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第64話:メモリスのその後

작가: 渡瀬藍兵
last update 최신 업데이트: 2025-08-21 12:08:38

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エレナの視点

──────

翌日――

陽光が石畳を薄く染める朝、ラムザスの狂気を止めた私たちのもとに、メモリス領主からの正式な呼び出しが届いた。重厚な羊皮紙に刻まれた蝋印は、この街が背負う重責の象徴のように、鈍く光を反射している。

案内された先は、街の庁舎最上階に位置する応接室。白い大理石で築かれた壁面には、歴代領主たちの肖像画が静寂を湛えて並んでいる。だが今、この部屋を支配しているのは、絵画ではなく――机の向こうに佇む一人の女性だった。

純白の研究衣が、彼女の細い肩を包んでいる。長く艶やかな黒髪は後ろで一つに束ねられ、理知的な眼鏡の奥から覗く瞳には、深い疲労と、ようやく得られた安堵が入り混じっていた。その眼差しが私たちを捉えた瞬間、空気が微かに震える。

「皆さん、この度は……」

彼女の声は、枯れかけた花のように、か細く震えている。

「ラムザスを止めていただき、心の底から……本当に、ありがとうございました」

メモリス領主――この街の正式な代表者が、背筋を真っ直ぐに保ったまま、深々と頭を下げた。その仕草には、長い間封じ込めてきた罪悪感が、ありありと刻まれている。

「言い訳にしかならないことは承知しています……けれど」

彼女が顔を上げた時、その頬を一筋の涙が伝っていた。

「私もまた、家族を人質に取られておりました。夫と、まだ幼い娘を……。ラムザスの狂気には、どうしても逆らうことができなかったのです」

石造りの部屋に、彼女の懺悔が静かに響く。私は胸の奥で何かがきゅっと締め付けられるのを感じながら、慎重に言葉を選んだ。

「事情は理解いたしました。ですが……」

私の声には、糾弾ではなく、ただ真実を求める響きが込められていた。

「あなたの命令だと言っていた者たちに、ソウコ君――被験者の一人が襲われかけました。あれは一体、どういうことだったのでしょう?」

あの薄暗い路地裏での出来事が、鮮明に脳裏に蘇る。ソウコ君の恐怖に歪んだ表情、刃の煌めき、そして――

「それも全て……全て、ラムザスが私の名を騙り、衛兵や傭兵を操っていたのです」

領主の声は、今にも砕け散りそうなほど細く震えている。

「私が私の専属衛兵に命じたのは、あの少年をあくまで『保護』することでした。決して……決して、危害を加えるようなことは」

その声の震えは、決して演技などではない。形式上はこの女性が街の長であったものの、実際にメモリスを支配していたのは、やはりあの狂気の研究者だったのだろう。権力という名の鎖に縛られ、家族という人質を盾に取られた一人の母親が、そこにはいた。

「なるほど……それで、ソウコ君を……」

私が静かに頷いた時、それまで黙って状況を見守っていたシイナさんが、一歩前に出た。

その瞬間――まるで舞台の幕が切って替わるように、場の空気が劇的に変化する。友人同士の対話から、国家間の公的交渉へと。シイナさんの纏う雰囲気が、一瞬にして研ぎ澄まされた刃のような鋭さを帯びた。

「あなたの置かれていた苦境、理解できない部分もありません」

シイナさんの声は、氷のように澄んでいる。感情を完全に排除した、純粋な論理の響き。

「だからこそ、まずは『被験者』たちの保護を最優先とさせていただきます。彼らは今後、ベルノ王国魔法研究所が全責任を負って引き取ります」

その言葉には、一切の妥協を許さない強固な意志が宿っていた。まるで王国の威信そのものが、この若い研究者の口を通して語りかけているかのようだ。

「ええっ……!それは……!」

領主の目が見開かれ、胸に手を当てて深い安堵の息を漏らす。

「ぜひ、ぜひお願いいたします……!」

だがシイナさんは、その安堵を断ち切るように、淡々と続けた。

「次に、この街の記憶操作技術について」

一言一句に、冷徹な計算が込められている。

「完全に封印すれば、民の生活基盤が根底から崩れるでしょう。よって――一定の条件を飲むのであれば、記憶の取り扱いを、今後も王国は許可します」

「ほ、本当ですか!?」

領主が身を乗り出し、その瞳に希望の光が宿る。

「し、して、その条件とは……!?」

シイナさんは、まるで判決を下す裁判官のように、寸分の迷いもなく言い切った。

「四つ。しっかりと覚えてください」

冬の大気のように張り詰めた沈黙が、部屋を包む。

「一つ目――ベルノ王国魔法研究所から、監督官として数名の研究者を派遣します」

「二つ目――記憶に関する全ての実験、研究は、王国への事前申請を義務とします」

「三つ目――本人の同意なくして、記憶には一切干渉しないこと」

そして、最後の条件を告げる時、シイナさんの声に、微かな重みが加わった。

「そして四つ目――この街の象徴である『記憶の塔』を、完全封鎖すること」

「……っ!」

その瞬間、領主の顔が、まるで心臓を貫かれたような痛みに歪んだ。血の気が引き、唇が小刻みに震える。記憶の塔――それは単なる建造物ではない。この街の誇り、知の象徴、そして文化の結晶なんだ。

しかし、彼女は――長い沈黙の後、覚悟を決めたように、深く、深く頷いた。

「……わかりました」

その声は、諦めではなく、新たな決意に満ちていた。

「全て、受け入れます。これでこの街に住む者たちが救われるのなら、それで……それで、いいです」

「記憶の塔は、確かに私たちの誇りでした……」

彼女の目に、また涙が浮かんでいる。だがそれは、悲しみだけの涙ではない。

「けれど、あの塔があったからこそ、ラムザスのような悲劇が生まれた。これ以上の過ちは……二度と、繰り返したくありません」

「……ええ」

シイナさんの声に、初めて温かみが戻った。それでも、その響きには揺るぎない力が込められている。

「だからこそ、あなた自身が――真の『長』として、これからは研究者たちを、その民を、正しい道へと導いてください」

「……はい。必ず」

「ラムザスの手で失われた多くの命という事実を、決して忘れぬように」

シイナさんの最後の言葉は、鋭い刃であると同時に、暖かい光でもあった。厳格でありながら、彼女の再起を静かに促している。

領主は再び深く頭を下げる。その背中には、もはや言い訳の影はなく、ようやく『真の責任者』としての重みと覚悟が宿っていた。

* * *

「ふぅ……」

宿の一室に戻るなり、シイナさんが椅子に深く身を沈めた。まるで糸が切れた人形のように、全身から力が抜けている。普段の凛とした姿からは想像もつかない、分かりやすいほどの疲労が、その吐息に込められていた。

(……そうだよね)

(ベルノ王国の代表として、一つの街の運命を左右する交渉をしてきたんだもの……。私なら、緊張で声も出なくなっちゃう)

「お、お疲れ様でした……!」

私は思わず、まだぎこちない敬語で、シイナさんを労った。

「……ああ。ありがとう、エレナ」

短い返事と共に、彼は軽く目を閉じる。その表情には、任務を完遂した安堵と、心地よい疲労感が浮かんでいた。

「大丈夫ですよぉ?シイナ君、こういう交渉事、本当は得意なんですから~!」

ミストさんが、まるで悪戯っ子のような笑みを浮かべて茶々を入れる。

「おい、ミスト」

シイナさんが片目を開けて、じとりとした視線をミストさんに向けた。

「俺が『こういうの』を苦手にしているのを、お前は知っているだろう」

「苦手なのに、あそこまで完璧にこなしちゃうから、所長にも色々押し付けられてるんですよ~?」

「くっ……自分の有能さが、ここだけは恨めしい……」

小さくぼやくシイナさんに、グレンさんがからからと豪快に笑いながら会話に加わる。

「ははは、まぁいいじゃねぇか!それに、あの少年……ソウコだったか」

「ソウコとアイナ……他の被験者たちも、無事にベルノ王国で治療を受けられることが決まったんだ。シイナだからこそ、その辺りも考慮できたんだろ?」

グレンさんの言葉に、シイナさんの表情が少し和らぐ。

「……皆、被害者だからな。魔法研究所の威信にかけて、彼らを必ず救ってみせる」

(うん……ソウコ君も、アイナさんも……それ以外の皆も、きっと救われる)

結局、ソウコ君には改めて挨拶することもできずに別れることになったけれど……きっと、もう大丈夫だろう。また、いつか会える日が来る。そんな希望を胸に抱きながら、私は暖かな気持ちに包まれていた。

そんな時――

「シイナ、アイナの件……本当にありがとうございます」

シオンさんが、心からの感謝を込めて頭を下げた。

「気にするな」

シイナさんは軽く手を振ると、少し真面目な表情になる。

「それより、シオン。お前はどうする?アイナさんのそばにいなくていいのか?」

「もう彼女は、どこかへ消えてしまったりしません」

シオンさんの声には、静かな確信が込められていた。

「ひとまず、この依頼は最後まで完遂します。途中で投げ出せば、アイナの方が怒るでしょうしね」

シオンさんと一緒にいられるのは嬉しいけれど、ようやく見つけた大切な人のそばにいたいはずなのに……そんな複雑な気持ちが、胸の奥でさざめいていた。

「そうか……じゃあ、決まりだな」

グレンさんが満足げに頷く。

「ところで、次の目的地はどこなんだ?」

その一言で、部屋の空気が再び冒険者のものへと切り替わった。まるで嵐の後の静寂から、新たな風が吹き始めたかのように。

シイナさんは重い身体をゆっくりと起こすと、テーブルに広げられた古い羊皮紙の地図に目を落とした。蝋燭の炎が地図の表面で踊り、様々な地名や記号が、光と影の戯れの中で浮かび上がる。

しばらくの間、彼の視線が地図上を静かに泳いでいく。まるで運命の糸を辿るように、一つ一つの場所を慎重に検討している。

そして――ついに、一本の指が、とある場所を静かに指し示した。

「……次は、ナヴィス・ノストラだ」

その地名が告げられた瞬間、部屋の空気がぴんと張り詰める。

私たちの心に、新たな冒険への期待と、未知なる土地への憧憬が、静かに、けれど確実に芽生え始めた。

ナヴィス・ノストラ――次の扉が、今、静かに開かれようとしている。

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