Beranda / BL / White shadow / 【1】

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White shadow
White shadow
Penulis: 七賀ごふん

【1】

Penulis: 七賀ごふん
last update Terakhir Diperbarui: 2025-11-27 12:01:44

「んんっ……や、あ……っ!」

青いライトが妖しく光るホテルの一室で、快楽に溺れた声が響いた。

きつい薔薇の香水や悪趣味な部屋の造り、かけっぱなしのラジオならもう慣れた。

そんなものに構ってられない。慣れざるを得ない環境というものが、どうしてもある。

「うっ、あ、あぁ……っ」

例えば、“俺”が今抱いている“少年”にも。

彼は男に抱かれるのは初めてらしい。でも仮にこれから経験を積んでいったとしても、彼がタチになる姿は想像できない。

華奢で抽象的な容姿以上に、柔く脆い心が見え隠れしている。

「ああぁっ!!」

そんな事を考えてる間に少年は射精した。精液の強い匂いが鼻腔をくすぐる。

「はぁ……はぁ……っ」

シーツに突っ伏して放心していた彼は、少ししてからため息混じりに呟いた。

「すみません……こんなキツいなんて、俺甘かったっていうか、ちょっと耐えられないです。この仕事は断らせて下さい」

少年は涙目で訴える。見てるこっちが気の毒に思ってしまうほどの悲壮感を漂わせていた。

「……わかった。じゃあ帰りな。部屋代は俺が持つから」

「あ、ありがとうございます」

彼は身支度を終えると気まずそうに、逃げるように部屋を出て行った。

用済みのラジオを止めたものの、今度は静寂が気持ちが悪い。

シャワーを浴びる前に一服し、窓際に佇んだ。

「ふう……」

男でも女でもいいから、今は人手が欲しい。だがそう簡単に欲しい人材は見つからない。 

もっとピンとくる人間がいれば、どんな手を使っても手に入れるのに。

危険な思考に入りかけていることに気付き、自嘲した。

頭の中はグチャグチャなのに、不思議と気持ちはスカッとしてる。

さてと。

灰皿に煙草を押し付けて、部屋の時計を確認する。あまり行きたくないけど、そろそろ仕事に戻らないと。

青年は銀髪を掻き乱し、ハンガーにかかったジャケットを取った。

「警察だらけじゃんか。この辺りも物騒になったよなあ」

「そうか? 元からじゃないか?」

夜の繁華街で、鉛のような会話が交わされる。

といっても、弾んでないと勝手に思ってるだけかもしれない。自分の気持ちが急降下しているのは間違いないから。

いつもならもっと話を盛り上げたり、穿った展開をしたり、とにかく溌剌とした受け答えができる。しかし今日はそんなことをする気力もない。

「気が乗らないって感じだな、クリスト。お前が行ってみたいっていうから連れて来てやったんだぞ」

「あぁ、そうだよな。すまない」

クリストと呼ばれた金髪の男性は、そう返しながらも内心溜息をついた。

だからって今日いきなり行くとは思わなかった。申し訳ないが、できれば事前に予定を立ててくれてからの方が良かった。

周りでは老若男女が人目も気にせず互いに夢中になっている。一組や二組ではない。誰も彼もが現実を忘れ、立場を捨ててここへ来ている。

表向きは合法と謳っている、夜の大人の遊び場。いかがわしい店はもちろん、金持ちの為の賭博場も数えきれない。

街全体が夜になると姿を変える。自分はどちらかというと無縁な世界だったが、突然こんな場所に来ようと思ったのには理由があった。そこは好奇心と、やはり不純な目的で、

「さぁ、クリストの眼に留まる王子様がいるか探しに行かないとな」

「声が大きい」

クリストは隣の青年を睨んだが、笑って流された。

「聞かれても大丈夫だって。珍しくないから」

そういう問題じゃない、と内心文句を言う。

彼はクリストの古い友人だった。そして、自分にとってとても大きな秘密を知っている。

まさか男の恋人を探しに来たなんて……自分自身、信じられない。

クリストは同性愛者だ。しかしそれは友人の彼にしか打ち明けていない。

起業家の父を持ち、急成長した子会社に入社した。今は誰もが羨む七光を受け、専務として働いている。

本当に恵まれた環境に身を置いているし、責任は重いが仕事も充実してる。

だが異性を好きになれない、ということが周りと決定的に違った。

恋愛だけが最大の敵で、コンプレックスで、そして何よりも手に入れたい……金では買えない価値のあるものだと思っている。

いや、もはや恋愛なんて可愛いことを言える歳でもない。仕事第一に生きて、三十代の仲間入りをしてしまった。

縁談は何とかやり過ごしてきたものの、今後はそうもいかないだろう。親や親族から良い人がいると話を持ちかけられる度にウッと思ってしまう日々は精神が擦り切れる。

だからそろそろ生き方を決めたい。同性愛者だとアウティングできなくても、生涯寄り添いたいと思える大切な存在を見つけたい。

その為には今まで敬遠していた場所に足を踏み入れるのも有りだと思えた。

今から向かう場所で、別の道が見つかるかもしれない。淡い期待を抱きつつ、暗く細い道を進んだ。

「でもさ、心配ないよクリスト。第一印象は大事だけど、お前なら大抵の奴は落ちる。顔良し頭良し、金もあって将来有望なんだから」

「将来のことなんて分からないよ。ずっと父の会社にいるとは限らないし」

ただでさえ低いテンションが、会社の話でさらに音を立てて下がった気がする。それを察したのか、友人は背中を叩いて鼓舞してきた。

「まぁまぁ、とにかく楽しもうぜ。今夜のパーティで良い出会いがあるよう祈ってるよ」

何だかんだ言っても友人の励ましは素直に嬉しく、クリストは静かに頷いた。

彼の同伴で訪れたパーティ会場は、ホテルの最上階を全て貸切にしているものだった。煌びやかな装飾に様々な料理が並び、演奏家達が場の雰囲気に合わせた音楽を奏でている。

「金かけてるな。大したもんだ」

「俺達だって参加費出したじゃないか。ちゃんと回収されてるよ」

あぁ。確かに受付で出したけど、それだけで賄える額ではない気がする。太いスポンサーがいるようだ。

「ここは金さえあれば一般人も入れるし、各界の有名人も来たりする。でも下手に知り合いにならない方がいいかもな。もし知り合ったとしても、次会った時は初対面ってことにしとけ」

「わかった」

「じゃ、早速ホールに行くか」

会場は申し分無い広さだった。人の数も凄まじい。一体皆どこからこのパーティの情報を入手したのか、素直に不思議だ。

「ほら、どう見てもカップルっぽい男二人組多いだろ?」

友人が耳打ちしてきたので注視してみると、確かに……そんな雰囲気を醸し出している存在は結構いた。

「それじゃ俺達も解散するか。男二人でいたら近寄り難いだろうし、俺はこれから美人を捜しに行くから」

「ここで一人か。ちょっと拷問だな」

「あのなぁ、出会いが欲しいんだろ? 大丈夫、お前は顔がいいから標識みたいに突っ立ってたとしても向こうから寄ってくるよ。じゃ!」

そう言い残すと、彼は集団の中へ消えて行ってしまった。本当は彼の方が出会いに飢えてるんじゃないか。そう思わせる勢いだ。

だが確かに、タイムリミットがある以上無為に過ごすわけにもいかない。自分から動かないと。

でも女ならともかく、男をどうやって誘うんだ……。

どちらかと言うと誘われる方が多かった為、行き詰まってしまう。憂鬱になっていると、人混みに紛れて印象的な人物が目に留まった。

「……!」

それは一人の青年だった。珍しい銀髪で、白のスーツを見事に着こなしている。

何よりも惹きつけられたのは、誰もが一度は振り返る美貌だ。正確な年齢は分からないが、かなり若い。二十代前半であることは間違いないだろう。

周りの女性は息を飲んで、彼に見蕩れている。

気付けばクリストも、自然と彼の方へ歩みを進めていた。

もっと……、もっと間近で見てみたい。純粋な欲にに支配されていた。ところが。

「あの、良かったらどうぞ」

「!」

その声で、一気に現実に引き戻される。

目の前にはグラスを二つ持った女性がいた。

「こういった席はよく来られるんですか」

「いいえ、初めてです。不慣れなもので……所在がなくて困ってます」

チラッと人混みの方へ目を向けると、もうその青年はいなかった。内心、残念に思ってしまった。

けどあれだけ美形だったら恋人がいるに違いない。

第一ストレートだったら話にならない為、すぐに頭から切り離し、受け取ったワインを口にした。

「そうですか。なら私と一緒」

上品に笑うその女性は、これまた美人だった。

「お話したい方は見つかりました?」

「いえ、まだ……しっかり捜すだけの余裕もなくて」

「ふふ。でも貴方を見てる女性、たくさんいますよ」

彼女の言葉を聞き、クリストは辺りを見回した。確かに、コソコソとこちらを見て話してる女性が多い。

以前友人に突っ立っているだけでも目立つ、と言われたことを思い出し、咳払いした。

「貴女は? どなたか見つかったんですか?」

「えぇ。もちろん貴方……」

目が合い、思わずドキッとする。

「……ではないのよ、ごめんなさい。私は別に狙ってる女の子がいるの」

「そうなんですか。他に……女の子が……」

言ってる途中で、口を噤んだ。まさかとは思うが、

「私男性とはお付き合いできないんです。でも貴方の様子が可愛い女の子を探してる風には見えなくて、つい声を」

「あ……」

彼女も同性愛者。そして自分を同性愛者だと思って近付いて来た。

冷静に考えるとそれだけ挙動不審に見えていたということ。無性に恥ずかしくなり、軽く頬を搔いた。

「それじゃあ、お互い頑張りましょう」

彼女は朗らかな微笑みをたたえ、去っていった。

「……」

不意打ちとはいえ驚いたのは事実だ。ここは本当に、そういう意味での一般人は少ないのかもしれない。

そう思うと少し気が楽ではあるが、意欲に火が灯るほどではない。

それでもやはり、先程の青年だけは脳裏にチラついていた。

その後もひっきりなしに女性から声をかけられたが、適当に逃げ続けた。かといって男に声をかける勇気もなく、右往左往。完全に時間を無駄にしてしまった。

パーティの雰囲気は充分味わったんだし、ひとまず一服して心を落ち着かせよう。

「……っと」

クリストは広場を出た後に、人気の少ない場所を探した。すると天井がガラス張りの中庭があった為、とりあえず中へ入ってみた。

辺りを全て囲むように観葉植物が埋められている。もう少し奥へ進むと、ベンチが一つ置かれてあり、そこには見覚えのある人物が座っていた。

「……!」

さっき広場で見かけた、白いスーツの青年。偶然、彼も一服中みたいだ。

クリストの視線に気付いたのか、彼は少し端に寄った。

「隣どうぞ」

「……どうも」

まさかそんな風に声をかけられると思わず、無機質な声が出た。

とりあえず煙草とライターを取り出して一服する。

「楽しんでます? パーティ」

青年は唐突に、クリストに問いかけた。

「あー……いや、それが……」

クリストは彼に話した。ここへ来た経緯も、結局合わずに抜け出したことも。

初対面だというのに不思議と彼には隠し事をせず、気軽に話せた。彼も丁寧に聞いてくれたから、尚さらだったのかもしれない。

「色々苦労されてるみたいですね。まぁこういう場所は特に、合う合わないがあるし、仕方ないかと」

こうして間近で見ると、やはり彼は驚くほど端麗な顔立ちをしていた。

「でもクリストさんって、真面目な方なんですね」

「それは違いますよ。真面目じゃないからこんな所に来たんだし」

そう。出会いが欲しいなら、他にいくらでも方法がある。

「君はよくこういう場所に来るんだ?」

「いえ、今日はたまたま。開催者が知り合いで、ちょっと呼ばれただけです」

青年は溜息を吐いた。

「正直めんどくさかったぐらい。……でも」

青年は少し置いて、意味ありげな視線をクリストに送った。

「やっぱり来て良かったかな。俺は、貴方みたいな人好きですよ」

「……」

どう反応するべきだろうか。

ほんの僅かだけど、警戒心が生まれる。今会ったばかりの人間に向ける視線や声ではない。

そう思った時だった。

彼の顔が近付き、唇に柔らかい何かが当たったのは。

「なっ……」

ゆっくりと彼の顔が離れていく。

唇の乾いた感触。鼻腔に残る、香水と煙草が混ざった香り。一瞬夢かと思ったが、これは間違いない。

会ったばかりの人間にキス。あまりに唐突で驚愕した。

「あ。男とキスするの、初めてですか?」

「違う……けど……」

「じゃあ大丈夫ですよ」

何が大丈夫だというのか。理解不能だ。

男との経験が全くないわけじゃないが、困惑を通り越して少々癇に障る。

どう返そうか考えていると、青年は立ち上がってクリストの手を引いた。

「キスの御礼にお酒奢りますよ。行きましょう」

「えっ」

勢いよく引っ張られた為に、強制的にクリストも立つ羽目になった。

「ここじゃゆっくり話ができないから、俺が働いてる店にご案内します」

早い誘導についていけない。どうすべきか本当に迷ったが、ここで彼と別れるのも今いち納得できなくて、結局ついて行くことにした。

ホテルを出て、彼の車で目的地へ向かう。その道中、彼はステレオからやたら古い歌を流していた。

「そういえば。俺のことはヴェルムと呼んでください」

「はぁ……」

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    「んんっ……や、あ……っ!」青いライトが妖しく光るホテルの一室で、快楽に溺れた声が響いた。きつい薔薇の香水や悪趣味な部屋の造り、かけっぱなしのラジオならもう慣れた。そんなものに構ってられない。慣れざるを得ない環境というものが、どうしてもある。「うっ、あ、あぁ……っ」例えば、“俺”が今抱いている“少年”にも。彼は男に抱かれるのは初めてらしい。でも仮にこれから経験を積んでいったとしても、彼がタチになる姿は想像できない。華奢で抽象的な容姿以上に、柔く脆い心が見え隠れしている。「ああぁっ!!」そんな事を考えてる間に少年は射精した。精液の強い匂いが鼻腔をくすぐる。「はぁ……はぁ……っ」シーツに突っ伏して放心していた彼は、少ししてからため息混じりに呟いた。「すみません……こんなキツいなんて、俺甘かったっていうか、ちょっと耐えられないです。この仕事は断らせて下さい」少年は涙目で訴える。見てるこっちが気の毒に思ってしまうほどの悲壮感を漂わせていた。「……わかった。じゃあ帰りな。部屋代は俺が持つから」「あ、ありがとうございます」彼は身支度を終えると気まずそうに、逃げるように部屋を出て行った。用済みのラジオを止めたものの、今度は静寂が気持ちが悪い。シャワーを浴びる前に一服し、窓際に佇んだ。「ふう……」男でも女でもいいから、今は人手が欲しい。だがそう簡単に欲しい人材は見つからない。 もっとピンとくる人間がいれば、どんな手を使っても手に入れるのに。危険な思考に入りかけていることに気付き、自嘲した。頭の中はグチャグチャなのに、不思議と気持ちはスカッとしてる。さてと。灰皿に煙草を押し付けて、部屋の時計を確認する。あまり行きたくないけど、そろそろ仕事に戻らないと。青年は銀髪を掻き乱し、ハンガーにかかったジャケットを取った。「警察だらけじゃんか。この辺りも物騒になったよなあ」「そうか? 元からじゃないか?」夜の繁華街で、鉛のような会話が交わされる。といっても、弾んでないと勝手に思ってるだけかもしれない。自分の気持ちが急降下しているのは間違いないから。いつもならもっと話を盛り上げたり、穿った展開をしたり、とにかく溌剌とした受け答えができる。しかし今日はそんなことをする気力もない。「気が乗らないって感じだな、クリスト。お前が行ってみたい

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