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第11話:やわらかな主命

Author: fuu
last update Last Updated: 2025-09-14 23:00:47

香の煙が白い柱に縒れて、天蓋の金線が朝の光をほどく。

大聖堂は冷たかった。

床の石が靴底から脛まで現実を押し上げてくる。

「前へ」

侍従の声は礼儀正しいが、勝敗のない戦の号砲に聞こえた。

アルトリウスは一歩出た。

ルシアンは半歩後ろで並ぶ。

公の場では、彼が後ろ盾であると示すために。

「誓約を」

祭司の古い声。

差し出される羊皮紙。

アルトリウスは書面の文言を追い、肺に空気を溜めた。

喉が渇く。

けれど、背から微かな囁きが来る。

「肩を落とすな。三拍、ためてから」

ルシアンの声は低く、やわらかい命令だった。

いつものそれだ。

柔らかいのに、背骨に届く。

アルトリウスは三つ数え、言葉を出した。

「帝国皇子アルトリウスは、王国王子ルシアンと条約婚を結ぶ。この婚姻を両国の橋とする」

声は石に返って、大聖堂の空気がわずかに温くなる。

それからルシアンが言葉を重ねた。

「王国王子ルシアンは、私室では彼を支え、公では彼の前に立つことを誓う」

司書官が合図し、外の鐘が鳴る。

公開儀礼は成功だ。

そう、ここまでは。

巻物を掲げた伝令が滑らせた。

手が滑ったのか、天が悪戯したのか、彼の口が読み上げたのは条約文ではない。

私室用の合意契約が、澄んだ声で大聖堂に流れた。

「可──口頭命令、手枷まで。不可──火傷を伴う印、露出の強要。合図──三度の指先合図で減速、セーフワードは『灯』」

空気が止まり、次にざわめいた。

祭壇脇で侍従長が目を剥く。

地下街から招いた商人たちの目尻が上がり、貴族席の扇が一斉に動いた。

まずい。

そう思った瞬間、ルシアンが軽く笑った。

「誤読だ。だが良い機会だな」

彼は後ろから一歩、アルトリウスの横へ出た。

しかし声は譲らない。

「我らは公文にも私文にも合意を明文化する。言葉を持たぬ契約は危ういからだ。これは寝室の話にとどまらない。両国の取引も、神殿の徴税も、地下の秤も、同じだ」

アルトリウスは頷いた。

喉の渇きがすっと引くのが分かった。

「帝都の納骨堂の権利も、地下街の流通も、大聖堂の儀礼も。私の名の下に、合意なき変更を禁ず」

声が大きくなったわけではない。

けれど人々は顔を上げた。

ルシアンが袖の下で指を一本、そっと触れてきた。

よくできた、と触れる指だった。

鐘がもう一度鳴った。

儀礼はそのまま進み、骨の指輪ではなく、相手の脈にそっと触れる接吻で締めくくられた。

大聖堂は冷たかったが、指先と拍動は温かい。

午后は、私室。

今日は週に一度のスイッチ・デー。

命じるのはルシアン、従うのはアルトリウス。

役割を反転させる日。

従うことで、自尊を守る訓練の、日。

扉は厚く、外の喧騒は鼠ほど。

水は柔らかく温い。

テーブルには淡い蜂蜜ミルクと温布。

合意契約を再確認するのが二人の習いだ。

ルシアンが読み上げて、アルトリウスが復唱した。

「可──口頭命令、触れる範囲は手首から肩、腰。不可──露出強要、痛みの器具。合図──三度の指先合図で減速、セーフワードは」

「『灯』」

「運用──私が聞き違えたら、もう一度同じ言葉を、はっきり」

「うん」

その「うん」が、アルトリウスの中で鳴った。

従っているのに、奪われていない。

委ねているのに、沈んでいない。

「膝」

ルシアンの主命はやわらかかった。

命令なのに、羽毛のよう。

「頭を上げて。目を見る。よくできた」

アルトリウスは息を数えた。

三拍。

首の後ろに置かれた手は、重すぎず、軽すぎない。

扉の外で、誰かが咳払いをした。

合図が間に合わない。

アルトリウスの体が反射した。

「灯」

ルシアンの手が止まった。

ほんの糸一筋の間で、完全に止まった。

「入るな」

ルシアンが外へ短く命じ、また視線を戻す。

「使ってくれてありがとう」

その一言が、驚くほど温かい。

アルトリウスはあぁと思った。

命令は檻ではない。

鍵なのだ。

外に出るための、合図の鍵。

休憩。

水を飲む。

肩に温布。

ミルクに蜂蜜を溶かし、唇に運ばれる。

「あと二つ命じる。できなければ、灯で止める」

「うん」

「呼吸を私に合わせる。次に、言葉で望みを言う」

望み。

望みを言うことは、いつだって一番むずかしい訓練だった。

アルトリウスは目を伏せ、そして上げる。

「抱いて。だけど、軽く。長く」

ルシアンの目が笑った。

「主命だ」

抱擁は、本当に軽かった。

重くなる寸前で、いつも止まる。

そして長い。

長さは、何よりの贅沢だ。

夕刻。

地下街へ降りる。

一段降りるごとに温度が変わるのが分かる。

香の代わりに鉄と油、柑橘の皮の匂い。

商人ギルドは明るく、速く、噂は路地を走る鼠より早い。

「儀礼の巻物は笑ったぞ、殿下」

地下の主が顔に布を巻いたまま笑った。

アルトリウスは肩で受け、それを背へ滑らせる。

「笑われても、原則は変わらない。地下の秤も合意の上にある」

言い切る声。

今日は、言い切れる。

昼の柔らかい命令が、背骨を支えている。

地下街の次は納骨堂。

石灰と冷気、蝋燭の青い炎。

骨堂守が静かに頭を下げる。

「皇子、王子。我らの権利は祖先から。神殿は口を出し過ぎる」

「大聖堂は儀礼の正統を主張する。地下は搬送と衛生の効率を。その間で骨は静かに眠りたい」

ルシアンが状況を簡潔にまとめる。

アルトリウスは頷いた。

「今夜から当分、三者合同の輪番にする。葬送は大聖堂、搬送は地下、保管は骨堂。合意に反する干渉は、禁ずる」

「輪番の起点は?」

「スイッチ・デーに合わせよう」

地下の主が目を丸くした。

骨堂守が笑った。

大聖堂の祭司は唇を結び、それから観念の息を吐いた。

「合意する」

戻り道、ルシアンが肩を叩く。

「よく言った」

「君の命令があったから」

「命令だけでは無理だ。従う力があった」

言葉の間合いが甘い。

くすぐったいほど。

アルトリウスは思う。

森で出会ったとき、喉が小枝で傷ついた獣みたいだった自分が、いま、声で渡りを作るのだと。

夜。

私室。

窓の外に星が薄く開く。

ルシアンは灯りを落とし、もう一度だけ命じた。

「明日、議席で最初に話すのは君だ。三拍、間を取れ。私は横で水を持っている」

「うん」

「恐かったら?」

「灯、と言う」

「そう。それから」

ルシアンは額に口づけた。

「よくできた。だから、よく眠れ」

布の重みは静かで、心臓の拍は規則に戻る。

アルトリウスは眠りに落ちる前、舌の裏に触れた。

まだ何も刻まれていないそこに、いつか灯を置く日を思う。

言葉と印は、自分に戻るための道標だ。

次回、第12話:舌紋の灯

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