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#4

last update Last Updated: 2025-12-25 07:23:49

彼と抱き合って、渇いた心が満たされる。渇いたら求めるからエンドレスにも思えるけど、これは多分とても壊れやすいものなんだろう。

当たり前だと思っちゃいけないなにか。

その正体は、自分にはまだ分からない。

「ヴェルム」

「……うん?」

融けきった頭と身体。あおい部屋とあかい体温。

全部俺の世界だ。

────白ではない。

「愛してる。これからも、ずっと……」

そして大事な人の声は、とても心地良く俺の鼓膜へと響いた。

愛されてる。

何だか不思議な言葉だ。愛してる、とは全然違う。ただ受動的ではいけないもの。それだけは忘れないように、俺もこれから応えないと。

「ありがと。俺もアンタのこと……愛してる」

そう。忘れかけてたこの熱を忘れない為に。

また一眠りする。長い長い夜が明けて、太陽が昇る頃にヴェルムは目を覚ました。

「ん……」

そしてすぐ、現実に引き戻される。

テレビを点けて時間を確認し、なるべく穏やかに、隣で寝ている彼を起こす。

「クリスト、もうそろそろ起きた方がいんじゃないか? 七時過ぎてる」

「うーん……」

身体を揺さぶってみるも、彼はなかなか目を覚まさない。昨日やりすぎたせいだ。でも俺は止めたけど。少しため息をついて、ヴェルムは寝ているクリストの唇を奪った。

「起きないと遅刻するぞ」

「……」

ここでようやく彼は目覚めた。

「キスで起こすなんてズルい技だな」

クリストは怠そうにシャツを羽織り、身を起こす。

「何がズルいんだよ。アンタが遅刻したら困ると思って優しく起こしたんだぞ」

「はは……ありがとう」

そのお返しというように、今度は彼がヴェルムにキスをした。

「シャワー浴びてくる」

クリストはベッドから起きて、部屋を出て行った。ヴェルムもそれに合わせて、キッチンへ向かう。自分は今日も昼に出勤だから楽勝だ。

クリストはそういうわけにもいかないので、ヴェルムは彼を起こす役割で同じ時間に起きていた。

「お、今日も美味そうだな」

クリストがシャワーから出ると、テーブルには出来立ての朝食が並べられていた。

「もう完璧主夫だな」

「俺も働いてるんですけど」

ついつい反論してしまうけど、実際のところ彼に作ってやれるのは休日以外だと朝食だけだ。夜が仕事のヴェルムは、基本朝しかクリストと食事ができない。だからこそ守りたい、大事な時間でもあった。

「一年か。何だかもっと経ってるような気
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  • White Shadow   ◇ +1

    時折、庭先で知らない車のスモールライトが光る。気にしたことはなかった。家の前は毎日たくさんの車が通り過ぎ、停車し、走り去っていく。それが日常風景……いや、背景だ。だからいつも庭でボール遊びをし、その合間に道路を見るだけだった。気に留めない。親にも話さなかった。ここ最近、黒のワゴンが家の近くに停まっていたことなんて。たくさんあるうちのひとつ。毎日遊んでいるボールだって、本当は見えちゃいなかった。あの頃持っていたのは何色のボールか全く思い出せない。俺は、色が見えない。突然……いや、必然か。両親が出掛けてすぐ、知らない男達が庭に入ってきた。叫ぶ前に口を塞がれた。転がるボール、真っ黒に染まる視界。腕を引っ張られ、どこかへ連れて行かれる。あの時から、俺の世界は色を失くした。◇「ヴェルム。眠れないのか」白光のライトが照らされる。眩さからヴェルムはベッド上で眉を寄せた。隣では恋人のクリストが横たわってこちらを覗いている。一度は明かりを消し二人でベッドに入ったのだが、何度も寝返りを打つヴェルムに気付いたのだろう。クリストは身を起こしてヴェルムの額に手を添えた。「汗すごいぞ。明日は休みだろ、シャワー浴びたらどうだ?」「あぁ。でも……どうせまた汗だくになるよ」どうして、と不思議そうに尋ねるクリストにヴェルムは夢のことを話した。連日の悪夢。幼い頃に誘拐された、あの忌まわしい過去を。全て聴いたクリストは苦しそうな顔をしていた。「何か温かいものでも飲むか」「いや、いい」「そう……」わずかに沈黙が流れる。しかしそれもすぐにかき消された。ヴェルムが被る白いシーツを押しのけ、クリストが微笑む。「じゃあ、気分転換に深夜のドライブに行こう」クリストの提案を聞いたヴェルムは怪訝そうに首を傾げる。寒い、怠い、色々な反応を返した。ところが強引に引っ張られ、ベッドから下ろされてしまう。「面倒だったら車から降りなくていい。それなら服も着替えなくていいしな」「つったって、着替えないと何か不安だっての。ちょっと待ってて」ヴェルムは渋々普段着に着替え、クリストの愛車に乗り込んだ。気分はどちらかというと不機嫌のルートに傾いている。それを前面に出せないのは、分かっているからだ。彼が自分を気遣って外へ連れ出してくれたことを。出掛ける寸前クリストは何かを後部座席に詰めていた

  • White Shadow   #3

    昨夜、ノエルは静かに息を引き取った。まだ若いのに。もっと早くに診てもらっていれば。そんな言葉を腐るほど聞いた。聞けば聞くほどに自分が許せないのと、やっぱり彼は凄かったんだ、とため息をもらした。今から五年前。ノエルは病を患い、余命宣告を受けていた。病魔は彼を蝕み、取り返しのつかないところまで進んでいたらしい。治療はもう意味を成さない。だが彼は病気のことなど一切口にせず、いつも笑って過ごしていた。独りになった家で考える。あの時、ノエルは何で自分を傍に置いたのか。命より大事な店を、自分に託したのか。訊いておけば良かった。そうだ、何でそんな当たり前のことを訊いておかなかったんだろう。気になっても「後」でいいなんて。その「後」は、絶対手の届かない場所にあったのに。ノエルが最後まで守った店はとうとう一つだけになり、俺が引き継いだ。それは彼が初めて開いた店で、絶対に失いたくなかった大事な店だから……そこだけでも存続して本当に良かった。後は続けるだけ。また誰にも頼らない、一人きりの人生が始まる。どんな事をしても、店を守る。視界がぼやける。白すぎて何も見えない。これだと、もう黒と同じだ。眼が、痛い。それでも頑張ろう。それで落ち着いたら、俺も……ちょっと休んでいいかな。それぐらいは許してくれるのかな。今はいない、あの人は。「……おい」冷たい空気が、肌に触れる。「おい、起きろ」その直後に、温かい指先が頬をつねった。「ヴェルム!」「っ!」頭上で掛けられた声に、心臓が止まりそうなほど驚いた。まだ頭の中でうるさいぐらい響き渡ってる気がする。「やっと起きた。家着いたぞ」ヴェルムはまばたきを繰り返した。愛車の中で、隣に座る青年の顔を見てホッとする。そこには、大事な恋人……クリストの存在があった。「悲しい夢でも見てたか?」「え?」「……泣いてる」彼の指が、そっと目元を撫でた。そしてすくいとるような仕草をする。そうか。いやに腑に落ち、頷いた。「すごく長い夢、見てた」自分でも乱暴に目元を擦る。やっぱりというか、袖はぬれてしまった。「なぁ、クリスト」「ん?」「……好きだ」そうだ……まだ休むわけにはいかない。俺の言葉に、予想どおり彼は笑った。「どうした。寝惚けてるのか」外食後、家へ向かってる途中に眠ってしまった。安着したもののク

  • White Shadow   #2

    居心地が悪くなければいくらでも留まれる。今までは居心地が悪い場所を転々として、少しでもマシな方へ逃げていただけだ。初めて、心から居心地が良いと思える場所を見つけた。ヴェルムはノエルの家に居候するようになり、早くも数ヶ月が経とうとしていた。「ヴェルム、卵もう少し火を通したらどう?」「じゃあ自分で焼けば」「冷たっ……! わかった、お前の好きな加減で良いよ」ヴェルムは家事をする代わりに、生活費込みで彼の世話になっていた。完全に打ち解けたわけじゃない。得体の知れない相手。だが彼にとっても、自分はそういう存在だ。素性の知れない者同士、不思議な同居生活を送った。ノエルは何故自分を拾ってくれたのか、それも正直分かってない。本当に、同情心なんだろうか。「いやー、飯はヴェルムが作ってくれるから助かっちゃうなぁ」食事を終えた後、食器を洗ってるとノエルは真横の壁に寄りかかった。「もうすっかりウチのお嫁さんだな」「病院で頭診てもらったら」「はは、怒んなって。でも俺は、その髪色が好きだな。……白って大好きなんだ」ノエルはまだ冗談を言って髪を梳くけど、途端に咳き込む。心なしか、血色も悪い。こちらの髪色云々より、彼の顔の方が青白く見えた。「……なぁ、ちょっと休んでれば」「あぁ、後でちょっと休ませてもらうよ。それより大事な話があってさ」「何」ヴェルムは洗い物を終えて手を拭いた。「もし嫌じゃなかったら……俺の店で働いてみないか?」それは思いがけない誘いだった。「今全っ然笑えない、マジ深刻な人手不足でさあ……! あと俺、お前は結構向いてんじゃないかと思うんだよね」「人手不足? じゃあどっか畳めば良いじゃん。何店も持ってんだろ?」後で知ったことだけど、ノエルはナイトクラブをいくつも経営している、この界隈では有名人だった。「簡単に言うねぇ。あまり大声で薦められる店じゃないのは事実だけど、本当に大事なんだぞ。……俺にとっては」普段見ない真剣な表情に、思わず見とれた。「あっそ。……まぁいいよ。どうせ職無しだしね」ヴェルムがあっさり了承すると、ノエルは笑顔で彼の頭を撫でた。「ホント!? ありがとな! その代わり、できる限り俺が現場ついて教えてやるよ!」「それはいいけど、少し休めよ。何か具合悪そうだし」少し強く言うと、ノエルは複雑そうにかぶりを振った。

  • White Shadow   #1

    名前を呼ばれて鼓動が速まる。身分証明をできるものなんて一つも持ってない。なのに名を知ってるということは、本当に自分から名乗ったようだ。それでも警戒してることが分かったのか、彼はまた困ったような表情で笑った。「一応、昨日のお前は乗り気でウチに来たんだよ? 俺のベッドに横になったらすぐ寝ちゃってさ。まっ、外で夜明かして風邪ひくより良かっただろ?」「……そりゃどーも。ベッド奪って悪かったね」手は、まだ腰をしっかり掴んでいる。「離してくんない? さっさと出てくから」「もう? シャワーぐらい浴びていったらどうだ」その言葉に、さらに警戒心が高まった。親切心で言ってるとは到底思えない。見ず知らずの人間を家に入れて、ここまで無防備にしてるなんて馬鹿のすることだ。もしくは、優しいフリをして拾った人間を食いものにする卑劣野郎か。「軽く泥がついたところは拭いといたけど、洗い流さないと気持ち悪いだろ。覗いたりしないから遠慮せずに入ってきな」……馬鹿の方かもしれない。ヴェルムが眉根を下げて黙ってると、彼はようやく手を離した。「悪い悪い、掴んでたら行けないよな。バスルームはリビング出て右側にあるから」「あのさ……知らない人間なんかさっさと追い出せば。そこまで親切にする義理ないだろ」「んー。確かに知らないけど、義理がないと親切にしちゃいけないのか。厳しいなぁ」思ったことを素直に言っただけなのに、彼は本当に困ったような顔を浮かべた。大体、何が厳しいと言うのか。……そんな顔をされたら、まるでこっちが悪いみたいだ。「じゃあ……本当に良いの?」ため息まじりに訊くと、彼はホッとしたような笑顔で答えた。「もちろん!」嬉しそうに頷く彼に、ヴェルムは首を傾げる。他人に優しくする事がそんなに嬉しいんだろうか。悪いけど一ミリも理解できない。体を綺麗にさせようとしてるのは、後で性交を求められる可能性もある。それでも何故か、強引に出て行こうととは思わなかった。身体が泥臭くて仕方ないので、結局シャワーを借りた。またリビングへ戻ると、彼は冷たい水を持ってきた。「色々とどーも」「どういたしまして。ところでお前っていくつ?」「さぁ。多分十六か、十七か、十八」ヴェルムは水を一口飲む。年齢が曖昧なのはふざけて言ったわけではなくて、本当に分からないからだ。数年前のことが途切れ途

  • White Shadow   【0】

    記憶はいつも曖昧で、非力だ。どれほど頑張って手繰り寄せても、それが本当に正しいかどうか答え合わせができない。言語と同じだ。これだけたくさん言葉があるのに、本当の気持ちが伝わらない。人は無数、みんな奪い合って生きてる。─────強くないと。心が弱いと、何をしたって苦しく感じる。「君、こんな所で寝てたら襲われちゃうよ?」味方はいない。生きるために散々手を汚した。血の色、泥の色、たくさんの色に染めてきたんだ。今日だってそう。何人かと喧嘩して財布を持ち去った。結構金が入っていたから、久しぶりに酒を買って酔いしれた。次第に眠くなって、外で寝てしまったけど。「顔赤いから熱でもあるのかと思ったけど、酔ってるだけみたいだね」それはそうと、さっきから一方的に喋ってる奴がいる。声で分かるけど、男だ。起きるのも怠くて壁に寄りかかっていた。顔を上げるのも面倒。夜、じめっとした空気の路地裏で、知らない男の膝から下を眺める。けど一向に起きない俺に痺れを切らしたのか、彼は屈んで覗き込んできた。綺麗な金髪の男だった。彼は俺の顔の前で指を二本、宙に向かって突き立てた。「ひとつ選びな。風邪ひくのと襲われるのと、俺の家に来るの。どれが良い?」「……は?」投げ掛けられた質問は、火照った頭ではすぐに理解できなかった。まったくもって理解に苦しむ。それが俺にナイトクラブを譲ってくれた、ノエルという男の第一印象だった。◇怖い。知らない人。知らない場所。知らない言葉。手脚を硬い紐で縛られている。口にも何かをくわえさせられ、訴えることはできなかった。突然家の庭に入ってきた男達に、強引に車の中に押し込められた。それからずっと暗闇の中だ。どこへ連れて行かれるんだろう。お父さん、お母さん。助けて。────お願いだから、家に帰らせて。「……っ!!」心臓を握り締められた様な苦しさで目が覚めた。「はぁ……っ……はぁ……っ」全身が焼けるように熱い。滝のように流れる汗を乱暴に拭った。悪い夢を見ていたみたいだ。呼吸を整え、落ち着いてから辺りを見回す。知らない部屋のベッドに寝ていた。白い壁、何の変哲もない寝室だ。あるのはベッドとラック、それから壁に取り付けられたテレビ。静か……。音を立てずに部屋を出た。向かったのは、長い廊下を突っ切った先のリビング。とてつもなく大きい

  • White Shadow   #4

    彼と抱き合って、渇いた心が満たされる。渇いたら求めるからエンドレスにも思えるけど、これは多分とても壊れやすいものなんだろう。当たり前だと思っちゃいけないなにか。その正体は、自分にはまだ分からない。「ヴェルム」「……うん?」融けきった頭と身体。あおい部屋とあかい体温。全部俺の世界だ。────白ではない。「愛してる。これからも、ずっと……」そして大事な人の声は、とても心地良く俺の鼓膜へと響いた。愛されてる。何だか不思議な言葉だ。愛してる、とは全然違う。ただ受動的ではいけないもの。それだけは忘れないように、俺もこれから応えないと。「ありがと。俺もアンタのこと……愛してる」そう。忘れかけてたこの熱を忘れない為に。また一眠りする。長い長い夜が明けて、太陽が昇る頃にヴェルムは目を覚ました。「ん……」そしてすぐ、現実に引き戻される。テレビを点けて時間を確認し、なるべく穏やかに、隣で寝ている彼を起こす。「クリスト、もうそろそろ起きた方がいんじゃないか? 七時過ぎてる」「うーん……」身体を揺さぶってみるも、彼はなかなか目を覚まさない。昨日やりすぎたせいだ。でも俺は止めたけど。少しため息をついて、ヴェルムは寝ているクリストの唇を奪った。「起きないと遅刻するぞ」「……」ここでようやく彼は目覚めた。「キスで起こすなんてズルい技だな」クリストは怠そうにシャツを羽織り、身を起こす。「何がズルいんだよ。アンタが遅刻したら困ると思って優しく起こしたんだぞ」「はは……ありがとう」そのお返しというように、今度は彼がヴェルムにキスをした。「シャワー浴びてくる」クリストはベッドから起きて、部屋を出て行った。ヴェルムもそれに合わせて、キッチンへ向かう。自分は今日も昼に出勤だから楽勝だ。クリストはそういうわけにもいかないので、ヴェルムは彼を起こす役割で同じ時間に起きていた。「お、今日も美味そうだな」クリストがシャワーから出ると、テーブルには出来立ての朝食が並べられていた。「もう完璧主夫だな」「俺も働いてるんですけど」ついつい反論してしまうけど、実際のところ彼に作ってやれるのは休日以外だと朝食だけだ。夜が仕事のヴェルムは、基本朝しかクリストと食事ができない。だからこそ守りたい、大事な時間でもあった。「一年か。何だかもっと経ってるような気

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