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第63話:立場

Author: 渡瀬藍兵
last update Last Updated: 2025-08-20 12:29:56

『という事で、任せたよ』

「……分かりました。やれるだけ、やってみます」

シイナさんの、覚悟の決まった返事。

『それから、人間の魔物化についてだけど…これは流石に前代未聞の出来事だ。そして、それを元に戻すエレナ君の力も、実に興味深い』

『だから、旅の中で何か分かったことがあったら、随時、私に連絡を頼むよ』

「承知しました」

『私も、王国の方でいろいろと調べておこう。じゃあ、皆、良き旅を』

その言葉を最後に、所長の姿が光の粒子となって消え、ツナガールからの通信が切れた。

「ぷ、ぷはぁ〜っ! まじで魔力切れるかと思ったぜ……」

支えてくれていたグレンさんの腕から、どっと力が抜ける。長時間の通信は、彼にも相当な負担だったようだ。

「さて――」

シイナさんが、仕切り直すように、私へと向き直った。

「エレナ。エレンさんとの入れ替わり…さっきの話は、俺たち以外は誰も知らない、という事でいいんだな?」

「……いえ。ただ一人、王都の司祭様だけはご存じです」

「……なるほど。それなら尚更、この件は決して口外しない方がいいだろうな」

シイナさんが静かにそう言った、その時だった。

「なんでだよ? 聖女様も戦えるって分かれば、みんな安心するんじゃねぇのか?」

グレンさんが、純粋な疑問を投げかけた。

――以前、夜の街で会ったジンという人も、同じようなことを言っていた。

「ベルノ王国において、“聖女”というのは、国王に並ぶほどの象徴だ。そんな方が、俺たちのような少人数で旅をすること自体、本来なら有り得ない」

「まぁこれはさっき説明したな。」

淡々とした口調で、シイナさんが続ける。

「その上で、自ら戦う姿を見せれば、それは『聖女が前線に出なければならないほど、国が追い詰められている』というメッセージになり、逆に民の不安を煽ることになる」

「そんなもんなのか……?」

「当然です!!!」

グレンさんが首を傾げると、ミストさんが横から補足した。

「聖女となるエレナさんは、“希望の象徴”でなければなりません。本来は、王族以上に厳重な警護がついているべきお方なのです」

「……なるほど。つまり、たとえエレンさんがいたとしても、公の場では、エレナさんと入れ替わることすらできない、と」

シオンさんが、鋭く本質を突いた。

「そういうことになるな。だが――」

シイナさんが、今度は、優しく私に目を向ける。

「安心しろ、エレナ。君のことは、俺たちが必ず守る」

その言葉が、胸に、じんと温かく響く。

本当に、嬉しかった。

だけど。

「……いいえ。私も、皆さんを守りたいです」

私は、震えそうになる膝に力を込め、はっきりと、そう伝えた。

「それは…エレナ…」

「わかっています。守られなければならない立場だということは…。でも、それでも、私は――皆さんと一緒に戦いたいんです」

聖女としては、間違っているのかもしれない。

今の私では、むしろ“守られる”側でしかなく、みんなの負担になるだけなのかもしれない。

でも――それでも、私は。

聖女として。そして、“仲間のひとり”として。

この旅を、みんなと一緒に続けたい。それだけが、私の、たった一つの希望だった。

重い沈黙が、流れる。

その、困ったような空気の中で、シイナさんが、ふっと大きな溜息をついた。

そして、穏やかに口を開く。

「……はぁ。条件がある」

「俺たちに、敬語は使うな。今日、今、この瞬間からだ」

彼は、そこで悪戯っぽく、言葉を切った。

「それが呑めるなら……お前も、俺たちと対等な“仲間”ってことでいい」

そして――にっと、本当に、優しく笑った。

「ちょ、ちょっと、シイナ君……!」

ミストさんが焦ったような声を上げる。でも、その顔はどこか、綻んでいて――

「すっごく、いい案ですねっ!!!」

次の瞬間、彼女は、満面の笑みでそう叫んだ。

「お、おお? てっきり反対されるかと思ったが……。グレン、シオン、お前らは?」

「俺は、大賛成だぜ! エレナも、仲間として一緒に旅してんだし――守り守られんのが、当然ってもんだろ!」

無邪気に笑って、グレンさんが親指を立てる。

「危険だとは思います……ですが、エレナさんの覚悟は、本物だという事は伝わりました」

静かに、だけど、はっきりと。シオンさんが、私を見て頷いた。

「……背中は、任せます」

「よし。じゃあ、それが俺たちパーティの“総意”ってことで」

シイナさんが、さらっと、しかし、とても大切な決定をまとめる。

「みなさん……っ! 本当に、ありがとうございます……!」

心の奥が、熱くなる。

私を、こうして受け入れてくれる仲間たちがいる。

それが、何よりも嬉しくて、心強くて。

「おっとぉ? 早速、敬語が出てますよぉ~??」

ニヤッと、ミストさんが意地悪そうに、でも、楽しそうにからかってくる。

「うっ……が、頑張りま……がんばる……っ!」

私が恥ずかしさを堪えながら、必死に言い直すと、みんなが、堪えきれずに笑い出した。

それは、今までで一番、温かい笑い声だった。

「さて、話は終わりだ。俺たちも、ここを離れるぞ」

シイナさんの言葉に、私たちは、今度こそ、同じ仲間として、力強く頷いた。

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