LOGIN『いい分析だ。さすが研究者といったところか』
エレンの声が、内側で小さく笑った。 『そうだね。ほんと、みんなすごいよ』 エレナの視線が、広場の端へ滑る。 踏み固められた土の上で、乾いた打撃音が弾けていた。朝の光を浴びた訓練場には、もう何度も抉られた跡がある。そこへ砂塵を巻き上げて、グレンの身体が派手に転がった。 「もう一度ッ! 腰が浮いとる、腰がッ!」 「だぁぁぁもう、わかってるっつーの!」 赤髪を振り乱したグレンが、背中から地面に叩きつけられる。呻き声を漏らす鼻先へ、ぴたりと木刀の切っ先が突きつけられた。 「まだまだじゃのう」 「……っし、もう一本ッ!」 グレンが歯を食いしばって跳ね起きる。砂を払う間もない。二人の木刀が再び交わり、乾いた音が朝空へ高く抜けた。 エレナは、その光景をしばらく見つめていた。 「あの……シイナさん」 隣に立つシイナへ、控えめに声をかける。 「あそこでグレンさんに稽古をつけている方は、どなたですか? 昨日までは、お見かけしなかったように思うのですが」 「ああ、あちらは――」 シイナが答えかけたところで、こつ、こつ、と杖の音が近づいてきた。 ゆっくりと歩み寄ってきたのは、村長だった。昨夜まで最も症状が重かった人物とは思えないほど、足取りは落ち着いている。頬にはまだ病み上がりの薄さが残っていたが、背筋には確かな芯が戻っていた。 「儂の弟ですじゃ」 村長が、訓練場の方へ目を細める。 「今はメモリスの方に住んでおりましてな。儂が倒れていたと知って、駆けつけてくれたのです」 村長が手招きすると、老人はグレンとの間合いを切った。 「お、おい! まだ途中だろ!」 「少し待っとれ。腰の浮いた剣は逃げやせんわい」 「誰の剣が浮いてるって!?」 老人はグレンの抗議を背に受けたまま、こちらへ歩いてくる。 兄弟だと言われれば、たしかによく似ていた。白い髭の形も、目尻の皺も、言葉を置く間も。だが弟の方には、長く剣を握ってきた者だけが纏う、乾いた鋭さが残っている。 老人はエレナの前で足を止めると、深々と頭を下げた。 「これはこれは、エレナ様。儂の兄を救ってくださり、まことにありがとうございました」 「どうか、お気になさらないでください。皆さんを無事にお救いできて、本当に良かったです」 エレナが静かに答えると、村長は目尻の皺を深くした。 「お噂に違わぬ、お優しいお方じゃ」 その声には、感謝があった。けれど同時に、返せるものを探す者の重さも、かすかに滲んでいる。 「この村は、かつてミルクで知られておりましてな。本来なら、せめていくつかお送りしたいところなのですが……あいにく、牛はもう一頭も残っておりません。今は、何もお渡しできぬ有様ですじゃ」 「お礼など、どうかお気になさらないでください。ただ……この先の暮らしが」 エレナの視線が、村の奥へ流れた。 空になった牛舎。荒れた土。まだ片づけられていない桶や縄。村を支えてきたものが失われた跡は、朝の光の中でも薄れない。 村長は、ゆっくりと首を振った。 「そこは、弟のつてを頼れそうでしてな。何頭か、牛を分けてもらえる話が進んでおります」 皺深い顔に、穏やかな笑みが浮かぶ。 「すぐに元通りとはいきませぬ。ですが、儂らはやっていけますじゃ」 その言葉を聞いて、エレナの肩からわずかに力が抜けた。 (良かった……) 胸元に重ねていた指が、そっとほどける。 そこで、エレナはふと顔を上げた。 昨夜から今朝にかけて、この場所はずっと「魔力中毒に襲われた村」だった。病人が伏せ、井戸に悪意を落とされ、牛を失った村。 けれど、それだけでは呼べない。 砂まみれになっても剣を握り直すグレンがいる。笑いながら見守る村人たちがいる。朝靄の薄れていく井戸があり、空になった牛舎の前にも、まだ人の足跡が残っている。 失われたものの跡と、それでも続いていくもの。 「村長さん」 「はい」 「こちらの村のお名前を、教えていただけますか?」 村長は一度、広場を見渡した。 訓練場。井戸。牛舎。朝の支度を始める村人たち。 それから、エレナへ向き直る。 「……この村は、ミルサーレ村ですじゃ」 「ミルサーレ村……。素敵なお名前ですね」 エレナが口にすると、村長は目尻の皺をさらに深くした。 「ほっほっほ。名に恥じぬよう、ミルクの味だけは誇ってきましたからの」 言いながら、広場の端にある空の牛舎へ目を向ける。 「いずれまた牛が揃いましたら、その折には……エレナ様へ、聖堂にミルクをお送りしてもよろしいですかな」 慎ましい申し出だった。 だが、言葉の端に、簡単には引き下がらない芯がある。 「………」 エレナはすぐには答えなかった。 感謝を受け取ること自体は、拒む理由がない。だが、今の村にとって牛はそのまま生計だ。戻り始めたばかりの基盤を削る形での礼は、長く続くものではない。 かといって、申し出をそのまま退けるのも違う。 朝の空気が、一拍だけ伸びた。 「でしたら」 エレナが顔を上げる。 「その際は、聖堂と契約を結びませんか?」 村長の目が、大きく見開かれた。 「け、契約でございますか……?」 「ええ」 エレナは穏やかに頷いた。 「聖堂には多くの方が集まります。日々配る食事や飲み物も、それなりの量になりますので……ミルクは、こちらで買い取らせていただきます」 言葉はやわらかい。 だが、その組み立ては明確だった。 「もちろん、私もいただきますし、きっとこの村のミルクを気に入る方も現れるはずです。そうなれば、継続してお取引ができます」 そこで、エレナは一度だけ間を置いた。 「その方が、お互いにとって良い形になると思います」 村長は、しばらく言葉を失っていた。 視線がエレナの顔に留まり、それからゆっくりと落ちる。胸の前で重ねられた両手が、わずかに震えた。 「……おお……」 かすれた声が漏れる。 「なんと……そこまで、お考えくださるとは……」 感謝だけではない。差し出されたものを、すぐには受け取れずにいるような響きだった。 エレナは静かに首を振る。 「無理のない形で、長く続けていける方が良いと思っただけです」 相手の事情と、自分の立場。 その両方を崩さず、ただの施しにも、ただの礼にも留めない。利益として成立させ、村が自分の足で立てる形へつなげる。 聖女見習いという肩書きからは、少し意外な手際だった。 「……契約を、結んでいただけませんか?」 エレナが改めて問いかける。 村長は、深く息を吸った。 それから、ゆっくりと背筋を伸ばす。 「――ぜひ、お願い致します」────エレナの視点──── 石造りの螺旋階段を、私たちは息を切らしながら駆け上がっていた。 ごつごつとした壁が、手に持つ灯りの光を不気味に反射している。下層から響いていた激しい戦闘音は、もう聞こえない。石段を踏みしめる足音と、荒い息遣いだけが、神殿の静寂を破っていた。 「グレンさん、大丈夫ですかね……!?」 ミストさんの不安そうな声が、静寂に包まれた階段に響いた。その声には、仲間への深い心配が込められている。 「……きっと、大丈夫!」 何の確証もない。けれど、私の胸の奥で、温かい光のようなものが「大丈夫だ」と囁いていた。それは昔から私の中に宿る、聖女としての直感のようなもの。 「私の直感が、そう告げてるの!」 「えぇ!? そ、そんな直感が……!?」 ミストさんが驚きの声を上げる。 (私も原理は分からんが……エレナには、その力が間違いなく備わっている。運命そのものを、その祈りの力で強引にねじ曲げてしまうような、不思議な力がな。だから、今回もきっと大丈夫だ) エレンの声が、私の内側で静かに響いた。 (うん……!) 彼の言葉が、私の直感を後押ししてくれる。 「それなら良いが……慢心はするなよ」 シイナさんが、冷静に釘を刺した。 「未来が見えるからと、それに胡坐をかいて行動するようでは、今の暗明の聖女と何も変わらないからな」 「……うん、そうだね。私は、この直感を絶対に正しいなんて、傲慢なことは思わないよ」 私にできるのは、この直感を信じつつ、でも決して過信しないこと。神様のお導きを感じながらも、自分の足で歩むこと。 「そこが、エレナさんの素敵なところですね」 シオンさんが、静かに微笑んだ。 その時、長く続いた階段が終わり、私たちの目の前に、だだっ広い広間が見えてきた。天井は高く、月光が差し込む窓から、青白い光が石床を照らしている。 「きっと、ここにも残りの騎士が待ち構えていることだろう」 「その時は、私が残ります」 シオンさんの言葉に、ミストさんが待ったをかける。 「いやいやいや! そこは私でしょうー!!」 「……?」 シオンさんが、心底不思議そうに首を傾げた。 「そのお顔はなんですかァァ!?」 「いえ……だってあなたは、戦いがあまり得意な方ではないでしょ
**────エレナの視点────** 「じゃあ皆、各々準備してくれ。五分後にはここを出て、リディアさんを助けに行くぞ」 シイナさんの力強い言葉に、私たちは一斉に頷いた。この小さな家の中に、静かだが確固たる決意が満ちている。みんなの表情に迷いはない。先ほどまでの混乱が嘘のように、今は一つの目標に向かって心が結束していた。 五分という短い時間の中で、私たちはそれぞれの装備を確認し、心の準備を整える。月光が窓から差し込み、武器の金属部分を青白く照らしていた。この静寂が、嵐の前の静けさのように感じられてならない。 「準備はいいか? 今回、ジンが大方の騎士は無力化してくれたという話だ。恐らく…すぐに四騎士との戦闘になるだろう」 シイナさんの声に緊張が走る。四騎士——この国の最強戦力との戦いが待っているのだ。 「ここの騎士たちの数は多かったからね。でも、気を付けて」 ジンさんが軽やかに言葉を続ける。 「流石に全部を倒すわけにもいかなかったから、十人程度は残ってるはずだから」 「それでも、そんなに多くの騎士を戦闘不能にするなんて……」 私は驚きを隠せなかった。一人でそれほどの騎士を相手にするなんて、どれほどの実力者なのだろう。 「はは、聖女様に褒めてもらえるなんて。なんだか嬉しいよ」 ジンさんの表情に、子供のような無邪気さが浮かんでいる。しかし、その奥に潜む何かが、私の心に小さな不安を芽生えさせた。 「ね、念の為に聞くのですが……殺しはしてないですよね……?」 恐る恐る尋ねた私の質問に、ジンさんの表情がふっと変わった。まるで別人のような、冷たい光が瞳に宿る。 「……剣を抜いた以上、お互いの命が尽きるまで刀を振り合うべきだと僕は思っているんだ」 その一言に、背筋が凍りつくような恐怖を感じた。ジンさんの声音には、戦いへの狂気じみた情熱が込められている。私の心臓が、ドクドクと激しく鼓動を刻んでいた。 「でも……今回は大丈夫。殺してないよ」 そう言って見せる笑顔は、まるで何事もなかったかのように穏やかだった。しかし、その急激な変化が、かえって不気味さを増している。 (今回は……? ということは、普段は……?) 心の奥で、暗い想像が渦巻いていた。 * * * 五分後。静寂を破って、私たちは行動を開始した
**────エレナの視点────**「という訳なんだ」ジンさんの軽やかな口調で語られた残酷な現実に、私の心は氷のように凍りついてしまった。リディアさんが捕らえられて、処刑される。その事実が、どうしても受け入れることができなかった。「そ、そんな……嘘ですよね??」私の声が震えている。まるで悪夢から覚めたいと願うかのように、その言葉にすがりついた。「……こんな時に嘘なんてつかないよ」ジンさんの飄々とした口調が、現実の重さをより一層際立たせる。「……くっ!!!」シイナさんが拳を強く握りしめ、歯を食いしばっている。その青白い顔に、激しい怒りと悲しみが刻まれていた。「皆は先にこの国を脱出してくれ……!俺は……俺はリディアさんを助けに行く!!」シイナさんが勢いよく立ち上がり、扉に向かって歩き出そうとする。その瞳に宿る決意の炎は、誰にも止められないほど激しく燃えていた。「待てよ!!そんなの俺たちだって同じ気持ちだ!」グレンさんが力強く立ち上がる。彼の声には、シイナさんに負けないほどの強い意志が込められていた。「ええ……彼女には計り知れないほど多大な恩があります。なので……グレンと私でリディアさんを救出に向かいます」シオンさんの顔に、鋼のような決意が浮かんでいる。「シイナ、あなたこそエレナさんやミストさんと共に先に脱出してください」「だめだ!今回はパーティリーダーの責任として、俺が行く!」「シイナ!」「俺が、彼女を助けてすぐに戻ればいいことだろう!」「おいシイナ!俺がやられたテッセンとかいうやつの事を忘れたわけじゃないだろ!?少し落ち着け!」三人の激しい言い争いが、小さな家の中に響き渡る。誰も一歩も引かない様子で、感情のままに言葉をぶつけ合っていた。「あわわわわ……みなさん!こんな時に言い争ってる場合じゃないですって!」ミストさんが慌てて三人の間に割り込もうとするが、激しい感情の渦に巻き込まれ、弾き飛ばされてしまう。「ぎゃー!!」(みんな……冷静さがすっかり抜けて、これじゃあ救える命だって救えないよ……!)(それに……私だってリディアさんを助けたいのに……)私の心の中で、やりきれない想いが渦巻いている。みんなの気持ちは痛いほど分かるけれど、このままでは誰も救えない。そう考えていた、まさにその瞬間だった。私の意識が、まるで深い
**────ジンのの視点────** やる気か、と。僕は心の中で、小さく呟いた。 ここは冒険者ギルド。依頼と情報が交差する、いわば中立の聖域だ。そんな場所で騎士が刀を抜き、殺し合いを演じようというのだから、面白い。実に、面白い。 僕は向かってきた騎士の剣戟をいなすどころか、その勢いを逆に利用して体ごと弾き飛ばした。空中で無様に体勢を崩した彼の喉笛へ、僕は逆手に持ち替えた刃を、まるで吸い込まれるかのように滑らせる。「がぁっ……!」 声にならない呻きを漏らし、騎士が床に崩れ落ちた。口からごぼりと泡を吹き、痙攣する手足が、彼の命が尽きかけていることを示している。 仲間の一人が一瞬で無力化されたというのに、残された騎士たちは状況が飲み込めていないらしい。驚愕に見開かれた目が、滑稽なほどにこちらを向いていた。「き、貴様っ! 正気か!?」「あはは、面白いことを言うね、君。先にその物騒な鉄の獲物を抜いたのは、そっちじゃないか」「そ、それにしてもだ! 我々騎士に刃向かうなど、あってはならないことだぞ!?」「残念だけど、僕はそんな立派な冒険者様じゃない。僕はジン。世界を渡り歩く、ただの傭兵だからね」「ジン……!?」 その名に、騎士の一人が息を呑んだ。どうやら僕の名も、多少は裏の世界に知れ渡っているらしい。「くそっ……! やられて黙っていては、騎士の名が廃る! こいつも捕縛しろ!」 別の騎士が、その手に蒼い水の魔力を纏わせながら、僕へと突進してくる。ギルドの中で属性魔法を放つ? ああ、本当に、愚かだな。「はぁ……後悔しても、知らないよ」 僕は腰に差した愛刀「雪月花」の鯉口を切ると、一閃、抜き放った。 (鳴神式抜刀術――神威の型。) 空気を切り裂く音だけが響き、騎士の右腕が、ごとり、と鈍い音を立てて石床に転がった。「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!!! お、俺の腕がァァァァッ!!」 やかましいね。腕の一本や二本、飛んだくらいで喚くなんて。自分から仕掛けておきながら、いざ返り討ちに遭えば獣のように吠え立てる。弱者の典型だ。「お、お前……! 自分が何をしたか、分かっているのか!?」「さっきも言ったはずだよ。先に始めたのは、そっちだってね」 僕は刀身に付いた血を振るい、ゆらり、と笑みを浮かべた。「まだまだ足りないな。……もっと、殺り合おうよ」 ああ、い
(この声に気配……覚えがある)エレンの意識が、私の奥底で警戒の炎を燃やし始める。(私もそう感じてた……なんだか、すごく(身に覚えがあるような……)(確か、夜の街で我々を襲撃してきた傭兵……名は確かジン……と言ったか)その名前を耳にした瞬間、あの記憶が、鮮血のように鮮やかに脳裏へと蘇ってきた。霊たちが彷徨う夜の街で、昼間の平穏な探索が一変した瞬間。突如として現れた謎の傭兵——。その圧倒的な実力は私には理解の範疇を超えていたけれど、エレン曰く、これまで戦った敵の中でも別格の強さを誇っていた……と。(そ、その人がなんでこんな場所に!? まさか、私たちを追ってきたの!?)(さあな。だが……敵意は微塵も感じられない。それに何か重要な情報を知っているようだ)(ここは一か八か、直接対峙してみるのも選択肢の一つだろう)「エレンが敵意は感じないから……出てみるのも一つの手だって……」私はシイナさんに、内心の不安を隠しながらそう告げる。「敵意を感じない……か。グレンもミストも意識を取り戻したことだし、直接話してみるか?」シイナさんの声に、慎重な判断力が込められている。(ああ、そうしてみてくれ)「そうして見てほしいって……」エレンの助言をそう伝えると、シイナさんが深く頷き、警戒を込めて扉の前へと歩を進めた。「何用だ」シイナさんの声が、扉越しに響く。「あれ、やっぱりいるんじゃないですかー」その飄々とした口調に、底知れない余裕が滲んでいる。「やあ、僕はジン。リディアっていう方からの重要な伝言があるんだけど、扉を開けてもらえないかな?」「残念だが、こちらにも複雑な事情があってな。このままでお願いしたい」シイナさんの慎重な対応に、扉の向こうから軽やかな笑い声が響く。「……あーそっか、いまこの国から追われてるんだっけ。それなら心配しなくていいよ」「大体の騎士は僕が片付けたから」「な、何だと!?」シイナさんの声が、驚愕に震える。「えっ!??」私も思わず声を上げてしまった。「ま、待て! この国の騎士一人一人は精鋭と言っても過言ではないほどに優秀だ。それをお前は単身で制圧したというのか?」「はは。まぁ確かにこの国の騎士はよく鍛錬されていたね。でも、僕も実力には自信があるんだ」その軽やかな口調で語られる内容の恐ろしさに、私たちは言葉を失った
**────エレナの視点────**次の日。「みなさん!!!!本当にご迷惑をおかけしました!!!」「本当に面目ねぇ……!!!今回迷惑かけた分は、必ず挽回するぜ!」二人が目を覚ましたんだ。あんなに傷だらけで、ずっと目を覚まさなかったグレンさんも元気になって、本当に良かったと思う……。でも……。聞かないといけない。二人に、何があったのか。「それより……二人に何があったんですか?なんで……グレンさんはあんなに傷だらけだったんですか……?」私がそう尋ねると、グレンさんが急に口を噤んでしまう。数秒の重い沈黙が部屋を支配すると、やがて言いにくそうにグレンさんが口を開き始めた。「お前たちが情報収集に行った数時間後、とんでもなく強い奴が現れたんだ」「とんでもなく強い奴?」シイナさんの声に、緊張が走る。「ああ。全身に見たこともない鎧を着て、刀を使っていた」(見たこともない鎧に刀……か)エレンの声が、意識の奥で静かに響く。「そいつは……全く俺の攻撃が通じなかった」「なに!?グレン、お前の攻撃がか!?」シイナさんは心底驚いたような様子を見せる。グレンさんの実力を知っている彼だからこその驚きだった。(…………)エレンが沈黙している。何かを考えているみたいだ。「ああ、正直全く底が見えなかったぜ。戦ってる感触としては……エレンに近かったかもな」「エレンに……?」私の声が震える。エレンと同じくらい強いなんて……。「それは……かなり厄介そうですね」シオンさんの美しい顔に、珍しく深刻な表情が浮かんでいる。「厄介なんてもんじゃねぇよ。あいつは俺の攻撃を全部受け止めやがった」グレンさんは、私たちのパーティ内でも屈指の攻撃力を持つ