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第104話:灰の回廊の憲章

ผู้เขียน: fuu
last update ปรับปรุงล่าสุด: 2025-12-15 23:00:30

灰の煤が指に移る。皇子は袖口で拭きながら、天井の低い回廊を見上げた。灯火は塩の芯に脂を浸しただけの粗末な灯りだが、並びが均一だと美しく見えた。王子が掌で光の高さを測り、笑った。

「等間隔。まずはこれで夜目が利く」

声が落ち着いていた。森を抜け、納骨堂の守り手と出会い、案内されて辿り着いた地下街——灰の回廊。ここを自治させる憲章を起草するのが、旅の次の目的だった。

大聖堂の大司教、地下街長、納骨堂の守り手。三つ巴の視線が、二人に集まった。空気は乾き、遠くで鉄の鳴る音がした。

「条約婚の儀を、ここで」

王子が言った。大司教はわずかに眉を上げたが、頷いた。地上で祝えば、地下は置き去りになる。地下で祝えば、地上に届く噂が変わる。選択の重さを、皇子は喉の奥で味わった。

祭壇代わりの石板に、銀の糸で魔紋が描かれた。誓刻の紋。ふたりが印に手を重ねると、灰色の光がふわりと皮膚の内側で温かく灯った。契約は、国と国だけではない。ふたりの身体と言葉に関する合意もまた、条約の一部だった。

読み上げ役の書記官が羊皮紙を持ち上げる。王子が小さく顎を引いた。皇子は息を整えた。

「合意契約、公開の条。可は——絹紐による拘束、命令の二重確認、休止の合図。不可は——可視の痕、侮辱語、公での羞恥。合図は片手二度で停止、三度で緩める。セーフワードは——」

書記官がそこでためらった。群衆の視線が一斉に集まる。王子の目尻がわずかに笑う。皇子は頷いた。公開することで羞恥ではなく安心を分かち合えると、昨夜ふたりで決めた。

「灰灯」

ざわ、と空気が揺れた。地下街の灯の名を、ふたりの命綱にする。回廊の人々が互いに頷き合う。止めたい時に止まる手順がある。それは政治でも生活でも、最も尊ばれるべき約束だ。

「アフターケアは——蜂蜜湯、抱擁、温布、言葉の確認。週一回のスイッチ・デーを第六日に設ける。公では皇子が先に立ち、私室では王子が支える」

書記官が噛んだ。会衆の端からくすくすと笑いが漏れた。緊張が緩む。大司教が咳払いし

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    昼の光が大聖堂の高窓で屈折し、床に敷かれた白石に魔紋の輪を描いた。皇子は一歩前に立ち、王子は半歩後ろで肩の線を揃えた。公では皇子が前、私室では王子が支える――二人で決めた二重統治の姿勢だった。「条約婚を、ここに」声は短く澄み、鐘をひとつ鳴らしたように空間を震わせた。大司祭が羊皮紙を掲げ、条項が読み上げられる。帝国と王国の通商再開、関所の関税率、移民の相互保護――政治の骨組みに続いて、二人だけの契約が添えられた。「私約。可は、跪礼、拘束は軽度まで。不可は、刻印、公衆での羞恥。合図は、指二度の触れ。セーフワードは『灯』。週一回のスイッチ・デーを設ける。アフターケアは、温茶、軟膏、抱擁と確認の言葉」読み上げられるたび、指輪の魔紋が青白く光り、同意の紋が重なっていった。王子が微かに頷き、皇子の肩甲骨に視線を置く。その熱は見えない綱となって、皇子の背をほどよく正した。礼が終わると、鐘楼の影が伸びる。今度は国庫の話だ。大聖堂の脇室に会計官と都市の代官、地下街の組合頭が集まった。納骨堂の管理司祭も頑なな目で腕を組んでいる。「嗜好税を再設計したい」と皇子が切り出した。「香、酒、遊興の許認可料に上乗せを」組合頭が肩を竦めた。「地下の暮らしに、また縄を掛ける気かい」王子は紙片を広げ、小さな印を机に並べる。銀の粒のような税目が、静かに彼の指で位置を変えられていく。「自由は必要だ」と王子。「規律もいる。贅沢の等級で線を引く。日々の杯一杯は非課税。高価な香と長椅子付きの私室を持つ店は登録し、嗜好税を納める。代わりに、依存症の治療院と識字学校に還付する。地下街は恩赦付きで登録期間を設ける。納骨堂への供え香は聖の列に置いて免除」司祭が眉を上げた。「供え物に税はかけさせぬ。だが治療院への寄進に大聖堂の名を刻むならば、関与を約する」「名は刻むが、手は出さない」と皇子が即答した。「使い道は監査で明らかにする」議論は熱を帯び、語が重なり、机の上の印がカタカタ鳴る。組合頭が立ち上がりかけて、皇子の視線とぶつかった。その瞳に、森で会った日の影がよぎる。弱さを示すまいという決意。王子はその決意に短く力を貸す。

  • domの王子はsubの皇子を雄にしたい   第104話:灰の回廊の憲章

    灰の煤が指に移る。皇子は袖口で拭きながら、天井の低い回廊を見上げた。灯火は塩の芯に脂を浸しただけの粗末な灯りだが、並びが均一だと美しく見えた。王子が掌で光の高さを測り、笑った。「等間隔。まずはこれで夜目が利く」声が落ち着いていた。森を抜け、納骨堂の守り手と出会い、案内されて辿り着いた地下街——灰の回廊。ここを自治させる憲章を起草するのが、旅の次の目的だった。大聖堂の大司教、地下街長、納骨堂の守り手。三つ巴の視線が、二人に集まった。空気は乾き、遠くで鉄の鳴る音がした。「条約婚の儀を、ここで」王子が言った。大司教はわずかに眉を上げたが、頷いた。地上で祝えば、地下は置き去りになる。地下で祝えば、地上に届く噂が変わる。選択の重さを、皇子は喉の奥で味わった。祭壇代わりの石板に、銀の糸で魔紋が描かれた。誓刻の紋。ふたりが印に手を重ねると、灰色の光がふわりと皮膚の内側で温かく灯った。契約は、国と国だけではない。ふたりの身体と言葉に関する合意もまた、条約の一部だった。読み上げ役の書記官が羊皮紙を持ち上げる。王子が小さく顎を引いた。皇子は息を整えた。「合意契約、公開の条。可は——絹紐による拘束、命令の二重確認、休止の合図。不可は——可視の痕、侮辱語、公での羞恥。合図は片手二度で停止、三度で緩める。セーフワードは——」書記官がそこでためらった。群衆の視線が一斉に集まる。王子の目尻がわずかに笑う。皇子は頷いた。公開することで羞恥ではなく安心を分かち合えると、昨夜ふたりで決めた。「灰灯」ざわ、と空気が揺れた。地下街の灯の名を、ふたりの命綱にする。回廊の人々が互いに頷き合う。止めたい時に止まる手順がある。それは政治でも生活でも、最も尊ばれるべき約束だ。「アフターケアは——蜂蜜湯、抱擁、温布、言葉の確認。週一回のスイッチ・デーを第六日に設ける。公では皇子が先に立ち、私室では王子が支える」書記官が噛んだ。会衆の端からくすくすと笑いが漏れた。緊張が緩む。大司教が咳払いし

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