる。治療と食事と焚き火は、いま仲間たちが進めている。ならば彼が見るべきものは別にあった。 この事態が、なぜ起きたのか。 「……俺たちを案内した男たちは、仕事で留守にしていたと言っていたな」 シイナは足を止めずに呟いた。 「そして、その後戻ってきても感染している様子はない。疫病の類なら、接触や滞在で広がっていてもおかしくないはずだ」 病が人から人へ移るものなら、村の外にいた者たちだけが無事で、戻ってからも変化がないというのは不自然だった。村人の大半に症状が出ている以上、原因はもっと村全体に共通するもの。 「……つまり」 シイナの足が止まる。 そこは、村の井戸の前だった。 ✦ ━━━━━━━━━━━━━━ ✦ それから数時間。 薄い布の匂いと、磨かれた木の香りが混じっている。静かな部屋だった。外からは、遠く人の声が届いてくる。慌ただしさはある。けれど、先ほどまで村を覆っていた切迫したざわめきとは違っていた。 「……うっ」 エレナは布団の上で、ゆっくりと瞼を開いた。 『目が覚めたか』 すぐに、内側からエレンの声が届く。 『……エレン。私……』 『……今は休め』 短い言葉だった。 けれど、その一言で余計な説明は断ち切られた。エレナは布団に手をつき、ゆっくりと身を起こす。 視界に入ったのは、まるで新築のように整えられた室内だった。埃っぽさはなく、床板も壁も丁寧に拭き上げられている。古い空き家だったはずの場所は、誰かが全力で手を入れたのだと分かるほど、清潔な空気に変わっていた。 その傍らで、シオンが椅子に腰かけて本を読んでいる。 ページをめくろうとしていた指が止まった。エレナが目を覚ましたことに気づくと、シオンは音を立てないように本を閉じ、静かに顔を上げる。 「お目覚めになられましたか。お身体の方はいかがですか?」 「シオンさん……。村の人々は……?」 自分のことより先に、エレナの視線は扉の向こうへ向いた。 シオンはその様子を見ても、咎めるような言葉は置かなかった。ただ、いつもの丁寧な声音で答える。 「皆さんが協力して、いつでもあなたが続きを再開できるように整えていますよ」 そう言ってから、シオンは一度、浅く頭を下げた。 「失礼します」 細い指が、エレナの額へそっと触れる。 触れ方は驚くほど慎重だった。割れ物を確かめるようでもあり、戦場で負傷者の状態を見極めるようでもある。ほんの数秒ののち、シオンは手を離した。 「……熱は、ありませんね」 「だ、大丈夫ですよ」 「そうはいきません。魔力を急に消費すると、体外にも影響が出る場合がありますので」 シオンは静かにそう言うと、懐へ手を入れた。 取り出されたのは、小さな包みに入ったキャンディだった。指先に乗せられたそれは、光を受けて控えめに艶めいている。 「どうぞ。疲れた時には甘いものを。私がよく口にしているものですので、お口に合えば幸いです」 「ありがとうございます……」 エレナは両手で受け取り、包みを剥がした。 小さな飴を舌の上に乗せる。ころりと転がした瞬間、ゆっくりと甘さが広がった。深く、やわらかい。チョコレートの風味が、乾いた喉と疲れた身体にじんわりと染みていく。 (甘い……。美味しい……) エレナの肩から、わずかに力が抜けた。 「身に染みますね」 「でしょう?」 シオンが、微笑んだ。 ほんの一瞬だけ、静謐な横顔にやわらかな色が差す。窓から差し込む光の中で、その表情はすぐにいつもの穏やかなものへ戻っていった。────エレナの視点──── 石造りの螺旋階段を、私たちは息を切らしながら駆け上がっていた。 ごつごつとした壁が、手に持つ灯りの光を不気味に反射している。下層から響いていた激しい戦闘音は、もう聞こえない。石段を踏みしめる足音と、荒い息遣いだけが、神殿の静寂を破っていた。 「グレンさん、大丈夫ですかね……!?」 ミストさんの不安そうな声が、静寂に包まれた階段に響いた。その声には、仲間への深い心配が込められている。 「……きっと、大丈夫!」 何の確証もない。けれど、私の胸の奥で、温かい光のようなものが「大丈夫だ」と囁いていた。それは昔から私の中に宿る、聖女としての直感のようなもの。 「私の直感が、そう告げてるの!」 「えぇ!? そ、そんな直感が……!?」 ミストさんが驚きの声を上げる。 (私も原理は分からんが……エレナには、その力が間違いなく備わっている。運命そのものを、その祈りの力で強引にねじ曲げてしまうような、不思議な力がな。だから、今回もきっと大丈夫だ) エレンの声が、私の内側で静かに響いた。 (うん……!) 彼の言葉が、私の直感を後押ししてくれる。 「それなら良いが……慢心はするなよ」 シイナさんが、冷静に釘を刺した。 「未来が見えるからと、それに胡坐をかいて行動するようでは、今の暗明の聖女と何も変わらないからな」 「……うん、そうだね。私は、この直感を絶対に正しいなんて、傲慢なことは思わないよ」 私にできるのは、この直感を信じつつ、でも決して過信しないこと。神様のお導きを感じながらも、自分の足で歩むこと。 「そこが、エレナさんの素敵なところですね」 シオンさんが、静かに微笑んだ。 その時、長く続いた階段が終わり、私たちの目の前に、だだっ広い広間が見えてきた。天井は高く、月光が差し込む窓から、青白い光が石床を照らしている。 「きっと、ここにも残りの騎士が待ち構えていることだろう」 「その時は、私が残ります」 シオンさんの言葉に、ミストさんが待ったをかける。 「いやいやいや! そこは私でしょうー!!」 「……?」 シオンさんが、心底不思議そうに首を傾げた。 「そのお顔はなんですかァァ!?」 「いえ……だってあなたは、戦いがあまり得意な方ではないでしょ
**────エレナの視点────** 「じゃあ皆、各々準備してくれ。五分後にはここを出て、リディアさんを助けに行くぞ」 シイナさんの力強い言葉に、私たちは一斉に頷いた。この小さな家の中に、静かだが確固たる決意が満ちている。みんなの表情に迷いはない。先ほどまでの混乱が嘘のように、今は一つの目標に向かって心が結束していた。 五分という短い時間の中で、私たちはそれぞれの装備を確認し、心の準備を整える。月光が窓から差し込み、武器の金属部分を青白く照らしていた。この静寂が、嵐の前の静けさのように感じられてならない。 「準備はいいか? 今回、ジンが大方の騎士は無力化してくれたという話だ。恐らく…すぐに四騎士との戦闘になるだろう」 シイナさんの声に緊張が走る。四騎士——この国の最強戦力との戦いが待っているのだ。 「ここの騎士たちの数は多かったからね。でも、気を付けて」 ジンさんが軽やかに言葉を続ける。 「流石に全部を倒すわけにもいかなかったから、十人程度は残ってるはずだから」 「それでも、そんなに多くの騎士を戦闘不能にするなんて……」 私は驚きを隠せなかった。一人でそれほどの騎士を相手にするなんて、どれほどの実力者なのだろう。 「はは、聖女様に褒めてもらえるなんて。なんだか嬉しいよ」 ジンさんの表情に、子供のような無邪気さが浮かんでいる。しかし、その奥に潜む何かが、私の心に小さな不安を芽生えさせた。 「ね、念の為に聞くのですが……殺しはしてないですよね……?」 恐る恐る尋ねた私の質問に、ジンさんの表情がふっと変わった。まるで別人のような、冷たい光が瞳に宿る。 「……剣を抜いた以上、お互いの命が尽きるまで刀を振り合うべきだと僕は思っているんだ」 その一言に、背筋が凍りつくような恐怖を感じた。ジンさんの声音には、戦いへの狂気じみた情熱が込められている。私の心臓が、ドクドクと激しく鼓動を刻んでいた。 「でも……今回は大丈夫。殺してないよ」 そう言って見せる笑顔は、まるで何事もなかったかのように穏やかだった。しかし、その急激な変化が、かえって不気味さを増している。 (今回は……? ということは、普段は……?) 心の奥で、暗い想像が渦巻いていた。 * * * 五分後。静寂を破って、私たちは行動を開始した
**────エレナの視点────**「という訳なんだ」ジンさんの軽やかな口調で語られた残酷な現実に、私の心は氷のように凍りついてしまった。リディアさんが捕らえられて、処刑される。その事実が、どうしても受け入れることができなかった。「そ、そんな……嘘ですよね??」私の声が震えている。まるで悪夢から覚めたいと願うかのように、その言葉にすがりついた。「……こんな時に嘘なんてつかないよ」ジンさんの飄々とした口調が、現実の重さをより一層際立たせる。「……くっ!!!」シイナさんが拳を強く握りしめ、歯を食いしばっている。その青白い顔に、激しい怒りと悲しみが刻まれていた。「皆は先にこの国を脱出してくれ……!俺は……俺はリディアさんを助けに行く!!」シイナさんが勢いよく立ち上がり、扉に向かって歩き出そうとする。その瞳に宿る決意の炎は、誰にも止められないほど激しく燃えていた。「待てよ!!そんなの俺たちだって同じ気持ちだ!」グレンさんが力強く立ち上がる。彼の声には、シイナさんに負けないほどの強い意志が込められていた。「ええ……彼女には計り知れないほど多大な恩があります。なので……グレンと私でリディアさんを救出に向かいます」シオンさんの顔に、鋼のような決意が浮かんでいる。「シイナ、あなたこそエレナさんやミストさんと共に先に脱出してください」「だめだ!今回はパーティリーダーの責任として、俺が行く!」「シイナ!」「俺が、彼女を助けてすぐに戻ればいいことだろう!」「おいシイナ!俺がやられたテッセンとかいうやつの事を忘れたわけじゃないだろ!?少し落ち着け!」三人の激しい言い争いが、小さな家の中に響き渡る。誰も一歩も引かない様子で、感情のままに言葉をぶつけ合っていた。「あわわわわ……みなさん!こんな時に言い争ってる場合じゃないですって!」ミストさんが慌てて三人の間に割り込もうとするが、激しい感情の渦に巻き込まれ、弾き飛ばされてしまう。「ぎゃー!!」(みんな……冷静さがすっかり抜けて、これじゃあ救える命だって救えないよ……!)(それに……私だってリディアさんを助けたいのに……)私の心の中で、やりきれない想いが渦巻いている。みんなの気持ちは痛いほど分かるけれど、このままでは誰も救えない。そう考えていた、まさにその瞬間だった。私の意識が、まるで深い
**────ジンのの視点────** やる気か、と。僕は心の中で、小さく呟いた。 ここは冒険者ギルド。依頼と情報が交差する、いわば中立の聖域だ。そんな場所で騎士が刀を抜き、殺し合いを演じようというのだから、面白い。実に、面白い。 僕は向かってきた騎士の剣戟をいなすどころか、その勢いを逆に利用して体ごと弾き飛ばした。空中で無様に体勢を崩した彼の喉笛へ、僕は逆手に持ち替えた刃を、まるで吸い込まれるかのように滑らせる。「がぁっ……!」 声にならない呻きを漏らし、騎士が床に崩れ落ちた。口からごぼりと泡を吹き、痙攣する手足が、彼の命が尽きかけていることを示している。 仲間の一人が一瞬で無力化されたというのに、残された騎士たちは状況が飲み込めていないらしい。驚愕に見開かれた目が、滑稽なほどにこちらを向いていた。「き、貴様っ! 正気か!?」「あはは、面白いことを言うね、君。先にその物騒な鉄の獲物を抜いたのは、そっちじゃないか」「そ、それにしてもだ! 我々騎士に刃向かうなど、あってはならないことだぞ!?」「残念だけど、僕はそんな立派な冒険者様じゃない。僕はジン。世界を渡り歩く、ただの傭兵だからね」「ジン……!?」 その名に、騎士の一人が息を呑んだ。どうやら僕の名も、多少は裏の世界に知れ渡っているらしい。「くそっ……! やられて黙っていては、騎士の名が廃る! こいつも捕縛しろ!」 別の騎士が、その手に蒼い水の魔力を纏わせながら、僕へと突進してくる。ギルドの中で属性魔法を放つ? ああ、本当に、愚かだな。「はぁ……後悔しても、知らないよ」 僕は腰に差した愛刀「雪月花」の鯉口を切ると、一閃、抜き放った。 (鳴神式抜刀術――神威の型。) 空気を切り裂く音だけが響き、騎士の右腕が、ごとり、と鈍い音を立てて石床に転がった。「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!!! お、俺の腕がァァァァッ!!」 やかましいね。腕の一本や二本、飛んだくらいで喚くなんて。自分から仕掛けておきながら、いざ返り討ちに遭えば獣のように吠え立てる。弱者の典型だ。「お、お前……! 自分が何をしたか、分かっているのか!?」「さっきも言ったはずだよ。先に始めたのは、そっちだってね」 僕は刀身に付いた血を振るい、ゆらり、と笑みを浮かべた。「まだまだ足りないな。……もっと、殺り合おうよ」 ああ、い
(この声に気配……覚えがある)エレンの意識が、私の奥底で警戒の炎を燃やし始める。(私もそう感じてた……なんだか、すごく(身に覚えがあるような……)(確か、夜の街で我々を襲撃してきた傭兵……名は確かジン……と言ったか)その名前を耳にした瞬間、あの記憶が、鮮血のように鮮やかに脳裏へと蘇ってきた。霊たちが彷徨う夜の街で、昼間の平穏な探索が一変した瞬間。突如として現れた謎の傭兵——。その圧倒的な実力は私には理解の範疇を超えていたけれど、エレン曰く、これまで戦った敵の中でも別格の強さを誇っていた……と。(そ、その人がなんでこんな場所に!? まさか、私たちを追ってきたの!?)(さあな。だが……敵意は微塵も感じられない。それに何か重要な情報を知っているようだ)(ここは一か八か、直接対峙してみるのも選択肢の一つだろう)「エレンが敵意は感じないから……出てみるのも一つの手だって……」私はシイナさんに、内心の不安を隠しながらそう告げる。「敵意を感じない……か。グレンもミストも意識を取り戻したことだし、直接話してみるか?」シイナさんの声に、慎重な判断力が込められている。(ああ、そうしてみてくれ)「そうして見てほしいって……」エレンの助言をそう伝えると、シイナさんが深く頷き、警戒を込めて扉の前へと歩を進めた。「何用だ」シイナさんの声が、扉越しに響く。「あれ、やっぱりいるんじゃないですかー」その飄々とした口調に、底知れない余裕が滲んでいる。「やあ、僕はジン。リディアっていう方からの重要な伝言があるんだけど、扉を開けてもらえないかな?」「残念だが、こちらにも複雑な事情があってな。このままでお願いしたい」シイナさんの慎重な対応に、扉の向こうから軽やかな笑い声が響く。「……あーそっか、いまこの国から追われてるんだっけ。それなら心配しなくていいよ」「大体の騎士は僕が片付けたから」「な、何だと!?」シイナさんの声が、驚愕に震える。「えっ!??」私も思わず声を上げてしまった。「ま、待て! この国の騎士一人一人は精鋭と言っても過言ではないほどに優秀だ。それをお前は単身で制圧したというのか?」「はは。まぁ確かにこの国の騎士はよく鍛錬されていたね。でも、僕も実力には自信があるんだ」その軽やかな口調で語られる内容の恐ろしさに、私たちは言葉を失った
**────エレナの視点────**次の日。「みなさん!!!!本当にご迷惑をおかけしました!!!」「本当に面目ねぇ……!!!今回迷惑かけた分は、必ず挽回するぜ!」二人が目を覚ましたんだ。あんなに傷だらけで、ずっと目を覚まさなかったグレンさんも元気になって、本当に良かったと思う……。でも……。聞かないといけない。二人に、何があったのか。「それより……二人に何があったんですか?なんで……グレンさんはあんなに傷だらけだったんですか……?」私がそう尋ねると、グレンさんが急に口を噤んでしまう。数秒の重い沈黙が部屋を支配すると、やがて言いにくそうにグレンさんが口を開き始めた。「お前たちが情報収集に行った数時間後、とんでもなく強い奴が現れたんだ」「とんでもなく強い奴?」シイナさんの声に、緊張が走る。「ああ。全身に見たこともない鎧を着て、刀を使っていた」(見たこともない鎧に刀……か)エレンの声が、意識の奥で静かに響く。「そいつは……全く俺の攻撃が通じなかった」「なに!?グレン、お前の攻撃がか!?」シイナさんは心底驚いたような様子を見せる。グレンさんの実力を知っている彼だからこその驚きだった。(…………)エレンが沈黙している。何かを考えているみたいだ。「ああ、正直全く底が見えなかったぜ。戦ってる感触としては……エレンに近かったかもな」「エレンに……?」私の声が震える。エレンと同じくらい強いなんて……。「それは……かなり厄介そうですね」シオンさんの美しい顔に、珍しく深刻な表情が浮かんでいる。「厄介なんてもんじゃねぇよ。あいつは俺の攻撃を全部受け止めやがった」グレンさんは、私たちのパーティ内でも屈指の攻撃力を持つ







