แชร์

『舞い上がる曖昧さの終焉』

ผู้เขียน: 五月雨ジョニー
last update ปรับปรุงล่าสุด: 2025-11-27 18:59:00

 つまるところ、この問題は──

 枝分かれした、三軸が束になって出来ていた。

 ──まず、一つ。

 僕の初恋の“あの娘“についてだ。

 その容姿は、といえば。

 艶のある金髪のロングに、前髪を揃えたサイド長めの姫カット。

 目は垂れ目気味の、優しそうで大きな丸い目であるが、その上に引かれるキリリとした眉は、意志の強さの現れだ。

 高くとも尖らない鼻を起点に、立体感のある顔つきは、少しばかり幼なげな影を残して整った、綺麗な小顔で。

 その肌の質はきめ細かく、とても白かった。

 そんな彼女は高校の同級生であり、内面は、品行方正で笑顔を絶やさない、メンタルと行動力の化け物という印象の人物である。

 そして僕は、美しすぎる彼女の事を想うあまり、彼女の事を心中に宿る“女神“だと捉えていたのだ。

 だが、薪無先生は、初恋の“あの娘“の事を諸悪の根源だと仮定していた。

 つまりは初恋の“あの娘“こそが、このトラブルの原点であり、それによって今の僕は狂わされているというのだ。

 ──そして、二つ。

 これは、小説の“あの娘“の事である。

 その実は、臓物丸直義という小説家が書いた作品に登場する人物で、容姿はほぼ初恋の“あの娘“に準じていた。

 性格は少しばかり差異があり、小説の“あの娘“は、とてもテンションが高く、エネルギーの塊のようなヒロインとして描かれている。

 まあ、これは娯楽性を含んだ小説ならではの味付けだろうし、そもそも臓物丸先生──もとい、もつまる先生の小説の“あの娘“と、僕の初恋“あの娘“との類似は、ただの偶然であり、直接的な接点はない。

 ただ僕は、先に説明した心中の“女神“を、薪無先生の言う『類似感覚』を持ってして、小説の“あの娘“に投影し、ずっと恋焦がれ続けているという訳だ。

 

 ──さらに、三つ。

 根本的で主幹的な問題は、僕の病気である。

 『ラブコメディ失調症』

 ふざけた病名だが、致し方ない。

 症状は無気力さと生命力の減退。

 僕はこれをひっくるめて『漠然とした不安』と名付けた。

 今までふわりと見て見ぬふりをしてはいたが、結局のところ、これは紛う事なき“希死念慮《きしねんりょ》“の類である事に、流石の僕も気が付いていた。

 ……しかし。

 これは決して、日々の不満や疲弊から来るものではない。

 ただただ人生の行き着く先が見当たらないという、さらにどこまでも曖昧なものなのだ。

 だから僕は、この漠然とした不安を取り除く為に、あのマキナ医院、精神整形外科に出向いた訳で。

 その結果、治療に必要な処方としてご都合主義の名の下、僕に仕向けられたのが、夢乃マイという美女だった……。

 僕にとってのデウス・エクス・マキナ──ご都合主義である、夢乃マイはとても美人であった。

 この三軸に登場した彼女達の容姿は、いずれも酷似している。

 なので、表面だけを掬って見れば、あっけなく簡単で単純な事だった。

 僕は僕の愛した“あの娘“達と、今。

 何らかの力をもってして、出会ったのだ……。

* * *

 僕のバイト先、秋葉原の隅にある小さなセル店。

 喘ぎ声のうるさい店内で、白いワンピースに身を包んだマイは、あれやこれやを物色し、僕に疑問を飛ばしてきた。

「肯太郎さん! 大変です! ここにはワタシの想像を遥かに超える、とても不埒なものがいっぱいです! 殿方は常にこのような思考で日々を明るく過ごしているのでしょうか?!」

 まるで、下界の闇を覗いてしまった天女の如く、眼を丸くしながらマイは驚いていた。

 僕はカウンターの中で小作業をしながら、ため息混じりに答える。

「常に……ってのは、いささか言い過ぎだ。でもこれが人々の日々の活力である事は認めよう。何故ならそれは、いつの時代においても、世間にこの需要が必ず存在するからだ」

「それはつまり、求められているから存在するという事でしょうか!」

「そうだよ。それがこの世のものにおける、理由と意味だ」

 そう言って、僕は自分の飛ばした言葉を、強く噛み締めた。

 ……そうだ。

 僕が理由と意味を愛するのは、なにも間違っていない。

 小説も人生も、すべからく。

 全てがそうなんだ。

 求められるから存在する。

 ……そうか。

 ならば、今の僕は……どうだろうか。

 見慣れた卑猥なDVDに値札シールを貼り、防犯ケースに入れた所で、僕はそれを売り場へ並べる為、カウンターを出る。

 すると、そこへマイが立ちはだかった。

 マイは自身の胸元に掲げた、一冊の成年漫画の表紙をこちらに向け、照れ臭そうに口元を隠していた。

「で、では……恋人となったワタシと肯太郎さんも、いずれはこのような愛の形に辿り着くのでしょうか!」

 持っていたのはファンタジーモノのエロ漫画。

 金髪のエルフが、ぬるぬるの触手と緑色の小人に、しっちゃかめっちゃか陵辱されていた。

 おい。このような……じゃないよ。

 どういう愛の形だよ……。

 これに辿り着いたらまずいだろ。

 やっぱりマイは何かしらズレていたが、そのズレに辛辣なツッコミを入れるのも野暮だと思い、僕はマイの言わんとする事を汲み取った。

「いや、まあ……愛する恋人同士が求めあえば、それは……」

 ぱぁ!と明るくなるマイの顔。

 小刻みに体を揺らし、頭頂部の一本のアホ毛が揺れる。

「であれば! やはりワタシは存在していたい! だから、ワタシは肯太郎さんに求められたいです! 話は早まりました! ワタシとしましょう! とっても不埒な事を!」

 はあ?!

 なんだその、あざとい女子の『一緒に飲みに行きましょう!』みたいなノリは! こう見えてマイは尻軽なのか?!

 それは、あまりにも唐突で稚拙な性交渉だ。

 “あの娘“そっくりの見た目で、そんな事を言われたものだから、僕は激しく動揺して、危うく持っていたDVDを床にぶちまける所だった。

「おいおい、まてまてまて! やめろ! その容姿でエロ漫画を掲げたままそんな事を言うな!! それに世の中にはそういう事をしない恋愛の形だってあるだろ! 純愛とは、人が憧れる清楚なものだろ? 大半はそれを求めるはずじゃないのか?!」

 焦って大声を上げる僕。

 これ以上はスムーズに仕事が出来ないと判断して、近くの棚に持っていたDVDを全て置いた。

 そしてまた、マイの方へと向き直すが、マイは先程までの明るさを失い、顔に影を落としていた。

「……それを信じた結果。ワタシはこうなってしまいました。ワタシはきっと心のどこかで、白馬の王子様が迎えに来るのを一人虚しく待っていたのかもしれません。これが暗いトンネル。そうです。だから……だからワタシは……」

 一転した深刻そうな表情に、また動揺する。

 早く何か言わなければと、強い焦燥感に駆られた。

 ──しかし。

「いや……、あの、違くて。物事には順序があるからさ……勘違いしないでよ。僕はまだマイの事よく知らないし……ね?」

 よく考えもせずに放ってしまった言葉が、信じられないほどダサくて、僕は自分で悶絶してしまう。

 凄い速さで頬に熱が上るのを感じた程だ。

 言い終わる頃にはたぶん、自分が思うよりだいぶ真っ赤に熟してしまっていたんだろう。

 マイはそんな僕を見て、また明るさを取り戻した。

「まあ! そんなに頬を赤く染めて頂けるなんて! それはワタシの事を体からではなく、まずは心で抱きたいという事でしょうか! 肯太郎さんはなんと紳士な方なんでしょう! ワタシの望んだ白馬の王子様というのは、こうして出会うものだったのかもしれません!」

 ああ、なんと、都合の良い解釈だろうか。

 僕は単純なマイの思考回路に呆れて、ため息を吐く。

「じゃあ、それで良いよ。そういう事でいい。だからもう、これ以上その容姿で卑猥な誘いをする事をよしてくれ。僕の心が変に傷つくから」

「はい! ワタシは肯太郎さんに気持ちよく、身も心も抱いてもらえるように、日々努力を重ねたいと思います! あ、でも、もし心傷で、ワタシに乱暴したくなったら言って下さいね? その時は……あのその、なるべく受け入れますから!」

 これは飛び抜けるほどに、何もわかっていなさそうだった。

 マイのなんとも急かした前向きさを間に受けて、やるせなくなった僕は、舌打ちをしながら頭をぐしゃぐしゃと掻く。

 毎度毎度、マイにはペースを崩されてばかりだと思った。

「それでは肯太郎さん! 手始めに今週末、デートにいきませんか? 」

 仕切り直しとばかりにマイが提案する。

 一旦の話の区切りを感じて、冷静に戻った僕は、顎を抑え、斜め上に顔を向けた。

 そのまま今週末の予定を想像したが、これといって特に引っかかるものは無かった。

「まあ、空いてるな。ただ、遠出は疲れるからしたくないよ。出来れば近辺がいい」

 面倒とは思わなかったが、すぐに候補地が浮かばなかった事もあって、場所をマイに一任させる為、最低限の希望だけは伝えた。

 ──すると。

「では、“上野“……とかはいかがでしょうか?」

 その言葉を聞き、僕は、ハッとした。

 自然と押さえてしまった口元で、指先から微かに感じる、巻きタバコの残り香を嗅ぐ。

 鼻を抜けるのは、紅茶の甘い香り。

 彼女の艶めいた黄金色の髪を見て。

 瞬時に、僕は──

 錯覚した。

「……そうか、上野か……。なら、·の好きな、“あの鳥“を見に行こうか……」

 純粋なままに向けられた、その笑顔の前で、溶けるように惚《ほう》けながら。

 僕は思い出したそんな過去を──

 ぽつりと呟いていたのだ。

อ่านหนังสือเล่มนี้ต่อได้ฟรี
สแกนรหัสเพื่อดาวน์โหลดแอป

บทล่าสุด

  • 『ラブコメディ失調症』 ーマキナ医院・精神整形外科ー   『白無垢を纏う白昼夢』

     薪無先生から聞いた夢乃マイの生い立ちは、凡俗な僕にはあまりにも理解し難いものだった。 それは決して悲劇的で、衝撃的な過去等ではなく。淡々と緩やかに歪んでいく、一見自然に見えるまでの不気味さからくる不協和を感じた。 まず、マイの両親は幼い頃に他界している。  しかし、こういう言い方もどうかと思うが、それ自体に大した意味はない。 と、いうのも、両親が他界したのは、マイがとても小さな時分の事であり、マイの記憶としては、両親はもういないところから始まっているとの事で。 その後も両親がいない事に対して、特別な負の感情は抱かなかったと、本人が言っていたらしい。 マイの問題とは、こういった何かの喪失や決定的なショックで起こったものではなく、ほんの些細なところのズレと、マイ自身の難儀な性格により発現した事である。 両親の他界後は、未成年後見人として、母親の姉にあたる伯母に引き取られ、その後マイは、特に何不自由ないと言って差支えない生活をしていた。 伯母は一人での生活が長く、貯えもそれなりにあったので、マイはひもじい思いなんかもしていなかった。 だけど残念ながら、ここで一つのズレが生じる事となる。 それは伯母に“子育ての勘“が無かった事だ。 薪無先生は、物事において“勘がない“というのは、何よりシンプルで、何より大きな欠点であると話す。 すなわち、いつまでたっても“勘“が掴めないものの難易度とは、思いの外とても高くなってしまうものなのだ。 所謂、“感覚“というものと同義だろう。 自転車に乗る時、自身の体を自然に制御し、いちいち手元や足元を見なくとも、軽く前に進めるようになるように、人はその“勘“や“感覚“で物事の理解や制御を早め、習得する。 だが、マイの伯母には子育てのノウハウに関して、そういった習得する勘というものが、一切備わっていなかった。 それによってマイは周りとは少し違う、どうにも特殊な環境で育つ事になってしまっていた。 具体的に言えば、伯母はマイを、“子供“としてではなく、“個人“として解釈していた。 伯母は自我の曖昧な子供に向かい、大人と同じような自我がある前提で育ててしまったのだ。 例えば、成人した同い年の友人が、突然仕事を辞めてしまったところで、誰も頭ごなしにすぐに次を探して働けなどと、上から目線で全力をかけて叱咤する事は無

  • 『ラブコメディ失調症』 ーマキナ医院・精神整形外科ー   『忘却された幸福の香り』

     薪無先生からマイの話を聞いた、次の日。 僕は店の裏でタバコを吸っていた。 相変わらず手で巻く事にこだわったタバコは、側から見れば、いつもと同じような重たい煙を上げていたが、それが放つ香りは以前とだいぶ違っていた。 何故なら僕はもう、紅茶の香りのするパラダイスティーを吸っていなかったのだ。 まだ口に馴染まない新しいフレーバーに、僕は戸惑いを感じながらも、ゆっくりと煙を肺に入れて、またゆっくりと煙を吐き出す。 疲れた頭にニコチンを染み渡らせると、わかりやすくクラクラして、寝ぼけた頭のように、ふわふわと不明瞭な自我の糸を綱渡りしながら、僕は頭をぐしゃぐしゃと掻いていた。「肯太郎さーん! おいしょ! あら、あらら!」 左から聞こえるのはマイの声。 格好はあの白いワンピース。 金色のアホ毛を揺らしながら、大きなお尻を金網のフェンスに擦って現れる。 そんなマイは無邪気な笑顔を浮かべていた。「おはようございます! こちらをどうぞ!」 綺麗な角度のお辞儀から差し出される、微糖の紅茶。 僕はそれを見て微笑む。 そう。あれから僕と夢乃マイとの関係は何も変わっていなかった。 ──上野デートの帰り際の事。 僕がトイレで散々吐いて満身創痍になり、ふらふらとそこから出ると、マイはトイレの前で心配そうに僕を待っていた。 大きな目に涙を溜めながら、眉を顰めて胸の前で手を祈るように組む、マイ。 そこにあの狂気の目はもうなかった。 マイは通常のマイに戻っていたのだ。「ああ、肯太郎さん!! お身体は大丈夫でしょうか? どこか具合が悪いのでしょうか? それともワタシが何か肯太郎さんに嫌われるような事をしてしまったのでしょうか? もしその様でしたら大変申し訳ございません!」 マイは僕に駆け寄って、ぎゅっと袖を掴む。 その言葉に嘘や裏は無いのがすぐにわかった。 マイは全力で僕を心配していたのだ。  もう出すものも全部口から出して、めまいと頭痛のピークも去ったと感じた僕は、これ以上の痛みのぶり返しを恐れて、なるだけ何事もなかったように笑ってみせる。「いや、大丈夫だよ。僕の金鶏に対する強い想いにマイも驚いてしまったんだろう。悪いのは僕の方だ。それじゃないなら、せめてはお互い様だ」「い、いえ。肯太郎さんは何も悪くなんてありません。きっとワタシが取り返しのつか

  • 『ラブコメディ失調症』 ーマキナ医院・精神整形外科ー   『細く尖った安堵の切先』

    「あなたが薪無一郎《まきな いちろう》先生ですよね?」 足を踏み入れた小さな診療室の扉を閉めた後、私はすぐに彼へと話しかけた。 背を向けていた彼は、豪華な革張りの大きなソファに座っており、そのままくるりとソファを回転させ、こちらを向く。「おお!もしかして、本当に来てくれたのかい? いやぁ、良かった。待っていたよ! ささ、座って! 座って!」 促されるまま、私は遠慮なく椅子に座った。「薪無一郎先生。いきなり呼び出された立場として、一つ聞いてもよろしいでしょうか? あなたが私をこのタイミングで呼び出したのは、やはり何か、訳があっての事なのですか?」 私の質問に薪無先生はそのボサボサした頭をつまみながら、にへらにへらと軽薄に笑う。「いやいや。この度はいきなり呼び付けてしまって申し訳ない。いや、なに。そろそろ君にも話を聞かないといけないと思ってね。たぶん、現場が煮詰まってくる頃だからさ。そういう君も何となくの状況はわかっているんでしょ?」 それを聞いて、その何となくと言った事情をすぐに察した私は、なるほど。と頷いた。「それにしても先生は、よく私だってすぐにわかりましたね。私はSNSに顔も載せていないし、本名だって公開していないはずなのに」 「いやぁ、それは確かに君からみれば驚くのも無理はないよ。でも、私も今まで様々な患者を見てきたからね。まあ、簡単に言えば経験則ってやつかな。勘だよ。勘」 私は薪無先生の言った、『経験則』という言葉に疑いは持たなかった。 多分本当にこの先生は、今までの経験から来る研ぎ澄まされた勘で、私の事を見つけ出したのだろう。 しかし、こうもあっさりと見つけ出された事に、私は釈然としない気持ちもあった。 今までこんな事は一度もなかったからだ。 だから私は、次の言葉に少しばかりの皮肉を添えた。「そうですか。先生はお若そうなのに随分とまあ、良い経験をお持ちなようで」「あら、君から見てもそんなに若そうに見える? それは嬉しいね。私はあまり格好や外見に頓着する方では無いけども、ルックスはいいに越した事ないからね。患者もその方が安心するしさ。ねえ、君もそう思うでしょ?」「いえ、私はお若そうと言っただけで、別に先生のルックスを褒めたわけではありませんよ」「なーんだ。それは残念。釣れないねぇ」 つんと唇を尖らせて不貞腐れる薪無先

  • 『ラブコメディ失調症』 ーマキナ医院・精神整形外科ー   『鎮座する黄金色の憂鬱』

     僕に処方されたご都合主義。 夢乃マイはとても素直な娘だった。 明るく、無邪気でいて、どんな些細な事でも全身で感情表現をする彼女。 その恥ずかしいまでの幼稚な振る舞いすら難なく許せるくらいに、マイは非常に可愛らしい女性だった。 小さな背丈でありながら、スタイルも良く。 大きな目、白い肌、小さな口、高い鼻。 現代の美的な要素を申し分なく、その顔に宿している。  腰ほどまである長い金髪は、前髪を真っ直ぐ切り整えた、艶のあるストレートヘアーで。 性格の隙を感じさせるような、頭頂部の揺れるアホ毛がまた愛らしく、ハキハキと喋る姿はなんとも誠実そうな印象をうける。 だからきっと、夢乃マイは何もなくたって、大衆の誰もが羨む可憐な美女なのだろう。 だが、僕はそんなマイの過去を全く知らない。 それどころか、誕生日も家族構成も、例えば好きな食べ物の一部ですら、僕はまだ知らないのだ。 ──擦り合わせ。 そうだ。 本来ならわかり合おうとするべきなのだ。 本来なら向き合おうとするべきなのだ。 僕は真っ直ぐに“夢乃マイ“を覗くべきなのだ。 それが薪無先生の言う、本来のセックスの意味なのかも知れない。 されども、残念ながら。 こんな僕はやっぱり、独りよがりな自慰行為しか出来ないのだろうか。 小説と同じように、自分の思想や価値観をそこに押し付ける事しか出来ないのだろうか。 そんな事に頭を悩ませていた。  ……それでも、ただ。 この僕の行いを、完璧な間違いだとは。 決してこの世の誰も、言えやしないのだろう。 それだけは都合良く。 僕はこの世界の懐の深さを── 信じている。* * * 夜の森を出た僕達は西園に渡り、更に様々な動物を見た。 ハシビロコウは一切動じず。 コビトカバは意外と大きく。 オカピは何だか良く分からず。 アイアイは思いの外醜かった。 僕とマイはその一つ一つを指差して。 驚いたり、笑ったり。 慄いたり、白けたり。 僕達の二人の関係が、訳の分からないご都合主義だなんて事は全部忘れて。 ただただ当たり前に。ごく普通に。 恋人としての距離を、真っ当に縮めていた。 しかし、その最中であっても、僕の足元に留まる影の中には、何やら不穏な得体の知れない物体が蠢いているのを感じざるを得なかった。 緩い風に乗って、ふ

  • 『ラブコメディ失調症』 ーマキナ医院・精神整形外科ー   『その先に映る面影への狂熱』

     待ち合わせ場所には、少し早く着いてしまった。 普段は殆ど来ない上野駅周辺を、先にぶらりと見て回ろうかとも思ったが、初夏の厳しい日照りがそれをやめさせた。 僕は震えるスマホをポケットから取り出すと、相変わらずマイからの細かいメッセージが入っていた。 ──今、駒込を出ました。 GPSなど付けなくても、勝手に位置情報を共有してくれるのは、こういう場合にとってはありがたい事だった。 まだマイが到着するまでの時間があるとわかった僕は、そのままスマホでSNSを開く。 「やっぱり、もつまる先生は更新してないな」  何度確認しても、ずっと更新されないもつまる先生のSNSを見て、そういえば僕も、長らく文章を綴っていない事を思い出した。 初対面で薪無先生に夢想家なんて呼ばれた事もあったが。 実際、僕には小説を書いて、世間の大衆から分け隔てなく絶賛されたいなどと思うほどの志は特に無かった。 誰にでも受ける大衆性や娯楽性とは、僕にはやはり無縁だったからだ。 僕が文章を綴るのは、常に僕の思考を押し付けるだけの極めて独りよがりな自慰行為に他ならない。 きっと僕は、最高に気持ちの良い極上の自慰行為を、世間の目先で見せつけて、よがりたい。 ただ、それだけなのだ。 それでも、僕の小説を見て共感を表してくれる、かけがえの無い読者がぽつぽつといるというのは、純粋に嬉しい限りで。 簡単に個人の発言が許されて、なんだか声が大きくなってしまったマイノリティの、そのまたさらに先にあるような、限りなく孤独に近い人々の思想の分母を拾い上げている感覚になり、まだまだ世間も捨てたもんじゃ無い。などと勝手に都合良く解釈する事もあった。  そんな中。 僕は本当は初恋の“あの娘“の事が書きたかった。 埃っぽい思い出を記憶から掘り起こし、その芳醇な香りを鼻いっぱいにすするように、僕は僕の文で“あの娘“を生かしたかった。 でも、不思議な事に何度書いても、もつまる先生の“あの娘“を超えられないのだ。 僕はそこに大衆性と娯楽性の絡んだ魅力というものを見出していて、決して僕には描《えが》けない、理想的な“あの娘“という圧倒的な存在に恋焦がれてしまったのだ。 つまるところ、現実に虚構を程良く絡めたものは、全てを凌駕すると悟っていた。 だから僕は、今ならなんとなく。 人が何故、その背

  • 『ラブコメディ失調症』 ーマキナ医院・精神整形外科ー   『嫉妬したギプスは誰が為に』

     土曜日だった。 僕のバイト先であるセル店には、土日にイベントという物があり、それはAVのセクシー女優を招き、ファンサービスをするという物だった。 もちろん当たり前だが、なにも性的なサービスをするわけではない。 水着で写真撮影したり、握手したり、サインを書いたりと、大体やる事はファンと近しいアイドルなんかと一緒だ。 僕が出会った女優は、基本的に皆、愛想が良く綺麗な人が多かった。 それでも、中にはごく稀に横暴な人もいたし、それでなくとも、ファンから貰った贈り物の一部は捨てて帰る人が多かった。 それは特に食べ物の類だ。 口に運ぶものはどうしても仕方がないのだ。 何故ならそれが安全という確証が全くないのである。 ファンの皮を被って、何がきっかけか、恨みを抱いた人物の悪意というのは、一体何をしでかすかわかったものではない。 だから、毎回イベント後には沢山の供物が店に残り、僕はいつもそれをありがたく貪っていた。 そう、僕にとっては、万が一毒が盛られていようが知った事ではなかったのだ。 もし、この程度のくだらない事で死ぬのならば、その時はその時だと、腹を括っていた。 それほどまでに最近の僕は、特に生にしがみついてなどいないのだ。 そして、イベントが無事終わり、女優が帰った後、今日残されたものは、なんだか見た事もない洒落たドーナツだった。 一切口をつけられずに、寂しく残されたそれを、僕は箱のまま家に持ち帰ろうと準備した。 そんなシフトを終えた夕方。 僕が店を出て駅の方へと少し歩いたところで、その声は聞こえた。「肯太郎さん! お疲れ様です! さあ、こちらをどうぞ!」 差し出されたのは、微糖の紅茶。 差し出したのは、あの制服に身を包んだマイだった。「おいおい、なんでマイがいるんだ? しかもまた制服だし……」 いきなりの事で感謝の言葉をかけるのも忘れた僕は、ひとまず紅茶を受け取る。 しかし、マイはなんだか複雑そうな顔をしていた。「すみません! 明日のデートが待ち遠しくなり、会いに来てしまいました! しかし、ワタシはとんでもないものを見てしまったのです! まさか肯太郎さんがそんな人だとは思ってもみませんでした!」 怒っているのか、なんなのか。 マイはカクカクとしたぎこちない動きで、金色のアホ毛をゆらしながら、強めに言い放つが、僕はその

บทอื่นๆ
สำรวจและอ่านนวนิยายดีๆ ได้ฟรี
เข้าถึงนวนิยายดีๆ จำนวนมากได้ฟรีบนแอป GoodNovel ดาวน์โหลดหนังสือที่คุณชอบและอ่านได้ทุกที่ทุกเวลา
อ่านหนังสือฟรีบนแอป
สแกนรหัสเพื่ออ่านบนแอป
DMCA.com Protection Status