LOGINホテルからそう遠くない街角に彼は車を停めた。そして案内されたのは、洒落た外観の建物。三階まであるが、どこまでが店内なんだろうか。
ヴェルムがドアを開けた為先に入る。内装から確信したが、ナイトクラブのようだ。入ってすぐの場所にカウンターと、客席が部屋全体に並んでいる。
「あ。ヴェルムさん、お帰りなさい」
二人の存在に気付いたボーイがすぐに駆け寄ってきた。
「ウォルターは?」
「今は外出中ですよ」
「そう。良かった」
ヴェルムは悪戯を仕掛けた子どものように笑った。
「こちらお客様ですか?」
「あぁ。二階使うから、他は通すなよ」
ヴェルムは店内を軽く見渡した後、クリストに笑いかけた。
「じゃ、行きますか」
彼はクリストをホールではなく、個別の大部屋へ案内した。そして席に促し、手慣れた仕草で酒の用意をする。
「では改めて、乾杯!」
グラスがぶつかる小気味いい音。この高価な酒もキスの御礼……なんてはずがない。絶対に裏がある。
あえてノコノコついてきたのは、彼の真意を確かめる為だ。その実、まだ彼に対する興味を捨てきれていないわけだけど。
「それで、何が目的ですか」
「あはは……もう、そんな怖い顔しないで。目的というか、お誘いです」
ヴェルムは宥めるように片手を翳した。
「クリストさん、この店のオーナーやってみません?」
彼の“お誘い”は、またまたぶっ飛んだ“お願い”だった。
「困ったことにオーナーが不在なんです。前はいたんですけど色々あって、現状俺が代理をしています」
ヴェルムは、いかにも社用の携帯を取り出してテーブルの上へ置いた。
「けど俺じゃ毎日何とか回すのも精一杯で。この店を任せられる方を捜していた、という状況なんですが」
「いきなりそんな事を言われても困ります。俺達、今日会ったんですよ」
からかってるなら不快だし、本気で言ってるなら異常だ。そこはクリストも譲れないし、揺らぐ要素がなかった。雇われなら捜せばいくらでも希望者が集うだろう。そう言ったものの、彼は変わらない調子で話を続けた。
「俺、人を見る目はあると思うんです。貴方は大抵のことは受け止める度量がありそうだ。それに、そう……ちょっと一緒に来てください。見せたいものがある」
ヴェルムはあくまで態度を崩さず、笑顔で話す。
これ以上聞く義理はない。……そう思うが、ここまできたら付き合おう、と腰を上げた。
理由はただひとつ。彼の不敵な態度が、とことん気に入らないから。
案内されたのは、店の地下。
思いの外規模が大きい。水道設備の為の地下空間に見えたが、迷路のように道が入り組み、奥へ行くとまた広い空間へ出た。
そしてそこの角だけ、長いカーテンで仕切りをされている。何故だか胸が騒いだ。
「リスキーな仕事が好きです。当然、それに見合った報酬が得られれば、の話ですけど」
ヴェルムは足を止めて、クリストの方へ振り返る。
「オーナーになる話もそう、メリットならありますよ。クリストさん、出会いが欲しいって言ってたじゃないですか」
そして彼は勢いよくカーテンを開けた。
「最近、知り合いが新しい商売を始めたんです。今ここにいる彼を含めて、買ってきた子は皆貴方のものにできますよ。厳選して、欲しい子だけ手元に置けばいい」
四方をカーテンで囲まれた、コンクリートの空間。そこには両手を縛られ、目隠しされた全裸の少年が壁にもたれかかっていた。
あまりに非現実的な光景にクリストは目を疑う。しかしヴェルムは構わず、彼の手を取ろうとした。
「こんな役得、断る理由はないでしょう」
その問いに返すことなく、クリストはヴェルムの手を振り払う。
「ふざけるな。こんなこと許されるわけないだろ」
「誘拐してきたわけじゃありませんけど」
「そういう問題じゃない!」
言うなれば道徳的な問題だ。しかしヴェルムは手を振り解いて、悪びれもせずに答えた。
「あぁ、買ったって言い方が悪かったかな。引き取った、ならどうです? 親に捨てられ、行く宛もない可哀想な子ども達を」
「言い方を変えたからって人身売買に変わりはない。警察に言ったらどうなるか分かってるだろう?」
案の定、彼は警察という言葉を口に出すと笑みを消した。
だが焦燥ではない。諦めや絶望を秘めた眼差しでこちらを見つめる。
「この子を警察に保護してもらおうとしてるならよく考えてください。この子は孤児だけど、こういう道に自分から入ったんだ。ちゃんと間に業者を通してるんですよ。この子だけじゃない、ここへ売られてくる子は大体……皆そう」
値踏みするような厭わしい視線を少年に向け、ヴェルムは肩を竦めた。
「貧しければ子どもを売ってでも生き延びる。それが大人でしょう? 親に言われるまま身売りしようとする子ども達はこの国じゃ卑近な例だ」
言わんとしてることは分かる。けど、それでも納得できない。納得したくない。それはもっと残酷なことだと思うから。
拳を強く握った時、彼の瞳が鋭く光った。
「話を戻しましょうか」
ヴェルムは少年を抱き寄せると、いきなり彼の露になっている性器を握った。
「あ……っ!」
「まあ運が良ければ、身体を売れば生きていけるということです。売り値がつかなければそれどころじゃないしね」
クリストにもまだ伝えてない事柄だけに、後ろめたかった。『穏便に彼と別れる方法を一緒に考えよう。君も彼も傷つかない最善の策を』「……さっきも言ったけど、気持ちの整理をつけさせてください。俺はクリストと別れたくないんですよ……本当は一秒だって長く一緒にいたい」段々彼に合わせるのが億劫になって、大袈裟な台詞が飛び出してしまった。寝起きだからだろうか。投げやりな気分になっている。それでも淡々と説明した。彼の立場や将来を案じて、悩んだ末に貴方の考えに賛同した。今あれこれ言われても混乱するだけだ、と。迷惑がってると受け取られても仕方ない返答をした。やっぱりまずかったかもしれない。電話の先からは何も聞こえない。しかし少しすると、いつもと変わらない声が聞こえた。『……わかった。強要して悪かったね。とりあえずじっくり考えてくれ』じゃあまた、と電話は切れてしまった。意外と簡単に折れた。向こうも譲歩してくれたという感じか。しかしそれもシャクだ。感謝してやる義理はない。今日はとりあえず撃退できたが、時間の問題だ。明日以降引き伸ばそうとすれば怪しまれる。どうするか……。「ヴェルムじゃんか。こんなところで何してんだ」「わ、レイグール……」前方に目をやると、不機嫌そうな顔をした彼が立っていた。「今から家に帰るところ。そっちは?」「決まってんだろ、出勤だよ。それにしても……何かお前、頭ボサボサじゃないか? それ寝癖?」「え、そんな酷い?」ヴェルムは髪を指で梳く。自分では分からないが失敗した。寝起きなんだから店を出る前に鏡を見れば良かった。「そんな目立つって程じゃねえから大丈夫だけどよ」レイグールは愛想なく答える。それはいつもの事だ。彼は他の人物に対してはそれなりに愛想をふりまくが、ヴェルムに対しては未だ一定の距離を置いている。それでも、昔よりはマシだった。「そういえばさ、まだ付き合ってんのか? 例の彼と」レイグールの質問に、ヴェルムは少し冷や汗をかいた。「あぁ。普通に付き合ってる」「ふうん。よく続くな」ヴェルムは視線を外し、遠くの建物を捉えた。正直、彼相手にクリストの話はしたくない。何が地雷か分からないからだ。「それじゃあ俺は行くから。……今日も、皆をよろしく」上手く立ち去る……いや、逃げようとした。こんな関係、本当は駄目なんだと自分
案の定、ヴェルムの嫌な予感は的中してしまった。「こんばんは。先程はどうも」閉店後、駐車場に向かっていたヴェルムの前に、先程の男性が現れた。一緒にいた眼鏡の男の姿は見えない。どうやら彼一人のようだ。しかし行きずりと言うにはあまりにわざとらしい。仕事以外では(仕事でも)極力関わりたくない人種だと、内心舌を出した。「こちらこそ、ありがとうございました。楽しんでいただけけましたか?」「えぇ、それはもう」彼は笑顔を崩さずにヴェルムに近付く。「それでは、帰りはお気をつけて……」ヴェルムは反対に、自分の車の方へ後ずさろうとしたが、男性はその様子に目敏く、すかさず口を開いた。「クリストさん。ってご存知ですよね?」どんな誘いも断ろうと決めていたが、意外な人物の名を出され、振り返ってしまった。「良かった、その顔は人違いじゃないみたいだ。……ちょっとお付き合いいただけませんか? 大事な話があるんです」「……ここでは駄目なんですか?」「長くなるかもしれないので。立ったままは疲れるでしょう」相手が誰であろうと安易に誘いに乗るべきじゃない。しかしクリストが絡んだ話なら無闇に切ってしまうのも危険に思えた。「……わかりました。どこへ行きます?」ヴェルムは意を決して両手を翳す。「そうですね。こう見えて私も立場があるので、できれば人目につかない場所が良い。私が泊まってるホテルに向かいましょうか」「……」ホテルなんて、嫌にも程がある。絶対に行きたくない場所ナンバーワンだったが、向こうは譲らないだろう。彼の車を追って渋々ついていくことにした。ホテルへ着き、チェックインを済ませ、真っ先に彼が泊まっている部屋へと向かった。「どうぞ、楽にしてください」ヴェルムは適当にすすめられた椅子に腰かけた。「少し飲みましょうか」すると彼は上等なウィスキーを出してきたので、ヴェルムは慌てて断った。「俺は車で帰るつもりなんで」「大丈夫ですよ。帰る時は私の部下を呼んで送らせますから」「そこまでしていただかなくて結構ですよ」正直ありがた迷惑だ。しかし彼は食い下がってくれず、ヴェルムのグラスに注いだ。「まぁまぁ、ちょっとなら大丈夫でしょう」グラスを押し出してくる、鼻につく強引さ。仕方なく一口だけ飲んだ。その後は手をつけないつもりで。「それとお互い敬語はやめないか。プラ
今日も店はいつも通りだ。客と店員の会話を除けば、耳に入るのはBGMぐらいのもの。ヴェルムは軽くホールを覗き、裏へ引っ込んだ。パソコンの電源を入れ、酒や食材等の物品の発注をする。今日はシフトの作成やスタイリストの手配など、事務的なことしかしない。そういえばまた近くに新しい店が出るらしい。場所によるが、それなら挨拶に行かないと。ここは競争社会。近隣にも目を配らないと取り残される。昔から乱れた区域だが、これからも変わることはなさそうだ。売上を見ながらマウスを叩いてると、一人のスタッフがカウンターに入ってきてヴェルムの耳元に囁いた。「ヴェルム、三番テーブルの客が呼んでるよ」「トラブル?」一瞬、鼓動が速まる。しかし彼は首を横に振った。「そういう感じじゃないな。挨拶をしたいんだと。お前を名指しで呼んでるんだ。知り合いじゃないのか?」ヴェルムは奥に入り、監視カメラで確認した。「知らないな。見たこともない」「一見さんだよ。紹介も特になかった」「分からないけど、行くしかないか。さっきホールに出てるから居留守は使えないし」ヴェルムは身なりを整えると、指定された席へと向かった。少しして到着すると、そこには店員の女性が二人、そして客の男性が二人座っていた。態度や様子から、この二人は仕事繋がりだと推察する。眼鏡をかけた男性は姿勢が良い。緊張しているようだ。女性に対してではない。恐らく、もう一人の男に対して。その男は、癖のあるブロンドと非常に整った顔をしており、気品があった。仕事でもプライベートでも相当なやり手だろう。穏やかな笑顔を浮かべているが、相手をよく観察しているような視線が纏わりつく。こういう人間は大抵、自分に絶対的な自信を持っている。自分も似たような類だけど、共感はできても意気投合するとは思えない。ヴェルムは一瞬の間にこのような妄想をするのが楽しくなっていた。「お待たせいたしました。何かお困りでしょうか」「初めまして。わざわざ呼びつけてしまって申し訳ありません」彼は声まで魅力的、女性を虜にしてしまいそうなバリトンボイスをしていた。「ここは居心地のいい店ですね。非常に満足しています。……ですからもう少し寛ぎたくて。時間、閉店まで伸ばせませんか?」「あぁ、問題ありません。ありがとうございます」ウチは時間制だ。確かにこのテーブルの客はそろ
人と繋がるのは、怖い。関係は不安定で老朽化した吊り橋だ。嫌われたり、好かれたり、その繰り返し。嫌だけど、それでも最後は誰かと繋がりたい。「ランディ?」名前を呼ばれた瞬間、暗かった周りが明るくなった。いや、元々周りは明るかった。闇を錯覚したのは、ずっと瞼を閉じていたせいだ。あれ。俺寝てた……。ランディは見覚えのある……店の休憩室で目を覚ました。確か、仕事に戻ったウォルターを待っていて……。「ランディ!」少し強い調子で名前を呼ばれ、ランディは身体を震わせた。目の前には、心配そうにこちらを見つめる恋人の姿。「あ……ウォルター。仕事終わったの?」「だいぶ前にな。でもお前が全然起きそうにないから……」声をかけた、とウォルターはソファに座った。「そっか、ごめん。ねぇ、ところでウォルターは」ランディは瞬きもせずに宙を見た。「何で俺と付き合うのOKしてくれたんだっけ?」「………」その質問の後、沈黙が流れた。「ウォルター、聞いてる?」「聞いてるけど……何だ、唐突に。寝惚けてるのか」ウォルターは少し心配そうにランディの隣へと移動した。「夢見てたんだ。ウォルターとまだ付き合う前の夢」あんな夢を見た原因は分かってる。店の廊下でウォルターと話していた時が、本当に不安で仕方なくって。まるで彼に告白した時のような、胸が押しつぶされそうな心境だったんだ。「思えばウォルターにはたくさん迷惑かけたなぁと思って」「確かにお前は手のかかる奴だよ。現在進行形で」彼は苦笑してから、前に屈んだ。「恋愛沙汰に発展するかどうかは俺自身分からなかったけど、あの時のお前は冗談抜きで消耗してたからな。ほっとけなかったよ」「うん」「ヴェルムを忘れるぐらい、お前のことばっかり考えていたから。俺の役目は、お前を支えることだと思って……って、こんな話、恥ずかしいからやめようか」ウォルターは珍しく顔を赤くして、額に手を当てた。それが逆に面白く、笑ってしまう。「いいじゃん。もっと聞かせてよ」「……」ウォルターは身を乗り出して、ランディの頬にキスをした。「いいけど、後でな。最近は本当に歯止めがきかなくて、俺も困ってるんだ。お前にもっと触りたくて」互いの指が絡まり合う。二人の息が、熱で溶け合った。「こんな場所でやって大丈夫かな。ヴェルムに見つかったら今度こそク
青年が帰ると、案の定気まずい空気になった。「あ、あの……」何から話すのがベストだろう。隠すところだけ布団で隠してるけど、この状況は本当に酷い。自分の今の姿は目も当てられないはずだ。「どういうことか説明してもらおうか」ランディは俯いたまま、顔を上げることができなかった。彼と目を合わせる資格がない。後ろめたさが勝って、唇を噛んだ。「最近、お前が複数の客と関係を持ってるって情報が入っててな。信じたくなかったんだけど」ウォルターは少しずつ歩みを進めて、ランディの前に膝をついた。「……本当だったみたいだな」「……っ」怖い。彼に心の底から失望されたと……わかってしまった。「って、おい? 泣いてるのか」ウォルターは目を見開く。確かに、自分は涙を流し、嗚咽していた。「泣くことないだろ。むしろ泣きたいのはこっちだよ」ウォルターは困ったように頬を掻くと、ランディの頭に手を当てた。「まさかこんな風に男と寝るなんて……襲われそうになったお前を助けた俺の行動は何の意味もなかったわけだ」息が詰まりそうな空間だ。ランディは彼のもっともな言葉に何も返せず、しかし涙も止まることなく流れ続けた。「強引に雇ったヴェルムにも非はあるけど、わかるよな? お前がした事は店の存続に関わる問題だってこと……俺もあいつも、前のオーナーが残してくれたあの店が大事なんだ。店を守るためなら何でもやる」「………」ウォルターの言葉に、静かに頷いた。彼らの大事なものを汚した自分は責任を取らなければいけない。迷惑をかけるだけかけた上での決断を。「ごめん……俺もう、店を辞めるよ。他に償えることがあれば、何でもする」ようやく発した言葉は何とも情けなかった。「本当に……本当にごめんなさい……」どれだけ憎まれても、どんな罰を受けても仕方ないと思った。しかしウォルターは落ち着き払った様子で、ランディを見据える。「……話してくれないんだな」その声には、少しだけど寂しさが漂っていた。「俺はよっぽどのことがなきゃ、お前がこんな事するとは思えないよ」ウォルターはランディの身体を引き寄せた。その温もりを感じて、また辛くなる。思わず彼の優しさにすがりつきたくなってしまいそうで怖かった。「したかった事があるんだ」消え入りそうな声で、ランディは言った。「恋人の真似事みたいな……」「
ランディは店を出て家に帰ると、またシャワーを浴びた。他に何もする気が起きないからかもしれない。来週までにやらなきゃいけない大学の課題も、今はとても手に付ける気分じゃなかった。自分を混乱させている、もっと根本的な問題を解決しないことには。ウォルター。寝ても覚めても、考えるのは彼のことばかりだ。これは異常……なんだろうか。それすら分からないのは、彼が初めての恋人だから。「あら。ランディ、今日は休みじゃないの?」余計なことをグルグルと考えてしまう。少しでも早く解決しようと、休みだというのに店に来てしまっていた。「うん。ま、その……ちょっと暇だったから」ランディがそう返すと、向かいの美女、レイリーは鋭い眼で手を組んだ。「嘘ね。仕事嫌いなアナタが休日に顔を出すわけないもの」「……」図星の為ランディは閉口した。「そういえば最近元気ないわね。なにかあった?」それでもレイリーは心配そうに聞いてきてくれた。彼女とはそれなりの付き合いだから、様子だけですぐ分かるらしい。自分と同じ女の子を取っかえ引っ変えしている。性癖に問題はあるけど、今までもたくさん相談相手になってくれていた。 バレない程度なら話してもいいんだろうか……。「大したことじゃないんだけど……ウォルター、俺のこと何か言ってた?」「え? ウォルターがどうかしたの?」彼女が不思議そうに聞き返した、その時。「ランディ?」背後から聞こえた声に、ランディは冷や汗を浮かべた。振り返った先にいたのは、やはり紛れもない彼。「あら、噂をすれば。どうしたの?」「ちょっ、レイリー……!」慌てふためくランディに、ウォルターは怪訝な表情を浮かべた。「噂? 噂って……何の話してたんだ?」「い、いや」困った様に視線を外すランディを見て、レイリーは明るい口調で話し出す。「貴方のことに決まってるでしょ。最近飲みに行ってないから、久しぶりにどうかと思って」「あぁ……」それを聞くと、ウォルターも納得したように頷く。「わかった。……ちょうどこの前新人も入ったことだし、歓迎会も兼ねてやろうか」「お願いね。こういうの、ヴェルムは全然企画してくれないんだから」「はは、確かにそうだ」ウォルターは肩を揺らし、可笑しそうに笑っている。助かった。上手く誤魔化せたようだと、ランディは安堵する。レイリーが気を利かせ