مشاركة

『幻覚作用のある煙』

last update تاريخ النشر: 2025-11-14 20:00:00

「美女好きでしょう? 巨乳も好き? 大きいお尻とかも好きそうだね。後は綺麗な黒髪とかはどう? 性格はお淑やかな感じがいいかな? それとも快活? ツンデレってのもいいけど、ありゃ自分への好意がわかって無いと、ただの厳しい女子だもんね。読者目線はいいけど、主人公目線だったら本当に自分の事が好きなのか若干不安になりそうだ。そう思わない?」

 早口で捲し立てられるとはこの事だった。

 猛スピードで質問されて、流石にパンクした僕は頭を抱える。

「ちょ、ちょっと待ってください! 一体何の話ですか? さっきから夢がどうとか、セックスがどうとか、もう唐突過ぎてついていけませんよ!!」

 薪無先生はカルテを書きながら、形ばかりの申し訳なさを見せた。

「ああ、ごめんごめん! いや、処方するからさ。好みを聞いとこうと思って」

「処方って……さっき言ってた、ご都合主義ってヤツの事ですか?」

「そうそう。でも、言ったように私は手術をして何かを君に付与する事はできない。例えばチートとかスキルみたいなものをあげたりはできないんだ……。うーん、難しい事を言っても理屈っぽい君には理解出来ないだろうし、端的に好みの女の子を処方してあげるって話だよ。ね?」

 え? いや、なんだろう……。

 説明不足で深くは理解できないけど、この人激ヤバな事を言っている気がするぞ。

「あの……女の子を処方って……それ、なんですか? なんかめちゃくちゃ怖いこと言ってる気がするんですけど……」

 額に大量の脂汗を垂らしながら、僕は思った事をそのまま口にした。

 すると、あからさまに、あちゃー。といった顔をする薪無先生。

 ヤバいって自覚はあるな。これ、絶対。

「ああ……ええと、うそうそ! じゃあ私と好みの女の子の話しようぜ少年。ただの恋バナだよ恋バナ。今、好きな子とかいるの? ん? どう?」

 白々しい演技と切り返し。

 これはどうしても僕から聞き出す気だな。

 僕は目を閉じるとともに、思考も全部閉じた。

 こうなってしまっては抗っても仕方がない。

 どうせはぐらかしても問い詰められるんだと観念して、僕は洗いざらいを話す事に決めた。

「います。しかも、ラブコメ小説の中に。艶やかな金髪を持った美少女です。上品で綺麗な言葉遣いの女子高生。ガチガチに整った制服とロングスカートに身を包んで、常に笑顔を絶やさないメンタルと行動力のバケモノ……僕の心の女神です」

 薪無先生は茶化さなかった。

 真剣な顔の、キリッとした目つきは鋭く、その眼光は見惚れるくらい美しかった。

「おっと、思っていたよりさらりと出てきちゃったね。諸悪の根源である、正真正銘の本命が」

 そのまま真面目にカルテを書きながら、僕に目線も向けず、質問をする。

「その娘の胸は大きい?」

「はい。そらもう、思春期の男子なら堪らないくらい。服の上から見ても立派なのがわかります」

「お尻は?」

「プリーツスカートの皺が消えるかと思うほどパツパツです。でも、ウエストはちゃんとくびれてるのがわかる、魔法の体系です」

「ほう。じゃあ、唇とかはどうかな?」

「ぷるっぷるのぷにっぷにで、艶々しています。けど、あからさまに分厚い訳じゃない。薄くても上品で吸い付くような唇で、小さく可愛らしい口ですね」

 それを聞くと、薪無先生は左手に持ったペンで額を掻き、眉間に皺を寄せて、右手に持った問診票とにらめっこした。

 一瞬、僕の彼女への愛情にドン引かれたかと思ったが、どうやらそうではないらしかった。

「んー、なるほど。ちなみにこれは私の勘なんだけど、それってさ、ただの二次元嫁的な恋心じゃないよね? 小説の登場人物にしては解像度が高すぎる……。一体、何があるの? その娘に」

 訝しんだ薪無先生の顔に、僕はバツが悪くなって、少々の沈黙を挟む。

 流石、精神科医というべきか、察しがいい。

 どうしよう……正直に伝えるべきか、否か。

 ──それでも。

「……現実の、初恋の人に似てるんです。高校の時の同級生……。いや、もちろんそっくりそのままではないですけど、かなりの要素が被ってる。それをずっと引き摺ったまま僕は大人になり、過去の少ない思い出に、小説の中の彼女を重ねながら、日々卑しく生きているんです」

 気が付けば……何故か僕は、全てを吐き出してしまっていた。

 その話に薪無先生は、渋い栓が抜けたみたいに明るくなり、声のトーンが上がる。

「おおー! そのパターンだったか! 理解した! 大丈夫、何も恥じる事じゃないよ。類似感覚というのは、その元の解像度が高ければ高いほど、共通性を強く紐付けようとするものだからね。そして、人の好みというものはそう簡単に変えられるものじゃない。特に初体験というのは、自身の心に強烈な印象を残す。思春期なら特にだ」

 僕を慮《おもんぱか》ってか、軽い口調で励ましてくれた。

 だが、それで安心はできない。

 何故なら僕は何年も前の初恋の相手を、小説のキャラに重ねて溺愛している。

 これは明らかなリアルとフィクションの混同。

 僕だってこんなのは異常な事だと分かっているんだ。

「先生はさっき、諸悪の根源って言ってましたけど、やっぱりこの漠然とした不安には、“あの娘“の存在が関係あるんですか?」

「うーん。そうだね。関係ある。ただ、それを取り除くとかそういう事で解決される訳じゃない。どちらかと言えば……まあ、塗り潰すかな」

 椅子から立ち上がった薪無先生は、一歩だけ近づいて、また僕に顔を寄せた。

「明日、君は“あの娘“に会う。そして恋をする。いいね? それが治療だから、その不安を治したいんだったら抗わないでね。経過は通院で報告して、いつ来てもいいから。じゃ!」

 それだけ言って、診察室の奥へと向かって歩いて行く。

「え? いや、もう意味不明なのはいいんですが。あの。一応、病名とかは?」

 その問いに振り返らず。

 片手を上げてめんどくさそうに、薪無先生は溢した。

「あー、ラブコメディ失調症でどう?」

* * *

 店内に入って来た、金髪の女子高生の姿を見た時。

 僕は全身に電気が駆け巡るような感覚を覚え、そんな訳の分からない会話を思い出した。

 彼女は、卑猥で異様な空気を放つ店の中を、眉をひそめながら、キョロキョロと見回す。

「き、君! ちょ、ちょっとまって!!」

 奥のカウンターから勢いよく飛び出し、声を上げて制止させながら、僕は彼女の下へ向かった。

「え? あ、はい……」

 肩を窄め、胸の前に手を持ってきた彼女は、酷く怯えて見えた。

 入り口で立ち往生した彼女の目の前に立つと、その姿をしっかりと確認する。

 腰ほどまである、長くしっとりとした黄金色のストレートヘアー。

 不安そうに僕を上目遣いで見る顔は、色白であり、小さく端正で美しい。

 大きな目に茶色の瞳。

 艶めいた上品な唇。

 はっきりわかる豊満な胸。

 腰のくびれから、また膨らむ魅力的なお尻。

 纏う学制服は分厚いブレザーで、くるぶし程まである清楚なロングスカートは、時代錯誤を匂わせた。

 間違いなかった。

 間違うはずなかった。

 何せ、僕が何年も何年も想い続けた初恋の人。

 “あの娘“が、目の前に居るのだから。

「ウソ……」

 思わず、ぽつりと呟いていた。

 彼女は不思議そうに首を傾げ、言う。

「いえ、嘘じゃありませんけど……」

 その一言。

 その一言だけで、僕は途端にパニックに陥り、堪らず頭をぐしゃぐしゃと激しく掻きむしる。

 おかしい。何かがおかしい。

 あり得ない。こんな事はありえない。

 

 だって……だって、彼女はあの日……。

 ──その時。

 僕は店の裏で吸った一本のタバコを思い出す。

 もしや、あれは……。

 “幻覚作用のある煙“だったのかと──

 疑った。

استمر في قراءة هذا الكتاب مجانا
امسح الكود لتنزيل التطبيق

أحدث فصل

  • 『ラブコメディ失調症』 ーマキナ医院・精神整形外科ー   『切実なる彼女の幸福論』

     ──あなたの事を愛しているからですよ。 そのマイの一言に。 僕の頭はもう、実態のあやふやで、すぐに溶け出してしまう綿菓子が詰め込まれたかのように、何もかもが幻の如く、不明瞭な不確かさで埋め尽くされていた。 マイは存在証明を求めていた筈だった。 シュレーディンガーの猫である筈だった。 その為の僕であり。 その為の交接であり。 それこそが、暗いトンネルから出る為の、マイの望む“結果“である筈だった。 なのに……。 そこに、確かな愛情が芽生えていた。と言う、“予想外れの期待“が、僕の胸を存分に掻き乱した。 マイの目から滑り落ちた涙が、嘘のように煌めいたのを見る。 それが地に落ちる時に、マイは口を開いた。「ワタシの交接への強い願望を前に、あなたがただただ逃げているだけだなんて、ワタシは決して思っていやしませんよ。あなたはちゃんと自分の視点からワタシを救おうとしていた。なのに、結局の問題はあなた自身にある。そこ原因を紐解く事こそが、ワタシの出来る最大限の手引きなのだと、つい先程、ワタシは心を決めた次第です」 まさに、上出来だった。 野暮な思想や言葉を全て蔑ろにする、途方もない抱擁がそこにはあった。「なんだそれは……。まさか君はこんな情け無い僕の事を、打算的な感情を一切持たずして、嘘偽りなく本当に愛していたというのか?」 また体が震え始める。 だが、それは先までの恐怖とは違った。  マイの底知れない寛容さに、震えたのだ。 そんな事あってたまるかという思いもあった。 僕がマイに求めたものは、どこまでいっても“あの娘“の影の断片だと言うのに。 それに気が付きながらも、マイは僕の事を心から想い、真っ当に恋をしていたというのならば、僕がこんなにも小さな気持ちになるのは、避けられない仕打ちだった。 涙を搾るように目を瞑ったマイは、僕との心の距離を測り、残された言い訳を全て踏み潰そうとしたのだと察した。 それからマイは、僕に向かって真剣で低い声をかけた。「肯太郎さん、よく聞いて下さい。人が人に惹かれ、恋をして、愛情を抱くのは何も当たり前の事なんかじゃありません。そこには糸のような細くて拙い、“理由や意味“があり、その先には、必ず相手と残したい“結果“が存在する……」 微笑みを隠さずに、マイは丁寧に言葉を紡いだ。「経済的、もしくは文化

  • 『ラブコメディ失調症』 ーマキナ医院・精神整形外科ー   『女神の完成を見たが故に』

     僕は目眩を起こす程に、激しく視界が点滅するのを感じて、脳内に強烈な一つの思考が張り付いた。 ……マイが“あの娘“の事を、知っている。 僕がマイの人格を、“あの娘“として塗り潰そうとしていた事を、全て知っている……。 その事実を認識してしまっただけで、僕の腹にぎゅうぎゅうと収めていた、黒くて汚い内臓は今にも飛び出しそうになっていた。 強烈な吐き気を抑えようと、両手で口を塞ぐ。 とにかく視点がズレて定まらないのは、動揺しているからという理由だけじゃ、ありえない。 僕の体の中の、その奥の奥に眠る、根本の芯の部分から、否が応でも震えて止まらないのだ。    マイは僕をじっとりと見ていた。  上から僕をしっかりと見下《みくだ》していた。 そのマイの視線が、容赦なく心に突き刺さる。 それが針や槍なんて幼稚な物で言うには、生ぬるくて仕方ないと感じるしかなかった。    それは、人を最果てまで追い詰める為に、鋭く斜めに刃を付け、研がれた、分厚い切先で。 触れただけで人の皮膚を簡単に引っ剥がす、極寒の霜に覆われた鉄骨のような厳しさだった。 そんなものを脳天から真っ直ぐに振り下ろされた後には、背骨の髄を撃ち抜いて、細く張り巡らせていた重要な神経の隅に至るまで、雷《いかずち》の如き高圧の電流を素早く流し、全ての感覚を死滅させた。 そうして、やっと知る。  ……僕は夢乃マイの事を誤解していたのだと。 薪無先生に言われた通り、僕は確かに驕っていた。 今までの僕は、マイの事を純粋無垢で何も考えていない存在として、”そういうもの”だと勝手に思い込んでいたのだろう。 もしくは、もっと酷い言い方をするのであれば、マイの事を、抽象的で概念的な“都合の良い人形“とでも、深層心理の中で不器用に積み上げていたとすら振り返り、感じる事ができた。 なので、僕は僕の意志でしかこの物事は進みようが無いのだと、いつからか錯覚し、誤解していたのだ。 たった今、その事実に気付かされたという絶大なショックが、体中を縦横無尽に飛び回りながら混沌として渦を巻いた。 ──だけれども。 そんな事は、僕が真っ向から咎められるべき責任よりも大幅にそれた、実に仕方がない出来事だとも、僕は脳内で冷徹に翻《ひるがえ》り、苛立ってもいた。 何故なら所詮、この話は、僕が主観

  • 『ラブコメディ失調症』 ーマキナ医院・精神整形外科ー   『いつか無力と決めつけた錯覚』

     鍵を開けたその部屋は、十二畳の1Kだった。 決して広いとは言い難いが、一人暮らしには十分だと感じられるほどの空間だ。「とりあえず、遠慮せずに上がってくれ」 僕は玄関で乱暴に靴を脱いで、いつも通り何も気にせずスタスタと上がるが、マイは僕の放った靴を手早く屈んで拾った上に、それは丁寧に揃えると、玄関の端に並べて寄せた。「失礼します! お邪魔させて頂きます!」 大きな声と共に、ぺこりと綺麗にお辞儀して、申し訳なさそうに壁に手を添えながら、後ろに足をあげ、上品にローファーを脱ぐマイ。 僕はまだ、釈然としない胸のざわつきを抱えて緊張していたが、そういう大袈裟で大胆かつ繊細なところが、なんだかマイらしくて笑えたし、やたらと可愛く思えて、少し辛くなった。 踏み入れた僕の部屋に、物という物は大して多くなんてなかった。  小説や漫画の刺さった本棚とパソコンデスク。 パイプフレームの安いシングルベッドと小さなガラクタ棚。 後は……。 存在感を放つ、一本の水槽が置かれていた。 玄関から部屋に入り、一番目につく位置に置かれた大きなそれは、上面に取り付けられた青白いライトで照らされている。 濾過《ろか》フィルターから循環して戻ってきた水が、表面に水流を作り、波立たせ、閉め切った薄暗い部屋の壁に大きな波紋を映し出していた。  さながらそれは、部屋全体を水没させたと錯覚させるほどの、幻想的な揺らめく淡い光に満たされていて、まるで外界からの影響を受けずに隔離された、永遠の空間にも感じられた。 しかし、こんなのは僕としては日常的な事で、普段から部屋の明かりをつけないものだから、特に見慣れた光景になっていたが、マイは流石にすぐに気がついて、それは強く興味を持った。「な、なんですか?! とても美しいです!」 明るくはしゃいで、うっとりとしたマイは、話を聞かない子供のように慌てて水槽へと駆け寄って跪《ひざまず》くと、ガラスに手を付き、なんなら鼻先までをちょこんと付けて、懸命に中を覗き込む。 だが、その水槽の中には、おそらくマイが期待したであろう、美麗な熱帯魚の群などは泳いでいない。 きっと落胆して肩を落とすかもしれないと懸念して、僕は自分が何も悪く無いにも関わらず、なんだか少々ばつが悪くなるのを感じた。 そこに入っていたのは、深緑色をした丸太のような風体の、

  • 『ラブコメディ失調症』 ーマキナ医院・精神整形外科ー   『いずれ何処かで破裂する吐息』

     その日は僕の住むアパートの最寄りである、四ツ谷駅で待ち合わせをした。 繁華街ではないものの、サラリーマンの多い新宿通りは、どの時間帯でも人がいて、秋葉原とはまた違った雰囲気の都会感がある。 確かマイは池袋が最寄りだと言っていたので、僕はJRの方ではなく、丸の内線の改札前で待っていた。 それから程なくして、マイは現れた。 僕にとってはだいぶ見慣れてしまったマイの容姿だったが、普段のなんて事はない最寄り駅の情景と重なると、なかなかやはり人混みの中でもよく目立つもので。 長く艶めいた金髪はそれだけで目を引くし、そして何より、その身分を偽って纏った、清楚なロングスカートの制服姿は、軽く周囲をぎょっとさせるくらいには現実味を置き去りにする可憐さがあった。「肯太郎さん! 申し訳ございません! 大変お待たせ致しました!」 パタパタと駆け寄ってきたマイは、近くで見ると淡いピンクの口紅を引いていた。 僕はその唇に、今日という日にかけたマイの期待と覚悟を直視してしまいそうになり、慌てて頭頂部の気の抜けたアホ毛に目を移し、話す。「おはよう。大して待ってないから大丈夫だよ。さあて、どうしようか。すぐに僕の家に行っても、面白いものは無いからつまらないだろうし、どこか飲食にでも入って食事でもしようか?」 待ち合わせしたのは大体、正午だった。 四ツ谷という土地の性質上、サラリーマンが昼休憩を取る正午は、飲食店に彼らがごった返す。 なのでそれをあえて狙って、昼食に誘おうと思ったのだが、マイは僕の提案に勢いよく首を横に振った。「いえ! 肯太郎さんが特に空腹で無いのであれば、ワタシも空腹ではありませんので、どこにも寄らずお家にお伺いする方向で構いません!」 ああ……そうか。だとすると。 このまま直行になってしまうな……。 僕は顎に手を添えて考えたが、確かに僕も変な緊張で空腹感はなく、ここはもう白旗だった。 これの何が白旗なのかと言うと。 正直僕は、少しでも自然に時間稼ぎがしたかったのだ。 先日の僕は、覚悟を持ってマイを家に呼ぶ事に決めたのだが、その後の薪無先生との話で、あの決断が早計だと知らされた。 暗いトンネルを出る為の、もう一つの鍵。 僕の過去に直結する、その鍵を探さなくてはならなかったのだ。  けれども、そんな抽象的すぎるそれに心当たりが

  • 『ラブコメディ失調症』 ーマキナ医院・精神整形外科ー   『交差した交接を成す為の鍵』

    「遂に終幕って感じの顔をしているね。少年」 薪無先生は左手でペンをくるくる回しながら、口角を上げる。「いえ。まだ、何も終わってませんよ。終わるとしたら、これからなんですから」 マイとの予定を明日に控えた僕は、この判断が本当に正しいのかと不安になり、薪無先生の下へと訪れていた。「じゃあ何故にそんなスッキリした顔をしてるんだい。まるでトンネルの出口が見えかけて、光が差してるみたいな様子だ」 僕の顔を見て、薪無先生は唇を尖らせて訝しんだ。 この診察室には鏡がないものだから、僕としては自分が一体どんな表情をしてるのかもわからない。 でも、きっと少し落ち着いた顔なんだろうという事だけは、何となくそれでわかった。 なので、僕はマイと一線を越える覚悟を決めた旨を先生に伝えようとするが、普通に気恥ずかしいもので、尻込みする。 いや、薪無先生ならこれで十分伝わるだろう。 そう思って、僕は端的に述べた。「明日、マイを家に呼びます」 その途端。 一瞬、驚いた顔を覗かせて、あー。と声を漏らし、徐々になんだか渋い顔に変わる薪無先生。 目を瞑って、こめかみをぽりぽり掻いた後。 先生はジト目を僕に向けた。「君は出来ないよ。セックス」 意図が伝わるどころか、その先を読んだようにスパッと一刀両断されてしまった僕は、気が抜けて、ぽかんと口を開けてしまう。「は?」 薪無先生は深いため息を大袈裟に吐いて、呆れた口調で僕に言った。「あのさぁ、前にも言ったでしょ。セックスってのはただ単純に、少年のその焦って硬くした不安をマイちゃんにぶち込めばいいって訳じゃ無いんだぜ? それとも何か? 少年は前戯も無しにいきなりぶち込む畑の人? そういう趣味?」 おい。流石に酷いだろ。 人の事を勝手に激ヤバな強姦魔に仕立て上げないでくれ。 突拍子もない酷い扱いを受けて、僕も思わずジト目を返す。 「いやいや、何もそんな言い方ないじゃないですか! 下品な言い方はよしてくださいよ! 僕はただ、マイの欲求が大きくなって、これ以上溢れ出たらいけないから何とかしようって思って……」「それは奢りだ」「……え?」 いきなり事で、いつそうなったのか僕は気が付かなかった。 薪無先生は笑っていなかった。 鋭く目を細めながら、笑い事じゃないよ。と言いたそうな圧のある目を僕に向ける。「君は

  • 『ラブコメディ失調症』 ーマキナ医院・精神整形外科ー   『白無垢を纏う白昼夢』

     薪無先生から聞いた夢乃マイの生い立ちは、凡俗な僕にはあまりにも理解し難いものだった。 それは決して悲劇的で、衝撃的な過去等ではなく。淡々と緩やかに歪んでいく、一見自然に見えるまでの不気味さからくる不協和を感じた。 まず、マイの両親は幼い頃に他界している。  しかし、こういう言い方もどうかと思うが、それ自体に大した意味はない。 と、いうのも、両親が他界したのは、マイがとても小さな時分の事であり、マイの記憶としては、両親はもういないところから始まっているとの事で。 その後も両親がいない事に対して、特別な負の感情は抱かなかったと、本人が言っていたらしい。 マイの問題とは、こういった何かの喪失や決定的なショックで起こったものではなく、ほんの些細なところのズレと、マイ自身の難儀な性格により発現した事である。 両親の他界後は、未成年後見人として、母親の姉にあたる伯母に引き取られ、その後マイは、特に何不自由ないと言って差支えない生活をしていた。 伯母は一人での生活が長く、貯えもそれなりにあったので、マイはひもじい思いなんかもしていなかった。 だけど残念ながら、ここで一つのズレが生じる事となる。 それは伯母に“子育ての勘“が無かった事だ。 薪無先生は、物事において“勘がない“というのは、何よりシンプルで、何より大きな欠点であると話す。 すなわち、いつまでたっても“勘“が掴めないものの難易度とは、思いの外とても高くなってしまうものなのだ。 所謂、“感覚“というものと同義だろう。 自転車に乗る時、自身の体を自然に制御し、いちいち手元や足元を見なくとも、軽く前に進めるようになるように、人はその“勘“や“感覚“で物事の理解や制御を早め、習得する。 だが、マイの伯母には子育てのノウハウに関して、そういった習得する勘というものが、一切備わっていなかった。 それによってマイは周りとは少し違う、どうにも特殊な環境で育つ事になってしまっていた。 具体的に言えば、伯母はマイを、“子供“としてではなく、“個人“として解釈していた。 伯母は自我の曖昧な子供に向かい、大人と同じような自我がある前提で育ててしまったのだ。 例えば、成人した同い年の友人が、突然仕事を辞めてしまったところで、誰も頭ごなしにすぐに次を探して働けなどと、上から目線で全力をかけて叱咤する事は無

فصول أخرى
استكشاف وقراءة روايات جيدة مجانية
الوصول المجاني إلى عدد كبير من الروايات الجيدة على تطبيق GoodNovel. تنزيل الكتب التي تحبها وقراءتها كلما وأينما أردت
اقرأ الكتب مجانا في التطبيق
امسح الكود للقراءة على التطبيق
DMCA.com Protection Status