Masuk陳皇后はもはや説明するのも億劫だとばかりに、周歓の懐から酒壺を奪い取ると、乱暴に栓を抜き捨て、蕭晗の顔を押さえつけては、その口へと烈酒を無理やり流し込んだ。酒が焼けつくように喉へと流れ込み、息もできずに激しくむせ返った蕭晗は、恐怖に頭を振り乱し、悲痛な叫びを上げた。「やめろ!誰か、助けてくれ……ッ!」陳皇后は構わず、なおも酒を蕭晗の喉の奥へと注ぎ込み続ける。「さあ、お飲み!何としてでも、今夜中に詔書を書いていただくのです!」「やめ……ゲホッ、ゲホッ……!」酒と涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、蕭晗は絶望の淵で皇后の下から逃れようともがき、むせび泣いた。「皇后様!ご乱心ですか!」すでに理性を失っていた陳皇后であったが、蕭晗が今にも息絶えそうなのを見て、周歓は渾身の力でその狂女を蕭晗から引き剥がした。「皇后様!ご自身の御身はともかく、お腹の若宮様までどうなってもよろしいのですか!」周歓の鋭い一喝が、陳皇后を狂気の淵から正気へと引き戻した。「若宮様……」陳皇后は椅子にへたり込み、呆然と呟いた。その時、陳皇后の顔色がさっと青ざめ、眉間に深い皺を寄せると、下腹部を押さえてうずくまった。「皇后様?いかがなさいました?」周歓は慌ててその身体を支える。「痛い……お腹が……痛い!」陳皇后は下腹部を押さえ、みるみるうちに額に脂
全くもって、うんざりだ。こんな皇帝、なりたい者がなればよい。「私にはできぬとでも?」陳皇后は怒りに胸が張り裂けそうだったが、蕭晗が頑なな態度を崩さぬのを見て、策を変えるほかなかった。彼女は無理やり怒気をねじ伏せ、声を潜めて言った。「陛下……私が一体何のために、今日まであなた様を生かしておいたとお思いです?」蕭晗は、答えなかった。思考は乱れ、恍惚とするうち、心は十数年前のあの秋へと遡っていた。あの頃、先帝はまだご存命で、蕭晗もまだ太子ではなく、誰からも顧みられぬ第十三皇子に過ぎなかった。蕭晗は晩熟で、体格も同年代の兄弟たちより小柄であった。父帝に疎まれるばかりか、兄である皇子たちから代わる代わるいじめを受けていた。兄皇子たちは彼に「晗妃」というあだ名をつけ、風が吹けば倒れそうなほど女々しいと嘲笑った。その日、彼は兄たちと共に父帝に随行して邙山へ狩りに出かけた。兄皇子たちは、彼が一人になった隙を狙って隅に追い込み、殴る蹴るの暴行を加えた。主犯は、最も寵愛されていた第二皇子の蕭洛だった。彼は蕭晗を地面に突き飛ばすと、蕭晗が苦労して仕留めた獲物を奪い取り、さも自分の手柄であるかのように振る舞った。蕭晗は怒りで小さな顔を真っ赤にし、「やめろ」と叫びながら、やっとの思いで捕らえた兎を抱きかかえようと飛びかかった。「多勢に無勢で一人をいじめるとは、それでも殿方ですの!」その時、澄んだ声が背後から響いた。陳芸は颯爽とした狩猟着に身を包み、白馬にまたがって皇子たちの前に現れたのである。
太子と侍従官が周歓を庇うのを見て、徐子卿は腸が煮えくり返る思いだったが、怒りを爆発させるわけにもいかず、結局うやむやにするしかなかった。講義の終了を宣言すると、忌々しげにその場を立ち去った。徐子卿が去った後、懐竹はようやく安堵の息をつき、足の力が抜けてその場にへたり込んだ。「あ……ありがとう……ございます、殿下」懐竹は震えながら蕭昱に向かって平伏し、礼を述べた。蕭昱は首を振り、手を伸ばして懐竹を立たせる。「そなたを助けたのは余ではない。周歓だ」「ありがとうございます、周歓様……」懐竹は再び周歓に跪こうとした。周歓は慌ててその体を支え、腫れ上がった顔を撫でて、優しく言った。「見せてごらん、ひどく腫れてしまったな」懐竹が顔を上げると、涙をいっぱいに溜めた瞳がいじらしく周歓を見つめた。「口の端が切れている。太傅殿も手酷いことをなさる……まだ痛むか?」周歓は親指を伸ばし、そっと懐竹の口角を押して揉んだ。懐竹は小さく応える。「痛いです……」周歓は身をかがめ、彼の口角にふっと息を吹きかけ、微笑んだ。「これならどうだ?」懐竹は小声で呟いた。「痛いのは口ではなく……」そして自らの胸を指差した。「ここです」薛炎は思わず吹き出し、言った。「さすがは皇后陛下の寵愛を一身に受ける者だな。懐竹、しばらく見ないうちに甘え上手になったじゃないか。皇后陛下どころか、男でも参っちま
ある日のこと、御花園を通りかかった蕭晗は、数人の宮女が物陰に隠れてひそひそと話しているのを垣間見た。気配を消して近づき耳をそばだてたところ、そこで初めて陳皇后の妊娠を知ったのである。彼は仰天し、直ちに宮女らを呼びつけ、事細かに問いただした。問い詰めれば問い詰めるほど、怒りに顔は蒼白となり、全身がわななくのを抑えられなかった。これほどの一大事が宮中全体でまことしやかに囁かれているというのに、父親に仕立て上げられる当の自分だけが蚊帳の外に置かれ、あろうことか最後にそれを知らされるとは。一国の君主たる者が、あずかり知らぬところで皇后を寝取られるなど、誰が想像できよう。断じて許しがたい屈辱である!だが、知ったところで何ができるというのか。陳皇后の一派が朝廷を牛耳り、その権勢は猖獗を極めている。かたや、自分は実権なき傀儡にすぎない。たとえ腹の子が己が種でないとわかっていても、陳皇后をどうこうする術はないのだ。事を荒立てたところで、恥をかくのは自分自身である。あれこれ考えあぐねた末、蕭晗は他に手立てなく、この苦い果実を呑み下すしかないと悟った。そして、子の父親について問い詰めた際、宮女たちは顔を見合わせ、示し合わせたように一つの名を口にした――懐竹。この時初めて、蕭晗は陳皇后の側に懐竹という新たな寵臣がおり、その者が現在、東宮で侍読を務めていることを知ったのである。自分に恥をかかせた張本人が、あろうことか皇太子と行動を共にしているとは。蕭晗はしばし逡巡したが、東宮へ自ら赴き、虚実を確かめることにした――無論、お忍びである。蕭晗が音もなく東宮に姿を現した時、太子太傅である徐子卿が殿内で講義を行っていた。&
翌朝、周歓は約束通り早朝に中宮へと赴き、懐竹を伴って東宮へと向かった。懐竹は昨夜よく眠れなかったとみえ、目の下には濃い隈が浮かんでいた。道中もずっと浮かない顔で、一言も口を利こうとしない。東宮の長楽殿に到着して、ようやく重い口を開いた。「僕は、何か至らぬことを仕出かしましたでしょうか」周歓はわけが分からず、問い返す。「藪から棒にどうした」「では、僕のことがお嫌いなのですね。邪魔だとお思いなのでしょう?」懐竹は顔を上げ、周歓の瞳をじっと見据えた。「僕が字も読めぬゆえ、お側にいるとあなたの品位を損ない、お顔に泥を塗ることになる。そうなのでしょう?」なんと、まだ昨夜のことを根に持って拗ねていたのか。「馬鹿を言うな。俺がお前を嫌ったり、邪魔に思ったりするはずがなかろう」「嘘です!懐竹は愚かではありますが、あれほどはっきり言われて分からぬほどではありません」懐竹は周歓の袖を強く掴んだ。「僕、必死に読み書きを学びます。ですから、どうか、僕を見捨てないでください……」周歓は懐竹を一瞥し、首を振って溜め息を落とした。「お前という子は、なぜそうも融通が利かんのだ。昨夜俺が言ったことは、一から十までお前のためを思ってのことだと分からんのか」懐竹は顔を上げたものの、きょとんとしている。「ぼ、僕には、分かりかねます……」周歓はもどかしげに言った。「『良禽は木を択んで棲み、賢臣は主を択んで仕う』。『君子は危うきに近寄らず』。これでも分からんか」懐竹が呆然と自分を見つめているのを見て、周歓は己の額をぴしゃりと叩いた。
実のところ、周歓がここまでのことをしたのは、口先で言うように単に陳皇后の機嫌を取るためだけではなかった。懐竹は、自分がこれまで献上してきた美童たちとは違い、純真無垢な少年だった。朝夕を共にした日々の中で、そのことは周歓の目にも明らかだったのだ。これほど清らかな白百合のような少年を陳皇后の寝床へ送り込み、あまりにも早く大人の世界の汚濁に染まらせてしまうのかと思うと、周歓はさすがに心が痛み、罪悪感を覚えずにはいられなかった。やがて、その罪悪感は一種の負い目へと変わり、周歓は己の中にある罪の意識を埋め合わせるかのように、懐竹のために何かしてやりたいと常に思うようになったのである。懐竹の直感は正しかった。周歓の目には、確かに懐竹は瓊花台にいる俗な者たちとは別格に映っていた。そして懐竹の目にもまた、周歓は他の宮女や宦官たちとは違う存在として映っていた。周歓だけが自分のためにすべてを尽くし、見返りを求めず献身的に世話を焼いてくれたからだ。懐竹のような天涯孤独の身にとって、生まれて初めて赤の他人にこれほど優しくされれば、感動してその身を捧げたいと願うのも無理からぬことであった。だからこそ、彼は周歓の下で働き、その恩に報いたいと切に願ったのである。周歓も懐竹がそう思うであろうことは予期していた。そのため、杏には自分がしたことを決して懐竹に漏らさぬよう、あらかじめ固く口止めしていた。懐竹が自分に対して負い目を感じてしまうのを恐れたからだ。周歓は懐竹の手の甲を軽く叩き、苦笑しながらこう言うのみであった。「お前というやつは、先のことを考えすぎるな。お前のような融通の利かぬ朴念仁が、この宮中で生き延びられただけでも御の字なのだから」――懐竹がただ生き延びただけでなく、一躍、陳皇后が最も寵愛する秘蔵っ子となった